vol.3 太閤記
◆舞台の時代
[平安][鎌倉][室町][戦国][江戸初期][江戸中期][幕末][近代][昭和]
天文22(1553)年〜慶長3(1598)年
◆放送データ
- 放送期間:昭和40年1月3日〜12月26日 (全52回)
- 放送時間:毎週日曜 午後8時15分〜9時00分
- 初回視聴率:35.2%
- 最高視聴率:39.7%
- 平均視聴率:31.2%
◆番組放送日と各回サブタイトル
- 1/-3 孤猿の春
- 1/10 京の針
- 1/17 天文群雄
- 1/24 わが君
- 1/31 閑日月
- 2/-7 秋の嵐
- 2/14 三日普請
- 2/21 死のうは一定
- 2/28 聟の君
- 3/-7 洲股築城
- 3/14 母の駕篭
- 3/21 竿頭一瓢
- 3/28 伊勢軍功帳
- 4/-4 堺町人
- 4/11 琴線
- 4/18 道中の静
- 4/25 四面楚歌
- 5/-2 時々刻々
- 5/-9 旧閣瓦解
- 5/16 珠
- 5/23 花の輪
- 5/30 援軍三万八千
- 6/-6 長篠
- 6/13 湖南湖北
- 6/20 灸
- 6/27 中国入り
- 7/-4 苦境
- 7/11 誓紙
- 7/18 南蛮寺
- 7/25 官兵衛救出
- 8/-1 秋風平井山
- 8/-8 明暗
- 8/15 機微
- 8/22 若獅子
- 8/29 埋言
- 9/-5 大気者
- 9/12 春騒譜
- 9/19 身命考
- 9/26 岐路
- 10/-3 心闇
- 10/10 老の坂
- 10/17 本能寺
- 10/24 憤涙
- 10/31 悲歌
- 11/-7 折鶴
- 11/14 賎ヶ岳前後
- 11/21 大願
- 11/28 心と形
- 12/-5 天下人
- 12/12 世継ぎ
- 12/19 凡愚の情
- 12/26 夢のまた夢
◆あらすじ
いまからざっと450年前、戦国の世に“さる”と呼ばれた秀吉は、尾張国中村の貧しい農家の子として生まれた。父が病死したあと、出稼ぎの放浪を続けていたが、美濃・三河などを渡り歩いて針売りをしていた“さる”は、ある日岡崎城下の川のほとりで野武士の頭領・蜂須賀小六と出会う。その小六のもとから逃げ出した“さる”は、またも流浪を余儀なくされるが、やがて、今川家の松下嘉兵衛を知り、将来の大物は尾張の織田信長だという話を聞く。
昭和14年から7年にわたって読売新聞に連載された吉川英治の大作『新書太閤記』をもとに、サルと呼ばれた秀吉が、蜂須賀小六に拾われる場面から62歳で世を去るまでの45年間を、人間性豊かな英雄としていきいきと描いたドラマ。前作までの「花の生涯」「赤穂浪士」という、いわばオールスターで臨んだ作品とは異なり、主役級の配役にも新人役者を起用するといった路線転換への道を開いた作品。ドラマ第一回の冒頭には開通したばかりの新幹線を走らせ、石垣の作り方なども物語のところどころに挿入する演出手法は、ドキュメンタリー部門出身の演出家・吉田直哉の新手法であり、現代の大河ドラマでは当たり前となった歴史解説コーナーにも通じる部分がある。人はこれを“社会派ドラマ”と名付けた。
◆トピック
- タイトルバックは、鬼瓦のアップを映した後、土壁に埋められた大名家紋を延々映し出すもので、現代の作品に比べれば“静”のイメージが強い。しかし、舞台である戦国時代に似合った重厚感あふれる仕上がりとなっている。映し出された大名家紋は豊臣氏をはじめ、織田氏・徳川氏・明智氏など、秀吉とゆかりのある大名。
- 第42話「本能寺」は、DVDで視聴することができる。(→◆この作品を楽しむためには を参照)
◆主要スタッフと出演者
原作:吉川 英治
脚本:草木 茂介
音楽:入野 義朗
テーマ演奏:NHK交響楽団
指揮:外山雄三
演奏:プロコルデ室内楽団
殺陣:林邦史朗
語り:平光 淳之助アナウンサー
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緒形 拳 (豊臣秀吉(さる))
藤村 志保 (ねね)
高橋 幸治 (織田信長)
浪花 千栄子 (なか)
田村 正和 (豊臣秀次)
福田 善之 (竹中半兵衛)
坪内 ミキ子 (半兵衛の妹・ゆう)
石坂 浩二 (石田三成)
山茶花 究 (蜂須賀小六)
田村 高廣 (黒田官兵衛)
新 克利 (加藤虎之助)
乙羽 信子 (福島正則の母・おえつ)
早川 雪洲 (武田信玄)
渡辺 文雄 (武田勝頼)
稲野 和子 (濃)
佐藤 慶 (明智光秀)
森山 周一郎 (比田帯刀)
浜村 純 (平手中務)
猿若 清方 (滝川一益)
金内 吉男 (池田勝三郎)
片岡 孝夫 (森蘭丸)
川津 祐介 (前田利家)
戸浦 六宏 (細川藤孝)
三国 一朗 (今川義元)
[6]尾上 菊蔵 (徳川家康)
北村 和夫 (鳥居強右衛門)
大山 克巳 (浅井長政)
二木 てるみ (はつ)
松村 達雄 (松永弾正)
神山 繁 (山中鹿之助)
御木本 伸介 (吉川経家)
田崎 潤 (清水宗治)
江幡 高志 (長井半之丞)
島田 正吾 (千宗易)
宮口 精二 (曲直瀬道三)
土屋 嘉男 ((神谷)宗湛)
有島 一郎 (曽呂利新左衛門)
浜 木綿子 (土岐政頼の孫・念仏踊りのおふく)
結城 美栄子 (おふくの妹・お六)
江見 俊太郎 (山淵右近)
小鹿 敦 (渡辺天蔵)
村上 冬樹 (山淵左馬之介)
赤木 春恵 (渚)
花沢 徳衛 (ごんぞ)
北林 谷栄 (茶売りの老婆)
辰巳 柳太郎 (於三郎)
高木 均 (足軽組頭)
平田 守 (明智茂朝)
北見 治一 (国吉)
浦辺 粂子 (その他)
渥美 国泰 (その他)
名古屋 章 (その他)
太宰 久雄 (その他)
久米 明 (その他)
林 邦史朗 (その他)
岸 恵子 (お市の方)
三田 佳子 (茶々)
フランキー 堺 ((茶碗屋)於福)
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制作:関口象一郎
技術:彦坂良平
美術:小林喬
撮影:岩井橲周
演出:吉田直哉
◆この年の日本と世界
大手企業の倒産など経済不況が現実味を帯びてきた年。10月には朝永振一郎氏がノーベル物理学賞を受賞した。
昭和40年(1965年)という年は、現在から43年前にあたるわけですが、
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戦後の硬度経済成長期も、前年の東京オリンピックの閉幕と同時に終わり、山陽特殊製鋼の倒産などで、株式市況は暴落を続け、中小企業などには倒産が続出するという、不況を迎えました。
<「大河ドラマストーリー・武田信玄」177頁より一部抜粋の上引用>
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という時代でした。ただ、
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「太閤記」は昭和40年の放送。経済学者が「40年不況」と呼ぶ年である。「なぜか不況の年は太閤記」というジンクス通り、視聴率31%と前作の「赤穂浪士」に並ぶ好評だった。
<「TVガイド・特別編集号 大河ドラマ・秀吉」156頁より一部抜粋の上引用>
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そうで、大河ドラマ作品としては、非常に人気作と言えるものでしょう。
ただ、人気作に仕上がるには「不況だったから」という理由だけではないようです。
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それまでの二作が大型娯楽時代劇といわれるのに対して、この「太閤記」は、大型歴史ドラマと呼ぶにふさわしい新たな手法が数多く試みられました。まず、ドラマの冒頭で新幹線が走るシーンが登場し、話題になりました。現在の大河ドラマでは当たり前になった歴史の解説シーンですが、当時としては、あまりの唐突さに土肝を抜かれた視聴者も多かったようです。また、この作品では多くの合戦シーンが登場しましたが、これをダイナミックに撮影するためテレビドラマ史上初のヘリコプターからの空中撮影が行われました。さらに何よりの大冒険は、主役級の配役に“新人俳優”を多く起用したことです。──そして、いずれもが、その後の大河ドラマにはなくてはならない俳優になっていきました。
<「大河ドラマストーリー・武田信玄」176頁より一部抜粋の上引用>
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物語のキーマンとなる織田信長役には、高橋幸治さんが起用されました。高橋さんの甘いマスクが人気を呼んだのか、本能寺の変の放送日が近づくにつれて「信長を殺さないで!」という、いわば歴史改ざん的投書がNHKに多数寄せられたということで、信長の登場期間を延長したのは有名な話です。
その信長役の高橋さんは、後にこう語っています。
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「太閤記」のとき、初めて馬に乗りました。当時は、撮影用に調教されている馬は京都にいるくらいでしたから、山の中を走るシーンも、競馬用の馬を使ったんです。たいへんでしたよ。全力疾走で走るように訓練されてますから、スタートでいきなりダッシュするんです。こっちもびっくりして手綱を引くから、よけい走っちゃって、山の奥のほうまで行ってしまったこともありました。スタッフのかたが心配してジープで迎えに来てくれたこともありました。もう、馬がくたびれるまで走らせてから、ポカポカと現場に帰って来た記憶もありますね。
今と違って収録の終わりが夜中や朝方というのが多く、スタッフは寝不足のもうろうとした中で仕事をしていました。ある日、午前3時までスタジオ収録があり、そのまま早朝ロケに出るというので、私が一度着替えに家へ帰り、NHKに戻ったら、すでにロケ隊は出発した後。行き場所も分からず、玄関のソファーに座っていたら、後発するカメラマンが偶然に声をかけてくれて、危うくロケに間に合ったということがありまして。でも、どうも私が着くまで、スタッフは全員“信長”を忘れたことに気がついていなかったようでしたね(笑)。
<「NHK大河ドラマストーリー・武田信玄」177頁、「NHK大河ドラマストーリー・信長」187頁より一部抜粋の上引用>
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一方、こちらも当時“新人俳優”だった、豊臣秀吉役の緒形 拳さん。
所属していた新国劇は外部出演を禁止していて、それよりも前にオファーがあったものの断り続けていた緒形さんが、どうして「太閤記」で主演することになったのでしょうか。
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「太閤記」は、昭和39年、NHKの人が来て、突然「笑ってください」って言われて……笑ったんだ。笑顔を写真に撮っていきました。そうしたら、しばらくたって、劇団のほうから、来年の大河ドラマに、という話があったと言われた。で、内幸町のNHKに行ったんですよ。そこで(演出の)吉田直哉さんに会った。吉田さんはそのころ、ドキュメンタリーをたくさん撮っていてね、撮るものが、とても良いなぁと思っていたんです。
劇団のほうは、公演に差し支えないようにって言うんですよ。劇場で昼間の11時から夜9時ごろまで芝居していて、それで差し支えないようにってことは、それは夜中に撮れってことかなぁと思って……。毎週毎週、ほんとに夜中。夜中から明け方まで撮って、昼間芝居やって……。で、芝居が終わるとNHKへ行って夜中撮った。
印象的なのは僕があこがれていた森 雅之さんが、僕の芝居の楽屋に入ってこられて「いいよ、いいよ。すごくいいよ。太閤記いいよ」って言われて、それは、うんと励みになった。褒められればいいってことではないんだけど、自分ではこう、何も見えない中をまさぐっていくような、何がいいんだか悪いんだかよくわからずやっていたときですから、大先輩の言葉が、身にしみてうれしかったですね。
<「テレビ50年 〜あの日あの時、そして未来へ」82頁より一部抜粋の上引用>
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そして緒形さんは、次回作「源 義経」(昭和41年放送)でも武蔵坊弁慶役で出演することが決まり、その後の大河ドラマにはかかせない重鎮として、現在も活躍されています。
最後に、こちらも“新人俳優”だった、石田三成役の石坂浩二さん。
放送当時は大学生だったそうですが、その当時のことを、“Mr.大河ドラマ”との異名をとる演出家・大原 誠さんとの対談で、以下のように語っておられます。
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──あの頃の三成(石坂浩二)はカッコいい青年でしたね。
石坂 ガキでしたからね、どう演じたのか思い出せない。必死になって演っているうちに終わっちゃった。最初はお断りしたんです。「時代劇はとてもできません」と。ところが「いや時代劇ではありません。大河ドラマは現代劇でやっております。扮装はしますが時代劇ではありません」と説得されました。「太閤記」はずっと見てました。出演は6月からだったんです。高橋幸治さん、緒形 拳さんがいいしね。あんな面白いドラマには出られません(笑)。
大原 出演交渉の時に放送が始まっていた?
石坂 3ヶ月ぐらい経っていました。
大原 大河ドラマのスタート時は、ドラマは「電気紙芝居」と呼ばれて、マイナーだったんですよ。当時の責任者が、松本幸四郎さんの「花の生涯」(東宝)を見て映画界から大スターを連れて来て、ああいう娯楽作品を作れと。ボクはNHKに入って3年目で助監督、全然分からなくて薮の中でスタートしたんです。
石坂 あの当時はフィルムロケーションを多用していましたね。
大原 演出の吉田直哉さんはボクの師匠でもあるんですが、「日本の素顔」などのドキュメンタリーを作っていて、そのせいもあったのですが、当時はビデオの機材が大きくてスタジオの外へ持ち出せなかったんですよ。「花の生涯」では井上(博)監督が、ラストシーンの桜田門だけはVTRで撮りたいと言いましてね。できる場所は京都の東映太秦しかない。東映へ交渉に行きましたが全然ダメなんですよ。
石坂 だって五社協定があった頃でしょう。大スターは芝居にしかいない。そのおかげで、3本目に、高橋幸治さん、緒形 拳さんと私の3人が出られたんですが。
大原 3本目の演出の吉田直哉さんは「俺はドラマの素人だから大スターは嫌だ」と言い出した。「新人と稽古をたくさんやって、一緒に作っていきたい」と。
──その頃、稽古はどれぐらいやったのですか?
石坂 2日間やりました。今は1日ですよ。2回もやったらやりすぎ(笑)。
大原 そんなことはない、3回はやってますよ(笑)。
石坂 2日間で10回ぐらい。それだけやると、どんなことがあってもセリフは忘れないです。
<「TVガイド・特別編集号 大河ドラマ・葵 -徳川三代-」158頁より一部抜粋の上引用>
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あるファンサイトによれば、もともとは前作「赤穂浪士」で打ち切る予定だったこのドラマ枠を、いろいろな制約を取っ払って最後に一花咲かせてやろう! とチャレンジしたドラマだったそうですが、結果的には大成功をおさめ、現在に渡って放送を続けることが出来たわけです。
大河ドラマにとってのターニングポイントは、もしかしたらこの「太閤記」にあるのかもしれません。
◆この作品を楽しむためには
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次回は「vol.4 源 義経」(昭和41年放送)です。
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