プレイバック義経・(40)血の涙
鎌倉入りを許されない源 義経。
鎌倉まであと一歩という腰越の地で足止めされています。
武家政治を目指す源 頼朝には、
集まって来た御家人たちに不平不満を感じさせぬように
たとえ兄弟であっても特別扱いせず
“一御家人”として義経を扱う必要があり、
無断任官の罪は罪として、他の御家人と同じように
鎌倉入りを認められないわけですが、
「情」を大切に思う義経には、理解できません。
義経は、せめて目通りの許可を求めて
書状をしたためました。
いわゆる、腰越状です。
公文所──。
公文書の管理が行われた組織で、文書管理のみならず
指揮命令・訴訟・財政収取なども運用された実務機関です。
その別当・大江広元は、台の上に無数に積み上げられた
「上」や「謹上」と書かれた書状の一つ一つを手に取り、
丁寧に目を通していましたが、
そのうちの一つに目を通すと、みるみる顔色が変わります。
「源義経」の文字があったからです。
義経からの取りなしの書状と察知した広元は
それを一旦読むのを中断して北条政子に託しますが、
政子は、内容を簡単に改めただけで広元に差し戻します。
「頼朝様には、お目にかけぬ方がよい」
鎌倉・大倉御所内でも
義経の処遇について話が出てはおりますが、
無断で任官した官位を返上しないままの鎌倉入りは
できないとの考えです。
ただ、官位を与えた後白河法皇との間に角が立つのであれば
許す許さぬの前に、ふたりは兄弟なのだから
とりあえず会うだけ会ってみたら? と政子は勧めます。
しかし頼朝は、提案した政子をグイッと睨みつけ
兄弟のことは関わりなきように、とだけ言います。
その上で、政子は思い出したように
義経から広元に書状が届いていることを暴露しますが、
頼朝は、なおも頑に拒否します。
「読むには及ばず」
これで、義経からの書状を読む可能性はなくなったと
政子はほくそ笑みます。
政子としては、強いリーダーシップをとれる頼朝と
軍神のように難敵をも蹴散らす義経が手を携えて
強固なる源氏ワールドが出来上がってしまうのは
鎌倉にとっても北条にとっても良くないと考えているようです。
さらに、ほくそ笑んでいるのはもうひとり。
後白河法皇です。
平 宗盛父子を護送するために法皇が派遣した義経に会わぬという
頼朝の心底もうかがえるというもので、
法皇を、朝廷を蔑ろにする態度は明白です。
頼朝は、義経からの書状が気になり始めています。
宗盛父子の扱いについて相談に来た広元を呼び止め
その詳細な内容を尋ねてみますが、
広元は懐からその書状を差し出します。
読むつもりはないわけですが、このような書状を
広元一人が請け負うには重たすぎると
半ば強引にわたされます。
夜、さんざん悩んだ上で書状に手を伸ばそうとしますが、
読めません。
幾日待ってみても、鎌倉からの音沙汰はありません。
伊勢三郎は、頼朝には届いていないのでは? と
ふさぐ義経の心中を察して明るく言いますが、
頼朝からの返事がないのは、それが返事かもしれません。
「もはや私は……鎌倉には不要なのかもしれぬ」
義経は武蔵坊弁慶らに、鎌倉の御家人を離れて
安堵された所領もなく暮らしていかなければ
ならなくなるかもしれないという覚悟を求めます。
神社参拝を済ませた頼朝は、稲村ヶ崎を回ります。
すぐそこに見える、岬の辺りが腰越です。
あの岬の辺りに、肉親が留め置かれているのです。
大倉御所に戻った頼朝は、義経からの書状に対峙します。
意を決し、ついに書状を手に。
左衛門少尉 源 義経、恐れながら申し上げます。
兄上へのお目通り久しく叶わず、
今なおお会いくださらぬとあらば
兄弟骨肉の情愛もはやなく、
現世の縁もこれまでにございましょうや。
これに勝る悲しみとてございません。
ある時には険しき岩山に馬を馳せ
またある時は荒海に乗りいだし
一命をも顧みず戦いましてございます。
さらに、五位の尉に叙せられましたること
わが身のみならず、源氏一門にも
これに優る名誉はなしと存じましたなれど、
計らずも、兄上今度のお怒りはまこと悲しき極み。
この心中の悲しみ
神仏の加護にすがりてお伝えするのみと存じ、
あまたの起請文を捧げましたなれど、
なおもってお許しは叶いませぬ。
わが願い、もはや神仏も
お聞き届けにならぬのでございましょうや。
ただ兄上にお会いすることだけが、
わが願いにございます。
お会いくだされば、
兄弟なれば必ずやわが思い、
兄上に届くことと存じまする。
いたずらに空しき言葉は連ねませぬ。
わがいたずらなき心中、なにとぞお察しくださりませ。
義経との再会の場面、
兄弟酒を酌み交わしたときのことが
読み進める頼朝の脳裏をかすめていきます。
目に涙を浮かべながら書状を読み終えた頼朝は
ポツリとつぶやきます。
「九郎……なぜそこまで情を欲す?
情はならぬと申しておるこのわしに。
なぜわしを苦しめる……」
──読まねば良かった。
落涙です。
翌朝、頼朝は義経への沙汰を出します。
無断任官し、さらにその官をも返上せず
公私のけじめなく振る舞うことは許しがたい。
よって、鎌倉には入れぬ。
宗盛父子を護送して都へ立ち帰るべし。
「お目通りは叶いますまい」
頼朝の使者として沙汰を伝えに来た北条時政の言葉に
義経は色を失います。
もはや、立ち去るのみ──。
「誰か、いい婿を見つけろよ」という弁慶に
悲しませまいと、ワザと明るく おう! という千鳥。
しかし、鎌倉入りが許されぬという以上
生きてこの地を踏める可能性は限りなくゼロに近く、
このふたりも永遠の別れになりそうです。
涙涙の別れです。
我らは、何のために鎌倉に参ったのであろうか……。
宗盛が放った言葉は、義経も同じ思いでありました。
遠くで腰越を見、一行を見送る頼朝の姿がありますが、
今の兄にはそれしかしてあげられません。
一礼して去っていきます。
元暦2(1185)年6月。
義経は宗盛父子を伴い、腰越を離れ京に向かいます。
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原作:宮尾 登美子
「宮尾本平家物語」「義経」より
脚本:金子 成人
音楽:岩代 太郎
脚本協力:川上 英幸
:眞鍋 由起子
題字:陳 燮君
タイトル画:宮田 雅之
語り:白石 加代子
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[出演]
滝沢 秀明 (源 義経)
松平 健 (武蔵坊弁慶)
南原 清隆 (伊勢三郎)
うじき つよし (駿河次郎)
伊藤 淳史 (喜三太)
海東 健 (佐藤忠信)
長谷川 朝晴 (鷲尾義久)
中島 知子 (千鳥)
鶴見 辰吾 (平 宗盛)
松尾 貴史 (大江広元)
五代 高之 (善信)
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平 幹二朗 (後白河法皇)
財前 直見 (北条政子)
草刈 正雄 (平 知康)
夏木 マリ (丹後局)
小林 稔侍 (北条時政)
中井 貴一 (源 頼朝)
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制作統括:諏訪部 章夫
演出:一木 正恵
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