プレイバック獅子の時代・(15)戦火のあと
明治政府軍は、降伏した榎本武揚軍に
寛大だったと言われています。
事実、政府軍参謀・黒田清隆の努力で
総裁榎本は死刑を免れていて、
後に明治政府の大臣を歴任するに至っています。
しかし、そのような例は僅かであり
捕らえられたほとんどの兵は過酷に扱われました。
箱館病院で、高松凌雲の“助手”として
負傷兵の看護に当たっていた平沼銑次でしたが、
負傷兵のひとりが 隠し持っていた銃で
政府軍の苅谷巳代治を撃ち殺したために
銑次は同じく政府軍の植村信吾に腹を刺されてしまいました。
銑次はしばらく気を失っていたわけですが、目を覚ませば
場所はどこか分からない小さな家で寝かされていて、
名も言わぬ女が口をきかぬまま
包帯の替えなど世話をしてくれていました。
どうやら、フランスに渡った際に行動をともにした
水戸藩士・伊河泉太郎が手配したものと思われるのですが、
銑次自身、箱館病院からここまでのつながりが分からない以上
何が何だかよく訳が分かりません。
伊河が属する水戸藩、特に徳川昭武は
第15代将軍・徳川慶喜の弟にあたる人物ゆえに
これら一連の戦いでは幕府方として戦いそうなものですが、
実は政府軍の一員として箱館まで攻めて来たそうです。
伊河もそれに従って政府軍として箱館まで来ましたが、
箱館病院の捕虜の中に銑次を見かけ、
このままではどこかの藩に預けられるだろうと知って
救い出し、ここまで運んできたそうです。
本来、この戦いの上では伊河と銑次は
敵同士ということになりますが、
徳川昭武率いる軍が、徳川幕府軍に攻撃を仕掛けるのが
いたたまれないようです。
ちなみに、凌雲は無事で
官軍兵の手当てのために使われているそうです。
銑次は、心の底から安堵していました。
苅谷嘉顕が、もんのいる料亭に来ました。
おもんは別の客の座敷にいましたが、
頃合いを見計らって嘉顕の座敷に移ります。
嘉顕はもんに杯をとらせますが、
もんにはそれが驚きであったようです。
「おはん、弟御には会うたんじゃろな?」
嘉顕は、姉弟の心配をしてもんに聞きますが、
どうやら弟は横浜に迎えに来ていたそうです。
嘉顕は、もんが大切にしているその弟に会ってみたいと
この座敷に呼ぶようにもんに勧めます。
そして実際に座敷に弟がやってきたわけですが、その弟は
いつぞやの──帰国したばかりの嘉顕に江戸を案内してくれ
しかし榎本に捕まって殺されかけるなどトラブルがあって
最後には嘉顕を襲撃して金を強奪して行ったあの──青年でした。
もんのいる手前、嘉顕は顔色一つ変えずに
初対面を装って小此木恭平と対面しますが、
やはり思い出されるのは、
恭平に襲撃された瞬間のことでした。
借家に平沼千代が訪ねてきました。
千代は、今まで嘉顕が届けてくれた
食料や綿入れなどの例を述べた上で
これ以上の情けは要らないと断りに来たわけです。
嘉顕としては、知り合いの銑次の身内が困っているから
手助けするつもりでいろいろと物品を送ってきましたが、
千代にとっては、それが情けに思えるようです。
おはんらが憎うて戦うたわけではごわはん。
嘉顕は笑顔で言いますが、千代はそれに反発します。
「憎くもなぐて、なしてあんなに人を殺し、あんなに家を焼き、
あんなに土地を荒らすことができるんだべかなし」
お身内を、亡くしておいででございやすか。
んにゃ、という答えを聞いて、
千代は一礼し帰ろうとします。
そこへ、信吾が飛び込んできました。
いつもと違う信吾の様子に、嘉顕はもしやと声をかけます。
「もしか、兄上のことか? 兄上がどげんした」
箱館五稜郭で討ち死にを、と聞いて落胆する嘉顕。
討ち死にした時のことを詳細に聞いて、
涙をこぼさずにはいられませんでした。
ちなみに、その兄・巳代治が落命した箱館病院に
銑次がいたことは、千代も嘉顕も知りません。
信吾が刺した銑次が嘉顕の知り合いというのも、
信吾自身は知りません。
その場に居合わせた千代は、
嘉顕にひどい言葉を浴びせた直後だけに
かけてあげる言葉も見つかりません。
伊河が水戸に帰ることになりました。
銑次のリハビリが続いている最中でして、
ようやっと二〜三歩、勧めるようになった段階です。
いやいやながら看病する女は
武士を嫌っていながらなぜ自分を看病するのか
銑次にはナゾでしたが、
どうやら伊河が金を掴ませたようです。
その伊河は、銑次にも少々の金を渡し
刀と脇差しも渡して馬で去って行きます。
鹿児島では、苅谷宗行が妻の和哥に
戊辰戦争が終わったことを伝えに来ます。
いよいよ巳代治が帰ってくるぞ、と
夫婦で明るく笑い合うのですが、
鹿児島に帰ってきた嘉顕は
父母の様子を見て、家に入るのさえ躊躇われます。
「兄上、箱館で討ち死になさいもした」
あまりの衝撃に、父母とも言葉が出ません。
妻の菊子は、なぜか卒倒してしまいました。
巳代治の葬儀も終わって、菊子は相談に老僧を訪ねます。
老僧は未亡人・菊子の気丈さをいたわりますが、
菊子は老僧も目を丸くするほどのことを暴露します。
「私は悲しんではおいもはん」
卒倒したのも、夫を亡くしたからではなく
己の心が恐ろしくなったからだそうです。
夫の死を願い、それを喜んだからだそうです。
菊子は、名前こそ明かしませんが
意中の人への気持ちを正直に告白します。
老僧は、夫という人がいながらのこの告白は
聞きたくないと念仏を唱えておりますが(^ ^;;)
その意中の人、嘉顕が東京に戻っていきました。
作:山田 太一
音楽:宇崎 竜童
語り:和田 篤 アナウンサー
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[出演]
菅原 文太 (平沼銑次)
大原 麗子 (もん)
大竹 しのぶ (平沼千代)
藤 真利子 (苅谷菊子)
市村 正親 (小此木恭平)
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尾上 菊五郎 (高松凌雲)
佐野 浅夫 (畳屋平蔵)
笠 智衆 (老僧)
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千秋 実 (苅谷宗行)
沢村 貞子 (苅谷和哥)
加藤 剛 (苅谷嘉顕)
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制作:近藤 晋
演出:中村 克史
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