プレイバック獅子の時代・(34)千代の恋
明治8(1875)年・初夏。
苅谷嘉顕は、結婚したばかりの森 有礼・阿常夫妻と
かき氷を食べています。
「そろそろ、おはんもどげんか?」
と、森はそれとなく未婚の嘉顕をつっついてみますと、
いつもなら、微笑みで軽く流してしまうのですが
1年ほど前から嫁にしたい人がいる、と正直に告白します。
ここは、嘉顕の友人として一肌脱がずに入られません。
森はさっそく瑞穂屋を訪ね、千代を料亭に呼び出します。
そしてその料亭には嘉顕も来ていました。
苅谷邸の下女・きわが亡くなって以来なので
1年弱ぶりの再会といったところでしょうか。
「率直に言う。おはんを嫁にできたらと願うておる」
嘉顕から千代へのプロポーズです。
目線を落とし、じっと嘉顕の言葉を聞きます。
ふとしたタイミングで目線を上げると、
嘉顕のまっすぐな目が、千代を見つめていました。
瑞穂屋に戻った千代は、
主人・卯三郎の姪に当たる龍子に相談してみます。
龍子の考えは千代とは違って近代的なので、
嘉顕が言う、自分の意志でというのも分かります。
自分自身の意志で決めなければならない、
という理論も千代には何となく分かるのですが
千代には、カタブツの兄2人を抱えておりますので
それをどう説得するかも千代にとっては重要なのです。
「なら、明日お暇もらってお話に行けばいいわ」
龍子にそこまで言ってくれているのですが、
千代には何となく結末は分かります。
薩摩の人間の妻になるのは反対に決まっています。
で、千代自身の気持ちは?
お嫁に行きたい、とは一言も言わないのですが、
行きたいからこそ、兄が反対するとか
薩摩の人の元へは行けない、とか悩むわけで、
龍子はそこを見破って念押しします。
「お嫁に行きたいわけね?」
2日後、プロポーズの返事を聞きにきた森に
きっとお受け致します、と龍子が代わりに返事しました。
その日の夜、千代がこれからのことについて話し合うために
単身苅谷邸にやってきます。
返事はすでに森から聞いているので
嘉顕は少し舞い上がっているのですが、
その雲の上に乗ったような心地を切り裂くように
下女のタネが「だんなさまぁ!」と悉く邪魔してきます。
んもう!
きわさんと違って乱雑なんだからぁ!(^ ^;;)
ご主人のいいとこなのにぃ!
ともかく、この縁談は
周囲の大反対を食らいそうというのは
二人の共通の認識であります。
よって銑次や鉱造には千代が説得に当たり、
鹿児島の両親には嘉顕が説得することにします。
「だんなさまぁ! お茶をお持ちしましょうか?」
瑞穂屋に戻った千代に、
龍子も卯三郎も力になってくれると力強いお言葉です。
龍子は、お互いに気になる存在である鉱造を呼び出し
千代の縁談を認めさせようとします。
実は鉱造は、嘉顕との結婚には反対ですが
龍子のイケイケなノリの前では無力で、タジタジです。
で、龍子の思惑はそれからでして、
説得を受けた鉱造を銑次の元に行かせ、
兄を説得させるという算段なわけです。
嘉顕との縁談について鉱造から話を聞いた銑次は
その日の夜に千代を呼び出します。
「苅谷さんとのお話、お許ししてくなんしょ」
「だめだ」
予想通りです。
会津と薩摩の関係を考えれば、当然かもしれません。
しかし、そこから千代の反撃が始まります。
「会津も薩摩もねえって、いつも言っていたではありやせんか」
でも結局は千代は子ども扱いされて
最後には「帰れ」と強引に帰されてしまいます。
お互い、納得できないままお別れです。
銭湯に行っていた弥太郎は
千代が嫁ぐと聞いて失恋モードですが、
それは表には出さず、帰る千代を送っていきます。
銑次は、千代が帰った後
苅谷邸に赴き嘉顕を外に連れ出します。
そして今後一切千代と会わないように言い置きますが、
嘉顕にとってすんなり受け入れられることではありません。
分かっていたこととは言いながら、前途多難です。
銑次は、懐かしい男を車の客として乗せることになりました。
獄で一緒になった松本英吉です。
身なりは立派な紳士姿で、車夫の銑次とは大違いです。
英吉は、政府と商人にゆすりをして儲けようと
銑次と手を組もうと打診しますが、
薩長とは縁を切った、と銑次は断ります。
このころの明治政府は、
自由民権論を容赦なく弾圧するなど
大久保独裁色がますます強くなっていました。
不満は各地でくすぶりつつも、いずれも武力で抑えられます。
一方、独立を保っていた琉球国は強引に日本に編入され
沖縄県と名乗らせることにします。
明治9(1876)年3月、政府は廃刀令を発布し
軍人・役人以外の刀を禁止とします。
そんな時、大久保利通は嘉顕を鹿児島へ派遣します。
鹿児島は今や大久保憎しで固まっていて、
西郷隆盛を担ぎ上げ、桐野利秋らが学校を造ったという情報もあり
その真意を探らせるべく、派遣するわけです。
大久保からの手紙を持って、嘉顕は東京を発つ準備を始めます。
鉱造に徴兵令状が届きました。
9月1日に東京鎮台に出頭せよ、とのお達しです。
「なして俺たちを放っておいてはくれねえ……」
薩長とは無縁の生活をしてみせると豪語したものの
英吉が言うように、そんな生活は無理なのかもしれません。
9月3日、鉱造は
喜んで兵隊になるわけではないという気概をアピールするため
兵隊たちに引きずられながら陸軍兵となりました。
弟を兵隊に取られた怒りは、すぐさま嘉顕に向けられました。
とはいえ、妹の千代から見て
銑次の怒りというのは方向が違う気がします。
嘉顕が鹿児島に帰って、結婚の許しを得たら
銑次の反対を押し切って自分の妻になってくれ。
嘉顕の願いに、千代は力強く頷きます。
「どうしても兄が反対なら──兄を忘れます」
10月、嘉顕は鹿児島に向かう船の上で
熊本神風連の乱の話を聞きます。
それが口火となって、政府に対する反乱が各地で暴発。
秋月の乱、萩の乱……と、戦火は西南戦争へと広がっていきます。
作:山田 太一
音楽:宇崎 竜童
語り:和田 篤 アナウンサー
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[出演]
菅原 文太 (平沼銑次)
大竹 しのぶ (平沼千代)
永島 敏行 (平沼鉱造)
岸本 加世子 (龍子)
金田 賢一 (弥太郎)
鶴田 浩二 (大久保利通)
中山 仁 (森 有礼)
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丹波 哲郎 (松本英吉)
児玉 清 (瑞穂屋卯三郎)
加藤 剛 (苅谷嘉顕)
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制作:近藤 晋
演出:清水 満
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