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2013年11月 8日 (金)

プレイバック獅子の時代・(38)大久保暗殺

明治10(1877)年4月。

政府軍の攻撃に熊本を総退却した西郷軍は人吉で1ヶ月抵抗。
それも打ち破られて本拠を宮崎へ移します。
失った兵隊の補充、弾薬製造、軍資金調達に急ぎますが
政府軍の圧倒的な物量にはかないません。

そのころ、苅谷嘉顕や平沼鉱造ら政府軍の一部は
西郷軍よりも一足早く鹿児島に到着し、
ほとんど何の抵抗もなく町を占拠しました。

どの道も無人です。
閉ざした家々の扉が、故郷に攻め入った嘉顕を
無言でなじっているような印象です。

嘉顕はそのまま実家に向かいます。

一歩足を踏み入れると、
見たことのない若い女がこちらを睨みつけています。
「キャッ……敵じゃ!」

何のことか訳が分からず、女を追って庭まで行きますと
ピシャッと鋭い音を立てて障子が開き、
中にいる女たちが刃物をこちらに向けています。
居間には、恐らくは負傷兵と思われる男が横になっています。

その先頭には、母の和哥が──。

「二度と立ち寄りもはん。話があります」
懐刀を手に、聞きたくないという和哥ですが、
嘉顕が差し出した遺髪を見て、顔色をさらに変えます。

およそ1ヶ月前の3月14日、
嘉顕の父で和哥の夫である宗行が
田原坂で討ち死にしたのでした。

二度と来ッとじゃごわはん!
目に涙をいっぱい浮かべて、その場に崩れ落ちます。


5月初旬に入ると、鹿児島を奪回せんと
西郷軍は激しい砲火を浴びせて城山の政府軍に迫ります。
しかし政府軍の守りは堅く、戦況は一進一退。
持久戦の様相を呈し始めます。

そして6月。
嘉顕の実家近くで政府軍兵士が襲撃を受けたとのこと。
しかし鹿児島の街中はすでに政府軍が占拠していたため
占拠前から潜んでいた賊軍の可能性があります。

あたりはすでに捜索済みなので、残されたのは嘉顕の実家のみです。
その実家に入る前に、鉱造は嘉顕に同行を求めます。

家に入ると、すでにもぬけの殻です。
部屋もきれいに片づけられています。

仏壇には、嘉顕がここに来ると見越して書き置きしたと思われる
和哥からの手紙がありました。

──嘉顕殿

母はこの家を去ります。
二度とお前さまには会わぬことでしょう。
とはいえ、母はお前さまに
怒りを抱いて去るものではありません。

父上に背き、仇のそばに付きしこと
元より哀しきことながら、
訳もなくお前さまが
そのようなことをするとは思えません。

されどお父上が西郷どんに仕え
政府の軍に命を断たれた以上、
母はお前さまとともに生きてはおられません。
母はひたすら遠くで生きます。

さすれば、いつか
お前さまの不孝を咎める気持ちも薄れ
父上に逆らってまで志を貫く生き様を
誇りに思うこともできるかもしれません。

男らしゅう生き抜くことを祈っております──

鉱造は、嘉顕が
父を亡くし、母もいなくなるという状況にあっても
ひたすら職務を全うしていることに尊敬の念を抱きます。

しかしその後で、あの鉱造のいつもの感じで
「だけんじょ、それとこれとは話が別だす。
妹の結婚を認めたわけではねェがらす!」
なんて言ってしまうんじゃないかとドキドキしましたが、

さすがにそれはなさそうですね(^ ^;;)


9月1日、政府軍のスキをついて
西郷軍は雪崩のように市内へ乱入。

しかし最盛時3万余と言われた西郷軍は
今は軍夫を含めて400余名。
城山に籠り、政府軍が次第に包囲を厚くしていくのを
止める術すらなかったわけです。

大久保利通は、伊藤博文からの報告を受けて
ここまで追いつめた政府軍に一定の評価を与えつつも

“追いつめすぎだ”という認識が
わずかながら残っていたかもしれません。
西郷軍に降伏を勧めるように手配します。

いや、山県有朋はすでに
降伏の使者を何度も立てているのですが、
西郷軍からは何の回答もないそうです。


9月24日、政府軍による城山への総攻撃が開始。
西郷隆盛ら西郷軍の幹部40名余は
整列して山を下りることにしました。
向かうは鹿児島私学校です。

西郷が下野して4年、
拠り所となった私学校で
全員で自決して果てようというわけです。

大砲が何発も飛び込む中、
西郷を先頭にしずしずと進軍する幹部たちですが、
西郷の右腹に一発の流れ弾が飛び込みます。

西郷は別府晋介に介錯を命じ
7ヶ月に渡る戦は、ついに終局を迎えます。


10月。
平沼銑次は東京に帰ってきていました。
それを知ったもんは、たまらなくなって
銑次が酒を呑んでいる居酒屋に急ぎます。

「……もん」
「銑さん……」
二人の再会に、ヤボな言葉はいりません、よね。

東京に帰って来たばかりで
これからのことはまだ何も考えていないという銑次に、
もんはとりあえずのお金を手渡します。

一度は断る銑次ですが、金がなければ何もできないので
ありがたく受け取ることにします。

ひとまず車屋の親方のところに行ってみる銑次ですが
どうやら西南戦争中に銑次が松本英吉とつるんで
金を盗んで逃げたって話になっています。
(それは松本英吉の単独プレーな話なんだけど(^ ^;;))

親方は、銑次に金を渡して逃げてもらおうとしますが、
先ほどまでいた3人の車夫のうち
ひとりがいなくなっています。

まずい!
そう思った瞬間、車屋に警察官が現れました。
まぁ、いつもの感じでグーで殴り倒して行方をくらます銑次です。


翌朝、銑次は千代のいる苅谷屋敷に行ってみます。
千代が表玄関を掃いているのですが、
銑次をチラと見て小さく首を横に振っています。

ここにも警察官がいると察知した銑次は走って逃亡。
直後、警察官たちが銑次を追いかけていきます。

それを心配そうに見る千代ですが、
その時、嘉顕が鹿児島から帰って来ました。
あまりに突然なことで言葉が出ない千代ですが、
結婚して以来、なぜか初めての朝です(笑)。
(経緯は第36回「愛と動乱の日々」をご参照ください)

嘉顕は、父母とのこともあり
千代との再会を喜べる心境ではなかったのですが、
ただ、ひとりでは哀しみにつぶされていたかもしれません。
「千代……おはんがおって良かった」


明治11(1877)年5月。
もんが銑次の隠れ家に急ぎますが、
家にはもんが会ったことがない男たちがたくさんです。
銑次の身を案ずるもんに、銑次は
とりあえず今日のところは帰れと背中を押します。

同じ日の夜、大久保は
久々に碁を打ちたくなった、と嘉顕を自邸に呼びます。
しかし、愛娘がなかなか大久保から離れなくて
しばらく碁はおあずけです。


「大久保をやる!?」
世の中をひっくり返すということで
銑次も力を貸すと考えていたのに、
浦川譲助の説明では
その実態は大久保利通を暗殺するというわけです。

銑次も少しは悟ったところがあり、
大久保ひとりを暗殺したところで
世の中は変わりようがないと強く主張します。

すると、浦川を除く面々が逆上して
銑次に一斉に斬り掛かります。

囲われていた家を飛び出したもんが
銑次の元に向かっていて目撃したのが
複数の男に斬りつけられている銑次の姿でありまして、
驚いたもんは警察を呼びに走って行ってしまいます。


嘉顕と碁を始めた大久保は、
これからの日本をどう建設していくか
熱く語ります。

まずは10年を区切りとし
国を整えて産業を興す最初の10年、
後進を育てて仕事を受け継がせる次の10年……。

「どげんじゃ。わしの勝ちじゃろが」
碁盤を指さして得意顔の大久保ですが、
んにゃ、と嘉顕は大久保の勝ちを阻止します。
どうやら大久保は、見た目よりもツメが甘そうです。


翌5月14日──。

結局大久保邸で一晩を過ごした嘉顕ですが、
大久保はむずがる愛娘を落ち着かせるべく
馬車に乗って家の周囲を何周かして内務省に出仕するとのことで、
嘉顕には先に内務省に行っていてくれと伝えます。

そして、娘を降ろして大久保だけを乗せた馬車が
赤坂紀尾井坂の清水谷に近づいたのは午前8時すぎ。
そこには、浦川ら刺客が待ちかまえていました。

「バカ者が!」
一度は刺客を圧倒する大久保でしたが、
複数にさんざん斬られて倒れます。

二度と、起きませんでした。


銑次の隠れ家に、警察官が押しかけます。

一度はおもんが警察を呼んで助けられた銑次でしたが、
自分が無実の罪を着せられて追われていることを知っていたし
命の恩人である浦川らのこともあったので、
自分の名前も、襲った男の名前も言わなかったわけです。

それを怪しんでいた警官たちですが、
その事情がようやく分かったのでした。

「何をなさいます! やめてください!」
肩に重傷を負っているにも関わらず、
強引に連行しようとする警官にもんは食って掛かりますが
警官にドンと押されて尻餅をつく始末。

何をしても無駄な抵抗で、もんは黙って
銑次の後ろ姿を見送ることしかできませんでした。
「銑さん……!」

またも離ればなれになるふたりです。


作:山田 太一
音楽:宇崎 竜童
語り:和田 篤 アナウンサー
──────────
[出演]
菅原 文太 (平沼銑次)
大原 麗子 (もん)
大竹 しのぶ (苅谷千代)
永島 敏行 (平沼鉱造)
──────────
鶴田 浩二 (大久保利通)

中村 富十郎 (西郷隆盛)
根津 甚八 (伊藤博文)
──────────
沢村 貞子 (苅谷和哥)
柳家 小さん (車屋の親方)

加藤 剛 (苅谷嘉顕)
──────────
制作:近藤 晋
演出:重光 亨彦

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