大河ドラマ八重の桜・(44)襄の遺言
明治16(1883)年12月。
徴兵令施行から10年経過しましたが、
兵役を担ったのは該当者の1割にしか過ぎませんでした。
こんなことでは、もはや日本を守れそうにもありません。
昨年の朝鮮事変で、清国が大軍を率いて
日本を牽制したことも考慮すると
列強から国を守るには、軍備の拡張を急がなければなりません。
「徴兵の徹底は……急務じゃな」
内務卿・山県有朋はつぶやきます。
政府は、山県の主導で徴兵制度を改革します。
私立学校は、徴兵免除の特典から除外となりました。
その翌年、このことが思わぬ形で新島 襄にふりかかります。
明治17(1884)年・夏 スイス サン・ゴタール峠──。
苦しそうな表情の襄が横たわっています。
病を得ているようです。
現地の男たちが、襄のことを心配そうに眺めていまして、
苦しそうに手紙を書いていたと、
襄の容体について日本に知らせてやろうかと話し合っています。
その半年前、東京永田町にある伊藤博文邸。
襄と津田梅子が伊藤邸を訪ねます。
この3人が顔を揃えるのは、
岩倉遣欧使節団として渡米したとき以来であります。
当時、梅子は6歳の幼子であります(^ ^;;)
今はすっかり大人の女性に成長した梅子は
伊藤の妻と娘の家庭教師を務めているそうで、
梅子も襄のように、いずれは女学校を作りたいようです。
梅子が去り、襄と二人きりになる伊藤ですが、
襄が何故訪問してきたかは分かっているつもりです。
徴兵令改正により、今まで対象外であった私立学校の生徒が
その特典から外れるというので、談判にきたのです。
私立は政府の管轄外ですからなぁ……と
伊藤はそっけなく返答します。
同志社を大学に作り替え、専門学科を置き
優れた教師陣を揃えて国を担う人物を育てる。
でも、伊藤は「国を背負う人物は国が作ります」と
眉一つ動かしません。
徴兵ごときで恐慌を来すのは、その大学に
魅力がないと自分から言っているようなものです。
現に早稲田の東京専門学校では騒ぎは起きていません。
「こねえな時だけ官学と同列を願うんは、
ちいと……虫がええんじゃありゃせんかね」
単に、生徒たちから
勉学の機会を奪わないでほしいと願っているだけなのに、
そういうふうに曲げられてしまっては
さすがの襄も腹立たしく感じます。
「政府のやることは、勝手すぎる」
家に戻った襄は、食事をしながらも
カチャカチャとうるさく音を立て
珍しく表情からイライラが溢れ出ています。
“己の不機嫌に任せて怒りをうつすは無礼のことなり”
八重が幼い頃に習った『女今川』に書いてあったそうです。
それを言われて、眉間にシワを寄せていた襄は
フッと表情が和らぎ、すいません、と頭を下げます。
全ての学校に与えられていたはずの徴兵免除は
官立学校の大きな特典として残ります。
小石川にある、松平 照の療養先──。
病床について3ヶ月、
治療はもう要らないと医師の診察も断っている照姫を、
義弟・松平容保が見舞います。
容保は、孝明天皇から賜った御宸翰と御製
──文久3(1863)年に、八月十八日の政変を行った礼として
会津藩主・松平容保に送られた宸翰(天皇自筆の文書)と
御製(天皇や皇帝が手ずから書いたり作ったりした
文章・詩歌・絵画など。一般に天皇が詠んだ和歌のこと)──
を照姫に見せますが、
会津が逆賊でない証でありながらも、今は公表すべき時ではないと
竹筒に入れ生涯誰にも見せていなかったようです。
会津戦争が終わってもう十数年が経過するのに
容保は未だに重荷を背負ったままだと照姫は大泣きします。
いつの日も、私を支えてくださったのは姉上の真心でした……。
その言葉を聞くと、それだけで充分と
残された時を共に過ごしたいという容保の願いを断り
それからほどない、明治17年2月28日
照姫は静かにその生涯を閉じました。
照姫の死は、会津の人々を深い悲しみで包みます。
帰宅した襄を出迎える八重ですが、
襄の顔色が悪いのに気がつきます。
八重としては、休んだら? と声をかけたいのは山々ですが
事を急がなければ同志社がつぶれてしまうという危機感があり
その言葉をかけてあげられません。
しかし、この状態で奔走し続けるのも無理な話で
襄は徐々に体調を崩していきます。
そんな時、山本家に懐かしいお客さまです。
会津藩公用方として勤めていた広沢富次郎(安任)です。
そして彼が会津から連れてきた“若いの”……
安任の遠縁に当たる青木栄二郎という青年もいます。
今は青森で広沢牧場を開いている安任は
この青木にいずれは牧場を任せたいと考えていますが、
そのために、新しい学問を学ばせたくて
書生として置いてほしいというのです。
とはいえ、覚馬が持つ学問もかなり古びているし
介護で人手が足らない山本家では
書生として迎え入れるのも難しかろうと、
八重の提案で同志社で面倒を見ることにしました。
明治17(1884)年4月、
大学設立の資金集めのために神戸を発ち
イタリア・スイス・アメリカと回る予定です。
日本を発つ襄に、八重は心臓の薬を渡します。
襄のことが心配な八重は、あれもこれもと注文を付け
襄はクスッと笑いながらも「はい」と受けているのが
なかなか面白いですね。
「長い手紙は要りませぬ。葉書に『当方無事』と一言書いてくれれば」
「では、一言だけにしましょう」
「もう二言三言書いてくれてもいいげんじょ……」
「はい」
7月、同志社女学校では
理学の実験をしたがっている生徒と
それをさせない外国人教師との間で軋轢が生まれます。
まぁ確かに女学校には理学実験の道具はないので
男子学校でやれば? と八重は提案するのですが、
女生徒たちも、その届けを何度も書くものの
一向に認められないというのです。
スペルひとつ間違っていればそれだけでも書き直しを命じられ、
あれは嫌がらせ、と女生徒たちはストライキしているのです。
一通り言い分を聞いた八重は、外国人教師たちに
認めてやったらどうかと提案しますが、
教師たちは、八重の言葉にも耳を貸しません。
そのころ、山本家では
井戸から水をくみ出そうとする時栄を栄二郎が手伝います。
覚馬から、そして同志社の面々から
期待されて入学した転校生ですが、
その「期待しています」という言葉も
栄二郎には少し重く感じられるようになってきました。
「期待されるやなんて、ありがたいことや」
時栄は、栄二郎の愚痴は聞いてあげるから
言い終わったら学問に専念しなさい、と激励します。
9月、奥州歴訪中の襄から、妙な手紙が送られてきます。
『先に届いた手紙は、早合点した者が誤って送った。
さぞ驚いたろうが心配はいらない。当方無事』
実はその1ヶ月前、冒頭で流れたように
胸の痛みを訴えて襄は倒れていたわけです。
運び込まれた部屋の床をのたうち回る襄。
「八重さん……もう会えないのか」
襄はスケッチブックをカバンから取り出し
苦しみながらもペンを走らせます。
それが──8月6日に書かれて実質的に後から届いた手紙でした。
いや、手紙と言うか、襄の遺書です。
先に届いた手紙は8月9日にしたためられているので、
覚馬は、襄は無事だと断言します。
しかし、襄が遺書を書いた理由、事情が
八重にはよく分かりません。
ただ、命を削って戦っていることだけは理解します。
その後女学校では、男子学校での理学実験の見学をした
女生徒たちに謹慎処分を下した外国人教師と
女生徒たちに見学を許可した八重との言い争いが始まっていました。
学校運営の資金を出しているのは伝道団体であるといい
襄はその雇われ校長に過ぎないという外国人教師と
同志社英学校・同志社女学校は襄が作り上げたという八重との
言い争いです。
「そういうことなら、アメリカンボードは
女学校から手を引くことになりますよ」
「……脅すのですかッ」
女生徒の間違いは、舎監たる自分の落ち度だ、と
山本佐久は舎監を辞めることでこの場を収めようとします。
その代わり、女生徒たちから
学問の機会を奪わないでほしいと訴えます。
舎監室で、荷物をまとめながら
佐久は八重に「強く言いすぎる」と忠告します。
今、外国人教師たちに辞められては
困るのはコチラ側です。
もしかしたら、八重も少し反省していたのかもしれません。
ただ、どうしていいか分からず
まずは覚馬に相談してみることにします。
その山本家では、栄二郎の時栄を見る目が
少しずつ変わってきているようです。
山本家に、嵐が吹き始めていました。
──────────
明治17(1884)年8月6日、
スイスのサンゴタール峠で新島 襄が心臓発作を起こして倒れ、
二通の遺書を記すが、一命を取り留める。
明治39(1906)年4月1日、
篤志看護婦としての功績により
皇室以外の女性として初めて『勲六等宝冠章』を受章するまで
あと21年7ヶ月──。
作:山本 むつみ
テーマ音楽:坂本 龍一
音楽:中島 ノブユキ
題字:赤松 陽構造
語り:草笛 光子
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[出演]
綾瀬 はるか (新島八重)
西島 秀俊 (山本覚馬)
オダギリ ジョー (新島 襄)
玉山 鉄二 (山川 浩)
谷村 美月 (山本時栄)
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綾野 剛 (松平容保)
岡田 義徳 (広沢安任)
勝地 涼 (山川健次郎)
清水 綋治 (新島民治)
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市川 染五郎 (孝明天皇(回想))
反町 隆史 (大山 巌)
風吹 ジュン (山本佐久)
稲森 いずみ (松平 照)
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制作統括:内藤 愼介
プロデューサー:樋口 俊一
演出:末永 創
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『八重の桜』
第45回「不義の噂」
デジタル総合:午後8時〜
BSプレミアム:午後6時〜
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