プレイバック利家とまつ・(04)桶狭間の奇跡
吉兆の鳥・白鷺が飛び立つ熱田神宮を
前田利家は村井長八郎を伴って出発して行きます。
永禄3(1560)年5月19日のことです。
心配そうに織田軍を見送る
利家の妻・まつと木下藤吉郎の許嫁・おねは
背後から馬のひづめの音を聞いて振り返ります。
そこには、馬上の人となったはると、
家臣の井口太郎左衛門がいました。
はるは、好いた相手の佐々成政とともに
出陣する覚悟で甲冑を身に付けていますが
成政自身は、はるには
清洲城で吉報を待てとメッセージを送っています。
はるは成政の意向を受け入れ
熱田神宮に入って大太鼓を叩き、味方を鼓舞します。
「武運長久、家門繁栄……成政生還!
熱田の神様、佐々成政のお命をお守りくださりませ!」
“丸に二ッ匹両紋(まるにふたっぴきりょうもん)”
の旗を掲げた今川勢は、道をしずしずと進んでいきます。
その道を見下ろす林の中で、利家は軍勢を睨みつけています。
長八郎は、大将首はいくらでもある、
信長さまに勘当を解いていただき、
まつ様に喜んでいただきましょう! と利家を叱咤。
その信長は、2,000の軍勢を率いて
45,000の今川軍へ挑んで進軍します。
千に一つの勝ち目はない、と
清洲城下には人ひとりいなくなりました。
ただ、信長の勝ちを信じたものは皆無だったわけではなく
不思議と清洲城に入った女たちは、信長の勝利を信じて
明るく楽しく、握り飯づくりに励んでいました。
まつは、夫が勘当中ですので
一言断ってから、その輪に入ります。
成政の母・ふくは昼間から酒をあおって
はるが成政の妻になったような口ぶりを責めていますし、
おねの実母・たえは、おねが秀吉と婚約したというのに
信長の評価が高い秀吉のことをひどく嫌っています。
はるもおねも、そんな母を前に小さくなっていますが、
落ち着いて座っているまつが、
笑顔で「勝ちますよ!」と大きく頷くのを見て
ふくもたえもまつへの評価が高くなりました。
荒子城では、甲冑に身を包んだ前田安勝、前田家継と
家老の奥村家福が前田利久に出陣を促していますが、
利久は生返事で、あまり戦に乗り気ではないようです。
「もし今川が寄せたら、私は降伏して頭を丸めます」
信長の勝利をどこかで信じたい利久は
あえて態度を明白にしないようにしているようです。
利昌は、利久の決断を否定せず
お前はお前でよいと背中をポンと押します。
馬に乗って駆けてゆく道の先に
利昌が立っていました。
「一度、お前の戦ぶりを見たいと思うてな」
利昌は、前田家に代々伝わる勝軍地蔵を懐から出し
兜の中に入れとけ、と利家に渡します。
信長軍が陣を張る善照寺砦では、
今川軍が桶狭間山で休息中との物見からの報告を受けます。
「で、あるか」
信長は、天の利我らにあり、と
桶狭間山へ一気に斬り込むことにします。
激しい雨が、足音をうまく消し込んでくれるでしょう。
成政の兄・政次は、この戦で落命。
その死が清洲城にもたらされたとき、はるは倒れてしまいます。
お腹に子どもがいるわけです。
一体誰の……と、留守役ではるの父の村井貞勝は色を失いますが
ふくは、そりゃ成政に決まっておりますでしょ、と動じません(笑)。
政次の訃報を受けたその日に、このような吉事は何かの縁と、
もし成政がこの戦から無事に戻ってきたら
成政とはるを夫婦にしたいとふくは貞勝に申し出ます。
桶狭間山の今川本陣では今川義元が酒を呑み、
家臣たちも呑気に酔って舞って謡って、
まるで戦場ではないようです。
「山を動かせ!」
信長軍は今川本陣へ一気に攻め込みます。
桶狭間山を見渡せる林の中から、
利昌と家福が戦況を眺めています。
利家さまはどこでしょう、と目で探す家福ですが、
利昌はさすが、すぐに利家を見つけ出します。
自分の子どもだからこそ、心配で心配で
見る気がなくても見えてしまうものだ、というわけです。
そして、織田勢に責められ窮地に陥る義元を見て
“このワシも間もなくであろ”と、己の死期を悟ります。
「時代は……変わるのじゃ」
義元は、ついに織田の兵の刀に倒れました。
今川義元、討ち取ったり!
エイ、エイ、オー!!
敵将の首を二つ取り、利家は片膝ついていますが
信長はその前を通り過ぎます。
信長の元に慌てて駆け寄る勝家と、佐脇良之。
義元の首以外はいらぬ戦だった、ということで
信長は利家を“たわけよの”と評し、
帰参は許されませんでした。
怒った利家は、織田家を去る決意をしますが
まつと幸、そしてオレのためにも
我慢してくれよ、と良之に諭されます。
勝家も、必ず帰参は叶えてやると言ってくれました。
「知らぬ! 大うつけーッ!!」
清洲城で待つ女たちの前に、市と濃姫が立ち
信長の使者の報告で、この戦に勝ったことが伝えられます。
ただ、義元の首を取ったのは毛利新介だと知り
我が夫が、我が君が、と信じていた
まつ、おね、はるは、ひどく落胆……。
小屋に戻ったまつと幸ですが、
やはり信長に認めてもらえずに自暴自棄になっているのか
利家はこちらには戻ってきません。
たつがやって来ました。
たつは、幸の顔を眺めながら
“まつが産んだ子じゃ”と
利昌が可愛がっていたのを思い出します。
「亡くなったのですよ」
そこへ、意外に元気な利家と
良之と長八郎が戻ってきました。
あの時、敵の首を取っていれば……などと
明るく振り返る3人です。
まさか父が見物に来るとは──と良之が話し始めますが、
たつは耐えきれずに涙をこぼします。
喪は、秋まで伏せておくことにしました。
利家が勘当されているということもありますし、
利久が家督相続をするに当たって、
信長からよこやりが入るかもしれません。
利家は、利昌からもらった勝軍地蔵を取り出します。
「まつに似ておろうと言った」
まつは、その地蔵を見て涙があふれてきました。
地蔵に向かい、手を合わせます。
翌朝。
寺の山門で利家が片膝をつき控えています。
そこへ池田恒興と毛利新介を従えて
しずしずとやって来た信長。
「何も聞かず、『敦盛』聞かせていただきとう存じます」
涙を堪える利家を見て、信長は
利家の関係のある誰かが卒した(亡くなった)と察知します。
>米一粒が実るためには、百の行がいるのじゃ。
>“一粒百行”を己が身で悟れ!
>男は、負ける戦はせぬものでございます。
>男は負けたら死ぬのです。
>もう戻るな!
>死んだものと思わねば、毎日朝から晩まで
>お前のことばかり考えて、生きた心地がせぬ!
>親と子の縁を切り他人と思うゆえ、頼りもよこすな!
>頼む!
♪人間五十年
下天のうちを 比ぶれば
夢幻の如くなり
一度生を享け
滅せぬもののあるべきか
>見違えるようじゃの。
>……すまぬ。
利家を見る信長。
「これでよいのか。誰かの供養になったか」
利家は顔を歪め、たまらずうつむきます。
利家の頬を涙が止めどなく流れていきます。
永禄3(1560)年5月19日、
尾張国桶狭間で、織田信長が少数の軍勢を率いて今川本陣を強襲し
大将の今川義元を討ち取って退却させる。
慶長3(1598)年8月18日、
太閤・豊臣秀吉が波乱の生涯を閉じるまで
あと38年2ヶ月──。
原作・脚本:竹山 洋
音楽:渡辺 俊幸
語り:阿部 渉 アナウンサー
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[出演]
唐沢 寿明 (前田利家)
松嶋 菜々子 (まつ)
反町 隆史 (織田信長)
香川 照之 (木下藤吉郎)
酒井 法子 (おね)
天海 祐希 (はる)
山口 祐一郎 (佐々成政)
竹野内 豊 (佐脇良之)
田中 美里 (市)
中条 きよし (奥村家福)
的場 浩司 (村井長八郎)
田中 健 (佐久間信盛)
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草笛 光子 (なか)
池内 淳子 (ふく)
八千草 薫 (たえ)
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丹波 哲郎 (井口太郎左衛門)
松平 健 (柴田勝家)
三浦 友和 (前田利久)
赤木 春恵 (うめ)
加賀 まりこ (たつ)
菅原 文太 (前田利昌)
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制作統括:浅野 加寿子
演出:佐藤 峰世
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