プレイバック利家とまつ・(08)猿は天才だぁ!?
永禄6(1563)年・清洲城下。
織田信長は清洲城を出て東美濃に近い小牧山へ。
前田利家や木下藤吉郎、佐々成政ら家臣たちは
信長について小牧山へ移りましたが、
その家族たちは清洲に残っていました。
「あの木下藤吉郎を知らぬのですかッ!」
ある小袖屋から、おねの大声が聞こえてきました。
今日のところは少ない手出しで、
後は出世払いと言い出すおねに店主も困り顔です。
大声に気づいたまつが店に入っておねを諌めますが
逆に火に油を注ぐがごとく、小袖も帯も全部! と
おねの要求はさらに酷くなっていきます。
……というのはおねの演技でありまして、
いささか急な出世を遂げた藤吉郎に対して
男たちの嫉妬がかなり高ぶりつつあり。
それをおねは、自らが悪い妻を演じることで
「あんな悪妻を妻にしたサルも気の毒」と
男たちの嫉妬の毒気を抜こうとしていたようです。
信長の機嫌がすこぶる悪いです。
藤吉郎は、おねのことで怒っているのだと
神妙に頭を下げていますが、
そんなかわいらしいことでは信長は怒りません。
「墨俣城のことにございますか」
成政が手をつくと、キッと睨みつける信長。
せっかく土台を作り上げても
雨で川が増水すればそれ以降の普請がかなわず、
長雨の時を狙って美濃勢が攻撃して
土台を壊していくというのは信長も承知しているのですが、
それを何年繰り返せばいいのか?
どれだけ金を使えばいいのか?
その問いをぶつけると、
成政も佐久間信盛も閉口してしまいます。
「私なら一夜にして城を建ててみせましょう!」
藤吉郎がしゃしゃり出てきました。
永禄7(1564)年の正月、新年祝賀が小牧山城で催されます。
酒の席で、完全に酒に呑まれてしまった佐久間は
藤吉郎の不在をいいことに、
彼の出世を妬んでああだこうだと言い出し始めます。
墨俣では総責任者である佐久間は、
一夜にして城を築いてみせると意気込む藤吉郎が
自分をバカにしているのだと思っているわけですが、
信長は、あくまで墨俣の総責任者は佐久間であると笑います。
そんな時、藤吉郎からの一方が舞い込みます。
東美濃・鵜沼城の大沢次郎左衛門が
藤吉郎に従って城を差し出すと約定したそうです。
藤吉郎はこの正月も、命を懸けて調略活動を行っていたのです。
春。
利家が小牧山城の廊下を歩いていると、
いろり端横に腰掛ける藤吉郎の姿を見かけます。
「わしは死ぬ。おねを頼む」
一礼して立ち去ろうとする藤吉郎。
こういう風に、いきなり結論を言うのが藤吉郎流です。
つまり、彼には時間がないわけです。
美濃の稲葉山城では、竹中半兵衛が
斎藤竜興を追い出して城の乗っ取りを完了させてしまうのですが、
美濃半国を与えるから織田に味方せよという信長の誘いを断り
こともあろうに乗っ取った稲葉山城を竜興に返してしまいました。
それで、かどうかは分かりませんが、
秀吉が命がけで調略した鵜沼城の大沢の領地安堵も
知らんと言い出し、その仲介に立った藤吉郎が
窮地に追い込まれてしまったのです。
だから、鵜沼城の大沢の元に赴いて謝罪するつもりです。
せっかく味方についてくれたのに、約束を違えたということで
藤吉郎は殺されに行くと言ったわけです。
その話を聞いた利家は、さっそく信長に直談判。
しかし、貴様はバカだな、と鼻であしらわれます。
「兄上は木下にうまく使われたのだ」
えっ? と顔を上げ、横に座る弟を見ます。
良之の話では、成政は墨俣の一件で対立しているし
勝家は藤吉郎のことを嫌っています。
そういった人間関係の中で、
誰が信長に大沢との約定を守れと進言できるのか?
そこで藤吉郎が目を付けたのが利家だったのです。
つまり利家は、藤吉郎の手柄の
総仕上げをさせられているわけです。
約定を守れなくなったから殺してくれと言う藤吉郎に
事情を知った大沢は感極まって命は奪わないでしょう。
そこで、利家によって約定を守れと諭された信長から
鵜沼城の領地安堵の知らせが届くとすると、
秀吉は花も実もある武将ということになります。
結果、良之が推測した通り大沢は藤吉郎を大切に遇しますが
ただ一つ、予測できなかったことがあります。
信長は領地安堵の書状を送らなかったのです。
野武士が利家の長屋にやって来て、
まつに小さく折り畳まれた文を手渡します。
「まつとのへ とうきちろ」
いのちのききにて候
いちやしろのひさく
おやかたさまへ
おとどけされたく候
はやくはやくさるを
おたすけくださるよう
おねがいまいらせ候 もし
とうきちろにいのちのきき
ありしとき
おねをくれぐれも
おたのみまいらせ候──。
そしてその中には、
「又さへもんとの とうきちろ」
裏には「すのまたいちやしろのひさく」と書かれた
さらに小さく折り畳まれた文が入っていました。
鷹狩りを楽しむ信長の元に駆けつける利家とまつ、おね。
最初こそ利家に目を合わさない信長でしたが、
利家が差し出す文を一瞥した信長は立ち上がります。
信長が伊勢に出陣すると
斎藤竜興は、美濃攻めに手を焼いた信長が
矛先を伊勢に向けたと考える。
その後、野武士6,000人を木曽川上流に潜伏させ、
大小の小屋10軒、家2,000軒分、棚木50,000本を調達。
野武士4,000名を墨俣に先行させ、雨で増水するのを待ち
材料をいかだで墨俣に流して行く。
増水した川から城の部材が流れて来るとは誰も思わず
その4,000人をもって一気に城を建ててしまう。
もし自分が鵜沼城で殺されたら、この墨俣築城はできない。
「あやつはこの信長を脅しておる!」
信長はすぐに、大沼に領地安堵の書状を送り
墨俣一夜城も永禄9(1566)年に藤吉郎が完成させました。
この完成により、信長の美濃侵攻は
急ピッチで進められることになります。
永禄7(1564)年8月、
美濃鵜沼城主・大沢次郎左衛門が
木下藤吉郎の調停によって織田信長に降る。
慶長3(1598)年8月18日、
太閤・豊臣秀吉が波乱の生涯を閉じるまで
あと34年──。
原作・脚本:竹山 洋
音楽:渡辺 俊幸
語り:阿部 渉 アナウンサー
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[出演]
唐沢 寿明 (前田利家)
松嶋 菜々子 (まつ)
反町 隆史 (織田信長)
香川 照之 (木下藤吉郎)
酒井 法子 (おね)
天海 祐希 (はる)
山口 祐一郎 (佐々成政)
竹野内 豊 (佐脇良之)
高嶋 政宏 (松平家康)
加藤 雅也 (浅野長吉)
的場 浩司 (村井長八郎)
梅沢 富美男 (丹羽長秀)
田中 健 (佐久間信盛)
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加賀 まりこ (たつ)
赤木 春恵 (うめ)
松平 健 (柴田勝家)
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制作統括:浅野 加寿子
演出:鈴木 圭
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