プレイバック利家とまつ・(16)おねの子、豪姫
岐阜・前田利家の役宅──。
佐々成政の妻・はるがまつを訪ねて来ています。
木下秀吉がおね以外の女に子を身ごもらせたらしいです。
まつは、そのことをおねが知ったら……と心配しますが
秀吉の子を身ごもった女はおねの下女だったので
知らないはずはないのです。
しかしそうだと知ったら、親友であるまつから見て
おねは“生きてはいけない”と感じるだろうと、
いま自分が身ごもっている、夏ぐらいに産まれて来る子が
女の子だったら……とまつは願うばかりです。
「女の子だったら、もらってくれますか?」
おねは、顔を強ばらせて礼を言いますが
お腹を痛めて産んだ我が子を他人に譲ることが出来るのかと
まつは自問自答します。
天正2(1574)年1月・岐阜城──。
「お屋形さまからの珍しき“肴”にござる」
紫色の布を取ると、そこには髑髏(しゃれこうべ)が3体。
浅井久政・長政父子、朝倉義景のそれであります。
大広間の中、ただ一人信長のみが上機嫌で
首(こうべ)を肴に酒を呑み直せ、と笑います。
あッ……!! と息をのむ一同。
恐れながら! と明智光秀が髑髏の前で信長にひれ伏します。
さすがは光秀、意見を申すかと思えば、中国の故事を持ち出して
この髑髏の杯で薄濃の酒をいただく、と言い出したわけです。
しかも、自らがかつて仕えていた、朝倉義景の頭蓋骨で、です。
しばらくはそこまでで場は収まっていたのですが、
信長が勝家の前に座り、お市を呼び寄せ
夫婦の杯として浅井長政の髑髏を使え、と言うわけです。
媒酌は利家が指名されましたが、不機嫌そうな顔で断ります。
比叡山焼き討ちも、僧たちの乱暴狼藉を考えれば止むなきこと、
杉谷善住坊ののこぎり引きも同じ、と事情は飲み込めますが
この髑髏を杯に、ということだけは
天下に号令する、人の上に発つ人物がする所業ではありません。
たちまち不機嫌になる信長は
小姓から刀を取り上げると利家に向かっていきますが、
勝家や成政らが必死に止め、利家は成敗を免れます。
「不愉快じゃ。去れ」
役宅に戻った利家は、
あいつはオレを少しも怖がらない、と
信長から成政を通じて信長の太刀が下賜されます。
3月28日、京・相国寺──。
信長は東大寺正倉院の名宝
『蘭奢待』(らんじゃたい)を切り取りました。
かつて室町幕府8代将軍・足利義政が
切り取って以降は初めてのことで、
信長が室町幕府に代わっての権力者になったことを意味します。
秀吉の子が産まれました。
男の子だそうです。
秀吉にとってはいいことだから喜んでやらねば、と
おねは理性では分かっているのですが、
情がまったくついて来ていないのです。
秀吉の母・なかは、おねがいるところでは
遠慮してかシブい顔をしていますが、
おねがいなくなると、赤子を抱いて躍っているそうで。
子どもが産めないことが、おねを苦しませています。
7月13日・伊勢長島──。
信長は伊勢国長島へ侵攻し一向宗を攻撃します。
しかしその最中、初陣として武将たちの世話をしていた
成政嫡男・松千代丸が、流れ弾に当たって討ち死に。
市からその知らせを聞いたはるは、
狂ったように泣きわめきます。
そしてまつはこの時産気づきまして、
無事女の子を出産します。
利家は生まれたばかりの我が子を抱いて
気落ちして伏せっているはるの元に行き
この子をもらってくれ、と言いますが、
はるは、おね様に、と譲りません。
秀吉にはやらぬ、とどれだけ言っても
はるは折れません。
「このままでは、おね様は離縁されてしまいます」
それもそうだな、と利家は当初の予定通り
秀吉・おね夫婦に子を差し出すことにします。
『豪』……豪華絢爛の、豪。
この子には、不自由な思いを味わってほしくない。
そんな思いから秀吉が名付けました。
秀吉がおねをないがしろにしている言動が目立ち
まつは秀吉の頬を張ったのですが、
口にはしなくても、
おねのことは秀吉なりに大事に思っているのです。
利家もまつも、納得の上で子を差し出したのですが
まつにとっては自らがお腹を痛めて産んだ子です。
何とも言えない思いがあふれて来て、涙がこぼれます。
自らの子を他人に譲った母親、
夫の子を他人に産ませられた母親、
自らの子を戦で失った母親、
三者の母の涙がこぼれる、秋の日でした。
天正2(1574)年7月、
佐々成政が長島一向一揆との戦いで嫡男・松千代丸を失う。
慶長3(1598)年8月18日、
太閤・豊臣秀吉が波乱の生涯を閉じるまで
あと24年1ヶ月──。
原作・脚本:竹山 洋
音楽:渡辺 俊幸
語り:阿部 渉 アナウンサー
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[出演]
唐沢 寿明 (前田利家)
松嶋 菜々子 (まつ)
反町 隆史 (織田信長)
香川 照之 (羽柴秀吉)
酒井 法子 (おね)
天海 祐希 (はる)
山口 祐一郎 (佐々成政)
加藤 雅也 (浅野長吉)
田中 美里 (市)
田中 健 (佐久間信盛)
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林 隆三 (今井宗久)
古谷 一行 (千 宗易)
萩原 健一 (明智光秀)
池内 淳子 (ふく)
草笛 光子 (なか)
松平 健 (柴田勝家)
丹波 哲郎 (井口太郎左衛門)
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制作統括:浅野 加寿子
演出:伊勢田 雅也
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