プレイバック翔ぶが如く・(08)異変のきざし
一橋 刑部卿 慶喜──。
のちに徳川宗家第十五代を継ぎ最後の将軍となる人物ですが
現在は将軍家の家族であり、まだ城や家臣団を持たず
徳川御三卿のひとつ・一橋家の当主であります。
慶喜は弓の稽古中で、スパン! スパン! と射ていきますが
そばでその稽古を見学していた島津斉彬に矢を向けて
「薩摩殿もお試しなされますかな(=射てみますかな)」と
慶喜なりの悪い冗談。
斉彬のそばで控えていた西郷吉之助は、
たちまち斉彬の前に立ちはだかって主人を守ろうとします。
慶喜は、吉之助の忠臣ぶりは「犬のようですな」と評価しますが
本心か戯れかを見抜けぬようでは
犬としても一流ではない、とイヤミたっぷりに言い放ちます。
後々、何かと衝突するふたりですが
出会いの場面から、もしかしたら最悪だったのかもしれません。
場所を移して対面所では
斉彬が本心を慶喜に打ち明けます。
つまり、将軍徳川家定は病弱につき
薩摩の姫を送り込んでも世継ぎ誕生は見込めない。
よって自分は、あらゆる人たちに畏れひれ伏されるような
武家の棟梁に相応しい人物を将軍にと望んでいる、と。
それを聞いた慶喜は、初めは驚きつつも
小さく頷きながら、ニヤリとします。
一橋家からの帰路、斉彬は吉之助に
今の出来事をそのまま越前松平家へ伝えよと命じます。
吉之助は、斉彬を無礼者呼ばわりするなど
慶喜は将軍家への忠義はことのほか厚いようだが
物事の考え方が鋭すぎて、
しかもそれを隠そうとはしない人物と評価。
ただ、斉彬も松平春嶽も、
そういう人物を望んでいるわけです。
家定は江戸城で、鯉にエサを上げて楽しんでいます。
とてもご機嫌です。
しかしそこにご機嫌伺いに訪問した慶喜が現れますと
「鬼がおるッ」と途端にパニックに陥ります。
生母の本寿院、乳母の歌橋が、
パニックの家定を慶喜から引き離して連れ出していきます。
まぁ、そんな調子なので
篤姫が将軍御台所として島津から近衛を経て徳川、
薩摩から京を経て江戸入りしたところで
相手にされないというか
近づかせてもらえないというのが実情です。
幾島からその話を聞いて、
おいたわしや……と吉之助は嘆きます。
安政4(1857)年、参勤交代を終えて帰国するにあたって
慶喜を将軍跡継ぎに推す建白書を、
斉彬は幕府に提出してきました。
幕府中枢の者たちは、
大まかに斉彬の建白書の内容に意義はありませんが
ただ一人、異議を唱えた人物がいました。
──井伊 掃部頭 直弼。
井伊は、徳川将軍家の世継ぎのことなど
本家および譜代の者たちが決めることであって
斉彬が将軍の岳父であっても、
外様ごときが口を挟む内容ではない! というわけです。
この建白書を受け取れば、政治の乱れにつながると
受け取った老中筆頭の阿部正弘にケチをつけはじめます。
朝廷への接近を警戒して
大名が京都市中に滞在し、公家と会談することは
幕府の厳禁するところであります。
しかし斉彬は、帰国の途中
左大臣・近衛忠煕との会談を図ります。
京都・清水寺成就院──。
外国との戦を避けるためにも将軍お世継ぎには
一橋刑部卿さまを、と推しまくり
朝廷から老中にご内勅を仰ぎます。
「一橋なら……この国の舵取りは間違いないのか」
はい、と斉彬は力強く答えます。
吉之助にとって、3年ぶりの薩摩です。
前月、満寿という女性を娶った大久保正助も
吉之助を出迎えに行き、新しい西郷家へ。
西郷家は、金繰りが苦しく
狭い家に変わってしまったのです。
とはいえ、弟や妹たちも相変わらず元気でした。
言い出しにくそうに、俊のことを話す正助と西郷吉二郎。
俊は西郷家と離縁して実家の伊集院家に戻っていたのです。
子を流産した俊は、その後ずっと病気がちになってしまい
足手まといになってしまったことで、
貧乏の西郷家をさらに逼迫させることになってしまった、と
俊は責任を取って離縁したのです。
吉二郎は、西郷家のことは必ず守るといいながら
こんな結果になってしまったと悔やんでいるし
祖母のきみは、充分な介抱もしてやれなかったと悔しがります。
正助も、俊のために高い薬を買い求めて与えてきました。
それを聞いて吉之助は、吉二郎や正助に頭を下げます。
後日、挨拶に伊集院家を訪ねた吉之助は
俊が病気療養を兼ねて知人の家にいる(=だから不在)と聞き
その母と弟に、江戸の土産の櫛を渡してほしいと託します。
しかし俊は、実は伊集院家にいまして、
吉之助の挨拶を隣の部屋で黙って聞いていました。
母は、今ならまだ間にあう、
人目につかずに会うことも出来ると説得しますが
俊は、泣きながら首を横に振ります。
「あンお人に、二度も恥をかかせるこつになりもす」
俊の手からこぼれ落ちる、櫛。
それを胸に抱き、いたたまれなくなった俊は
走って追いかけますが、
吉之助の背中がどんどん小さくなるばかりです。
吉之助も、永遠の決別に涙を流しています。
阿部老中が亡くなりました。
斉彬にとっては片翼を失うほどの衝撃であります。
しかし、その悲しみに打ちひしがれている場合ではありません。
阿部老中が亡くなり、
幕府はハリスの江戸入港を許してしまいました。
ハリスが突きつけるであろう条約の内容がどんなものか
心配する斉彬の命で、吉之助はすぐに
江戸に行かなければならなくなりました。
しかも、吉之助が出府中に家を売ったことを聞いた斉彬は
金子50両を吉之助に与え、その労をねぎらいます。
吉之助は、熊本まで一緒に行こうと正助を誘います。
熊本で長岡監物に引き合わせると言うのです。
大山格之助と有村俊斎は江戸留学第1陣で、
吉之助が江戸留学第2陣、
そして有馬新七と伊地知正治は現在江戸留学中で
正助のみがまだ領内を出たことがないわけです。
結婚したばかりの満寿は、笑顔で送り出してくれました。
安政4年の秋、行く手に何があるか
二人はまだそれを知りません。
安政4(1857)年6月17日、
阿部正弘が老中在任のまま江戸で急死する。
享年39。
慶応3(1867)年10月14日、
徳川慶喜が明治天皇に『大政奉還』を上奏するまで
あと10年3ヶ月──。
(『篤姫』では「(19)大奥入城」〜「(23)器くらべ」付近)
脚本:小山内 美江子
原作:司馬 遼太郎「翔ぶが如く」より
音楽:一柳 慧
題字:司馬 遼太郎
語り:草野 大悟
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[出演]
西田 敏行 (西郷吉之助)
鹿賀 丈史 (大久保正助)
賀来 千香子 (大久保満寿)
南 果歩 (伊集院 俊)
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三田村 邦彦 (一橋慶喜)
東野 英心 (森山新蔵)
蟹江 敬三 (大山格之助)
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樹木 希林 (幾島)
井上 孝雄 (堀田正睦)
柳生 博 (近衛忠煕)
若林 豪 (阿部正弘)
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富司 純子 (篤姫)
野村 万之丞 (月照)
神山 繁 (井伊直弼)
加山 雄三 (島津斉彬)
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制作:吉村 文孝
演出:木田 幸紀
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