プレイバック翔ぶが如く・(38)大久保の決断
明治になり、朝鮮国を討つべしという
「征韓論」が政府内に沸き起こります。
そもそも日本と朝鮮国との国交は
幕府時代、朝鮮が特に対馬藩に限って許していたもので
釜山近くの草梁倭館で貿易が行われていました。
明治元(1868)年、新政府は対馬藩を通して
王政復古の通告をしますが、この中に
明治天皇を朝鮮国王の上に置くという意味の言葉が
あったため、朝鮮はこの通告を受理しませんでした。
木戸孝允は、度重なる改善要求に応じません。
当時、朝鮮は大院君が政権を握って鎖国状態にあり、
英仏艦隊に江華島を一時占拠されたこともある朝鮮にとって、
鎖国はあくまで防衛のためであります。
朝鮮は日本からの侵略を強く恐れて警戒します。
明治4(1871)年、廃藩置県を果たした新政府は
対馬藩消滅を機に草梁倭館を強引に接収し
大日本公館として密貿易を開始。
当然、朝鮮国は反発します。
これを日本国に対する侮蔑だとした新政府は
征韓すべきかどうかの議論を高めていくのです。
西郷隆盛は、憂慮していました。
明治6(1873)年9月。
有馬に逗留していた大久保利通は東京に、
妻の大久保満寿は鹿児島に無事に戻ります。
満寿は西郷いとへのお土産に紅茶と
西洋せんべい(ビスケット?)を買っていきますが、
鼻息荒く食べたがっているのは雪篷先生です(笑)。
そして、我が子が留学して
2年の月日が経とうとしていましたが、
その間に、隆盛との間に
深い深い溝が出来てしまっていたのです。
満寿は、夫の言動から少し気がかりです。
東京の西郷隆盛邸には、征韓論から
自分も朝鮮国に渡らせてくれと志願する者たちが殺到。
桐野利秋が追っ払ってくれていますが、
数はなかなか減りません。
西欧視察から戻ってきた川路利良は
街灯で街を明るく照らせば犯罪が起きないことに着目し
東京に街灯をつける活動を始めることにします。
……と、その話はきっかけでして
川路は本当は、朝鮮使節の件で
話しておきたいことがあったようです。
いま朝鮮国に戦を仕掛けるとなると、
世界は朝鮮国を助け、日本を攻撃することになる。
それゆえに朝鮮使節は危ない、と。
しかし、隆盛の横には桐野が控えていて
容易にものを言える環境ではありません。
その帰り、川路は矢崎八郎太にバッタリ会うのですが
矢崎は、山城屋事件の芦名千草を匿っている以上
川路に正体がバレてしまっては困ります。
芦名千絵が機転を聞かせて矢崎を奥にやるのですが、
川路は、矢崎のことをしっかりと頭に残しておきます。
帰京後の利通にも
いろいろな者たちが対面を願ってきていますが、
その対面をほぼ全て断っています。
伊藤博文は、利通に
参議になってほしいと頭を下げてきましたが
それを断ったそうです。
西郷従道は、全ては自分が
兄(隆盛)を鹿児島から連れ出したことがきっかけだと
このような事態になってしまったことを後悔するのですが、
ここまで来てしまうと、さすがの利通も打つ手がなく
隆盛を朝鮮国に渡らせたくないという動きは
たちまち鈍化してしまいます。
「困ったなぁ……困った困った」
岩倉具視は、9月には帰国していましたが
問題を孕んだ朝鮮使節の話には頭を痛めていました。
隆盛のことは、同じ薩摩人の利通が
何とか説得してくれればいいのですが、
そううまくは事が運ばないわけで
岩倉は、自分が隆盛に会うことにします。
岩倉は、お忍びで西郷邸へ。
岩倉は、帰国の挨拶と視察の報告だと笑いますが、
隆盛は、一日でも早く朝鮮使節の決定が欲しいわけです。
ただ、帰国した面々はみな休暇を取っていることを理由に
その決定が出せないことを匂わすと──。
「そげなこつで、右大臣が務まりもすか!」
千草が匿われている長屋に赴いた川路。
矢崎が川路の存在に気づいて
「千草さん逃げろ!」と逃がそうとしますが、
川路の目的は千草ではなく矢崎本人です。
「桐野たちの様子を、ですか」
隆盛の側にいて離れない彼らをマークしたいのですが
同じ薩摩人として、川路は動きにくい位置にいます。
矢崎なら西郷邸にも出入りしているようですし
川路の代わりにマークしてもらって、
異変時は知らせてもらうようにすれば済みます。
矢崎は英語が出来るし、
したい仕事があれば斡旋してやるつもりでいる川路。
その上で、何としても、と懇願されます。
料亭で、三条実美と伊藤、大隈重信が呑んでいます。
岩倉使節団が帰国したことで、
留守政府の参議たちの任期はそれまでとし
一斉に対陣してもらう。
その上で互角に話し合いをし、利通に登場願う。
伊藤の案です。
しかしこれをごり押しすれば、
江藤は特に荒れるに違いありません。
……とそんなところへ、
酒を楽しく飲みましょ、と江藤が入ってきます。
無論、江藤の目論見は酒ではなく
三条に遣韓使節の閣議日程を決めてもらうよう迫るためです。
10月、14日とする……。
逃げようとする三条を追いつめると
力なく、そう答えます。
しかも、その場にいた遣韓使節反対の伊藤と大隈でさえ
その日付の証人になってしまいます。
岩倉は、事は急がねばと
利通に参議を引き受けてくれるように命じますが
利通は首を縦には振りません。
各方面からの思惑が渦巻く現政権に自分が復帰しても
何の力の足しにもならないと分かっているのです。
従道が再度、隆盛に朝鮮行きを思いとどまるように説得し
隆盛はガンコにもその説得をはねつけます。
もはや道はなし──。
だれもがそう思ったとき、利通がようやく思い腰を上げます。
「おいは決心した。参議を引き受けた」
同じ土俵に上がって戦っても
どちらが勝っても悲惨な結果になります。
だからこそ利通はずっと迷っていましたが、
何としても朝鮮行きを阻止しなければなりません。
理想の国作りに突き進むことこそが
高崎崩れで大久保家が窮地に陥ったときや
どう進んでいいか分からない時に助けてもらったときなど
今まで恩恵を受けて来た隆盛への恩返しになります。
結果的には、隆盛の希望を打ち砕くことになり
隆盛、江藤や板垣退助たちはこぞって辞職するでしょうが、
隆盛には、いつかは分かってくれるはずです。
利通から見て、岩倉や三条ら公家衆は
自分たちの利害関係でしか動かない節があるので、
利通は、絶対に寝返らないという念書を
両名に書かせます。
「わしが寝返るわけないやろー、なぁ三条サン」
岩倉は大笑いしますが、利通の恐い表情を見て
念書をしたためざるを得ません。
そして、留学中の二人の息子に、
利通は遺書とも思える手紙を書きます。
それを書き上げたとき、利通の顔は
決意の表情より安堵のそれでした。
原作:司馬 遼太郎「翔ぶが如く」より
脚本:小山内 美江子
音楽:一柳 慧
題字:司馬 遼太郎
語り:田中 裕子
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[出演]
西田 敏行 (西郷隆盛)
鹿賀 丈史 (大久保利通)
田中 裕子 (西郷いと)
賀来 千香子 (大久保満寿)
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緒形 直人 (西郷従道)
国生 さゆり (西郷 清)
杉本 哲太 (桐野利秋)
堤 真一 (矢崎八郎太)
有森 也実 (芦名千絵)
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小倉 久寛 (伊藤博文)
南條 玲子 (芦名千草)
角野 卓造 (三条実美)
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小林 稔侍 (岩倉具視)
隆 大介 (江藤新平)
竜 雷太 (川口雪篷)
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制作:吉村 文孝
演出:平山 武之
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