プレイバック翔ぶが如く・第二部明治編(45)西郷軍挙兵
明治9(1876)年10月、
熊本で神風連の暴動が起こります。
それに呼応し、福岡県の秋月や山口県の萩など
士族の怒りが各地で爆発します。
英国外交官のアーネスト・サトウは士族の暴動の原因を
「政府が士族の経済的特権を否定したこと」
「廃刀令などによって身分的特権を剥奪したこと」
「西郷隆盛が提案した朝鮮問題を政府が一蹴したこと」
「佐賀の乱に於いて江藤新平に対し苛酷な処分をしたこと」
と、外国人という客観的な立場から以上の理由をもって
士族の抑えきれない怒りを分析しています。
政府は緊迫した状況の中で国家建設を進めていきます。
軍隊を持ち鉄道や工場、病院などを建設、
さらには全国に小学校を作ろうとします。
しかしその性急な政策は
政治への不信感を募らせる結果になり、
薩摩士族反乱の導火線となっていくわけです。
明治10(1877)年2月・鹿児島──。
山から降りて来た西郷隆盛を
私学校の生徒たちは喜んでで迎えますが、
隆盛の表情はかなり険しいものでした。
「バカんようなこつをしでかしたもンじゃ!」
東京にいるはずの帝が京まで移動した、ということは
薩摩を討つために兵を進めたということ、と
篠原国幹や別府晋介は言いますが、
「そいがどげんした! バカすったれが!!」と
烈火の如く怒り狂う隆盛にそんな言い訳は届きません。
しかも帝が京に戻ったのは、天皇10周年の式典のためで
戦とは全く関係ない話なのです。
ともかく、大声で生徒たちを怒鳴りつける隆盛の姿に
私学校の生徒たちはみな、震え上がっています。
『カゴシマオダヤカナラズ
ダンヤクジユウキヲウバイトリシヨシ』
(鹿児島穏やかならず 弾薬銃器を奪い取りし由)
鹿児島から大久保利通に入った電信です。
隆盛の情報が入ってきていない、ということは
私学校生徒たちの独走によるもの、という見方ですが、
西郷小兵衛や村田新八がいて守っているとはいえ
二才たちに担ぎ出された時のことを考えると……。
西郷従道はとてもとても心配ですが、
利通としては、従道も大山 巌も陸軍の中枢にいる人物なので
そう軽々しく鹿児島に派遣するわけにもいきません。
川路利良は、ポリス隊の鹿児島派遣を利通に求めますが
私怨はならぬ、と利通は通達します。
川路は、密偵として送り込んだ鹿児島出身のポリス隊に
臨機応変、隆盛と刺し違える覚悟で臨め、と訓示したことを
利通に明かしますが、それを聞いて利通は激怒します。
「誰がおはんにそげなこつを命令したか!」
しかしこのころ、
川路が放った中原尚雄ら密偵は私学校の生徒に捕まり、
隆盛暗殺の指令ありとの自白書をとられたのです。
その自白書を読み上げる桐野利秋に隆盛は
もうよか、とやめさせます。
密偵が送り込まれたことは確実だとしても
それは警視庁の独断でやったことか?
それとも政府、大久保利通がやらせたことか?
ただ、そのどちらにしても
私学校生徒がやらかした火薬庫襲撃は死罪でありまして、
桐野や篠原らは、その生徒がみすみす捕まっていくのを
黙って見過ごすわけにはいかないのです。
火薬庫襲撃をした生徒が「切を斬りもす」と
次々と着物を脱ぎ出しますが、
日ごろは温厚な新八が、彼らをグーで殴り怒鳴ります。
「切腹はならんど! おはんら勝手に騒動を起こして
勝手に腹を切ればよかち考えは大間違いじゃっど!」
生徒たちは悔し涙を流します。
小兵衛は、兄の隆盛が
日本で唯一の陸軍大将であることを挙げ
たかが私学校生徒たちに陸軍大将が
歩調を合わせているのならばあまりに粗末だと言いますが、
桐野が掲げる大義名分はただ一つ、
西郷隆盛暗殺の理由を糺すために東京に向かう。
それを聞いた隆盛はボソッと言います。
「おいの身体はおはんたちにあげもんそ」
生徒たちは政府の調略に乗ってしまったために
犯罪者となってしまいました。
そんな彼らを、隆盛は見捨てることは出来なかったのです。
「私学校」の看板を『薩軍本営』と架け替えて
中では東京までの進軍についての軍議が始まっています。
長崎を襲撃して船を奪い東京へという案もありましたが、
ここはやはり、農民出身の鎮台兵が集まる熊本城を攻撃し
踏みつぶしてから東京へ堂々の進軍をした方が、
各地の士族たちがこぞって味方をしていく、という考えです。
隆盛は何か言いたげに桐野や篠原たちを見つめていましたが
それをグッとガマンして黙っています。
島津久光は、隆盛が政府を糺しに東京へ行くと知り
しばらく鬱々とした日日を送っていたものの
久しぶりに晴れやかな愉快な気分になっています。
それでも側近の大山綱良は、たとえ藩は無くなっても
島津家は永久に残さなければならないと、
後々やっかいなことになった時のために
久光は今回のことに関わらない方がいいとやんわり。
久光が言う、軍費は県の金で賄って
あとは綱良の裁量に任せる、との言葉すらも
綱良はわざと聞き流します。
「今のお一人ごと、大山には聞こえもはんじぇした」
「今朝、2つに折れもした」
大久保満寿が涙をこらえながら利通に見せたものは、
鹿児島を出発するとき、餞として西郷いとが贈った
薩摩の柘(つげ)の櫛であります。
つまり、不吉なことが起きる……と
満寿は心配しているのですが、
綱良からも心配ないという電信が届いているし
隆盛はやっぱり、担ぎ上げられていないようです。
そこに急ぎ足の従道が電報を持ってやってきます。
薩摩士族、西郷・桐野を将として──。
さすがの利通も絶句です。
薩摩は海上および陸路を封じて
兵糧を買い込み反乱する、とありますが
隆盛がその中心にいることは間違いありません。
「そげなこつはなか! 大山さあからは、吉之助さあは
無事に身を避けたち知らせがあったではなかか!」
綱良からの報告が実情を照らしたものではないということは
綱良も彼らの一味、ということが考えられます。
従道の心配は、もし綱良も一味だとすれば
隆盛も久光も、薩摩藩を挙げての
反乱ということになりはしないか、ということです。
一番に恐れていたことが、
現実のものとなってしまいました。
京都御所に向かった利通は、
木戸孝允、伊藤博文、山県有朋に
自分が鹿児島に行って隆盛を説得する、と主張しますが
利通が鹿児島に行ったところで何も出来ることはないし
鹿児島に一歩立ち入ったところで殺されてしまうに違いなく
隆盛には会うことは出来ない、と冷ややかな見方です。
ただ利通は、たとえ自分が殺されたとしても
殺されたことが隆盛に伝わればそれで充分という考えです。
隆盛であれば、利通が何のために
殺されに鹿児島に来たかは分かるはずだ、というのです。
説得に赴き、暴徒の中心から隆盛を脱出させる。
それができなくとも、隆盛を自決させる。
それが利通の役目です。
ただ、そこに
そんな利通の甘い考えを打ち砕く電信が舞い込んで来ました。
薩軍はまさに県境を越えて熊本に突入せんとしている、と。
これはすなわち、政府と戦闘状態に入ったと見るべきです。
万事休す、全ては手遅れ──。
みな、失望感を漂わせています。
菊次郎が妹の菊子に、
もしもの時は島の母(=愛加那)に渡してほしい、と
半紙に包んだ自分の髪を渡している会話を聞き、
菊次郎が戦の支度を始めていることを初めて知ります。
かつて隆盛は、菊次郎に
新しい日本人になれと教えたはずですが、
その新しい日本人は焦土の中から生まれるとも教わったそうで、
だから父とともに戦に参加をするというわけです。
決して死に急がず、
命を粗末にしないことをいとに約束する菊次郎ですが、
いとの胸中は、どうしてこうなった?? とのことばかりです。
天が自分に死ねと言う時は、不平不満の者を全部抱いて死ぬ。
そうすればこの国に二度と戦は起きないであろう。
負ければ賊軍、そしていとは賊将の妻になる。
隆盛の言葉に涙するいとは、胸に抱かれて本音をこぼします。
「もし勝っても、私は猟師の妻になりとうございもす」
2月17日、50年ぶりの大雪の中
隆盛たちは出陣していきます。
原作:司馬 遼太郎「翔ぶが如く」より
脚本:小山内 美江子
音楽:一柳 慧
題字:司馬 遼太郎
語り:田中 裕子
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[出演]
西田 敏行 (西郷隆盛)
鹿賀 丈史 (大久保利通)
田中 裕子 (西郷いと)
賀来 千香子 (大久保満寿)
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緒形 直人 (西郷従道)
杉本 哲太 (桐野利秋)
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蟹江 敬三 (大山綱良)
益岡 徹 (村田新八)
小倉 久寛 (伊藤博文)
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竜 雷太 (川口雪篷)
田中 健 (木戸孝允)
高橋 英樹 (島津久光)
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制作:吉村 文孝
演出:平山 武之
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