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2016年1月 5日 (火)

プレイバック春の波涛・総集編前編

大河ドラマ「花燃ゆ」の視聴録を一年間に渡ってお届けして来ましたが、
その後を描いたドラマが何かないかなぁ……と考えておりましたら
それがありました! あったんです!

「花燃ゆ」では、再婚した楫取素彦・美和夫妻が
鹿鳴館でダンスをするシーンが最終回にありましたが、
ちょうど同じころ(=鹿鳴館が完成したころ)、同じ鹿鳴館で
ダンスシーンから始まったのが、昭和60年放送の「春の波涛」です。

何だか上手く出来過ぎている話ですけど、
「花燃ゆ」のラストが鹿鳴館だなんて知らなかったし
「春の波涛」のスタートが鹿鳴館だなんて知らなかったので、
本当なんだから仕方ないw

この興奮ぶりを見れば、狙ってというわけではないことは
お分かりいただけるかとw

ということで、現時点で「春の波涛」は
全話完全版がレンタルも販売もオンラインでもされておらず、
総集編でしか視聴することが出来ないのですが、
それを視聴して2回シリーズで視聴録をお届けします!

明治──日本の歴史が近代化へ最も躍動していた時代である。

この物語は、芸者から日本の女優第一号になり
世界にその名を馳せたマダム貞奴、
オッペケペー節で一躍その名を轟かせ
新演劇の発展に生涯を懸けた川上音二郎、

福沢諭吉の養子となり
後に電力王として実業界に君臨した福沢桃介、
そして桃介の妻であり
諭吉の寵愛を一心に浴びて育った房子、

この4人が織りなす愛と悲しみのドラマである。


原作:杉本 苑子「冥府回廊」「マダム貞奴」より

脚本:中島 丈博

音楽:佐藤 勝

演奏:東京アート・ビューロー
テーマ音楽演奏:NHK交響楽団
テーマ音楽指揮:尾高 忠明

時代考証:尾崎 秀樹
風俗考証:中田 幸平
衣裳考証:小泉 清子
舞台指導:松本 克平
    :乾 譲
振付:藤間 康詞
タイトル文字:望月 美佐
語り手:柳内 恒夫 アナウンサー

──────────

[出演]

松坂 慶子 (貞)


中村 雅俊 (川上音二郎)


風間 杜夫 (福澤桃介)


檀 ふみ (福澤房子)


小川 知子 (琴次)
柴 俊夫 (三浦又吉)
春川 ますみ (シノ)
小林 薫 (野島覚造)

村上 弘明 (湯浅麟介)
尾藤 イサオ (丸山蔵人)
岸辺 シロー (青柳捨三郎)
かたせ 梨乃 (野島せい子)
ケーシー 高峰 (桜木範幸)

藤岡 弘 (奥平剛史)
松 あきら (伊藤梅子)
東 てる美 (仇吉)
五大 路子 (福澤里子)
和 由布子 (野島イト)
岡本 富士太 (福澤一太郎)
蟹江 敬三 (幸徳伝次郎)

塚本 信夫 (酒井良明)  渡辺 寛二 (田代重成)
近藤 洋介 (中江兆民)  児玉 泰次 (大井憲太郎)
不破 万作 (福井茂兵衛)  四谷 シモン (橘 粂蔵)
十貫寺 梅軒 (金泉丑太郎)  荒 勢 (五郎平)
風間 舞子 (福助)  もたい まさこ (小千代)
黒田 福美 (鶴松)  山本 郁子 (花次)
宗近 晴見 (徳助)  熊谷 俊哉 (川上磯次郎)

入川 保則 (高瀬牧人)  塩沢 とき (井上夫人)
久富 惟晴 (尾上菊五郎)  英 太郎 (市川団升)
石田 弦太郎 (福井喜兵衛)  近石 真介 (増谷桑一)
辻 萬長 (青木年雄)  二見 忠男 (中村座座元)
藤堂 貴也 (清岡邦之助)  田山 涼成 (福澤捨次郎)
林 昭夫 (市川権十郎)  津村 隆 (関根黙庵)
粟津 號 (石田)  姫 ゆり子 (幾松の女将)
栗田 陽子 (井上春子)  岡本 真実 (ノブ)

柳田 豊 (市川団次郎)  明石 良 (閣僚)
青砥 洋 (閣僚)  森井 睦 (閣僚)
今西 正男 (銀水閣の客)  関 篤 (黒鉄)
佐古 雅誉 (御者)  中島 元 (座元)
岡本 隆史 (御者)  三上 剛仙 (銀水閣の客)
村上 記代 (甘酒屋の女)  八束 愛 (野島イト)
宮田 光 (座員)  窪田 吾朗 (警官)
鈴木 敏彦 (警官)  椎名 茂 (呼び込み)
大森 一 (観客)  佐藤 百起 (座員)
長沢 武司 (社会主義者)  佐藤 祐治 (応募者)
山田 博行 (座元)  平野 元 (座元)
小林 荘 (黒崎)  中野 慎 (雷吉)
伊庭 隆 (木戸番)  城 玄太 (車夫)
小山 昌幸 (馬車屋)  夷 正信 (馬車屋)
新富 重夫 (座員)  関 保之 (客)
香川 耕二 (座員)  本田 清澄 (座員)
平井 隆博 (座員)  水上 誠一 (座員)
西野 安秋 (団十郎一門)  小川 英男 (観客)
小野 正隆 (観客)  秋田 ひで子 (観客)
金子 一郎 (菊五郎一門)  鈴木 芳樹 (菊五郎一門)
今井 耐介 (座員)  茂木 和範 (座員)
有賀 ひろみ (金子夫人)  平川 ひとし (号外売り)
滝 雅人 (社員)  照井 克也 (市川団七)
諸田 勝幸 (菊五郎一門)  林 卓三 (記者)
高野 則彦 (車夫)  佐川 二郎 (車夫)
植村 拓也 (座員)  松見 有吾 (座員)
曽雌 達人 (座員)  黒沢 義之 (座員)
青嶋 卓弘 (座員)  岡本 弘志 (ボーイ)
桂川 冬子 (ツル)  佐々森 勇二 (係員)
上 広海 (座員)  橋爪 幸志郎 (座員・兵隊)
大塩 雅巳 (座員)  船形 しんじ (座員)

南風 洋子 (福澤 錦)
大山 克己 (市川団十郎)
山口 崇 (金子堅太郎)
江波 杏子 (雲井八重子)

森川 正太 (松橋英三郎)  谷川 みゆき (山崎一枝)
渥美 国泰 (高安医師)  清水 善三 (雷吉)
松橋 登 (土肥庸元)  西岡 徳馬 (東儀季治)
田武 謙三 (松長)  小沢 重雄 (川上家代表)
五月 晴子 (ヨシ)  児玉 謙次 (栗野公使)

加藤 正之 (川上家の人々)  坂本 由英 (川上家の人々)
武見 潤 (研究生)  佐藤 コージ (研究生)
山崎 猛 (記者)  加藤 治 (川上家の人々)
浜田 義一 (雷吉)  稲葉 年治 (稲垣)
山根 久幸 (記者)  高橋 豊 (社員)
山口 純平 (車夫)  阿部 光子 (トラ)
手嶋 雅彦 (書生)  麻布 弘海 (僧侶)
大塚 洋 (記者)  番 哲也 (出方)
秋間 登 (土肥庸元・今井安之助)  後藤 正人 (床山)
安藤 亮子 (研究生)  平田 まり (八十次)
本多 朋恵 (看護婦)  木原 久美子 (看護婦)
桑名 良輔 (医者)  中野 耿一郎 (医者)
益田 哲夫 (記者)  和知 浩 (社員)
山崎 満 (木原評定官)  阿部 洋美 (看護婦)
菅原 薫 (看護婦)  稲垣 悟 (記者)
溝呂木 但 (片岡健吉)  吉村 拓郎 (研究生)
安達 義也 (研究生)  渡辺 司 (研究生)
三井 善忠 (座員)  中村 修 (客)
梅津 直美 (客)  島 英司 (議員)
福田 信昭 (「芸術座」座員)  菅 由紀子 (女給)
松浪 志保 (お米)  峰岸 ルミ子 (おけい)
入江 英義 (桂 太郎)
アンヌ・フロベニウス (ロイ・フーラー)
ケン・マクドナルド (スチーブンソン)
マーク・ルーズベルト (ホットン)
リサ・クランティン (ラナ・ホットン)
ジェーン・カタルド (メイド)
デニス・フォールト (フロント)
スチーブン・ボッカー
ケン・マクリアリー (葬儀会社社員)

若 駒  トラック・ワン
鳳プロ  早川プロ
国際プロ  劇団いろは
劇団ひまわり  松浦企画
ロンロン企画  劇団青芸
石原ダンス・クラブ

方言指導:大原 穣子  池田 武志
    :渡部 猛
擬斗:新 実
茶道指導:西原 暉子
英語指導:松浦 邦子
仏語指導:渡邊 佳子
ダンス指導:石原 市三
ヘラヘラ踊り指導:尾石 季世子
踊り指導:藤間 伊佐舞
三味線指導:杵屋 勝国
邦楽演奏:杵屋 勝一佳  杵屋 勝佳恵
    :杵屋 勝静香  杵屋 久美子
    :福原 徹彦  鳳声 美智子
    :望月 博美  望月 すみ子
    :望月 直子

 ─────

資料提供:戸板 康二  倉田 喜弘
    :川上 富司  福沢 直美
    :御荘 金吾
    :牧村史陽コレクション
    :早稲田大学 演劇博物館
    :慶応義塾 福沢研究センター


名取 裕子 (松井須磨子)

山本 學 (島村抱月)


淡島 千景 (亀吉)

伊丹 十三 (伊藤博文)

小林 桂樹 (福澤諭吉)

──────────

制作:松尾 武

美術:鯛 正之輔  足立 正美
  :宮井 市太郎  太田 礼二
技術:佐藤 孝  大沼 伸吉
  :石川 素宏  堀井 貞治
効果:村田 幸治  浜口 淳二
  :久保 光男
照明:五十嵐 義行  布野 俊明
カメラ:後藤 忠  三浦 国男
音声:平野 公一  近藤 直光
  :小林 健一
記録・編集:高室 晃三郎  東浦 弥生

演出:清水 満  田中 賢二
  :竹本 稔  松本 守正
  :一柳 邦久  末松 緑朗


明治16(1883)年。

西南戦争で西郷隆盛が討ち死にして6年、
大久保利通が紀尾井坂で暗殺されてから
5年の歳月が流れていました。

“文明開化の華”と謳われた鹿鳴館が完成し
連日連夜、豪華な舞踏会が催されます。

貞は、自分をひいきにしてくれている伊藤博文に頼み込んで
鹿鳴館の舞踏会に参加することができたわけですが、
頭の中は、恋仲の岩崎桃介のことでいっぱいで
伊藤とダンスしても顔色はあまり晴れません。

しばらく休憩する、と言って出て行った伊藤の元を離れ
貞は伊藤の妻・伊藤梅子の元に残りますが、
貞が何を話しかけても、梅子は貞をチラリと見るだけで
完全にシカトしています。

ただ、そこで貞は恋仲の桃介が福澤家に養子に入り
福澤姓を名乗らせるらしい、という話を小耳に挟みます。

桃介は、諭吉の養子となって愛娘・房子と政略結婚します。
それは、諭吉の愛娘・房子に、
いずれは留学させたいと積み立てていた旅費諸経費一切を
桃介のアメリカ留学に流用することにしたからだそうです。

「ありがとう! 誓います! 房子さんを必ず幸せに!」
桃介は房子の手を力強く握り、そう約束します。


そうさ! フラレたのさ! と杯をあおる貞の脳裏に
1年前の桃介との出逢いのシーンが甦ります。

貞が乗っていた馬が言うことを聞かなくなり
暴走するのを桃介が手を広げて止めてくれたわけです。

これで恋に落ちたふたり。
慶応義塾の学生だった桃介の運動会にも応援に行ったし
何度か逢瀬を重ねて、貞は今まで知らなかった世界を
直接体験することが出来ました。

いつか大金を手にしたら、
貞を芸妓から自由の身にさせたいと言っていた桃介。
そんな桃介が自分を裏切って別の女の人を妻に迎えるなんて
にわかには信じられない貞です。

ただ、別れ話をしにきた桃介が
10年経ったらまた会おう、と切り出すと
貞は大粒の涙をポロポロ流しながら
どこにでも行けばいいさ! と部屋を出て行ってしまいます。

「10年だって!? その頃はあンたよりももっといい男作って、
 その人と幸せになっているわよ!」
雪の降る中を、貞は裸足で駆けていきます。

たまたま通りかかった馬車の前に飛び出して
自分を轢くまで動かない、と座り込む貞。

その馬車に客として乗り合わせていた川上音二郎は
なだめすかされても頑として動かない貞を
面白そうに見つめています。

貞を預かる浜田屋亀吉の元に連れ戻した音二郎。
大坂で講談師をしているという音二郎のことは
傷心の貞のハートにその名が強く刻まれます。


明治20(1887)年2月、桃介はアメリカ留学へ旅立ちます。

ちなみにアメリカへは、すでに
諭吉の長男・一太郎や次男・捨次郎が留学していました。

港で桃介を見送る房子は、桃介に
自分に対する愛情がないことをすでに薄々気づいていました。
「桃介さんはきっと、私のことお好きじゃないんでしょうね」

そしてその日は、貞が半玉(=芸者見習い)から
芸者のお披露目をする日でもありました。
それを知っていたか、桃介は船上で
貞からもらった手紙を海に向かって手放します。


じき、貞の存在は
桃介が愛し深い関係にまでなった女性として
諭吉の知るところとなり、それを話している時に
房子も聞いてしまったわけです。

房子の表情は、ショックな哀しい顔から
怒りに満ちた表情へ変わっていきます。

房子は、嫉妬心から貞の顔を見たいと思い
兄の一太郎に頼み込んで座敷に呼んでもらいます。

房子と貞、表面上ではお互いに冷静に会話していますが
水面下では火花がパチパチ飛んでいるのが分かります。
隣でおちょこを傾ける兄貴は、
二人の火花は大して気にしていないようですけどw

房子は思い切って、もうすぐ桃介が帰って来るから
何かお伝えしましょうか、と冷たい表情で言えば、
福澤家の鬼退治をするために養子になった人のことは
知りません! と貞はキッと房子を睨みつけます。
「せいぜいあなたも退治されないようにお気をつけあそばせ!」


音二郎は久々に貞のいる浜田屋に顔を出しますが、
あいにくお座敷に出かけていったそうです。

貞を連れ戻したときは貞は半玉でしたが、
今では一本(=独り立ち)していると亀吉に聞き
つい懐かしくなって、浜田屋に上がろうとしたその時、
ポリスに捕まり、東京からの退去を命じられてしまいます。

その年の12月に施行された保安条例により
音二郎は、せっかく出てきた東京から追放されるわけです。

何が何だか分からない亀吉。
「このようなヤツに近づかない方がいいですよ!
 何でも自由民権運動の危険人物なんですからね!」


明治22(1889)年2月11日、大日本帝国憲法が発布されます。
この日、庶民は公布に沸き立ち、旗を掲げて盛り上がりますが
多くの庶民は、憲法というものがいかなるものかを知りません。

音二郎は、政治問題を講談に仕立て
厳しい検閲をかわしながら高座で演じていましたが、
次第に飽き足らなくなってきました。

中江兆民の勧めで、
音二郎は新聞紙上で劇団員を募集し、
多くの役者を揃えて演劇につなげたいと意欲を燃やします。

いろいろ高座を見学していくうちに、
ヘラヘラ節にヒントを得た音二郎。
それがやがて「オッペケペー節」へとつながっていくのです。

♪オッペケペー、オッペケペッポー、ペッポーポー

 固い上下(かみしも)角取れて、マンテルズボンに人力車、
 意気な束髪ボンネット、貴女に紳士のいでたちで、
 うわべの飾りは好いけれど、政治の思想が欠乏だ、
 天地の真理が分からない、心に自由の種を蒔け

 オッペケペー、オッペケペッポー、ペッポーポー♪

上方で人気のオッペケぺー節が東京にまで流れてきて
亀吉は、その作者に音二郎の名を見つけます。

その音二郎たちが東京まで遠征に来るというので、
貞はその舞台を見に行き、時間を忘れて大笑い。
そして舞台の後、貞と音二郎は久々の再会を果たします。


明治23(1890)年3月、桃介は
留学生活を終えてアメリカから帰国します。

結婚前だというのに、諭吉の粋な計らい?で
桃介と房子は同棲させてもらえているのですが、
房子の脳裏から、桃介が愛した貞の姿が消えません。
「愛をください……あなたの心をください」


明治24(1891)年2月5日、川上一座はいよいよ旗揚げし
堺の卯の日座で上演することになりました。
その演劇は、歌舞伎にはないなかなかの写実主義で
観客たちの度肝を抜きます。

待っていれば東京公演も行われることになりましょうが、
音二郎の姿を待ちきれない貞は、
三浦又吉とともに小田原にまで足を運び公演を楽しみます。

しかし、そこに何らかの行き違いが有り、
自由民権運動の活動家たちとひと悶着が起こります。
貞は一心に舞台に駆け上がり、音二郎の手を引いて脱出します。


その年の6月、川上一座は念願の東京進出を果たします。
東京公演には、歌舞伎の重鎮・市川團十郎が総見。
ついで尾上菊五郎も総見し、たちまち東京中の評判になります。

貞は音二郎の楽屋に通いづめ、音二郎との結婚を決意し
伊藤の屋敷に挨拶に出向きます。

伊藤に、何のために芝居をしているのかと聞かれ
政治を風刺するため、と答えにくそうに言いますが、
自由民権運動は昔の題材だし、
政治風刺を第一義とすることもあるまいと伊藤は笑います。

伊藤は演劇に対してとても寛容に見えます。
観客は、主人公とともに数奇な運命を楽しみ、悲しむ。
「川上、お主パリへ行け」

伊藤の思い切った提案に、音二郎は悩みます。
今の自分のモヤモヤは、パリへ行けばスッキリするかもしれません。
背中を押したのは、結婚を決意した貞でした。

「行くぞ貞さん、オレはパリへ行くぞ!」
うんうん、と嬉しそうに頷く貞は、笑って音二郎を送り出します。

半年後に帰国した音二郎は、その経験をさっそく演劇に行かし
『意外』『また意外』などで民衆に披露します。
そして翌年、貞と祝言を挙げます。


明治27(1894)年8月1日、日本は清国に宣戦布告し
日清戦争の火蓋が切って落とされます。

桃介は、この戦争のために多忙を極め
寝食を忘れて仕事に没頭していましたが、
ついに血を吐き倒れてしまいます。

北里養生園にて闘病生活を余儀なくされ
房子は甲斐甲斐しく看病します。

桃介の入院中、房子は諭吉から
桃介が株に手を出していることを教えられます。
株で当たれば一夜にして億万長者にもなれるし
外せば一夜にして無一文にもなりかねません。

ゆえに、悪い噂が立てば桃介は実業界で生きてはいけないから
やめさせなさい、と諭吉は忠告するのですが、
聞き入れるわけない、と思っていた桃介は
「はい、やめましょ」とあっさりと聞き入れます。

房子は、多分桃介は損を出したのだ、
でなければ自分の言葉で止めるはずないと考えますが、
桃介の預金通帳を見ると、そこには104,290円の残高が──。
「みんな株で儲けたんだ。ボクたちは大金持ちになったんだよ」


歌舞伎座にも立った音二郎の次なる目標は
自前の演劇場を建設することであります。

ただ、口で言うほど簡単なことではありません。
資金繰りは思うようにいかず、頭の痛い日々。
資金調達に行く、と言って出てきた貞ですが、
相手に頭を下げることを考えると、急に気持ちが重くなります。

貞は、療養中の桃介を見舞います。

なぜ資金が必要かを聞かれ、桃介に説明すると
株で儲けて資金に充てたらいい、と教えられます。
目の前が急に明るくなったような感じです。


明治29(1896)年6月、貞の内助の功もあって
音二郎率いる川上座は完成します。
洋風3階建ての建物は、当時としては画期的なものでした。

しかし、そんなときに川上座を揺るがす事件が。
音二郎には隠し子がいたのです。
彼が自由民権運動の講談をしている時に
雲井八重子が音二郎の子を身ごもって……。

「よくも私を今まで騙し続けてくれたわね!」
貞は珍しく発狂し、剃刀を手に暴れまくります。
なだめに来た音二郎と又吉ですが、静まる気配はありません。
ふと剃刀に目をやった貞は、自分の髷を切ってしまいます。

音二郎は貞に土下座して謝り、
ふたりの婚儀の媒酌人も務めた金子堅太郎も
自分が証人だから、とまで言ってくれますが、
貞は悔しくて、音二郎を許す気持ちにはなれません。


6月14日、2,000人の招待客を招いて
川上座開場式は大々的に執り行われます。

舞台の上で、川上一門の居並ぶ前で
音二郎は挨拶の口上を述べます。
そこには貞の姿もありますが、

音二郎が手をつき頭を下げ、
貞や一門の者たちも音二郎に倣って頭を下げると
貞が被っていたカツラがポロッと取れてしまいます。
この時、貞は不吉な予感がよぎります。

川上座は客の入りにも恵まれず、
半年後には債権者の手によって
建物は差し押さえられてしまいます。

ほとほと愛想の尽きた貞は、
最後の望みを箱根で療養中の桃介に賭けます。

桃介は、単刀直入に、早くと貞を急かしますが、
貞が口をつぐんでいいあぐねている間に
房子たちがその療養先に帰って来てしまいます。
会話していた房子たちから、いっぺんに笑顔が消えます。

姉の里子は、せっかく遠方から来たのだからと
皮肉たっぷりにもてなします。
「どうぞゆっくりなさって。ねえ房さん。
 川上座が立ち行かなくなった顛末など聞かせていただきたいわ」


失意で帰って来てみると、音二郎は
今度は選挙に立候補するという。

選挙に当選したら、役者の地位向上を図りたいというのですが、
当時の選挙制度では、投票できるのが
直接納税15円以上の男子であったため、
音二郎の訴える層とはかけ離れていて、あえなく落選。

落選してからの音二郎は、人が変わったようになり
突然いなくなっては夜中に帰って来るという毎日になります。
音二郎がどこかへ向かうのをこっそりついて行った貞。
そこには、漁師から譲り受けたという小舟がありました。

『日本丸』──。
この船で、運を天に任せて
借金取りのいないところへ漕ぎ出したい、というのです。

初めこそ、穏やかな海をわたっていて
貞ものんびりとした船旅?を楽しんでいたのですが、
風が次第に強くなり、海はしけてきて
荒れ狂う海の中に投げ出されたかの如く、揺れまくります。

でも九死に一生を得て、神戸にたどり着いたふたり。
そこで音二郎は船旅の傷を癒していたわけですが、
日系人がアメリカで興行してみないかと
ふたりに持ちかけます。

もちろん、この話に飛びつくのは言うまでもありません。
明治32(1899)年2月、
音二郎と貞は、総勢19名の川上一座を組んで
アメリカへ旅立つことになりました。


日本を発って21日目、ようやくサンフランシスコに到着。

しかし、初めての異郷の地で貞が目にしたものは、
今回の川上一座の興行で、あたかも貞が
主演女優であるかのように描かれた街中のポスターでした。

"A Japanese Geisha and Knight"
かの日系人と交わした契約は、
こういう内容になっていたようなのです。
「謀られたわね。まんまと騙されちゃった」

それでも貞は、腹をくくって舞台に出ずっぱり。
観客は大喜びで最後にはスタンディング・オベーションです。
鳴り止まない拍手に動揺しながら、
貞は観客からの拍手喝采に酔いしれます。

しかし、音二郎の視線の先には
サンフランシスコの夜景なんてものはなく、
遠くヨーロッパのパリに向いていました。
万国博覧会がパリで開かれることになっていたのです。
「最終目的地は、やっぱりパリだ」


音二郎は、思いがけない災難に見舞われます。
日系人興行師が、一座の利益を持ち逃げしたわけです。
一座はたちまち、路頭に迷う羽目に陥ります。

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