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2016年2月 2日 (火)

プレイバック武田信玄・(07)風林火山

アポロ11号打ち上げ──。

1969(昭和44)年7月、歴史上初めて
人類を乗せてアポロ11号が月に着陸した。
その時、宇宙飛行士たちが月に残したものは
自らの足跡と1本の星条旗だった。

人は旗にそれぞれの思いを託す。
それぞれの思いが違うように、
旗もまた、その意味するところを変える。

戦意の鼓舞。
情報の伝達。
団結、そして主張。

人は、1本の旗の下に集まり、
争い、時として涙する。

そして今、甲斐という関東の小国に
恐らく、世界で最も正確なメッセージを持って
1本の旗が生まれようとしている。


天文11(1542)年・秋。

高遠頼継が諏訪国境の峠を越えて上原城を奪い、
下諏訪に火をかけたという知らせが
躑躅ヶ崎の館に舞い込みます。

諏訪家と高遠家は親戚同士で、今回の騒動は
言ってみれば分家が本家を襲ったことになります。

あくまでも武田は諏訪本家を助けるという名目で
頼重の子・寅王を旗印に駆けつければ、
諏訪の者たちは寅王を見て、涙を流して
諏訪家再興を喜ぶに違いありません。


三条の方の居室では
信虎に贈られた日本地図の屏風の、諏訪桑原城のところに
太郎が武田菱の旗を差します。

三条と、侍女の八重は
幼いうちから太郎に京へ上ることへの使命感を持たせようと
その情報を刷り込んで教育します。


武田晴信は、出家して尼寺に入った母
大井夫人の元を訪ねます。

異母妹で、討ち滅ぼした諏訪頼重の妻でもある禰々と
その子・寅王を寺に預けていたからです。
大井夫人にとっては禰々は武田信虎と側室の子なので
実子ではありませんが、他人事には思えない部分があったようです。

無邪気に遊ぶ寅王を、禰々はただ黙って見つめています。

話を聞いた大井夫人は、寅王を擁立して
諏訪に連れて行くという晴信に大反対。
寅王という幼い子どもの力を借りずに
武田の力だけで高遠勢を追い払いなさいと諭します。

しかし、親子の会話を聞いたのか
禰々は晴信の前に現れ、諏訪に戻りたいと言い出します。
もし武田に人質としておかれるのであれば、自分の命は捨てても
何の責任もない寅王の命だけは助けてほしい、と嘆願。

晴信としては、諏訪に嫁ぐ前日まで
行きたくないと泣いていた禰々を助け出したいがために
諏訪頼重を攻め滅ぼしたわけで、
妹の命を奪おうと思うわけがないのです。

大井夫人の考えはともかくとして、本人が望むのなら
禰々と寅王を諏訪に戻すことにします。


諏訪に向かうにあたり、晴信は
武田の軍勢を示す旗印を求めます。

兵法書・孫子からとるのはどうか? と晴信が出した文章は、
「疾如風、徐如林、侵掠如火、不動如山」
(疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、
侵掠すること火の如く、動かざること山の如し)

もっと見やすく、1文字でいいという甘利虎泰や飯富虎昌と
見たことないからいいんじゃないかという原 虎胤や馬場信春の
長い長い分裂があったものの、とりあえず旗を作ってみました。

その旗を掲げて諏訪に再び攻め入った晴信は
またたく間に高遠勢を押しのけ、勝利を収めます。

晴信は寅王に諏訪家家督を継がせ
寅王が成人するまでの間、晴信が後見人となり
城代として板垣信方が上原城に詰めることになりました。

そうして諏訪家家臣たちを喜ばせておいて
晴信はドーンと宣言します。
「湖衣姫殿を我が側室に迎える!」


山本勘助が戻ってきました。

板垣はじめ、武田家家臣団は
勘助がどこで何をしていたか全く知りません。
それもそのはず、勘助は晴信から直に命令を聞き
誰に諮ることなく動いているからです。

勘助は湖衣姫探しに諏訪中を歩き回っていたわけです。
それで、湖衣姫は諏訪の山奥に
ひっそりと隠れて過ごしているとのことです。

それを知り、湖衣姫を迎えに行こうとする晴信を
必死に引き止める板垣。
どかねば斬る、と刀に手をかける晴信。

両者にらみ合いが続き……。
勘助は、湖衣姫を迎えるのはめでたいこと、と主張します。

甲斐にとって諏訪は北の出口にあたり重要であります。

甲斐と諏訪の結びつきは、寅王だけではとても弱く
湖衣姫と結ばれれば絆は一段と強くなり、
もし男子が生まれれば、絆は万全になって
甲斐と諏訪は責め合うようなことはなくなります。

とはいえ、そのような背景は充分に理解している家臣たち。
彼らが心配しているのは、湖衣姫の心の内です。
武田に恨みを抱いているに相違ない湖衣姫を迎えることは
枕元に敵の大軍を引き連れてくるのと同じことです。

勘助は、女ひとりに脅えては国を治められまいと一蹴。
それよりも、もし湖衣姫が他国と結ばれれば
諏訪は二度と手に入らず、
甲斐は北への出口を失ってしまうと押し切ります。


勘助の案内で、湖衣姫が隠れる庵までやってきた晴信。

源助と平三は、見張り台に立つ兵、
門近くを監視する兵を次々に弓やつぶてで倒し
晴信は一気に乱入します。

湖衣姫は庵の裏から逃げて行き
晴信はその後を追いかけていきますが──。

急いで追いかけてきた晴信が、
顔色を変えて急に立ち止まります。
「湖衣姫!」


天文11(1542)年9月25日、
諏訪頼重の子・寅王を擁立した武田晴信は
諏訪宮川橋の戦いで高遠頼継軍を撃退する。

慶長20(1615)年5月7日、
大坂夏の陣にて真田信繁が討ち死にするまで


あと72年7ヶ月──。


脚本:田向 正健
原作:新田 次郎「武田信玄」
音楽:山本 直純
タイトル題字:渡辺 裕英
語り(大井夫人):若尾 文子
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[出演]
中井 貴一 (武田晴信)
紺野 美沙子 (三条の方)
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村上 弘明 (源助)
宍戸 錠 (原 虎胤)
児玉 清 (飯富虎昌)
美木 良介 (馬場信春)
小林 克也 (原 昌俊)
本郷 功次郎 (甘利虎泰)
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内藤 武敏 (岐秀和尚)
結城 美栄子 (たき)
財津 一郎 (太原崇孚)
──────────
平 幹二朗 (武田信虎)
菅原 文太 (板垣信方)
小川 真由美 (八重)
西田 敏行 (山本勘助)
──────────
制作:村上 慧
演出:重光 亨彦

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