プレイバック武田信玄・(28)川中島血戦(二)
「啄木鳥の戦法」──。
武田信玄、生涯の大戦・川中島の決戦。
その最大のポイントは、
霧の発生を計算に入れた啄木鳥戦法であった。
武田領内奥深く、妻女山に陣を張った上杉軍の動きは、
武田勢との全面対決をも辞さない緊迫したものであった。
20日間にわたる膠着状態が続いた。
これに対し信玄は、軍勢を2つに分け
妻女山の上杉本陣を背後から攻め
八幡原で挟み撃ちにする作戦に出た。
あたかも啄木鳥が虫を追い出すかの如く。
しかし、天才・上杉政虎は、
この啄木鳥戦法をすでに見破っていたのである。
陣形は戦の勝敗を左右する。
上杉政虎は、霧の中 敵を偵察し、
かつ攻撃するに有利な車懸の陣を敷いた。
一方、信玄も見えない敵に対し
攻めにも守りにも適した鶴翼の陣をとった。
ちょうど鶴が羽を広げたように。
啄木鳥戦法が破られたことを未だに知らない信玄。
濃い霧の中、川中島決戦の火ぶたは
今切って落とされようとしている。
永禄4(1561)年9月10日・未明、
武田信玄は、海津城を出て八幡原に本陣を移します。
一方、上杉政虎は妻女山に本陣を張っていまして、
飯富虎昌、高坂弾正、馬場信春、真田幸隆ら「別働隊」は
啄木鳥のように適を追い出し、八幡原に誘いだすべく
妻女山の背後に回り、裏山の尾根を登っていました。
ただ、別働隊の面々は、現在起こっている戦いについては
誰一人として知っている者はおりません。
“現在起こっている戦い”とは、妻女山の様子を探っていた山本勘助が
妻女山の上杉軍に動きあり、ということを別働隊に知らせようとして
妻女山本陣(跡)を突破していたものでありまして、
敵と斬り合い、重傷を負った勘助は
「おら行かね」と言う配下の平三を説得し
全力で別働隊に知らせに行かせます。
勘助は、平三の囮(おとり)になるべく
追って来た敵兵に立ちはだかり、
最後の力を振り絞って戦い抜きます。
「きぬ……勘市……」
勘助はついに力尽きます。
高坂弾正は、平三が来たと聞いてすぐに連れて来させます。
「敵はこっちの動きを知ってるだ!
あのかがり火はこっちをごまかすために焚かれてるだ!」
えっ……!? と驚いている間もなく、
妻女山本陣を探らせた兵士が、
もぬけの殻であることを知らせにきます。
お館さまが危ない……!!
別働隊は一気に山を降り、八幡原へ急行。
そして役目を果たした平三は、勘助を助け出そうと
来た道を戻っていきます。
武田の裏をかき、妻女山を降りた上杉政虎。
別働隊が到着する前に武田本隊と正面から激突すれば
数の上ではこちらが有利です。
政虎は、柿崎・斎藤・長尾・村上の4隊を先手に
次々に繰り出して一気に武田本陣を突き崩す
「車懸の陣」を命じます。
そのころ、平五がようやく武田本隊に到着し、
上杉軍が妻女山を下り、
千曲川を渡って来ていることを伝えます。
信玄は各隊に「鶴翼の陣」備えを崩すことなく、
守りを固めさせ、敵の攻撃をしのげと命じます。
攻め時は、妻女山に登った別働隊が到着し
敵を挟み撃ちにしたその時です。
前備えは原 虎胤・武田信繁、右備えは武田義信、
左備えは原 昌胤・飯富三郎兵衛、後備えは武田信廉──。
政虎は、声を出さずに采配を振り
上杉軍は静かに武田軍に向かって進み出します。
それに対し迎え討つ武田軍。
兵士たちを次々と斬り倒しますが、
その直後、騎馬隊がなだれ込み混戦模様です。
妻女山から八幡原へ向かっていた別働隊は
人の声や鉄砲の音で八幡原で
すでに戦闘が開始したことを悟りますが、
妻女山に残った敵兵に苦しめられ、思うように進めません。
武田の陣形では守りが堅く、なかなか崩せませんが
右備えの武田義信隊はなかなか強く、
じりじりと押し戻されつつあります。
政虎は、鉄(くろがね)隊に
一生懸命に戦って負けるふりをさせます。
その演技に騙されれば、戦を知らない太郎義信は
勢いづいて上杉軍内まで入って来るでしょう。
その時に袋のネズミにしてしまい、討ち取れと命じます。
義信が攻めに転じたことは、たちまち信玄の耳にも入ります。
「敵が退くは計略、攻めてはならぬと申し伝えよ!」
信玄の命を受け、守りを固めるように伝達したわけですが、
敵が逃げている今こそ勝機、と義信は引こうとはしません。
そうもたついている間に、義信隊は敵に囲まれてしまいます。
家臣のとっさの判断で、諸角隊に合流させ窮地を脱出します。
一方、前備えが脆くなってきまして、
その善戦に立つ武田信繁隊がピンチです。
信玄は各隊に、軍勢を中央に集めて分厚くし
信繁隊を助けるように命じます。
八幡原にこだまする、鉄砲の音──。
信玄は伏せていた顔を上げ、政虎は目をつぶります。
「……ついに来たか」
政虎は、武田本陣へ総掛かりで攻め込めと命じます。
懸命に指揮し、戦っていた信繁が
敵に囲まれ、槍で刺されてそのまま討ち死にします。
大将の弟の御印ですから、敵兵が争って群がるわけですが
原 虎胤はそれを追っ払い、信繁を討ち取られた恨みを
全エネルギーで敵兵に向けます。
せめてあと半刻……と悔しがる政虎は
全軍を北の善光寺に向かわせよと命じます。
敵は総崩れ、我が軍は攻めに転じました!
その知らせを聞き、信玄はふと目を遠くにやると
そこに白馬に乗った単騎が。
政虎です。
政虎は、アッという間に
信玄のところに駆けてきて刀を振り上げ、
信玄はそれを軍配で受けます。
ひと振り、ふた振り、
み振り──。
うわあああぁぁぁ!
政虎は雄叫びを上げ、
刀を振り上げたまま戻っていきます。
倒れた兵士、馬、踏み汚された幟旗を前に
川中島の信玄は立ち尽くしています。
永禄4(1561)年9月10日、
第4次川中島合戦。
武田信繁、山本勘助、諸角虎定らが討死する。
慶長20(1615)年5月7日、
大坂夏の陣にて真田信繁が討ち死にするまで
あと53年8ヶ月──。
脚本:田向 正健
原作:新田 次郎「武田信玄」
音楽:山本 直純
タイトル題字:渡辺 裕英
語り(大井夫人):若尾 文子
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[出演]
中井 貴一 (武田信玄)
柴田 恭兵 (上杉政虎)
堤 真一 (武田義信)
若松 武 (武田信繁)
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池上 季実子 (恵理)
宍戸 錠 (原 虎胤)
児玉 清 (飯富虎昌)
美木 良介 (馬場信春)
篠田 三郎 (飯富三郎兵衛)
村上 弘明 (高坂弾正)
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勝野 洋 (大熊朝秀)
橋爪 功 (真田幸隆)
上條 恒彦 (村上義清)
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宇津井 健 (直江実綱)
西田 敏行 (山本勘助)
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制作:村上 慧
演出:重光 亨彦
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