プレイバック山河燃ゆ・(37)ヒロシマ
昭和20(1945)年・秋
GHQ(連合軍総司令部)──。
マッカーサー元帥が大使館を出たと言う知らせが入りました。
今から5分30秒後にGHQの建物に到着するはずです。
元帥の副官をしているチャーリー田宮たちは
その時間に合わせて総出でお出迎えです。
その直前にマニラからGHQ入りしていた天羽賢治は
原爆調査のために広島に向かう前に
チャーリーとの対面を果たすところでしたが、
偶然、元帥の到着に立ち会えます。
その後、チャーリーを待っていた賢治は
前を通りかかった日本人男性に声をかけられます。
その声の主は、島木文弥でした。
賢治が東京にいたころの身元引き受け人で
いろいろとお世話になった人物です。
東京大空襲でも島木家は奇跡的に残り
今は弁護士として自宅兼事務所に使っているとか。
戦犯・東郷茂徳の弁護人を務めているそうで
賢治は東郷ほどの平和主義者が戦犯だなんてと驚愕しますが、
それは東郷だけではなく、どうしてこの人がと
首を傾げたくなる人が戦犯として多く捕らえられているそうです。
賢治は、東郷にも島木にも恩義があるため
力になれることは何でもと伝えますが、
島木からは「立場をわきまえるように」とたしなめられます。
私たちは裁かれる立場、あなたたちは裁く立場、と。
GHQを去ろうとする島木を賢治は呼び止め
1944(昭和19)年10月に、島木がベルリン大使館に発した電話を
アメリカ国防省が傍受し、賢治がそれを解読していたことを
正直に打ち明け、島木に詫びを入れます。
島木は、賢治に解読拒否の選択がなかったことを慮り
戦争は終わったのだから、平和になった国のために尽くそうと
賢治を励まします。
生き残った者の務めだ、と。
チャーリーの元妻である井本梛子は
父とともに広島に帰っているはずなのですが、
その消息が全く分かりません。
さらに、チャーリーの妹・マリー田宮の消息もです。
賢治から喫茶リラの住所を聞いて、訪問すると
喫茶リラは空襲で焼けこげていました。
そこにいた張 美齢に、妹のマリーの居場所を聞くと
マリーが暮らす家に連れていってくれました。
「兄さん……」
偶然に表に出てきたマリーの表情から
笑みが消えました。
“目標まで10分──”
“進入点──”
ENOLA GAY (メガネをかけろ)。
日本本土まで一直線のヒロヒトハイウェイを飛び
広島上空で31,600フィートまで上昇した。
投下1分前から単調な無線音が発信され
その音が停止した時が原爆投下の時刻だった。
“信号停止、旋回用意──”
父・井本虎造の遺骨を胸に抱いて梛子がとぼとぼ歩いていると、
投下時に広島に買い物に出ていた若い娘を
原爆調査のため、と連行する場面に遭遇します。
原爆調査をしているのは日系二世の人たちと知り
梛子は複雑そうな表情を浮かべます。
原爆調査は、軍事的影響・科学的影響・
心理的影響の調査なのですが、
日本語ができる日系二世は主に
心理的影響の調査に回されます。
賢治は、赤ん坊を無くした若い母親や
早朝出勤していた初老の男、勤労奉仕する少年など面接し
実体験として話をしてくれる彼らの話に
賢治は大きな衝撃を受けます。
夕方になり、面接もひととおり終えると
建物の入口のところにひとり立っている女性がいました。
梛子です。
父とともに故郷の五日市から広島駅に到着したばかりの梛子は
偶然に地下道にいたために助かったのだそうですが、
父は、あの光線を浴びて全身大火傷を負い、落命したそうです。
そんな時、遠くから美しい歌声が聞こえてきます。
賢治と梛子がその声の方に歩いていくと
教会の中で、ろうそくに灯を灯している少女に出会います。
梛子が何を話しかけても何も答えてくれない少女でしたが、
その少女の傍らに、埋もれた手が見えます。
「お母さん……」
誰なの!? と半ば問いつめるように梛子に聞かれた少女は
ポツリと呟きますが、梛子の肩越しに立っている賢治を見て
近くに落ちているこぶしほどの石を投げつけます。
翌朝も、面接は引き続き行われます。
被爆者に、原爆を落とされてどんな気持ちだったかと問いかければ
面接に来てくれた初老の男は、くやしそうな表情をして
どんな気持ちでここに来ているか分からんでしょう、と涙を浮かべます。
そんな彼の話に衝撃を受けた賢治は、
彼へのヒアリング内容を一から書き直すことにします。
そして呉の米軍本部に戻って報告書をまとめます。
そこにテリー大尉を訪ねて来たアメリカ人がいたのですが
賢治は彼が、かつて収容所で幼い子を助けてくれた
ピーター医師であることに気づきます。
彼はドイツにいたのですが、広島に回されました。
広島大学病院と日本赤十字病院で被爆者を診察しますが、
治療法も後遺症も見当がつかないほどのひどさです。
ピーター医師によれば、直接被爆した者だけが被害者ではなく
直後に肉親を捜した人も看護した人も影響があるかもしれない、と。
かすり傷程度の人が、6週間後に急に出血して
死亡するという事例が出たそうです。
賢治は、梛子を連れて東京に向かいますが、
その脳裏に、かすり傷程度の人が死亡したという
ピーター医師の言葉が離れません。
もちろん、梛子にそんなことを話せるはずもありません。
東京・帝国ホテル──。
チャーリーに、梛子の就職先を斡旋してもらいます。
帝国ホテルはアメリカ軍が接収して
高級将校やVIPの宿舎にもなっているので
日本語と英語ができる女性の方を探していたのです。
丸の内のオフィスに呼ばれた賢治は
賢治が書き上げた報告書について中佐から削除を求められます。
被爆者たちに面接し、どういう感情を持っているかの数値に加え
その数値が予想外に低いのは、被爆者たちがアメリカに対して
恐れおののいているために正直な気持ちが引き出せていないからだ、
という賢治の見方も書いていたのですが、
中佐にはその部分が気に入らなかったようです。
中佐には賢治に、中尉への出世の道もちらつかされながら
文面の削除を重ねて求められますが、
賢治は、自分の出世よりも真実を重視してそれには応じません。
「今の言葉は聞かなかったことにする。行きたまえ」
賢治は黙ってオフィスを後にしますが、
振り返ると、広島の教会で出会った少女の幻が
賢治に向かって石を投げたような気がしました。
山崎豊子 作『二つの祖国』より
脚本:市川 森一
音楽:林 光
──────────
[出演]
松本 幸四郎 (天羽賢治)
島田 陽子 (井本梛子)
手塚 理美 (マリー田宮)
──────────
沢田 研二 (チャーリー田宮)
──────────
アグネス・チャン (張 美齢)
児玉 清 (島木文弥)
──────────
制作:近藤 晋
演出:伊豫田 静弘
| 固定リンク
「NHK大河1984・山河燃ゆ」カテゴリの記事
- プレイバック山河燃ゆ・(51)新たなる旅立ち [終](2018.07.03)
- プレイバック山河燃ゆ・(50)宣告(2018.06.29)
- プレイバック山河燃ゆ・(49)最終論告(2018.06.26)
- プレイバック山河燃ゆ・(48)兄弟和解(2018.06.22)
- プレイバック山河燃ゆ・(47)焼跡の聖夜(2018.06.19)
コメント