プレイバック山河燃ゆ・(38)東京裁判開廷
東京・帝国ホテルでは
キーナン主席検事による記者会見が開かれます。
先日来 行われてきた被爆者へのヒアリングをもとに
故意に戦争を始めた日本の指導者の犯罪行為を明らかにし
将来の戦争を防止するために東京裁判を開くと発表。
征服者として指導者に制裁を加えるわけではありません。
天羽賢治の恩師とも言える東郷茂徳は
開戦にずっと反対の立場をとっていましたが
パールハーバーの時の外務大臣ですので
罪は免れないでしょう。
もうすぐアメリカに戻る予定の賢治は、
巣鴨ブリズン(拘置所)に収容されている
東郷に挨拶に訪れます。
「天羽くん、立派になったねえ」
やつれた印象の東郷は、天羽の軍服姿をまぶしそうに見ます。
賢治は日米開戦前に東郷に手紙を送ったことがありましたが
東郷は賢治と全く同じ気持ちでありまして、
何としても日米開戦だけは避けねばならないと行動するのですが
力及ばず、最悪の事態を迎えるに至ったわけです。
東郷はそのことを賢治に詫びます。
もしも法定に立つ時が来たら、
なぜ日本がああいう戦争を起こさなければならなかったか、
開戦時の外務大臣として、そこはハッキリと言うつもりです。
「勝利者の声は常に大きくて、敗者の声は常に小さいものだよ」
東郷は、辞世の句ともいえる三十一文字を
島木文弥に伝えてくれ、と賢治に託します。
人の世は
風に動ける 波のごと
其のわだつみの 底は動かじ
賢治は続いて島木邸を訪問し、約束通り東郷の句を伝えます。
島木は今回の裁判について、2つの問題点を挙げます。
ひとつは、勝者が敗者を裁くということ、
もうひとつは、アメリカとソ連が、この裁判を
政治的取引の場にする恐れがあるということ、です。
東郷の気持ちを引き継いで、
日本が再び国際社会に仲間入りできるように
外交官として全力を尽くしたいと言う島木の気持ちに
賢治は答えたいと考えています。
チャーリー田宮の命令で、下町に暮らす妹のマリー田宮が
半ば強引に車に乗せられ、帝国ホテルに連れて来られました。
今日からここが家だ、と突然言われても
マリーは困惑するばかりです。
マリーは実は三島啓介と同棲していたのですが、
啓介はそのまま置いていかれました。
マリーは啓介をここに呼びたいと訴えますが、
自分たちはアメリカ人で戦争に勝った側の人間
そして啓介は日本人で戦争に負けた側の人間であり、
敗者は勝利者のレベルに合わせることはできない、と
チャーリーは妹を優しく諭します。
東京裁判が開かれるにあたって、大半の被告は英語を理解できず
英語力がある外務省関係者が通訳したとしても
微妙な法律用語のニュアンスを伝えるにはなかなかに難しい。
訳をその場でチェックし、その都度修正するモニターを
英語にも日本語にも強い日系二世が最適ということになり、
賢治には、誰かそのモニターに推薦して欲しいと中佐は言います。
賢治は除隊してアメリカに帰国するつもりでいたのですが
除隊申請を取り消し、自分がそのモニターを務めたいと言い出します。
賢治にはアメリカで待つ家族がいますが、
賢治は丁寧に話せば分かってもらえると思っています。
あの日以来、酒がなくてはならない天羽エミー。
もうすでにアルコール依存症になっているようです。
父親の畑中万作は、そんなエミーから酒を取り上げますが
名も知らないアメリカ人にレイプされたことを聞かされると
治安が悪いこの町に呼んだことをひどく後悔し
エミーを強く抱きしめます。
再びクリーニング店を始めた天羽乙七とテルですが、
開店したばかりではなかなか軌道には乗りません。
それでも、昔なじみの客がわざわざ訪ねて来てくれて
クリーニングの依頼をしてくれることこそが
今は夫婦の生き甲斐であり、幸せでもあります。
マリーがチャーリーに引き取られて
帝国ホテルに入ったと知った賢治は、
啓介から無理矢理引き裂いたのではないなと
チャーリーに確認しますが、
チャーリーは、二言目には「妹のため」
「妹に本当の幸せを知ってもらうんだ」と言い
啓介とは無理にでも別れてもらうことにするそうです。
賢治は、マリーと啓介が住んでいた
下町の掘建て小屋に行き啓介に再会します。
徴兵を忌避して山中を逃げ惑っていた啓介は
戦争さえ終われば、誰にも束縛されることなく
自由に生きていけると思っていました。
しかし、戦争が終わっても何も変わりません。
軍部や特別警察が、GHQやMPと
呼び名を変えただけに過ぎません。
「帰ってくれないか。今はキミの軍服姿を見たくない」
賢治をチラリとも見ようとしない啓介ですが、
マリーが帝国ホテルを飛び出して戻ってきました。
賢治は、逃げて来たマリーに「それでいい」とだけ言って
黙って小屋を出て行きます。
日本は、これまでのような日本ではなくなりました。
これまでの誇りを失い、混乱を見せています。
アメリカ軍のいち将校として、自分がやってきた
全てのことが重く胸にのしかかってきます。
これからの生きる道を探すためにも
このままアメリカに帰ることはできなくなりました──。
薄暗い廊下を、
足音をカッカッと鳴らしながら歩いていく賢治。
階段を上ったその先には──極東国際軍事裁判所です。
裁判開廷にあたり、ヘッドホンの動作確認をする職員。
うち1台が調子が悪いらしく、賢治は
「1・2・3、ただいまマイクのテスト中、西郷隆盛ここにあり」
と繰り返しマイクに話します。
マイクテストを繰り返しながら、視察に来たGHQの上官が
真横で何かごにょごにょと話しているのを聞いた賢治。
「A級戦犯は25名……」
テストを続けてください、という催促に応じて
賢治は表情を変えずに続けます。
勝てば官軍、負ければ賊軍、
しかれど国際法は神聖なり。
東京裁判も神聖なる裁きあるのみ!
昭和21(1946)年5月3日。
先ほどまでほぼ無人の裁判所も
ふと気づくとあらかた席は埋まり
裁判が始まるところでした。
裁判の宣誓が読み上げられると
賢治は日本語でそれを読み上げ直します。
「ここに極東国際軍事裁判所を開廷し、
当裁判所に提出されるいかなる問題に関しても
聴取せんとするものであります」
山崎豊子 作『二つの祖国』より
脚本:市川 森一・香取 俊介
音楽:林 光
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[出演]
松本 幸四郎 (天羽賢治)
島田 陽子 (井本梛子)
手塚 理美 (マリー田宮)
篠田 三郎 (三島啓介)
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沢田 研二 (チャーリー田宮)
多岐川 裕美 (天羽エミー)
鶴田 浩二 (東郷茂徳)
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山田 吾一 (畑中万作)
津島 恵子 (天羽テル)
児玉 清 (島木文弥)
三船 敏郎 (天羽乙七)
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制作:近藤 晋
演出:佐藤 幹夫
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