プレイバック山河燃ゆ・(49)最終論告
昭和22(1947)年12月31日、
極東国際軍事裁判所で行われた反対尋問で
天皇の平和希望に反する木戸幸一(元 内大臣)の言動は?
との問いに対する元首相・東条英機の発言の波紋が大きいです。
『東条、天皇の戦争責任を示唆──』
新聞各社は東条の発言を大きく取り上げます。
天皇訴追となれば、天皇が裁判所に呼ばれることになりまして
マッカーサー元帥も日本政府も天皇を法廷に出してはならない
という命令なので、キーナン検事は真っ青になっているわけです。
「何してる! 田中隆吉を呼べ!!」
日をまたいだ1月1日、
急きょの呼び出しを受けた田中隆吉を乗せた車と
一般の車が衝突しそうになりますが、
その一般の車には、天羽賢治とエミーが乗っていました。
帰宅し、寝かせるエミーですが、賢治にはもう限界です。
どこかいい病院に入れて、アルコール中毒を徹底的に治さないと
取り返しのつかないことになる、とつぶやきます。
「もうこれ以上、アーサーにこんな姿を見せたくないんだ」
忠のつてで、知り合いの医師に頼み込み
元旦の夜中ではありますが受け入れてくれる病院が見つかりました。
忠は伊佐新吉に電話をし、車を借りるついでにアーサーと留守番を頼み
忠の運転でその病院に連れていきます。
病院に着いたらエミーはさんざん暴れて拒絶しますが
強制的に病院に入れられ、入院の措置をとられます。
賢治はエミーの方を振り向かず、肩を震わせて悲しみます。
初詣を済ませた賢治は、自宅で忠と新吉と
久々にゆっくりした一日を過ごします。
忠が行きつけの料亭の女将に作ってもらったおせちと
薩摩焼酎で新年のお祝いです。
日本人としての生活をしている新吉は
賢治の家を見渡して、アメリカはいいなぁとつぶやきます。
「日本もハワイのように“合衆国日本州”になればいいのに」
と言うのですが、これに忠が反発します。
日本を捨ててアメリカ人になろうとした一世たちの苦労、
そして日系二世として忠たちがどれだけ辛い思いを重ねて来たか。
日本人としての誇りを持っていたじゃないか、と忠は言うのですが
こんな貧困で誇りを持てという方が無理だ、と珍しく新吉が反発。
そんなことじゃないんだよ、と賢治が間に割って入ります。
「日本だアメリカだなんていつまでそんなこと言ってるんだい。
日本人、アメリカ人である前に、人間としての誇りを持たなきゃ」
昭和23(1948)年1月6日、キーナン検事は
天皇の平和希望は東条自身承知していたことを確認すると
日本臣民が天皇の命に従うことと天皇が平和を望んでいたことが
結果的に戦争を生んだ矛盾についてズバリ質問します。
国民的感情を言ったまでで、それは
天皇の責任問題とは別の話、と東条は一蹴。
戦争遂行は天皇の意思ではなく
戦争は東条内閣が決意したことで、東条自身あるいは高官による
進言によって“しぶしぶ同意した”というのが事実であります。
「まことにやむを得ざる朕の意思にあらず」からも分かります。
裁判は休廷に入ります。
記者たちは、これで天皇の戦争責任回避になったと言う反面
裏で何かがあったな、と鼻を利かせます。
田中に呼ばれた賢治は、東条発言から
天皇の責任回避までの1週間についての話を聞きます。
東条発言があって、天皇訴追を恐れたキーナン検事は
代表弁護人の清瀬一郎を頼るもあえなく断られ、
東条自身も、戦争責任は自分にあるが、臣下が陛下の意思に反して
戦争を始めたなどというウソの証言はできないと激怒。
そこで、田中がキーナンに呼ばれたわけです。
田中は当初、キーナンに東条を説得しろと言われますが
東条と田中は犬猿の仲で、火に油を注ぐようなものです。
そこで弁護人を通さず、木戸から東条に
事情を理解させることになったわけです。
木戸が内大臣だったときに秘書官を務め、
木戸とはツーカーの間柄である松平式部官長に説得を依頼、
松平は年賀の挨拶という名目で木戸邸に入り、説得したのです。
交換条件で、アメリカに移住させてくれると
キーナンと約束した田中でしたが、
天皇訴追の危険性がなくなると、
途端に冷たくあしらわれるようになります。
キーナンに裏切られたよ、と寂しそうに笑います。
その話を聞きながら、賢治は
この裁判の意義について考えるようになります。
公正正大を謳いながら、裏工作でどうにでも変えてしまう。
賢治は、初詣の時に偶然に会った島木文弥の
「人事を尽くして天命を待つ」という言葉が
これなのか、と天を仰ぎます。
2月11日、最終論告が行われます。
「我々は“門を閉じるとき”に到達した」と
キーナン検事はまとめに入ります。
2年間、本件の証拠の準備と提出に従事し
最終論告と弁論、判決を残すのみ。
被告は1人も国の秩序を正すのが務めとは考えず
指導者を暗殺して国家安泰をはかり
日本文化の恩恵を世界に与えんと大計画の遂行に邁進した。
我々は種々の事件から、日本国民の抑圧と屈従のほどを知った。
最下層から天皇まで、8,000万人の1人も
言論思想の自由がなかった。まさに恐怖政治だった。
嘆かわしいでは済まない。
かかる計画を採用し遂行しながら被告は何と言ったか。
「国益のためとるべき道と信じた」
ニュールンベルグ判決は述べた。
「侵略戦争は単なる国際犯罪ではない」「最大の国際犯罪である」
すなわち侵略戦争に関連する犯罪は人類の知る最重刑に値する──。
8月6日、
広島日赤病院の梛子を、チャーリー田宮が見舞いに訪れます。
梛子はチャーリーが再婚したことを知っています。
今度こそちゃんとした家庭を築くのよ、と
元妻としていらぬ忠告をして笑います。
そして、賢治とエミーのことをくれぐれもよろしくと頼む梛子。
チャーリーは、現在エミーは病院に入っていて
アルコール中毒の治療を行っていることを伝えます。
エミーが元気になったら、
3人で見舞いにくる約束をするチャーリーに
「私、そのころまで生きていられるかしら」と少し弱気になります。
そしてそのころ、賢治は
エミーが入院している病院に見舞いに行きます。
対面したエミーからは表情がまったく消え失せていまして
賢治を見ると、睨みつけて「出てって」と言われてしまいます。
帰宅した賢治は、机の中から拳銃を取り出します。
脳裏には、忠と対決したルソンでの戦いの日々が
思い出されます。
ロサンゼルスの天羽クリーニング店では
天羽乙七やマリアンの父が今か今かと
そわそわして待ち続けます。
帰って来た勇とマリアン夫婦ですが、
1948年8月6日生まれの家族がひとり増えたのです。
強面の乙七でも、孫の顔を見れば表情がほころびます。
そしてマリアンの父と一緒に名前を考えたそうで
平和の一字をとって「和子」と名付けます。
和子・グレース・天羽です。
山崎豊子 作『二つの祖国』より
脚本:市川 森一・香取 俊介
音楽:林 光
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[出演]
松本 幸四郎 (天羽賢治)
島田 陽子 (井本梛子)
柏原 芳恵 (天羽春子)
堤 大二郎 (天羽 勇)
綿引 勝彦 (鬼頭軍曹)
矢崎 滋 (伊佐新吉)
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沢田 研二 (チャーリー田宮)
多岐川 裕美 (天羽エミー)
鶴田 浩二 (東郷茂徳)
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佐藤 慶 (田中隆吉)
渥美 國泰 (東条英機)
津島 恵子 (天羽テル)
児玉 清 (島木文弥)
三船 敏郎 (天羽乙七)
西田 敏行 (天羽 忠)
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制作:近藤 晋
演出:佐藤 幹夫
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