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2018年6月29日 (金)

プレイバック山河燃ゆ・(50)宣告

昭和23(1948)年8月。

東京裁判という最高の機密を扱うスタッフは、
東京の服部ハウスに移らされます。

天羽賢治もそれに倣い、天羽エミーやアーサーが暮らす
ワシントン・ハイツから服部ハウスに移るわけですが、
全く自由がない生活で、これが裁判の判決が出るまで
ずっと続くのかと思うと、先が思いやられます。

外部との通信手段は全くなく、
家族との手紙のやり取りだけは認められていますが
検閲が入った上でのやり取りです。
ほぼ監獄といった方が正確かもしれません。

一方、被告たちが収容されている巣鴨プリズンでは
のんびりと将棋を打つものもおりますが
東郷茂徳や広田弘毅は一様に厳しい表情です。

「我らのうちの何人かは、死刑なのか……」
広田弘毅はため息まじりに呟きます。

このままでは広田が危険だと察知した東郷は
東郷は島木文弥との面会時、
広田の調書をもう一度確認して欲しいと頼みます。

広田の肩書きは調書では軍事参議官となっていましたが、
あくまでも文官であって軍事参議官などではないのです。
判決が下る前に、それを修正しなければなりません。

島木は賢治と連絡を取ってみますが、
外部との接触が禁止されている以上
繋いでももらえません。


判決文第1便が届きました。

世紀の裁判の判決文であり、歴史に残るものであります。
上司部長の中佐は簡潔と正確を旨に翻訳を命じます。

賢治たちは、何百枚とある判決文を分担し、
うちわを仰ぎながら精力的に翻訳していきます。


広島では、梛子が生死の境をさまよっていました。

現在はカンフル注射によってようやく持ちこたえている状況で
主治医の倉石医師も打つ手がないというのが正直なところです。

ご親戚の方を呼ばれた方が……と静かに倉石医師はつぶやきます。

連絡手段が全く断たれているはずの服部ハウスに
GHQから賢治宛に緊急の電話が入ります。
電話の主は、チャーリー田宮でした。

チャーリーはとても焦ったような口ぶりでまくしたてます。
「ケン、すぐ広島へ行け! 梛子が……危篤なんだ」


賢治は中佐に掛け合ってみますが、
親族ではない単なる女友だちだし
みんなを監督する立場の賢治が規則を破っては
示しがつかないと、申し出を頑として拒絶します。

それを知ったチャーリーは激怒し
マッカーサー元帥の副官を務めていることを生かして
バーンズ“大佐”が「天羽中尉に外出許可を」と
進言していることを中佐に伝えます。

それでも断るとチャーリーを睨みつける中佐。

自分は大佐の命により賢治を飛行場まで送る役目を仰せつかっているので
中佐に断られれば、その命令を遂行できなくなってしまいます。
チャーリーは、であれば、と中佐を放り出します。
「大佐に電話で直接ご説明を」

中佐は悩み抜いて、表情を変えずに
連れていけ、とチャーリーに伝えます。


外ではチャーリーが待っていました。
「今から明日の午後8時まで、
 君の身柄はGHQで預かることになった」

立川から岩国まで軍用機で飛び、
そこから広島に向かうという行程です。
時間に間に合わなければ軍法会議にかけられると
釘だけ差しておきます。

乗りたまえ、と賢治をGHQの車に乗せます。


賢治を立川の飛行場まで送り届けた帰り、
チャーリーは忠の元に向かい、梛子の危篤を伝えます。

エミーも、アルコール中毒は完治したわけではないものの
ひとまず欲しがらなくなったので退院させる、と
忠に連絡があったらしく、
それを服部ハウスの掟で連絡がつかないままでした。

チャーリーとの話で、梛子の危篤のこと、
賢治が広島に向かっていることは伏せておいた方がよかろう、
ということになります。


広島の日赤病院に到着した賢治は
梛子の12号室に倉石医師がいるのを見て
現状を理解します。

「ひと足違いでした……最善を尽くしたのですが」
賢治の目から涙が溢れ出てきます。
どうして梛子がこんな目に遭わなければならないのか
賢治には理解したくてもできません。

自分の命の灯火が消える日を予感したか
梛子は賢治に宛てて最期の手紙を残していました。

「神よ……なぜ、梛子を召されたのか」
梛子が過ごした病室で、それに目を通し
また賢治は大泣きします。


賢治は広子とともに、広島の原爆ドームが見える
小高い丘まで上がってきました。

やっと分かってきたよ、と呟いた賢治。

以前僕は原爆調査団のひとりとして広島に来ていた。
その惨状を見た時も被爆者の話を聞いた時も
原爆に対する怒りのみを覚えて
自分もその加害者の一人であるということに気づかなかった。

原爆を落としたのは、誰でもない、この自分だったんだ。
そして梛子を殺した。
そのことを神はこの僕に教えてくれた。
梛子の、死をもって──。


退院したエミーを忠が迎えに行き、
家に連れて帰ります。

落ち着きを取り戻したエミーは、賢治のいいところを
少しも見ていなかった、と反省したようです。
賢治はいつも与えることばかり考えて、人に何も求めない。
自分にはとても厳しいくせに、人にはとても優しい。

エミーは、賢治が苦しんでいる1割も
理解できていなかったのかもしれない、と。

忠は、今のエミーの一言が本心であることを念押しして
梛子が昨日亡くなったことを伝えます。
賢治にはチャーリーが伝えると言っていたことを話すと
エミーは取り乱します。

監禁されているところに梛子の死だけ伝えてどうするの?
ケンがとっても苦しむだけじゃない!
外出許可もとってあげなきゃ、そして広島に行かせなきゃ……。

忠は落ち着いて、チャーリーは いまエミーが言ったことを
昨日のうちにやってくれた、と伝えます。


岩国から軍用機で立川に戻ってきた賢治を待っていたのは
忠とエミーでした。

「間に合ったの?」
「いや……綺麗な死に顔だった」

エミーが今日退院したことは、たった今知ったわけですが
賢治はエミーに、よく頑張った、と伝えると
再び服部ハウスに収容されます。


それからというもの、賢治は精力的に翻訳に没頭します。

精力的にというより、異常なほどの力の入れようで
退勤するときにはまだ机に向かっているし
出勤したときにはすでに翻訳を始めているのです。
昼の休憩も取らないほどで、みな賢治を心配します。

そんな賢治がある部分について引っかかりを覚えます。
“広田は日本の外務大臣と軍事参議官になった”
「軍事参議官……これはひどい」

翌朝、賢治は中佐に内容の変更について申し出ますが
自分たちに与えられた仕事は内容の精査ではなく
内容を正確に翻訳することであり、内容の変更は
自分たちが口を差し出すことではない、と取り合いません。

しかし、あまりに賢治が熱心なので
中佐は、明日伝えよう、と約束してくれます。
その代わり、賢治の異常な頑張り方には
くれぐれも注意を、と忠告だけしておきます。


11月4日。
極東国際軍事裁判の判決が今日から始まります。

東郷が気づき、島木が訂正しようとした、
賢治が気づいて書き換えを求めた“軍事参議官”の言葉は
結局そのまま修正されていませんでした。

中佐は、
モニターとして訂正を入れようとする賢治の手を
取り上げ、ボタンを押させないようにします。


翌日、判決文朗読の続きです。

「極東国際軍事裁判所は、本件の起訴状について
 有罪の判定を受けた被告に対して、
 裁判所条例第15条に従ってここに刑を宣告する」

被告・荒木貞夫、被告が有罪の判定を受けた起訴状中の訴因に基づいて
極東国際軍事裁判所は被告を終身の禁固刑に処する。

絞首刑は土肥原賢二、
終身禁固刑は橋本欣五郎、畑 俊六、平沼騏一郎と続き……。

被告・広田弘毅、被告が有罪の判定を受けた起訴状中の訴因に基づいて
極東国際軍事裁判所は被告を絞首刑に処する。

日本語訳を賢治が伝えます。

東郷茂徳は禁固20年、東条英機は絞首刑となりました。


山崎豊子 作『二つの祖国』より
脚本:市川 森一・香取 俊介
音楽:林 光
──────────
[出演]
松本 幸四郎 (天羽賢治)

島田 陽子 (井本梛子)
かとう かずこ (井本広子)
矢崎 滋 (伊佐新吉)
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沢田 研二 (チャーリー田宮)

多岐川 裕美 (天羽エミー)

鶴田 浩二 (東郷茂徳)
──────────
渥美 國泰 (東条英機)

児玉 清 (島木文弥)

西田 敏行 (天羽 忠)
──────────
制作:近藤 晋
演出:伊豫田 静弘

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