プレイバックいのち・[新] (01)帰郷
昭和20(1945)年8月15日、日本は、天皇の終戦の詔勅により
昭和6(1931)年の満州事変から始まった15年に渡る戦争に
終止符を打ちました。
終戦3日後・8月18日──。
青森ゆきの列車が、焦土の東京を脱出する乗客を満載して
上野駅を出発します。
戦後まもなく運転している国鉄としては
列車には客車だけではなく貨車をも宛てがう有り様で
さらに切符の発売を厳しく制限した上での運行であり
貨車であっても乗れたのはとても運のいい乗客なのですが、
荷物は膝の上に! 女! もっとつめろ! などと
戦争を終えて帰還する兵士と、
あんたたちがダメだから負けたんだろ! と兵士を愚弄する女など
客車内は殺伐とした雰囲気に包まれています。
その客車内に、高原未希、佐智姉妹が
額に大きな汗つぶを流しながら
人並みに押しつぶされそうになりながら乗っています。
佐智は足をケガしているようで、
姉の未希は佐智の足をさすっています。
「きつかったら途中で降りたっていいのよ」
「うん、平気」
作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
演奏:新室内楽協会
テーマ音楽演奏:NHK交響楽団
テーマ音楽指揮:小松 一彦
監修:小木 新造
:小舘 衷三
医事監修:行天 良雄
:白石 幸治郎
衣裳考証:小泉 清子
方言指導:津島 康一
:相沢 ケイ子
協力:青森県 弘前市
黒石市
──────────
[出演]
三田 佳子 (高原未希)
石野 真子 (高原佐智)
役所 広司 (浜村直彦)
渡辺 徹 (中川邦之)
磯部 勉 (平吉)
三上 寛 (中川忠之)
津島 康一 (中川修造)
相沢 ケイ子 (中川トキ)
冷泉 公裕 (乗客)
此島 愛子 (シノ)
成田 光子 (クラ)
小沢 悦子 (ヒサ)
岩倉 高子 (キヨ)
松田 智恵子 (ミツ)
加地 健太郎 (乗客)
山本 清 (乗客)
黒木 佐甫良 (乗客)
神田 正夫 (乗客)
久我 美子 (高原千恵)
大坂 志郎 (工藤清吉)
赤木 春恵 (工藤イネ)
菅井 きん (岩田テル)
沖 怐一郎 (乗客)
辻村 真人 (乗客)
清水 幹雄 (乗客)
三上 剛仙 (乗客)
山野 史人
小池 孝次
鈴木 弘一
野村 隆一
石倉 民雄
玉井 碧
北島 京子
藤田 啓而 (弥兵衛)
中島 元 (兵助)
安倍 雅子 (手伝いの女)
山田 美鈴 (手伝いの女)
広沢 昭 (店員)
斉川 一夫 (村人)
中村 由紀子 (村人)
森 康子 (村人)
溝口 順子 (村人)
鈴木 淳子 (村人)
鳳プロ
早川プロ
劇団いろは
劇団ひまわり
伊武 雅刀 (岩田剛造)
吉 幾三 (八木金太)
泉 ピン子 (村中ハル)
宇津井 健 (坂口一成)
──────────
制作:澁谷 康生
美術:川口 直次
技術:大沼 伸吉
効果:広瀬 洋介
照明:増山 実
カメラ:入倉 道治
音声:岩崎 延雄
記録・編集:高室 晃三郎
演出:伊豫田 静弘
そうしているうちに、列車は駅に停まったようで
さらに大きな荷物を持った乗客が乗車口に殺到します。
これ以上無理だと足蹴にする者、
貨車と貨車の連結スペースに何とか乗り込んだ者、
窓から強引に乗り込んだ者、さまざまです。
「田舎の母ちゃんが危篤なんだよォ! どこでもいいから乗せとくれよォ!
死に目に会えないかもしれないんだよォ!」
ダメだ、と男たちは村中ハルを引き上げようともしませんが、
未希はたまらず、ハルの手を引いて車内に誘導します。
お母さんに会わせてあげて! でないとこの人一生後悔する!
そんな未希の訴えと、割り込んですいません! と必死で謝るハルで
乗せないという立場の周囲の男たちは、ブツブツと文句を言いながらも
表立って反論できず、受け入れるのです。
列車はなぜか原っぱの真ん中で停車します。
駅ではないようですが、男たちは
いまのうちにと用を足しに列車を降りて行きます。
未希と佐智、そしてハルも下車して草むらへ。
ハルは赤ん坊を身ごもっていて、すでに5ヶ月です。
土浦の軍事工場という劣悪な環境から青森に帰郷して
相手の夫を驚かせてやるんだ、と満面の笑みです。
未希と佐智は、弘前に帰るところなので
同じ青森で、お互いに元気だったら会えるわね、と
3人はそれぞれ力強い見方を得たような気持ちです。
夜、列車は盛岡手前の大きな駅に到着します。
もう青森県内に入ったのだと佐智は大喜びです。
そこで乗ってきた中川邦之は
佐智が胸に抱くバッグの中から子犬の声がするのを聞き
出してあげなさい、と声をかけてくれます。
邦之は弘前まで行くようで、
青森で別れるハルは、その先の姉妹を心配していましたが
こんな心根の優しく、力持ちな男子学生に
青森から先のことをお願いすることにします。
東京から30時間以上を費やし、
道中を共にしたハルとも別れた未希たちは
邦之とともに奥羽本線に乗り換えて、
やっとの思いで弘前に到着しました。
邦之は、家まで送ると言ってくれたのですが
駅から普通に歩いても半日はかかる距離だし
そんな迷惑はかけられません。
「お嬢さま……やっぱしお嬢さまだ」
未希が邦之に礼を言っていると、岩田剛造が立っていました。
剛造は、列車が弘前に到着するたびに見に来ていたようなのです。
家に帰る前に、佐智の足を医者に見せたいという未希ですが、
残念ながら未希の実家がある村には医師はおりません。
そんな時、邦之の実家に下宿している弘前陸軍病院の軍医がいると
紹介してもらえることになりました。
邦之は、弘前にある作り酒屋の三男坊で
軍医の坂口一成に連絡を取りたい、と使用人に伝えると
ちょうど帰ってきたところです、とのことで
佐智をすぐに診察してくれました。
足の傷は化膿しておりませんで、
骨も固まって来ているようです。
痛みの原因は、長時間の無理な姿勢がたたったようですが、
あとは根気強く地道に治していくことです。
お大事に、と笑って佐智を送り出すと、
未希は引き返して、坂口に思い切って聞いてみます。
妹は一生あのままなのでしょうか、治らないんでしょうか、と。
佐智は空襲で逃げ遅れて、倒れてきたものの下敷きになり
ひどい大腿部骨折を負ったようです。
東京の病院でも最善で診てくれたのですが
物資が少ない中ではギブス固定ぐらいしかできないわけです。
坂口は、本来整形外科は専門ではないのですが
執刀すれば足を切断せずに済むかもしれない、と
ほんのわずかですが治る可能性を残します。
剛造の手配で、車退きの八木金太が
中川家に迎えに来てくれていました。
偶然にも邦之と金太はガキ大将仲間だったらしく
中川家の面々にも、未希と佐智の正体が明らかになります。
高原家は実業家であり、120余りある青森の大地主でもあり、
未希と佐智はそのお嬢さまなのです。
中川家の人たちに見送られて、
荷台に乗った二人は、ゆっくりと高原家へ向かいます。
「お母さん……ただいま!」
「お母さん……ただいま戻りました!」
「おかえり。おかえりなさい」
母の高倉千恵は、東京大空襲など
戦火をくぐり抜けて生き延びてきた娘たちに
何もしてあげられなかった、と涙を流します。
ただ、今は生きていることが宝物です。
父の高倉正道からは、まだ何の連絡もありません。
未希は、自分がいながら妹をこんな身体にしてしまったと
責任を感じているようですが、
佐智は、悪いのは戦争であってお姉ちゃんではない、と
ふたり抱きしめ合って泣きます。
使用人の工藤イネが整えてくれて
姉妹は一緒にお風呂に入ります。
東京では濡れた布で身体を拭くだけでしたから
お風呂は何ヶ月ぶりでしょうか。
翌日、高原家の土地を貸してもらっている小作農家たちが
こぞって高原家に集まり、千恵と未希はその挨拶を受けます。
佐智は、やはり身体が不自由だからと避けたがっていまして
千恵と未希は無理強いはしません。
千恵は、旦那さんが戦死されて大変でしょう、とか
息子さんはまだお帰りにならないの? などと
小作民ひとりひとりに声をかけ、
こころばかりの赤飯をふるまいます。
ちょうど除隊して戻ってきた津田平吉や
2日前に何かと世話になった剛造たちが
戦争が終わった今、若い者たちの力で再興していくと
力強く話し、未希はとても頼もしく思っています。
剛造は、これからはりんごだと言い出し
母の岩田テルと衝突していますが、
戦争は終わったのだから、お米でもリンゴでも野菜でも
一生懸命に作ればいいんだから、と工藤清吉は諭します。
小作人たちの挨拶が終わり、高原家だけのお祝いです。
目の前にはたいそうなご馳走が並びますが、
千恵はそのほとんどに箸をつけていません。
最近の千恵は食が細くなり……とイネが言うと
そういえば半年前に会ったときよりも痩せた、と
未希は身体のどこかが悪いのかと気になります。
千恵は、未希たちが帰ってきたことで胸がいっぱいだし
正道のことが心配であれば気になって太れもしないわと笑いますが
未希は、その瞳の奥を見て、余計に心配になります。
そんな時、夜遅くだというのに戸を叩く音が。
清吉が出てみると、なんでも
未希の知り合いだという女を連れてきたようです。
未希が玄関先に出てみると、女とはハルのことでした。
遊びにきてくれたもんだと思って引き入れようとする未希ですが
ここに来るつもりはなかったんだ、と強く拒絶するハルを見て
何かワケがあるな、と察知した未希。
「私だってこの人たちとは縁もゆかりもないのよ!」
高原家を飛び出していくハルですが、お腹を抑えて苦しみ出します。
産婆でもあるイネは、ハルの苦しみようを見て
流産するかも、とテキパキとその準備に取りかかります。
ハルをここまで連れて来た浜村直彦によると
津軽の海で、ハルが入水しようとしていたところを
助け出したのだとか。
ハルを家に連れ帰り、母親に着替えさせてもらい
直彦はハルが着ていた服を洗って干していると、
ポケットから未希の家の住所と名前が書かれた紙が出てきました。
ハルは相当嫌がったそうなのですが、ハル自身のいのちの問題なので、
自分のところで引き取るよりは、こちらで世話になった方が、
ということで連れて来たわけです。
直彦は、後のことを頼むと急いで帰っていきました。
千恵が奥の間から出てきました。
「ダメだったわ、赤ちゃん……かわいそうに」
未希はショックを受けていました。
夫のところで赤ちゃんを産むのだと幸せそうにしていたハルが
どうして赤ちゃんも自分も殺してしまうようなことをしたのか。
どんなことをしても生きて会おうね、と言っていたハルの
明るい表情が、未希の心の中にずっと映っていました。
終戦を境に、いろいろな人の運命が
大きく変わろうとしていました。
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