プレイバックいのち・(07)いとしき大地
昭和21(1946)年10月21日、農地調整法、
すなわち農地改革に関する法令が公布されました。
日本には大きな社会変革の嵐が吹き荒れていました。
先祖代々、地主として水田やりんご畑などの小作地を
所有してきた高原家も、その嵐に飲み込まれ
長女の高原未希は、厳しい新時代の渦中に立たされていました。
農地改革がどのように行われるのか。
地主や小作たちの戸惑いや混乱の中で
農地改革を民主的に推進しようと施行の全権を任せる
農地委員会が各市町村で作られることになりました。
津軽では、その農地委員を決める選挙が12月23日に行われ
小作5人、地主3人、自作農2人の農地委員が選出されます。
そして高原家の小作である岩田剛造も当選したのです。
農地委員になったということは、地主に対する裏切りだ。
そう言って立候補に反対していた岩田テルは
高原家に飛び込んで土下座して謝罪し
工藤清吉は剛造に対して珍しくご立腹で、
テルへの言葉もきついものになりがちです。
剛造がかねてから依頼していた尋ね人のラジオ放送があったそうで
農地委員に当選しても、やはり剛造は高原家の味方だと
未希は思いを強くします。
農地委員会のことは剛造がいる以上信頼してもよさそうだし
農地改革に関することは清吉に任せることにして
未希は年が明けたら東京に戻ることにします。
久しぶりの坂口家です。
戸を開けると、ひょっこりと顔を出す男性が。
浜村直彦です。
未希と同じ医学を志す者として
ちょくちょく坂口家にお邪魔しているようで、
村中ハルは進駐軍周辺のつてで回してもらえた缶詰の
ビーフステーキや野菜などの豪華料理をふるまいます。
3月、なんとか進級できたことを見届けて
津軽に帰る未希ですが、未希を待っていたのは
思いがけない事態だったのです。
弘前から中川邦之が遊びにきました。
ちょうど未希が帰ってきていたわけですが、
高原佐智に頼まれていた
看護婦養成学校の資料を持ってきてくれたのです。
未希はそこで初めて、佐智が
看護婦になりたいと思っていることを知るわけですが、
足を引きずって歩く佐智を表に出して、
恥をかかせて傷つけたくないと考える未希は
余計なことをして傷つけないで欲しい、と
自尊心を買って応援する邦之と口喧嘩してしまいます。
そんな時、農地委員会から出頭を求められ
清吉とともに出席した未希に
冷めた表情の津田平吉が突き放した言い方で未希に宣告します。
「高原さんとこは不在地主と認定することに決まったのですが」
父・高原正道は満州に行ったっきりで、まだ帰国していません。
もし死んでしまったのなら相続するという手もありますが、
生存している以上、土地の所有者は正道になるわけで、
その正道が帰国しなければ、土地は不在地主となってしまいます。
あっけにとられる清吉ですが、高原家の小作であった平吉は
搾れるだけ搾り取って苦労を強いておきながら、
自分たちはいい着物を着ていいものを食べてと暮らしているわけで
平吉の怒り、恨みは未希の想像以上に大きくなっていたのです。
ただひとり、剛造だけは高原家の不在地主に反対を唱えていましたが
平吉に言わせれば、正道に飼いならされて農学校まで出してもらったので
そんな個人的な事情を主張されてやりにくくてしょうがないわけです。
他の委員たちも、直接には言いませんが
高原家の事情をくみ取れば、他の地主たちの言い分も聞かなければならず
ここは致し方なく不在地主にするしかない、となったようです。
「裏切り者にも三分の理屈か!」
何か言いたいのをぐっと堪えてきた清吉は
平吉を裏切り者呼ばわりし、
逆上した平吉と取っ組み合いの大げんかです。
平吉から清吉を引き離し、委員会を出た未希を
追いかけてきた剛造は、額を床にすりつけますが
未希は、一人になっても抵抗してくれた剛造に感謝しています。
「平ちゃんがあんなに私たちのことを憎んでたなんて知らなかったわ」
地主だ小作だといった制度は、
人間をあんなにもゆがめるものだと
つくづく感じた、とつぶやきます。
ようやく落ち着きを取り戻した清吉を高原家に連れて帰ると
ハルが飛び出してきました。
未希と清吉の留守中、男たちが数人
家の中に押しかけてきたのだそうです。
男たちは、高原家の財産税が正しく算出されているかを
捜索に来たようで、申告していない骨董品が数点、
財産の所有とみなされる期日後に売却したものが数点、と
過少申告の疑いが出ています。
清吉は、密告したのは平吉に違いない、と
包丁を持って平吉のところに向かおうとしますが、
それを未希とハルは必死に止めます。
「お父さんが喜ぶと思うの!? そんなことをして!!」
清吉は高原家の使用人として小作たちをまとめてきた立場上、
いろいろな思いが交錯したに違いありません。
追徴課税に不在地主と、よっぽど悔しかったのでしょう。
そんな清吉が、その夜、いなくなってしまいます。
今日の出来事が出来事だけに、気になって
工藤イネに未希とハルが加わって
手分けして探すことにします。
あちこち探しますが、どこにもいません。
ハルがふと気になって、蔵の中を覗いてみると
日本刀を首元に当てる清吉を見つけます。
バカ! バカ!! と体当たりし、刀を取り上げます。
「頼む! 死なせてけろ! 死んで旦那さまさお詫びするンだ!!」
清さん!
あたしが死のうと思った時に
“いのちを粗末にするな”ってひっぱたいたのは
どこの誰なんだよォ!
清さん……。
清さんが死んだって土地が返ってくるわけじゃないんだよ!
本当に旦那さまに申し訳ないって思うんだったら
これから未希さんやさっちゃんに何をしてあげたらいいか
考えるのが清さんの責任じゃないか!
清さん、死んでお詫びできる道理がないンだよ。
大変だろうけど……でも生きてさ、
未希さんやさっちゃん見守ってさ……。
死んで責任逃れしようなんて、清さん卑怯だよ!!
みんなには内緒にしとこうね……元気出して清さん!
清吉とハルが出てきた蔵に、未希が入ってみると
日本刀が見えました。
未希には、清吉が何をしようとしたか即座に分かりました。
未希は諦めていましたが、
清吉をそこまで追い詰めていたのかと思うと
急に怒りと恨みがこみ上げ、清吉が哀れに思えてきました。
作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
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[出演]
三田 佳子 (高原未希)
石野 真子 (高原佐智)
役所 広司 (浜村直彦)
渡辺 徹 (中川邦之)
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大坂 志郎 (工藤清吉)
赤木 春恵 (工藤イネ)
菅井 きん (岩田テル)
山咲 千里 (岩田初子)
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伊武 雅刀 (岩田剛造)
野際 陽子 (坂口美代)
泉 ピン子 (村中ハル)
宇津井 健 (坂口一成)
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制作:澁谷 康生
演出:布施 実
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