プレイバックいのち・(12)故郷(ふるさと)へ
昭和26(1951)年の春、
高原未希は女子医専5年の課程を修了し
波乱の青春期を過ごした東京に別れを告げて
故郷の津軽へ帰ってきました。
ともかく、未希が女子医専を無事に卒業できたのも
農地改革を乗り越えられたのも、すべては
工藤清吉と工藤イネが支えてくれたからに他なりません。
心をこめて頭を下げる未希です。
とはいえ、このまま医師になれるわけではなく
医師としてより多くの経験を積むべく
インターン生として弘前の大学病院に1年間通うため、
弘前の中川邦之の家で下宿させてもらうことになっていて
しばらくはまた家を不在にすることになります。
未希が戻ってきたことは、元小作たちの耳にも届き
岩田剛造・初子夫婦は品種改良したりんごを、
そして未希たち地主を恨んでいた津田平吉は
命を助けられて改心し、もちをついて持ってきてくれます。
いがみあっていた清吉ですが、今では笑って受け入れています。
父・高原正道の消息を知る平田という男が
高原家を訪ねてきました。
聞けば、満州からソ連に連れていかれて
昨年まで強制労働させられていたそうです。
正道とは同じ収容所だったのですが、
平田が日本に帰されたときには
正道は別の収容所に移されたそうで、
それ以降の消息は分からず。
現在は日本引揚げは中断していますが
いずれ再開したときにはきっと帰ってくるでしょう、と
つぶやく平田ですが、それがいつになるのかは不透明です。
ともかく、父のことは諦めていた未希ですから
父が生きていると分かっただけでも御の字です。
未希は涙ながらに母の遺影に報告します。
そして後日、浜村直彦、高原未希、
そして医学部に入学した中川邦之の3人で
未希の卒業祝いをささやかに開きます。
春までインターン生だった直彦は
そのまま大学病院に残ることにしたそうで、
先輩が大学病院にいるということは
未希にとってとても心強いことであります。
4月から未希のインターン生活が始まります。
どん欲な未希は日中だけでなく入院患者の経過を診たり
緊急患者の処置に立ち会ったりして
夜も病院で過ごしていました。
7月、直彦は国家試験に合格し
未希よりも1年早く医師の資格を取得して
弘前医大で医局員となります。
未希はいろいろな科を回り、
弘前に雪が降る頃、直彦のいる外科に来ていました。
当直医として直彦が務め、それに未希が残っていた日のこと。
痛い痛いとうめく老いた妻をつれて夫が医大に駆け込むのですが、
今すぐ手術しましょう、と診断する直彦に
おおよその手術料が1万円と聞いて、夫は
妻をおぶって帰って行ってしまいました。
こういうとき、医者として
どうしてあげることもできません。
そんな悶々とした気持ちを抱えたまま
未希は仮眠をとります。
結局、息子が金の工面をすると言ってくれたらしく
再び医大に連れてきて手術となりましたが、
やはり手遅れとなってしまいました。
そもそも病院に搬送される時点で手遅れであるのに
手術代金を聞いて躊躇し、迷っている間に命を落としていけば
何のための病院なのか分かりません。
医療制度を整備する必要がある、と直彦は頭を抱えます。
未希は、せめて自分だけでも
農村に根を下ろした農民のための医者になりたいと
この日の出来事を強く心に刻みます。
翌昭和27(1952)年5月、未希は国家試験を受験し
7月に合格通知を受け取ります。
6年余りを費やして、やっと医師の資格を得たのです。
「おめでと! これで本物のお医者さまだ」
合格を知って、村中ハルも
東京からお祝いに駆けつけてくれました。
出版の仕事を手がけるハルは
花田健作を津軽に連れて来ていまして、未希と対面させます。
未希は、話に聞いていた健作がこの人か、と知って
急に華やいだ表情になりますが、
健作はあっさりと、さっさと高原家を後にします。
けっこう変わった人なのかもしれません。
とはいえ、出版の仕事はそこそこ順調のようで
健作がかなり頑張ってくれているようです。
ベストセラーとまではいきませんが、
世間が認めてくれるまで時間はかかるかもしれません。
明らかにデレデレなハルに、未希は
健作と結婚しないのかと聞いてみますが、
健作とはあくまで共同経営者という立場であって
結婚とかお付き合いとかそういう間柄ではないそうで。
一方で、ハルも長年思っていたことなのですが
未希と直彦は一緒にならないのかと聞いてみます。
未希曰く、ハルと健作のようなもので
手も握り合っていないわ、と大笑い。
お互い27歳の適齢期ではありますが、
まだまだ乙女のお年頃です。
実はハルがはるばる津軽にやってきたのは
合格祝いだけではありませんで、
未希のことを心配している坂口一成の代理として
坂口の勧めを伝えにやって来たわけです。
未希がこの農村で医院を開き
6年間学費を費やし、その元もとれずに
未希の自己満足だけで続けられる世界ではないとし、
坂口の知り合いが弘前で病院をやっていて
ちょうど内科医を探しているらしく
その病院に行ってみないか、と勧めたかったのです。
そこであれば給料もしっかり出るし、お金の面でも安心です。
清吉やイネにも少しでも楽をさせてあげられるでしょうし
妹の高原佐智にも金銭的援助もできるでしょう。
弘前城東病院の石岡先生宛の紹介状を手渡すハルです。
元小作の信吉が駆け込んできました。
妻の松子が産気づいたとのことで、
じゃあイネさんだ、と笑う未希ですが、
出血が止まらないらしく、産婆さんが
未希に来てもらうように言ったため、駆け込んだようです。
未希は、産婦人科医の村田に来てもらうように佐智に連絡させ
村田が到着するまでの間のつなぎとして
未希が応急処置をすることになりました。
しばらく松子の血圧を測ってみますが
なかなか血圧が上がってきません。
これまでによっぽど出血しているようで
未希は輸血が必要と診断します。
しかしその場にいる者はみなB型で
松子と同じ血液型は未希しかいません。
ならば、と未希は自分の血を輸血することにします。
未希は産婆さんに採血してもらいます。
しばらくして、
1時間かけてスクーターで村田が到着。
松子もようやく容体が安定してきました。
未希はこんな夜中に、と村田に礼を言いますが
村田は、輸血の診断を下した未希の手腕を絶賛します。
もし輸血しなければ、赤ん坊が誕生したところで
母親がいない子になっていたところでした。
帰宅した未希は、帰り着いた途端
さすがに気を失ったように横になります。
それはそうでしょう、血を抜き取って
かつ徹夜で人の命を救ったのです。
留守を守っていた清吉と佐智は
未希を支え、栄養のつく朝ご飯を用意します。
「清さん……私やっぱりここで診療所開きたい」
「えっ」「えっ」
弘前の病院は自分でなくても務まります。
しかしこの村の医師は自分でなければ務まりません。
現に自分がここにいなければ、松子の命は助けられませんでした。
自分はここにいたい。
他の場所だったら、清吉やイネ、佐智のように
みんな自分を助けてくれないから。
こんな幸せなことはない。
一人の村人のいのちを救えたことが
未希の一生を決めさせたのです。
未希にはそれが、運命的な出来事に思えたのです。
しかし、診療所を開くお金の工面に
採血後の眠りに誘われつつ、心を痛めていました。
作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
──────────
[出演]
三田 佳子 (高原未希)
石野 真子 (高原佐智)
役所 広司 (浜村直彦)
渡辺 徹 (中川邦之)
──────────
大坂 志郎 (工藤清吉)
赤木 春恵 (工藤イネ)
菅井 きん (岩田テル)
山咲 千里 (岩田初子)
──────────
伊武 雅刀 (岩田剛造)
吉 幾三 (八木金太)
藤堂 新二 (花田健作)
泉 ピン子 (村中ハル)
──────────
制作:澁谷 康生
演出:伊豫田 静弘
| 固定リンク
「NHK大河1986・いのち」カテゴリの記事
- プレイバックいのち・(50)いのちふたたび [終](2018.12.28)
- プレイバックいのち・(49)永遠(とわ)のわかれ(2018.12.25)
- プレイバックいのち・(48)帰りなん、いざ(2018.12.21)
- プレイバックいのち・(47)さらば友よ(2018.12.18)
- プレイバックいのち・(46)ガン告知(2018.12.14)
コメント