プレイバックいのち・(14)父と娘(こ)
昭和28(1953)年の暮れ、
故郷・津軽の村で診療所を開いて1年が経ち
高原未希もやっと村人たちから信頼されるようになり
故郷の村で生きていく自信も覚悟もついてきていました。
そんな中、終戦後
消息も定かではなかった父の高原正道が
突然帰ってきました。
ソ連に8年も抑留されての帰国でした。
亡くなった妻の高原千恵の位牌に手を合わせる正道。
終戦の年の秋に胃がんで亡くなって、8年です。
正道は、自分が満州に行っていたせいで
家族にいろいろと辛い思いをさせたことを詫びます。
農地改革では、高原家を預かりながら守れなかったと
工藤清吉が平身低頭ですが、
抑留されていたソ連でも農地改革の概要は耳にしていたし
屋敷も未希も高原佐智も元気なので、
大事には至らなかったのだ、と改めて礼を言います。
お風呂と食事の支度ができましたが、
帰りの汽車の中でも眠れなかったので
横になりたいと言って立ち上がろうとした正道ですが
身体の節々が痛いらしく、座り込んでしまいます。
熱があるわ、と未希はまず診察して薬を処方します。
娘に脈を取ってもらいながら、正道は少し照れています。
「清さん、娘が医者だと大げさでいけないねえ」
翌朝、噂を聞きつけたもと小作とその家族は
正道の無事の帰還をお祝いしようと
みんなが高原病院に集まって来てくれます。
本調子ではない身体でもと小作たちの挨拶を受け
佐智は、父が小作たちによくしていたことの表れだと
とても嬉しい気分になります。
そこに、正道の弟・高原弘道と、妹・時枝も来たと聞き
今度にしてもらいましょう、と未希は断るつもりでいましたが
正道は黙って立ち上がり、応接の間へ向かいます。
時枝は、自分の言う通り婿養子を取っておけば
不在地主にならずに土地を手放すこともなかったと言い出し
足の不自由な佐智にも縁談をと頑張ってみたものの
よっぽどの持参金を積まねば結婚は無理だと言う有り様。
ただ正道は黙って話を聞いています。
未希の父が帰還したと手紙で知って
東京の村中ハルはすぐにでも
津軽に飛んでいってあげたい衝動に駆られますが、
この経済状況であれば旅費もなかなか出せそうにありません。
坂口一成は、出版社からそろそろ手を引くべきだと説得され
重い気持ちのまま出版社に向かいますが、
実質的大黒柱の花田健作は、ハルに配当の10万円を渡します。
売りたい小説だけを出版するのではなくて
子どもたちに向けた学習参考書を出版してみたら
最近の親は教育熱心であるというのも重なって
それが大当たりしたようです。
儲けられるジャンルで儲けて、
それを元手に出したい小説を出版する。
ようやく割り切る気持ちになれた、と清々しい表情です。
ハルは、ついに手を引くことを言えずじまいです。
正道は、千恵のお墓参りをします。
「私は、千恵が待っていてくれると思ったからこそ
抑留生活の辛さにも堪えて来たんだ」
今の自分には、娘たちのためにしてあげられることは何もなく
それでもここで生きていけと言われているようで
正道は号泣します。
ちょっと散歩に行ってたんだ、と帰って来た正道は
やはり熱が続いているようで、
未希は一度弘前の大学病院で
精密検査を受けさせることにします。
そこで、浜村直彦と中川邦之に対面し
これまで未希と佐智を救ってくれた御礼を言う正道です。
さらに、帰宅した未希と正道を待っていたのは
配当金を使って津軽にやって来たハルです。
ハルの話は高原家のみんながイヤというほど話してくれて
正道も会ってみたいと思っていたところでした。
正道の検査結果が出るというので、直彦に呼ばれて
未希は大学病院に向かいます。
「ご本人や周りの家族に知らせるかどうかは君の判断に任せる」
そう告げる直彦に、未希は父の病状が相当悪いことを認識します。
父は肺結核で、肺機能は最低ラインです。
他の臓器への影響も激しく、
もし高熱が出て心臓発作でも起きれば
明日にも、という可能性だってあります。
「医者ってイヤな職業ね」
そう言いながら、聞かされる側より宣告する方が
ずっとずっと辛い思いをするのだからと
直彦に感謝する未希です。
気休め言っても仕方ないんだけど、と言いつつも
正道に入院を勧める直彦ですが、未希は断ります。
「もう遅いんでしょ。また自由を奪うようなこと……」
正道の検査結果が出るからと
わざわざ来てくれた邦之に礼を言う未希ですが、
未希と一緒に結果を聞いた邦之は、ひと呼吸置いて
「未希さん、僕に佐智さんをいただけませんか」
今の病院で1年勤務出来たら新生活の目処が立つだろうと
そこで言い出すつもりだったのですが、遅すぎます。
だから、正道が元気なうちに式を挙げたい、と。
正道に佐智の花嫁姿を見せてあげたい、と。
「邦之さんが佐智をそこまで考えてくれてるなんて」
佐智は幸せだわ、と未希は涙を浮かべます。
高原家の外からも、家族たちの笑い声が聞こえて来て
そんな中に、非情な現実を持ったまま
入っていくのは勇気が要ることです。
夜空を見上げて、精一杯の笑顔を作って入っていきます。
父には、8年間の栄養失調と疲労がたまっていると言い
おいしいものをたくさんたべて、お酒は控えめに、と笑います。
しかしそれを聞いても喜ばず、頷きもしない父は
自分の病状を分かっていたのかもしれません。
未希の部屋に入ってきた佐智に
邦之が佐智をお嫁さんに欲しいと言って来た、と伝えます。
「お姉ちゃん大賛成だわ」と言う未希に対して
佐智はきっぱりと、お断りします、と返します。
思いがけない佐智の返答に、未希は言葉もなく
それが未希の胸をえぐり、説得する勇気もありません。
一方、父の死をどうやって迎えればいいのか
ひとりで絶えていかねばならず、座り続けていました。
作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
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[出演]
三田 佳子 (高原未希)
丹波 哲郎 (高原正道)
石野 真子 (高原佐智)
役所 広司 (浜村直彦)
渡辺 徹 (中川邦之)
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大坂 志郎 (工藤清吉)
赤木 春恵 (工藤イネ)
菅井 きん (岩田テル)
山咲 千里 (岩田初子)
藤堂 新二 (花田健作)
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伊武 雅刀 (岩田剛造)
吉 幾三 (八木金太)
野際 陽子 (坂口美代)
泉 ピン子 (村中ハル)
宇津井 健 (坂口一成)
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制作:澁谷 康生
演出:富沢 正幸
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