プレイバックいのち・(16)嵐の青春
昭和29(1954)年3月、高原佐智と中川邦之は
終戦直後から密かに温め合って来た愛を実らせて結婚。
愛娘の花嫁姿を無事に見られたと安堵した父・高原正道は
披露宴が終わって帰宅すると、忽然と姿を消しました。
日本酒1本とぐい飲み2つがなくなっていて
それを持ってお気に入りのところに
呑みに出かけたんじゃないの、と村中ハルは笑いますが、
高原未希は不安に感じて、母が眠る墓地に急行します。
父が、いました。
しかしすでに息を引き取っていました。
医師である未希は瞳孔を確認するまでは冷静でしたが、
父の遺体を抱きしめて号泣します。
急きょ訃報が伝えられ、式を終えたばかりの佐智と邦之、
それに浜村直彦も高原家に駆けつけます。
「無茶だよ、君がついていながら」と直彦は言いますが
未希は自分を責めてばかりです。
あれは、どちらにしても余命いくばくもない正道の
もしかしたら決死の心中だったのかもしれません。
ともかく、亡き千恵の元に行けて、今ごろは
ふたりで祝杯をあげているかもしれません。
2日後、正道の葬儀が執り行われました。
正道の恩義を忘れず、かつての地主のだんなとして
村人たちがこぞって見送りに来てくれます。
正道の死は、戦争のことが風化されつつある村人たちの心に
戦争の厳しい一面を鮮烈に思い起こさせることにもなったのです。
佐智とハルが去り、未希が診療所を再開して
清吉・工藤イネ夫婦との3人の新しい暮らしが始まります。
そんな時、いのちを助けた岩田久子が
母の岩田テル、兄の岩田剛造とともに挨拶に来ます。
子ども2人いるところの後添えにと望まれたわけですが
まずは結婚式よりも身ひとつで、と言われて明日発つそうです。
笑顔で見送る未希ですが、内心 久子が哀れで仕方ありません。
せめて夫となる男性が優しい人であることを祈るしかできません。
7月、直彦がアメリカ留学する時がきました。
2年にわたり留学するので、未希としてもとても寂しく
未希は診療所を思い切って休止し、
直彦を横浜まで送ることにします。
出立の前日、未希は坂口一成の家に入り
ハルは直彦に、未希にプロポーズするまでは寝かさないぞと
ニコニコしていますが、直彦は母・とも子がついてきていて
ゆっくり話せそうにありません。
直彦は、とも子が坂口家に上がって挨拶をしている間
玄関先で未希に思いを伝えます。
「待っていてほしい。2年なんてすぐだよ」
津軽に戻り、診療所を再開した未希。
岩田初子が3人目を身ごもり、その診察をします。
現在子どもは5ヶ月で、順調のようです。
ただ初子は、今まで言ったことがない
身体のキツさを訴えます。
今からりんごの収穫期まで多忙な日日が続きます。
もっともキツい時期に入るわけです。
未希は、初子は脳浮腫であり、ともかく今は
2倍も3倍も栄養をとるように指導しますが
すぐには治らないんでしょう、と初子。
可能であれば、子どもはすぐに下ろしたいとまで
考えるほどですから、よっぽどなのでしょう。
未希は初子の肩をポンと叩きます。
「まずは丈夫な赤ちゃん産むことだけを考えて」
さらに2ヶ月が経過したころ、初子が倒れます。
弘前の大学附属病院に搬送し、精密検査したところ
かなりな尿たんぱくが出ていました。
腎臓です。
このままでは母子ともに危険に晒されます。
未希が最初に診たときであれば
掻爬も簡単だったかもしれませんが、
妊娠7ヶ月ではとても難しいです。
ともかく入院させ、人工流産させなければなりません。
明らかに、未希の初歩的医療誤診でした。
未希は医師として大きなショックを受けながら
ただ初子に詫びて狼狽するだけで
そのショックさを言葉にできずに苦しんでいました。
1日でいいから帰らせて欲しい、入院するなら相談したいし
子どもたちにもいろいろ話しておきたいし、という
初子の願いを未希は聞き届けるのですが、
帰途の途中から嵐が吹き荒れます。
9月26日、北海道函館の海上で洞爺丸を沈没させた
台風の前触れでもありました。
未希は、バスの外に見える風景が不吉なものに思えて
ますます胸を重く暗くしていました。
作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
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[出演]
三田 佳子 (高原未希)
丹波 哲郎 (高原正道)
石野 真子 (中川佐智)
役所 広司 (浜村直彦)
渡辺 徹 (中川邦之)
藤堂 新二 (花田健作)
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大坂 志郎 (工藤清吉)
赤木 春恵 (工藤イネ)
今福 将雄 (八田鶴松)
菅井 きん (岩田テル)
山咲 千里 (岩田初子)
小林 千登勢 (浜村とも子)
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伊武 雅刀 (岩田剛造)
野際 陽子 (坂口美代)
泉 ピン子 (村中ハル)
宇津井 健 (坂口一成)
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制作:澁谷 康生
演出:金沢 宏次
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