プレイバックいのち・(30)津軽の少女たち
昭和34(1959)年、春。
東京では皇太子殿下のご成婚が華やかに執り行われ
そのパレードがテレビで全国に中継されました。
同じころ津軽では、その年 中学校を卒業した少年少女たちが
都会へ集団就職するために故郷を旅立とうとしていました。
日本は、昭和39(1964)年の秋に開催予定の
東京オリンピックへ向けて高度成長への道をひた走り始め、
労働力の不足を農村に求めて
男たちは冬場の農閑期を出稼ぎに行き、
中学卒業の若い労働力は
「金のたまご」ともてはやされて
都会へと就職し始めていたのです。
津田平吉の娘・征子も、そのひとりでした。
扁桃腺の腫れも引き、熱も下がった征子に
東京へ出発してもいいでしょう、と診断を下す岩田未希。
中川邦之は、身体を壊したら何にもなんねえど? と
無理だけはしないように、と励まして送り出します。
「大山十文字」のバス停まで
征子を見送りに出た未希と中川佐智、工藤清吉。
そこには、征子と同じように集団就職する
絹子と昭子が両親とともにバスを待っています。
やがて、弘前ゆきのバスがやってきて
中学生たちと村中ハルがバスに乗り込み
音を立ててバスが出発していきます。
未希は、わが子が旅立つように征子を見送ります。
車中では、落ち込み気味の3人の前で
わざと明るく振る舞うハル。
工藤イネが作った草餅を振る舞って元気づけます。
学業優秀だった征子はどうしても高校へ進学したいわけですが、
高校進学の条件が、「働きながら夜間高校に行く」だったので
津軽の高校は選べなかったようです。
征子は、未希のような女医になれたらいいなぁ、と憧れますが
ハルは、未希もアルバイトしながら医者になったんだからと
小さな夢も励まします。
ハルは、征子たちの様子も知りたいし
自分が征子たちと同じ年齢のころに軍事工場で働いた経験があり
何かと力になってやりたいという気持ちがあって
それぞれに自分の名刺を渡します。
征子たちを無事に上野駅まで送り届けたハルは
坂口一成邸から到着の一方を未希に入れます。
東京に到着した征子と入れ替わりに
冬に出稼ぎに棟京に行っていた平吉が津軽に戻ってきます。
平吉は上野駅で出迎えることができなかったそうですが、
その代わり東京の工場に行って征子と少し話せたそうです。
高校の入学手続きも未希がしてくれていたということで
征子はとても驚き、喜んでいた様子です。
平吉の出稼ぎ話ですが、東京オリンピックや新幹線開通に向けて
いろいろと建設ラッシュが続いておりまして、
まとまった金が得られ、平吉の羽振りもよくなっています。
家に手を入れたり、テレビや車を買ったり、と夢は大きいです。
そんな話、ウチを巻き込まないでほしい、と
テルは眉間にシワを寄せます。
剛造も複雑な表情で話を聞いていますが
平吉はケタケタと笑うばかりです。
その年の秋、町立病院の建設が決まったと
清吉が走って知らせに来ました。
その話は計画段階から未希も聞いていて、
農村医療分野での恩師・園田先生が
院長になることから心強いと笑いますが、
清吉は、町立病院ができたら村の診療所はどうなるのかと
危機感を持っていただけに、
未希の笑顔を見てなんだか拍子抜けです。
そんな時、征子たちとともに集団就職で東京へ行った
鈴子が帰ってきていました。
しかし鈴子は、中学生までの明るさはどこかへ消え
人に会いたがらない、無口な娘になっていました。
優しく事情を効く未希ですが、
どうやら青森の言葉をバカにされていたらしく
それでもう東京には行きたくない、と戻って来たようです。
いわゆる、ノイローゼです。
母親は、そんなことで! と東京へ送り返すつもりですが
言葉の壁は意外に大きい、と未希は鈴子の背中をさすります。
そして母親にも、鈴子は東京で傷ついて帰って来ているのだから
怒ったら病気は治らない、とゆっくり諭します。
しばらく行き来が続いていた征子も
最近は顔を出すことが少なくなり、
友だちでもできたのかしら、と
ハルは征子に会いに行ってみることにします。
定時性高校の生徒をつかまえて征子の所在を聞くと
1ヶ月ぐらいしか顔を出していないらしく
それからは学校では見ていない、と聞いたハルは
征子が働く工場に向かいます。
夜遅くまで働いて
くたくたになって出てきた征子を問いつめ
ハルにもようやく事情が分かってきました。
テレビ生産の受注が急増し、この人手不足の中、働いている
従業員だけでその受注を受けるには残業に残業を重ねていくしかなく、
いつかきっと高校には通わせてやる、と征子を言いくるめて
今はとりあえず文句を言わずに働け、と働かせているようなのです。
征子はそんな社長の言葉を信じて、黙って半年近く働いているのですが
ハッキリ言って、今から復学したところで出席日数が足らないので
2年次に進級はできません。
まぁそこは、経験不足から判断を誤ったところではあるのですが、
そんな社長に食って掛かるハルは、
こんな男に何を言ったって分かりっこない、と
こんな工場なんかやめちまえ! と征子の手を引っ張って行きます。
ハルは征子を坂口家に連れ帰ります。
ハルとしては、工場も定時性高校も辞めさせてしまった手前
自分が征子を預かるという気持ちでいるわけです。
できることなら征子に高校受験をやり直してもらって、
ハルがお金を出して高校に通わせる、と。
しかし征子はハルの娘ではないので、
ハルだけの一存では決められない部分ではあります。
未希を通じて平吉夫婦に説得してもらい、許可をもらえたら
坂口家から征子を高校に通わせて欲しい、と頭を下げます。
征子も勉強がしたいと言うので、一成も美代も
征子のお世話をするのには賛成してくれます。
ハルから知らせを受けた未希は、
平吉と松子を呼んで征子の事情を説明。
ハルが代わって高校に通わせることになったことを伝えると
平吉夫婦はとても喜びます。
確かに、働いていれば給料がもらえるわけで
進学となれば給料はゼロとなってしまいますが、
平吉夫婦は特に征子の給料はあてにしているわけではなく
勉強したいのならそれを優先して、と考えているようです。
「征子のこと、よろしくお願いします」
そういう夫婦の返事を未希から聞いて、
ハルと征子は抱き合って喜びます。
人と人の絆はどこでどう結ばれているかは分からないと
不思議な感覚でいる未希は
ハルと征子の出会いが、お互いに
幸せなものでありますように、と祈らずにはいられませんでした。
冬が来て、また津軽から出稼ぎで男たちが出て行き
主を失った津軽のりんご園も、少しずつ荒れ始めていました。
作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
──────────
[出演]
三田 佳子 (岩田未希)
石野 真子 (中川佐智)
渡辺 徹 (中川邦之)
小林 綾子 (征子)
──────────
大坂 志郎 (工藤清吉)
赤木 春恵 (工藤イネ)
菅井 きん (岩田テル)
野際 陽子 (坂口美代)
──────────
伊武 雅刀 (岩田剛造)
吉 幾三 (八木金太)
泉 ピン子 (村中ハル)
宇津井 健 (坂口一成)
──────────
制作:澁谷 康生
演出:布施 実
| 固定リンク
「NHK大河1986・いのち」カテゴリの記事
- プレイバックいのち・(50)いのちふたたび [終](2018.12.28)
- プレイバックいのち・(49)永遠(とわ)のわかれ(2018.12.25)
- プレイバックいのち・(48)帰りなん、いざ(2018.12.21)
- プレイバックいのち・(47)さらば友よ(2018.12.18)
- プレイバックいのち・(46)ガン告知(2018.12.14)
コメント