プレイバックいのち・(34)いとしき妻
昭和36(1961)年11月、東京の郊外に開院した岩田未希は
周辺に開業医がまだ少なかったこともあり
未希の誠実な診療に信用がついて多忙な毎日を送り、
半年後には地域に根付いた開業医に成長していました。
世話になった主人の葬式に参列するために東京に出てきた岩田剛造は
ついでに病院を訪ねて来て未希と対面しますが、
手術が2件立て込んでいて、なかなか会話の時間すら取れません。
夜遅く、ようやく手術が終わり
未希は剛造をすき焼きでもてなします。
そんな時にも往診依頼です。
胃が悪かった患者が吐血したそうです。
オラの心配はせねで、存分なことをして差し上げるンだ──。
今夜のうちに帰るという剛造を、せめて上野駅まで送るんだと
自分が戻るまできっと待ってて、と未希は約束しますが、
未希が戻ってきたときには、剛造は病院を発った後でした。
坂口一成に学会で会った時、未希が東京で開業していると
聞いた浜村直彦は、さっそく高原医院を訪問します。
研究を続けて助教授に進んだ直彦は
まさか未希が東京にいるなんて、と目を細めます。
しかし1年の期限付きであることに
このまま病院を離れるのはもったいない、と反対します。
津軽に帰らなければならない責務がある、と言っても
家族を説得してでも東京に残るべきだ、と引きません。
未希には未希の事情がある、と分かった上なので
直彦もある程度のところで説得をやめるのですが、
未希のためを思ってのその忠告が未希の心を揺さぶります。
ただ、未希の気持ちは変わりませんでした。
8月5日、中川佐智は次男を出産しますが
未希はついに津軽に帰省しませんでした。
残された毎日を後悔なく生き切るために
一日でも多く東京の病院に関わっていたかったのです。
赤ん坊は『力』と名付けられます。
邦之の両親・修造とトキは大喜びです。
中川家の長男に子どもがおらず
三男の邦之に2人子どもがいれば、
仮に邦之が高原家の養子に入ったとしても
この『力』が中川家の後取りとすることができます。
トキは邦之に、そろそろ津軽で開業することを勧めます。
高原医院はもともと未希の病院なのだし
未希が東京から戻ってきたら、医師は2人は必要ないのです。
病院の設立費用ぐらいなんとかする、と言い出します。
佐智も、弘前に帰る覚悟はしておいた方が、と説得します。
子どもたちも、学校に上がる年齢になれば
津軽よりも弘前の方が環境が整っているので好都合なのです。
邦之は、決心の時かもしれない、とつぶやきます。
人工流産の相談をして来た高3女子が睡眠薬を服用し
手首を切って自殺を図りました。
大学受験を前に、妊娠の事実が重荷になったのかもしれません。
両親の信頼も高かったため、相談できなかったのかもしれません。
ともかく、決死の自殺であったことは確かです。
手首は縫合し、落ち着かせていますが
今度は陣痛が始まります。
狼狽える両親に、未希はてきぱきと指示を出し
出産の準備に入ります。
真夜中から明け方まで、続きます。
そして元気な男の赤ちゃんの泣き声が──。
そしてこの高校生との出会いが、
津軽に帰るつもりでいた未希を
東京に留まりたいという気持ちにさせます。
その話をハルから聞いて慌てて駆けつけた坂口医師は
表立って反対を唱えたりはしませんが、
家族に反対されたら黙って引き下がれ、と忠告します。
病院の医師の代わりは何人だっているのですが、
岩田家の母ちゃんの役割は未希にしかできないのです。
無理はしないように、との言葉を胸に
未希は家族を説得するために津軽に帰ります。
人生の岐路に立っている未希にとっては
とても荷が重い旅でした。
作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
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[出演]
三田 佳子 (岩田未希)
石野 真子 (中川佐智)
役所 広司 (浜村直彦)
渡辺 徹 (中川邦之)
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大坂 志郎 (工藤清吉)
赤木 春恵 (工藤イネ)
菅井 きん (岩田テル)
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伊武 雅刀 (岩田剛造)
野際 陽子 (坂口美代)
泉 ピン子 (村中ハル)
宇津井 健 (坂口一成)
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制作:澁谷 康生
演出:布施 実
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