プレイバックいのち・(41)津軽のおんな
昭和48(1973)年10月17日、岩田未希と剛造の長男・岩田竜夫と
高校入学の時から村中ハルが面倒を見て来た津田征子との
華燭の典がハルの経営する結婚式場で行われました。
東京オリンピック開催を契機に
高度成長を続けてきた昭和40年代の日本とともに
急成長した高原病院とハルの事業との
全盛期を象徴するような豪華な結婚式でした。
披露宴は滞り無く終わり、
竜夫と征子は人々の祝福を浴びて
沖縄へと新婚旅行へと旅立って行きます。
その披露宴に出席した浜村直彦は、
実は5ヶ月前に大学病院を退職したようです。
心臓外科も新技術の下でどんどんと
新しい手術が始まって成果を上げている一方で、
まだまだ危険が伴うということから、直彦の大学病院では
なかなかさせてもらえなかったことが直接の原因です。
坂口一成は、あと少し我慢していれば教授ポストが回って来ると
思っていたんだけどねえ、と退職を残念がっていますが、
直彦としては、どんどん手術をして腕を上げたかったのでしょう。
今は循環器系統の病院で技術を磨いているようです。
元気だ、と思っていた岩田テルですが、
若干、認知症(※放送では「老人性痴呆症」)の傾向が見られます。
披露宴の翌朝から、テルに精密検査を無理矢理受けさせますが
血圧も高く心電図にも異常が見られ、腎機能の低下は顕著です。
動脈硬化が原因で、特に脳の血の巡りがよくないらしいです。
そして認知症は……改善することのない病気です。
東京の高原病院で入院させて未希が面倒を見てもいいのですが
今のテルには、大好きな家族に囲まれて
幸せに過ごした方がよさそう、ということになって、
剛造が津軽へ連れて帰ることにします。
式の翌日、石油産油国の生産調整が発表され
新婚旅行に旅立ったはずの竜夫と征子は
高原病院に戻ってきました。
夫婦喧嘩でもしたのかい? と大場甚一郎は心配しますが、
竜夫は高原病院事務局として、日本に入る石油量も制限されるから
今のうちから重油を確保しておかなければ、と戻ってきたようです。
10月18日、アラブの産油国、石油輸出国機構が決議した
原油の生産調整は全世界に大きな波紋を呼びます。
ついで25日に出された日本への原油供給約10%削減の通告は
日本をオイルショックというパニックに陥れたのです。
戦時中からの極度の物資不足を経験している主婦たちは
ものがなくなるという恐怖で買いだめに狂奔し、
各地で洗剤やトイレットペーパーなど
買い占め騒動が話題となります。
物価はうなぎ上りに上がり
いろんな企業が大きな打撃を受けることになって、
日本の高度成長も
ついに歯止めをかけられることになったのです。
翌、昭和49(1974)年5月。
妊娠9ヶ月となり、明日からは
畑仕事に出なくていいぞ、と剛造に言われた典子です。
典子が、家で留守番をしているテルに声をかけると
家の中から煙がもくもくと……。
中川邦之から高原病院に連絡があり、
すぐに津軽へ帰って来るように、と知らせが入ります。
寝台特急に飛び乗って津軽へ帰る未希が目にしたのは
半焼している岩田家でした。
剛造が学校から帰って来るからいろりに火を焚いた、と
テルは言っているそうで、
まさかここまで病気が進行しているとは
未希も思わなかったようです。
「どうしてもっと早く知らせてくださってたら……」
あまりのショックに未希もつい言葉を荒げますが
でも剛造が悪いわけではありません。
むしろ悪いのは、妻の義務を放棄している自分なのです。
そしてこの騒動でショックを受けた典子は
産気づいて男の子を出産します。
1ヶ月早い出産とはいえ、元気な赤ちゃんということですが
典子にも苦労をさせてしまったのだと泣き崩れます。
テルは未希が東京へ連れ帰り、お世話することになりました。
出発の時、典子に挨拶をする未希ですが、
出産してから未希が顔を見せてもそっぽを向いていた典子は
この時初めて未希を見、頭を下げます。
「ばっちゃを、宜しくお願いします」
典子は今まで、未希を恨んでいろんな仕打ちをしてきましたが
自分が子どもを産んで初めて、未希がいろんなものを犠牲にして
竜夫や典子の母親になってくれたかを理解したそうです。
涙ぐむ未希と典子の横で、ニコニコしているテルです。
いよいよ出発の時、長年ともに過ごした工藤イネは
大粒の涙でテルを見送ります。
この時、テル76歳。
物心ついたときから津軽の山村で働き続け、
休むことを知らなかった女がようやくにして迎えた休息でした。
この姑の晩年を安らかに送らせてあげたい。
それは私たちの務めだ、と未希は思っていました。
しかし自分にどれほどのことができるのか。
暗い気持ちでテルを見つめながら、
未希は嫁としてだけではなく一人の医者として
これから増え続けるであろうテルのような老人の介護について
いま悩み始めていました。
作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
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[出演]
三田 佳子 (岩田未希)
岸本 加世子 (岩田征子)
役所 広司 (浜村直彦)
渡辺 徹 (中川邦之)
石野 真子 (中川佐智)
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大坂 志郎 (工藤清吉)
赤木 春恵 (工藤イネ)
菅井 きん (岩田テル)
新藤 栄作 (岩田竜夫)
柳生 博 (大場甚一郎)
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伊武 雅刀 (岩田剛造)
吉 幾三 (八木金太)
野際 陽子 (坂口美代)
泉 ピン子 (村中ハル)
宇津井 健 (坂口一成)
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制作:澁谷 康生
演出:布施 実
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