プレイバックいのち・(47)さらば友よ
村中ハルが開腹手術を受けてから1年半が経った
昭和59(1984)年の秋、手遅れと言われながら
よくがんとの闘いに耐えてきたハルでしたが、
ハル自身、死期が近いのを知る日が来ていました。
医師になって30年余り、多くの患者の死を診てきた
岩田未希でしたが、ハルの場合は特別の思いでした。
医師として親友として、どうしたらハルに
安らかな死を迎えさせてやることができるか──。
動けるうちに津軽に行って、津軽で死にたい。
そう望むハルに、未希は頷き、同意します。
浜村直彦は、津軽に行って寿命を縮ませるよりも
医師として最善の治療をして延命するべきだと反対します。
しかし八木金太は、病院で辛い思いをして少し生き延びるより
好きなことをして逝かせたほうがいい、と声を絞り訴えます。
「誰が何と言おうと、ハルさんを津軽さ連れて帰ります!」
強い決心の金太に、しかし、と反論する直彦ですが
医者として判断は間違っているかもしれませんが
未希も同じ気持ちなのです。
未希と岩田征子、それにハルが
津軽に向けて東京を出発するというんで
高原家ではてんやわんやの大騒ぎ。
3人揃っての帰郷は、それぐらい珍しいのです。
飛行機に乗って来たので、夕方には津軽に着いたのですが
ハルは車から降りても歩けるだけの元気はありません。
それで心配していた工藤清吉やイネでしたが、
未希からハルの病状について説明を受け
ハルさんまだ若いのにそんなひどいことを……と
イネは号泣します。
「代われるもんなら私が代わってやりたい」
金太は、ハルが津軽が好きだと言っても
津軽のいいところは何も知らないので
元気なうちに連れて見せてあげたいと言います。
そりゃ無茶だよ、と中川邦之は言葉を遮るのですが
金太の熱い思いに動かされ、
未希か征子が付き添うならば、と渋々条件を出します。
「金ちゃん……ふたりで行っといで!」
未希の言葉に、驚きを隠せない邦之ですが
そうさせて、と未希に懇願されれば、もう何も言えません。
ハルを助手席に乗せて、金太は
りんご園に行って、もいだりんごをハルにプレゼントし
十和田湖に行き、渓谷ではおぶって、
素晴らしい景色を見せます。
宿泊する宿で、宿帳に
八木金太 ハル 妻
と書いて、恥ずかしそうに女将に出します。
ここの宿は、もしハルが自分と結婚してくれたら
新婚旅行に来ようと決めていたところだったらしく
ハルにフラれ続けた金太が思い出を語ります。
金太が自分に対して好意を持っていたことは
さすがのハルでも察知していたわけですが、
それはハルも金太のことが大好きだったからです。
ただ、仕事好きな女房を持つと男は不幸になる、と
ハルは金太の告白に頷かなかったわけです。
夫婦になれば、きっとケンカ別れしていたでしょう。
ビジネスパートナーだったからこそ、
夫婦よりもずっと心の通った関係でいられたのです。
「金ちゃんも年なんだから、そろそろ落ち着かないと」
ホントにありがとうございました、と頭を下げます。
いろいろ楽しかったね……悔いの無い人生だった。
一番好きな男と旅に出られて、果報者だ、私。
ふたりで大粒の涙を流します。
ハルは何も言いませんが、どうやら身体が痛いようだと
高原家に電話して来た金太に
邦之は、なるだけ早めに帰って来たほうがいい、と
アドバイスします。
そして翌朝、帰ってくるわけですが
ハルには激痛が襲い、身体を押さえつけ
鎮痛剤を投与して落ち着かせます。
落ち着いて目を覚ましたハルの横では
イネが編み物をしていました。
死ぬ覚悟はとっくにできてる、と言いつつ
死んだらどうなるの、と不安がるハルに
イネは、少し眠って目を覚ましたら
生まれ変わって誰かになっている、と話します。
別れではなくて、来世でまた会える。
そう信じてる。
そういうイネに、ハルは
少しだけ先の希望を見いだします。
清吉がもいできたりんごをジュースにして
ハルに飲ませようとした時、
再び激痛が襲います。
邦之は、今使用している鎮痛剤では
ハルの痛みは抑えることができません。
モルヒネは最終手段でしかないのです。
医師として冷静な判断をする邦之と
友人としてモルヒネ投与を先延ばししたい未希の
意見は真っ向から対立しますが、
結局は邦之の主張に沿う形を取ります。
夜、清吉は井戸水をかぶり
ハルの病気平癒を祈ります。
見舞いに訪れた金太に、未希は
ハルに昨晩からモルヒネを飲ませていることを伝えます。
モルヒネを飲めば麻薬中毒になるから
精神状態が普通ではなくなってしまうことを断った上で
何か話したいことがあったら、今日が最後だと思って
話しておくように言われます。
未希、金太、邦之、佐智、イネ、清吉が
ハルの枕元に揃います。
「また……会えるね……」
ハルはそっと目を閉じます。
──未希さんとの出会いは、私の生涯を
どんなに豊かにしてくれたか御礼の言葉もありません。
悔いの無い一生でした。
せめて感謝のしるしに何か贈りたいと思っていたのですが
不動産や資産の整理をしましたら、
結局銀行の借入金などで何も残りませんでした。
あんなに働いて何にも残らないなんて
何のために苦労したのか分からないけど
私自身はいつも精一杯生きられただけで
素晴らしい人生だったと満足しています。
私は家具も着物も宝石も持っていません。
ただひとつだけ好きな指輪があります。
それを入れておきますので、金ちゃんに渡してください。
金ちゃんには、陽子さんに結婚指輪として
贈るように伝えていただければ幸いです。
最後に我がままを言わせてください。
私のお骨の半分は両親の墓に、
半分を津軽の野に埋めていただけたら
こんなに嬉しいことはありません。
津軽で好きな人たちのそばにいたい。
清さん、イネさん、邦之さん、さっちゃん、剛ちゃん、
坂口先生、奥様、典子さん、たっくん、そして征子に
くれぐれもよろしくお伝えください。
みんなのおかげでハルは
幸せな人生を全うすることができました──。
大親友・ハルを送り
未希は、東京の高原病院は征子と竜夫に任せて
自分は津軽に帰って来ようかと考え始めます。
もう自分のしたいことは充分にさせてもらえた。
今はただ、剛造のそばにいたい。
「もうここで、のんびり暮らすのもよかべ」
剛造はにっこり笑います。
ハルの死は、未希に
人の命のはかなさをおしえてくれます。
医者としてただ夢中に
生きて来た30年余りがふと虚しく思えて、
今自分にとって一番大事なものは何か
やっと気がついた未希でした。
二度と東京へは帰らない、と
未希は固く心に決めていました。
東京の高原病院で何が起こっているのか
もちろんその時の未希には知る由もありませんでした。
作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
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[出演]
三田 佳子 (岩田未希)
岸本 加世子 (岩田征子)
役所 広司 (浜村直彦)
渡辺 徹 (中川邦之)
石野 真子 (中川佐智)
大坂 志郎 (工藤清吉)
赤木 春恵 (工藤イネ)
野際 陽子 (坂口美代)
新藤 栄作 (岩田竜夫)
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伊武 雅刀 (岩田剛造)
吉 幾三 (八木金太)
泉 ピン子 (村中ハル)
宇津井 健 (坂口一成)
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制作:澁谷 康生
演出:富沢 正幸
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