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2018年12月25日 (火)

プレイバックいのち・(49)永遠(とわ)のわかれ

東京の高原病院で
竜夫による医療保険請求の杜撰さが問題となっていて
病院経営の危機を知った未希がショックに
打ちのめされていたまさにその時、

津軽の中川邦之から、東京の岩田未希に
岩田剛造が倒れたとの知らせが入ります。
剛造が農業賞を受賞し、家族で祝ってから
まだ1週間も経っていませんでした。

邦之の初診では、脳出血らしいというのですが、
弘前の津軽中央病院に運んで、
検査はこれからというところです。

時間を確認して、翌朝の飛行機に乗るよりは
今晩の夜行列車に乗った方が
まだ早く津軽に戻れるということで、
未希は津軽へ急行します。


「今ごろ戻って来たって遅いよ!」
ずっと付き添っていた岩田典子が
涙ながらに訴えます。

未希は剛造の名前を呼びますが、眠り続けています。
未希は剛造の首の辺りを持ち上げると
表情を一変させて邦之を見据えます。
「……どうして!?」

邦之は未希を外に連れ出し、病状を説明します。
初めは脳梗塞か脳出血を疑ったのですが、
脳にできた腫瘍から出血しているらしく
すでに手の施しようがなかった、というのです。

脳出血であれば、脳外科で除去する手術ができるので
助かる見込みがあったのですが、
脳腫瘍で大量出血ともなれば、手術はできません。
それよりも、もう意識が戻ることはありません。

典子は、父が気づいたときに兄・岩田竜夫が
いなかったら寂しい思いをするだけだからと
東京から今すぐに呼び戻して欲しいと懇願し、

分かった、と頷きつつ、
家のことがあるだろうからと典子をいったん家に帰し、
代わりに未希が付き添うことにします。

「剛ちゃん、私の言うこと何も聞こえないの?
 私の顔も見えないの?」
剛造のベットの横でずっと付き添う未希は
剛造の顔をのぞき込み、涙を流します。


高原家から邦之と佐智が、岩田家から典子が
そして東京から竜夫と岩田征子が病室に集まります。

剛造のそばに付き添わせてほしい、という未希に
未希はとても疲れているから少しぐらいは看病を代わったら、
と休養を勧める征子と佐智ですが、
好きにさせて欲しい、と未希は頭を下げます。

医者として口にしてはならないことだけど、と断った上で
征子は、剛造の意識はもう戻らないと分かっているから
医療器具に取り囲まれている剛造が痛々しいとつぶやきます。
端的に言えば、これ以上の治療は無駄だというわけです。

「1分1秒でも長く生きて欲しいの」
剛造が生きていてくれたら、どんなことだってする。
生きていてくれたら、そばにいてあげられる。
未希の決意は固いです。


征子が病室に見舞いに訪れた時には
剛造の人工呼吸器が外されていました。
夜、剛造の容体が思わしくなく
外してもらったようです。

ただ、手を握った感じから剛造は熱があるようなので
もしかしたら肺炎を併発しているのかもしれません。
すでに2週間が経過しているので、相当衰弱していますし
肺炎併発はとても危険です。

病院から帰った征子は、病状を邦之に打ち明けます。
「そいだばもう……長くはねえな」


剛造が、ついに自力で呼吸できなくなってしまいました。

気管切開することにします、と医師が告げ
邦之は力強く頷きますが、
未希は身体を震わせ、首を横に振ります。
「やめてください……いい! もういい! そんなことまでして」

典子は、早く呼吸ができるようにしてあげてくれと叫びますが
剛造はここまでよく頑張ったのだから
楽にさせてあげたいと未希は言います。

「人殺し! あんたそれでも医者か!
 父っちゃんはあんたが殺したんだぞ!」
生かして欲しいという望みが叶わないと知ったとき
典子は未希に激しい言葉をぶつけます。


そのまま剛造は息を引き取ります。

りんご園に花が咲く
昭和60(1985)年の5月のことでした。

地元で信望の厚かった剛造の葬儀は盛大に行われ
まだ人生を閉じるには早すぎる65歳の剛造の死を
みな嘆き悲しみます。

しかし未希には、まるで他人事のように通り過ぎます。
今の未希の心を占めているのは、限りない後悔の念でした。

葬儀に参列してくれた坂口一成・美代夫妻は
笑顔を見せず無口にうつむく未希を見て
いろいろと言葉をかけて励ましますが、
未希の耳にはまるで届いておりません。

仕事をしたほうが気持ちが紛れるかな、と
坂口の提案で東京に戻ることも薦めますが、
未希はうつむいたままつぶやきます。
「私は津軽に残ります……」

そして医者も辞めるつもりでいます。
村中ハルの病気も見つけられず、
剛造の病気も治せず、死なせてしまいました。

高原病院も、理想を追い過ぎて経営失敗し
いまは征子や浜村直彦らで
何とか再起しようとしているところなのです。

夫婦も犠牲にして、何のために病院を大きくして来たのか
それを考えると、未希には無気力になってしまうだけの
相当な理由だったのかもしれません。


剛造と暮らすはずだった家に入った未希は
位牌が無くなっていることに気づきます。

位牌は典子らが住む母屋に移したと知り
竜夫は典子に食って掛かりますが、
今まで夫を省みず東京でぜいたくに暮らして来た母より
20年間面倒を見て来た自分たちの思うようにやって
何が悪いのか、という態度です。

征子は同じ医者として未希の気持ちを代弁しますが、
父が自分の金で建てた家には住んでもらいたくないし
敷居はまたがせないと強く反発。

「ごめんなさい……高原に帰るわ」
未希は力なく、引き下がるしかありませんでした。


高原家に戻った未希は、自室で引きこもるようになりました。

清吉が未希を励まそうと、外に出かけることを薦めます。
平吉がやまめ取りを提案していることを言うと
幼いころ、剛造と一緒に取りに行ったわ、と
剛造や典子たちのことを思い出しては力なく肩を落とし、

イネは清吉に厳しい表情で首を横に振ります。

60年生きて来て、初めてぶつかる大きな壁でした。
しかし未希には、それを越える意欲も情熱も
尽きようとしていました。


作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り:奈良岡 朋子
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[出演]
三田 佳子 (岩田未希)
岸本 加世子 (岩田征子)
役所 広司 (浜村直彦)
渡辺 徹 (中川邦之)
石野 真子 (中川佐智)
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大坂 志郎 (工藤清吉)
赤木 春恵 (工藤イネ)
新藤 栄作 (岩田竜夫)
高木 美保 (岩田典子)
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伊武 雅刀 (岩田剛造)
野際 陽子 (坂口美代)
宇津井 健 (坂口一成)
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制作:澁谷 康生
演出:伊豫田 静弘

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