連続テレビ小説おしん・少女篇(13)〜(18)
おしんは、7歳当時のことを思い出して
その周辺に訪問してそこに住む住人に聞いてみますが
覚えている人がまるでいません。
まぁ、7歳の記憶なんて乏しいわけだし
記憶違いをしている可能性だって充分にあり得るのですが、
それを訪ねる旅だって分かっていながら
おしんにはそれが少し寂しさを感じずにはいられません。
おしんは、あの日の自分を見つめていました。
プツンと音を立てて何かが切れ、奉公なんてやめたと
猛吹雪の中、母・ふじのいる村へ帰ることしか
おしんの頭にはありませんでした。
しかし、深い雪に阻まれ、おしんは身動きが取れなくなります。
気がつくと、掘建て小屋にいろりがあり
見たことのない男が横に寝ています。
俊作という男が、おしんを助けてくれたようです。
初めは拒絶するおしんでしたが、
熱いたぬき汁を飲ませてもらい、少し元気になります。
中川材木店では、主の中川軍次が
おしんの盗人騒動について聞かされます。
つねがお財布を置いて納屋に行っていたスキに
50銭銀貨がなくなっていたので、
その時に屋内にいたのはおしんしかおらず、
おしんの身体を改めると50銭銀貨が出てきたのです。
7歳と言えども盗人は厳しく指導せねば、と
当然のことをしたまでという態度のつねですが、
おしんに悪いことしたなぁ、と軍次がつぶやきます。
「使いにやるのに銭がなかったから借りたンだ」
忘れていたでは済まねえす、と妻・きんは軍次に言います。
確かにその50銭銀貨は、奉公に出るときに
おばあちゃんがくれたもの、と言っていました。
盗人の濡れ衣を着せられ、おしんはもう戻って来ないかもしれません。
ともかく、草の根をかき分けてでもおしんを探し出そう、と
軍次が言うと、おしんは帰ってくるす、とつねは言います。
1年間の奉公を途中で逃げ出したならどんなことになるか
7歳のおしんでもよく分かっているはずだ、というのです。
雪は小ぶりになってきました。
今のうちなら山を下りられそうです。
おしんにも心配している人がいるのだからと
里に返そうとする俊作ですが、
奉公先を逃げ出して来て、帰るところがない、と言うおしんに
俊作は、ここにいればいい、とニッコリします。
俊作もなにか事情がある男のようで
その境遇が似ているおしんを、俊作は守りたいようです。
おしん探しは続いておりますが、
中川を出てすでに20日が経過しているので
もしかしたら生家に戻っているかもしれません。
おしんの生家に行ってみるという源助に、つねは50銭銀貨を手渡し、
おしんに会ったらそれを返しておいてくれ、と頼みます。
こちらの勘違いだった、すまねえ、と言うきんの言葉を遮って
余計なことは何も言うな、と口止めさせるつねです。
生家にたどり着く源助は、ふじに
おしんが奉公先を逃げたことを告げ、
オレの顔に泥を塗ってくれたな、とご立腹です。
おしんが逃げ出すという大それたことは
作造もふじも考えつかないことでありまして、
おしんを探すというふじを、作造は止めます。
自分たちの子どもはおしんだけではない、と。
そして源助から預かった50銭銀貨を見て
祖母のなかは、おしんの身に何かが起こっていることを知ります。
ともかく金も持たずに行動しているわけで
ふじもなかもとても心配しています。
帰って来た俊作がバタッと倒れてしまいます。
驚いたおしんは松造を呼んで来て
松造の指示を受けておしんは湯を沸かします。
俊作には203高地で受けた鉄砲玉が体内に残っているようで
調子が悪くなると発熱し、倒れてしまうんだそうです。
いつか、松造の息子たちも
203高地で戦争に出て命を落としたと言っていました。
俊作も戦争の被害者か、そう感じながら
おしんは、恩返しにと必死に看病します。
そもそも自分には人助けする資格なんてあるのか。
そう感じる俊作はおしんに、たまに怒ったような
おしんを寄せ付けまいとする俊作に幼心を傷つけられながらも、
おしんの看病によって、再びおしんに心を開かせることになります。
いつかおしんは、本を読めるようになりたいと言っていました。
俊作は礼も兼ねて、字を教えることにします。
ああおとうとよ 君を泣く
君死にたもうことなかれ
末に生まれし君なれば
親のなさけはまさりしも
親は刃をにぎらせて
人を殺せとおしえしや
人を殺して死ねよとて
二十四までをそだてしや
堺の街のあきびとの
旧家をほこるあるじにて
親の名を継ぐ君なれば
君死にたもうことなかれ
旅順の城はほろぶとも
ほろびずとても 何事か
君知るべきや あきびとの
家のおきてに無かりけり
君死にたもうことなかれ
すめらみことは 戦いに
おおみずからは出でまさね
かたみに人の血を流し
獣の道に死ねよとは
死ぬるを人のほまれとは
大みこころの深ければ
もとよりいかで思されん
ああおとうとよ 戦いに
君死にたもうことなかれ
すぎにし秋を父ぎみに
おくれたまえる母ぎみは
なげきの中に いたましく
わが子を召され 家を守(も)り
安しと聞ける大御代(おおみよ)も
母のしら髪(が)はまさりぬる
暖簾のかげに伏して泣く
あえかにわかき新妻(にいづま)を
君わするるや 思えるや
十月(とつき)も添(そ)わでわかれたる
少女(おとめ)ごころを思いみよ
この世ひとりの君ならで
ああまた誰をたのむべき
君死にたもうことなかれ
日露戦争の時に旅順軍隊にいる弟に作った与謝野晶子の詩です。
戦争をするために親は子どもを育てて来たわけではない。
新妻だっているし、弟は大事な人なので
戦争の勝ち負けに関係なく、どうか無事に帰って来て欲しい。
俊作は、おしんだっていつか戦争に巻き込まれるときがくるわけで
そんな時に、今日の俊作の話を記憶の片隅に置いていてくれたら
俊作はそれでいい、と思っています。
「どんなことがあっても、戦争があってはいけない」
ふじは、奉公先を出奔して20日も過ぎている
おしんが生存している可能性は低いと
収穫できた米と引き換えにおしんに戒名を付けてもらいます。
このままではおしんが浮かばれないのです。
そんなことで米を無駄にして! と作造はふじを殴りつけますが
作造もおしんがかわいいからこそ、生きていると信じたいのです。
とはいえ、雪の中でおしんが冷たくなっていて、
せめて極楽に言って欲しいとふじが親心でそうしたまでです。
俊作は、戦争で死んでいった人たちの供養に
いや、自分が殺した人たちの供養に観音像を彫っています。
これから何十年も生きていくわけで、その一生で
辛いこと苦しいこと、嫌なやつにだって会うでしょう。
しかし決して人を憎んだり恨んだり、傷つけるようなことは
してはならない、と俊作はおしんにおしえます。
人を恨み憎めば、結局自分も辛い思いをするだけなのです。
人を傷つければ、結局自分も傷つけられて苦しむだけなのです。
もし人を恨んだり憎んだりしたくなったら、
その前に相手の気持ちになってみろ、と。
どうしてこの人は自分につらく当たるんだろう、
何か理由があるはず。それに思い当たったら、自分の悪い所は治す。
自分に悪い所がないのに相手が横車を押すようなことがあったら
その時は相手を責めずに哀れんでやれ。
理由なくおしんをいじめる人は、きっとその人も不幸なんだ。
心が貧しくてかわいそうな人間なんだ、と思え。
おしんには、人を許せる人になってほしい。
おしんには、俊作の気持ちはよくは分かりませんでしたが
自分はどんなことがあっても、人を愛せる人になるんだと
愛すということがどういうことかも分からずに、
胸にしっかりと留め置きます。
春が来て雪が溶けはじめ、
俊作と松造の別れのときがおしんに近づいていました。
別れに俊作はおしんにハーモニカを吹いてみせ
おしんにそれを渡します。
おしんがつらい時、慰めになると思うからです。
俊作はおしんをつれて、山を下りていきます。
そんな時、憲兵が数人山を登って来るのを見て
陰に隠れる俊作ですが、それを黙ってやり過ごして
急いで山を下りようとした時、
振り返った憲兵に見つかってしまいます。
連行されそうになる俊作とおしんですが
俊作は憲兵たちを殴り倒し、おしんを抱きかかえて
山を下りていきます。
後ろから2発の銃声が聞こえ、俊作が倒れます。
おしんは、後悔しない生き方をしろ──。
それが俊作の遺言でした。
喫茶店から山形の街並を見ながら
おしんは与謝野晶子の詩を読み
それを黙って聞いている圭です。
おしんの目には、涙があふれていました。
作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り手:奈良岡 朋子
──────────
[出演]
小林 綾子 (おしん)
泉 ピン子 (ふじ)
中村 雅俊 (俊作)
大久保 正信 (松造)
──────────
大橋 吾郎 (圭)
伊東 四朗 (作造)
乙羽 信子 (おしん)
──────────
制作:岡本 由紀子
演出:竹本 稔
| 固定リンク
「NHK朝ドラ1983・おしん」カテゴリの記事
- 連続テレビ小説おしん・アナザーストーリーズ『運命の分岐点』(後編)(2019.12.27)
- 連続テレビ小説おしん・アナザーストーリーズ『運命の分岐点』(前編)(2019.12.24)
- 連続テレビ小説おしん・完結篇(292)~(297) [終](2019.12.20)
- 連続テレビ小説おしん・完結篇(286)~(291)(2019.12.13)
- 連続テレビ小説おしん・完結篇(280)~(285)(2019.12.06)
コメント