連続テレビ小説おしん・青春篇(79)〜(84)
田倉竜三と結婚する決意を固めてから
おしんは全く新しい人生を歩もうとしていました。
今まで重荷になっていた実家への送金も
兄の家を建てたら竜三と一緒になれるという希望で
苦にならなくなっていましたが、周囲の事情は
おしんが考えているようには簡単には進みませんでした。
竜三は源右衛門に、おしんと
結婚の約束を交わしたことを打ち明けます。
それはもちろん、勘当されることも
田倉商会を出されることも覚悟の上です。
源右衛門は激高し、結婚には大反対です。
作造を見ていれば子どもの育ちはよく分かると
おしんはろくでもない女だと決めてかかるのです。
竜三はいっそ、今日
祝言を挙げてしまおうと言い出します。
田倉商会を畳むなら、
源右衛門は佐賀に帰ることになりますが
その前に、おしんと一緒になって
おしんの人となりをみてもらおうという竜三の思惑です。
「私は今日でも。とっくに心に決めてしまったことです」
自分の一生を決めるのに、誰に相談するっていうのか。
おしんは、自分で自分の道を決めたのです。
表情も晴れ晴れしていました。
晴れ着も文進高島田もない、参列する客もいない。
おしんはふと、加代の盛大な婚儀を思い出していました。
自分の責任でひとりの男性を愛し、
結ばれたことが幸せだったのです。
<br />竜三と結婚を誓った小さな神社に
おしんおばあちゃんと圭が来ていました。
結婚なんてあれこれ考えていたら
できるようなものじゃないのかもしれない、と
おしんは圭に諭します。
あれだけ周囲に反対されてたからこそ
カーッと血が上って、踏み切れたのでしょう。
安田浩太のことは考えなかったのか圭が尋ねると
伏し目がちにおしんは答えてくれます。
「初恋は初恋さ」
ただ、浩太との辛い過去がなければ
竜三の、また違った暖かい愛情も感じることができずに
一緒になっていなかったかもしれません。
祝言を挙げたふたりは、そのまま田倉商会に入り
おしんの部屋を引き払い、引っ越しを始めます。
あっけにとられる源右衛門に、おしんは
先日の父の無礼の許しを請い、
嫁としての挨拶口上を述べます。
「不束者ですが精いっぱいやりますので!」
祖父の代からお仕えしている源右衛門としては
こんな結末になってしまってはもはや顔向けできず
どんなにお詫びしてもお詫びしきれないと悲しみますが
竜三は、もう結婚してしまったのだからと聞きません。
おしんの、田倉家での生活が始まりました。
竜三との新婚生活は楽しいものに間違いないのですが
おしんは、やはり源右衛門には気が重く
そんなおしんを見て、竜三はつぶやきます。
「俺たちも新婚旅行ってもんに行こうか」
そんなのんきなことも言っていられないわけですがw
おしんなりの明るさで、源右衛門に
裏方のしごとについて教えを請おうと振舞いますが、
源右衛門はまったくシカトを決め込みます。
朝ご飯を作る合間を見て掃除も済ませ
竜三が起きてくるのを見計らって
洗顔の湯と髭剃り、石鹸もさっと用意する。
源右衛門の出番がまったくありません。
奥の用事はあらかた済ませ、
おしんは変わらず、出髪に出ていきます。
妻を働かせるのは男としては情けないことなのでしょうが
実家を建てていることもあり、事情が事情なのです。
喫茶アテネに入ったおしん。
昨日はいきなりお休みするという
連絡だけしておいたらしく
病気がぶり返したのではないかと
染子たちはとても心配していたのですが、
大家が言うには、昨日引っ越して、
その引っ越し先は田倉商会らしい、というのは
すでに染子たちの耳に入っているようで
どういうことよ? とおしんをからかいます。
「おしんちゃん……あんた、ホントに田倉さんとこへ?」
それが正しい情報だと知ると、
染子はびっくりしてたばこを落っことすし
八重子は飲んでいたお茶で蒸せるし、大騒ぎです。
それでも染子は、大喜びです。
夕飯時に、おしんは帰ってきませんでした。
女房が夕飯に席を空けるというのは
妻としての資格がないことだ、と
源右衛門は今からでも結婚反対の立場ですが、
いざ台所に行って夕飯を作ろうとすると
そこにはおしんからの置き手紙があり
用意していた夕飯をどうぞお二人で、とありました。
源右衛門は目を疑います。
手際の良さも感心ですが、
おしんの置き手紙を読んだ源右衛門は
おしんの字の達筆さに舌を巻きます。
酒田の加賀屋でくにから受けた教育のことを竜三から聞き
小学校も出とらんのに、と言葉も出ません。
夜、帰宅したおしんは源右衛門に
そろばんで計算してみてください、と突然課題を出されます。
とまどいながら、源右衛門の金額読み上げに
次々と計算していきます。
そろばんができるのを確認したうえで
源右衛門はおしんへの新たな課題として
毎朝の帳面付けを伝えます。
そのことが、竜三の癪にさわったようで
妻にそんなことをさせなくていい、と
源右衛門を怒鳴りつけます。
源右衛門の目的は分かっているのです。
おしんのあらを探して
嫁には向いていない、と言いたいだけなのです。
竜三と源右衛門の仲裁に入るおしんですが
自分に反抗するなら勝手にしろ、と怒られてしまいます。
でも、源右衛門は源右衛門で帳簿をおしんに任せます。
加賀屋でみっちり仕込まれたおしんには
帳簿を見ただけで会社の経営状況は一目でわかります。
それは竜三の人柄がよく出ているような状況で
商品の回転率は非常に高く、儲かっているように見えますが、
売掛金を長期間にわたり回収していなかったりして
実際はなかなか苦しい状況であるわけです。
それを源右衛門に尋ねるおしんですが、
その状況は分かっているし、お伝えしているとした上で、
「わしはおしんさんに帳面ばつけてくんさいとお願いしたとです。
帳簿ば見てくださいと言った覚えはなかですけんね」
ただ、今のうちに売掛金回収の手を打たなければ
いわゆる“黒字倒産”ということにもなりかねません。
しかし源右衛門は、女子が経営に口さしはさむことは
許されない、とおしんの助言に聞く耳を持ちません。
ある夜、竜三は海外の大切な取引先を接待していて
妻が茶の湯をたしなむ、ともののはずみで言ってしまい
おしんが駆り出されることになりました。
茶の湯もくにに仕込まれていたので困りませんでしたが
何せ約十年ぶりにお茶を点てることになり戸惑いつつ
体で覚えたことはいつまでも覚えているものですね。
取引先のフォックス夫妻も満足して帰っていきます。
おしんの見知らぬ男が、突然田倉商会を訪ねます。
佐賀にいる竜三の父・大五郎でした。
来るときが来た、とおしんは思いました。
竜三と結婚した時から
田倉商会を出なければならないことは
とっくに分かっていて、覚悟もできていたのです。
せめていい印象を持たれようと、
おしんは笑顔で大五郎をもてなします。
どうやら源右衛門が大五郎に報告を入れたそうです。
それを知り竜三は、自分たちが田倉商会から出ていけば
もう関わりのないことだから、と最後の抵抗をしますが、
源右衛門は、おしんのことを褒めて手紙をよこしたのです。
心の優しい娘で、小さいころから苦労を知り
思いやりがある気の利いた女性である、と。
それどころか料理もできて腕は立つし
竜三もかなわないほどの商売の腕もある、と。
源右衛門は実はむかし
大五郎とともに茶の湯を習ったことがあり、
大五郎よりも極めた源右衛門でさえ
おしんの行儀作法は褒め上げたものだ、と。
源右衛門のほうから、二人を一緒にさせてやってくれと
大五郎に手紙を送ったわけです。
「竜三とおしんさんは、一緒になることを許すたい」
源右衛門は涙を流し、おしんは大五郎に頭を下げます。
そして、実は自分の姿をしっかりと見ていてくれた
源右衛門にもお礼を言います。
その夜、電報が届けられます。
山形の父・作造の危篤を知らせる電報でした。
今の今まで幸せに有頂天になっていたおしんを
一気に奈落の底に突き落とすような知らせでした。
大五郎が上京してきたこの時に、と
おしんは気になりますが、源右衛門もいることだし
大五郎は、おしんを山形へ帰してやります。
実家に帰り着いたおしんですが、
庄治の妻のとらと初めて対面します。
おしんは持ち前の明るさであいさつしますが、
とらは不愛想で、あいさつなく家に引っ込んでしまいます。
作造は眠っていました。
しかし眠っているのは旧家で
新築の家ではありませんでした。
昨日帰ってきたおしんの姉・みつも弟・正助も
妹・こうも寝たのは旧家の方だったのです。
正義感の強いおしんは父の世話をするように庄治に言いますが
なんやかやと理屈をつけて、結局は何もしません。
おしんが送った金も、作造にであり、
自分にではない、と非協力的です。
旧家の作造から呼ばれたおしんは、
作造の優しそうな表情を見て
恨みや憎しみは消えていました。
「おしん……お前ばっかり当てにして、勘弁してけろな」
今、父として心配なのは
奉公に出ている娘たちが嫁にいきそびれることでして、
23歳のみつ、21歳のおしんは特に気にしています。
できることなら、生きているうちに
娘たちの祝言をあげてやりたかった。
そうつぶやく作造に、おしんは
竜三と祝言をあげたことを報告します。
酒だ、と言って結婚の祝いをする作造。
おしんは嬉しくて、涙をこぼします。
「こっだぁいい酒初めてだな」
作造はその夜、息を引き取ります。
しかし死んだ者に金を使っても
意味がないという庄治の意見で
作造の葬式は形ばかりで済まされます。
庄治の家では、地主にかけあって
年貢米の引き下げを交渉する段取りを
話し合うのだそうです。
ふじによれば、それをたきつける人がいるようで
もしかしたらその中に
安田浩太もいるんじゃないかと思うおしんでしたが、
浩太はあとからやってきました。
おしんは、結婚したことを浩太に伝えます。
浩太はおめでとうと言って祝福してくれます。
「幸せにならなきゃいけないよ」
何か言いかけたおしんを振り切って
浩太は庄治の家に入っていきます。
おしんは、結婚を浩太に伝えたことで
初恋への決別を果たします。
<hr />
作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り手:奈良岡 朋子
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[出演]
田中 裕子 (おしん)
泉 ピン子 (ふじ)
渡瀬 恒彦 (浩太)
並木 史朗 (竜三)
今福 将雄 (源右衛門)
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伊東 四朗 (作造)
北村 和夫 (大五郎)
大橋 吾郎 (圭)
乙羽 信子 (おしん)
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制作:岡本 由紀子
演出:望月 良雄
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