連続テレビ小説おしん・自立篇(145)~(150)
「今宵限りおいとま頂戴いたします」
おしんのいきなりの申し出に、
大五郎も清も唖然としています。
これまでの嫁いびりを考えれば
おしんがもう何もかもイヤになって
出て行くというのも分からなくもないですが、
愛を亡くしたことで、清とは和解をしたはずです。
それを一転、出て行くとは
おしんがこのままここに居残っても、
一生を畑仕事で終わってしまうことに
苦痛を感じているからで、
もっともっと羽ばたきたいと考えている
おしんであるようなのです。
清は、あんな程度の畑仕事で音を上げるようであれば
もうおしんは田倉の人間ではない、と突き放します。
そして雄のことも、田倉家の息子であることを考えれば
本家で引き取るのが正解であるかもしれませんが
おしんはあくまで雄を引き取る覚悟です。
子と一緒であればこそ、頑張れる気がするのです。
翌朝早くに田倉家を出るつもりだったおしんですが、
雄を清から取り返すのはもはや絶望的でした。
せめてもう一度だけ頭を下げてみるか、と
奥に入ったおしんを恒子は呼び止めます。
おしんと源右衛門の墓で待ち合わせしよう、と。
そこにきっと、雄を連れてきましょう、と。
おしんは、恒子の真意を量りかねていましたが、
ここは恒子の言う通り源右衛門の墓で待つしかないと
単身、向かうことにします。
親戚のじいさんの見舞いにいくと清が出て行ったスキを見て
恒子は雄をつれて急いで源右衛門の墓に向かいます。
待っていたおしんに雄をおんぶさせ、
あとのことはどぎゃんでもなる、と
おしんをなるだけ遠くに急がせます。
恒子が戻ると、清がすでに戻って来ておりました。
始めこそ恒子が疑われておりますが、そこはうまく話をずらして、
おしんが連れ戻しに来たのだろうと思わせて、
竜三にも知らせずにおしんの後を追いかけさせます。
圭とともに旅行中のおしんおばあちゃんは
「田倉家累代之墓」と彫られた墓石の前で
手を合わせます。
大五郎も清もこの中に入ってしまいました。
福太郎、恒子の名前もあることから
長男夫婦も亡くなったのでしょう。
今日も山から街並を見下ろし、あちこちを歩き回り、
無事にホテルに帰り着きました。
圭がおしんをいたわると、鍛え方が違う、と笑われます。
おしんが若かった頃は日本そのものが貧乏のどん底でした。
だから貧しくても大して苦にはならなかったわけですが、
今は一円でも多く稼ぐことしか頭になく、どうしてガツガツ
稼ぐのか……それすらももう思い出せないままです。
仁おじさんと何があったか、圭は思い切っておしんに聞きますが
「東京で送った荷物、もう着いただろうね」と
はぐらかされてしまいます。
その荷物、確かに伊勢の田倉家に届いておりました。
仁の嫁の道子は、何か家での手がかりがあるのではないかと
おしんが自身宛に送った小荷物を開封して改めたのですが、
冬物の着物があるばかりで、手紙すら残っていません。
自分に宛てた荷物に、自分宛の手紙を書く人はいないでしょうから
いうなれば、冬物の荷物が要らなくなったから送っただけで
しばらくは帰りません、という意思表示であることは確かです。
東京で荷物を発送していることから、東京にいるようなので
「スグモドレ」の広告を打つことも考えますが、
ここがイヤで飛び出したのに、わざわざ呼び戻すこともあるまいと
道子が突っぱねます。
当時、佐賀から東京までは3日かかり、
東京にたどり着いたときには
さすがのおしんも疲れ果てていましたが、
出迎えてくれる人もいるわけではなく、
当てに出来るのはやはり、東京で髪結いをしていた
髪結長谷川のたか師匠のところだけでした。
表で1時間ほど待ち続け、閉店時にお邪魔するというのは
師匠の手を止めてはならないというおしんなりの気遣いです。
たかはおしんと再会し、佐賀から山形への里帰りと思っていましたが
実はそういう簡単な話ではなさそうであることを感じ取っていました。
2番目の子供は亡くなったと言うし、もう佐賀に戻るつもりはないと
いきなり泣き出すおしんに、言葉はなくても察せられるものがあるのです。
ひととおりの説明を受け、たかは表情を曇らせます。
「うちにいりゃあいいじゃないか。私も助かるし」
たかの弾んだ声を聞きながら、おしんは少し不安でもありました。
いつかの右手のケガも今ではほとんど治ってはいましたが
果たして髪が結えるのかどうか、おしんには自信がありませんでした。
あたしの髪を結ってもらおうか、とたかはおしんに言いますが、
やはり右手が思うように使えず、ぎこちなさがたかに伝わります。
たかはそれをしばらく髪結いから離れていたからだと考えていましたが、
やはりコテでたかに火傷を負わせてしまいます。
「やっぱりダメです……私髪結いはできません」
髪を梳くぐらいならなんとかというところですが、
細かい作業になると右手が思うように使えず、
だから針も持てません。裁縫もできないのです。
といって、たかはそんなおしんを手放さず、むしろ手元に置いて
長い時間でゆっくり治していこうと言ってくれます。
日本髪専門だったたかが洋髪に方向転換したのも、
おしんがいてくれたからで、その感謝があるわけです。
ただ、おしんには髪結いができない以上
ここでやっかいになる理由がなくなっていました。
どうにか迷惑をかけずに雄とふたりで暮らしていけるところを探して
おしんは、同じく佐賀を飛び出した佐和を訪ねてみます。
佐和は料理屋で働いていましたが、
子連れの住み込みが出来ない決まりになっています。
佐和は、雄と一緒にいられてできる仕事を探した方が、と
提案します。
失意のままたかの店に戻ると、店の前に健が立っていました。
関東大震災の時にとても気に入られ、ひと肌もふた肌も脱いで
おしんと竜三のために奔走してくれた健は、相変わらずでした。
健の笑顔に、おしんのこころに小さな明かりを灯してくれます。
もう何もできないの、と寂しそうに語るおしんを見て、
かつての露天商のようなことができますか? とけしかけます。
そりゃあたしだって……!! と言うおしんに、
うまくいけば100圓、いかなければ女郎飛ばし、の条件を出します。
おしんと健が盛り上がっているところで、たかは大反対です。
仕事がないならいざ知らず、裏方として手伝ってくれるなら
言うことはないのに、ということのようです。
おしんは、髪結いとして活躍するたかたちを見るのが辛いようで
それならいっそ、そとに出て行った方が、という考えなのです。
おしんの性格を一通りは知っているたかは、
もうおしんを止めるようなことはしませんでした。
健が連れていったのは、どんど焼きの屋台でした。
材料をどれぐらい使うか、どれぐらいの価格に設定するか、
人をどれぐらい呼び込むか、それはすべておしんの裁量に任せます。
おしんの気持ちの中で、
3〜4年前のなつかしい光景が蘇っていました。
震災という大変な時を乗り越えて来た同志たちと
ふたたび同じ場所で商売できるなんて夢にも思っていませんでした。
翌朝から完全に店を任される形になったおしんですが、
それよりも早い時間に健がたかの家にやってきました。
何でもおしんから雄と暮らせる家を探したいと打診があり
健はすぐに見つけて引っ越しの段取りまで付けて来たのです。
打診したとはいえ、おしんは
すぐにそんな部屋が見つかると思っていないし
たかにはまだ話していなかったのですが、
「どういうことだよ!」と言われれば、さすがの健も
頭をぽりぽり掻きながらいなくなるしかありません。
とはいえ、いつも独立を考えていたおしんのことです。
たかに止めるだけの理由なんてないことは分かっていました。
たかはおしんの背中を押します。
おしんの商売も軌道に乗り、大正14(1925)年も明けます。
正月の忙しなさを越えた頃に、ようやく
竜三に宛てて手紙をしたためますが、
竜三に見せる前に清が勝手に開封し、破り捨ててしまいます。
そのことを知らない竜三は、いつまで経っても
手紙一つ寄越さないおしんに苛立ちを覚え、
清の言うように後添えを考える時期に
来ているのかもしれないと思い始めていました。
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作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り手:奈良岡 朋子
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[出演]
田中 裕子 (おしん)
並木 史朗 (竜三)
高橋 悦史 (仁)
浅芽 陽子 (道子)
香野 百合子 (佐和)
ガッツ 石松 (健)
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渡辺 美佐子 (たか)
高森 和子 (清)
北村 和夫 (大五郎)
大橋 吾郎 (圭)
乙羽 信子 (おしん)
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制作:岡本 由紀子
演出:吉村 文孝
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