大河ドラマいだてん 東京オリムピック噺・(26)明日なき暴走 〜涙の激走!日本人女性初の五輪選手~
大日本体育協会に、1928(昭和3)年
アムステルダムオリンピックへの招待状が届きますが、
4年に一度のオリンピック、行きたいのはやまやまながら
そう度々では足が足りなくなってしまいます。
「じゃあいっそやめるか」
嘉納治五郎は気の抜けた声で放り投げます。
そんなに連れていきたいなら金を集めて来い、
予算が取れればその分の参加もかまわない、という
岸 清一の一声で発起した田畑政治(たばた・まさじ=まーちゃん)は
担当していた政治家・高橋是清邸に押しかけます。
高橋是清といったら、内閣総理大臣を2度
大蔵大臣を6度も務めた大物中の大物であります。
スポーツと政治は無関係、という信条の是清に
オリンピックは国のためになるのかと聞かれ
「なりませんな」と即答するまーちゃん。
しかし、スポーツを通じて若い人たちに
希望を持たせることは出来る、と。
西洋人を打ち負かし、いつかは自分たちも! と。
その力を政治でも利用すればいいではないですか、と言うのです。
そうして獲得した特別金6万円です。
寄付金4万円と足せば、全員が行くことができます。
嘉納治五郎でさえ15年かけてできなかったことを
彼はたった1日でやってのけたのです。
まーちゃんは、厳選なる選考の結果
水連から11名の選手を選出しアムステルダムに送り出します。
そして水泳部監督は、もちろんまーちゃん!
といきたいところなのですが、いくら立憲政友会総裁の高橋是清から
オリンピックのために6万円も分捕ってきたとはいえ
もともとは朝日新聞の政治部記者(立憲政友会担当)でありまして
緒方竹虎から国内でお留守番を厳命されてしまいます。
人見絹枝──。
日本人初の女性オリンピック選手。
4年前の神宮外苑競技場で行われた復興運動会では
増野シマが岡山まで行ってスカウトした選手が頭角を現し
その翌年、岡山から上京して二階堂体操塾に入学。
50m走6秒8、槍投げ26m37、三段跳び11m62など
いくつもの種目で日本記録を打ち立て
世界新記録を出した三段跳びでは国際大会から招待も受けますが
「お断りするつもりです」
絹枝が走ると「化け物」「妖怪」と野次が飛び
跳べば「バッタ」と呼ばれ、何もせずに立っていると
「六尺さん」「大木」と笑われます。
そんなところに嫌気が差していたのです。
二階堂トクヨは、メダルも結婚もしなければダメ、と
どちらも手に入れてこそ、初めて女子スポーツ界に
革命が起きると説得します。
「変えるべきよ、女子スポーツの未来を」
恩師に励まされ、出場した国際大会において
100m走では12秒4の世界記録を打ち立て
絹枝は総合優勝を果たします。
そしてついにこの年、オリンピック総会で
女子の陸上競技がオリンピックの正式種目に採用。
絹枝の出場に期待がかか……るところですが、
いくら世界新記録の記録を持っていたところで
こういう大きな舞台では魔物が潜んでいて勝てないというのは
金栗四三が実証済みであり、慎重にならざるを得ません。
女子陸上の話ではあるので、まーちゃんは関係ないところですが
渡航費の特別予算を分捕って来たのはまーちゃんでありまして、
金を出し、口も出す性格のまーちゃんは、言いたい放題です。
「勝ち負けにこだわるのはオリンピックの意義に反する?
そりゃ明治の話だよ、今昭和だよ? 参加することに意義?
ないわー。いい加減勝てよってみんな思ってるよ」
選手の気持ちを面倒見るのが監督であり協会である。
選手に全部背負わせるからプレッシャーに押しつぶされて
実力が発揮できんのだよ! 何してたの今まで!!
これまでのオリンピック結果報告会でも
まーちゃんが言いたかったことは
この言葉にすべて集約されている気がしますが、
意外にも、四三はまーちゃんの言葉に頷きます。
昭和3(1928)年6月、オリンピックに出場する日本選手団は
シベリア鉄道でアムステルダムを目指します。
日本人初、たった一人の女子選手は“姉御”と呼ばれ
男子選手の選択や縫い物の世話をしたそうです。
そして7月28日、
第9回アムステルダムオリンピックが開幕。
この大会から聖火台が設置されます。
オランダと日本の時差は8時間あるので
現地の運動部記者が記事を書き、モールス信号で送って来る。
それを文字に起こし直すのですから、時間もかかります。
写真は、郵送すると2週間かかってしまうというので
あらかじめ撮っておいた写真を組み合わせて雰囲気を出します。
翌7月29日、陸上競技が開幕。
しかし全国民の期待を一身に背負って
固い表情のままグラウンドに出て行った絹枝は
4位でメダル獲得はなりませんでした。
短距離、長距離、障害で敗走した選手たちが次々と戻って来て
絹枝は、一度も走ったことのない800m走の出場を懇願します。
男子はこのまま帰れるだろうが、女子はやはり男子の真似をしても
スポーツに向いていないのだ、女子にスポーツは無駄だと笑われる。
「わたしこのままでは日本に帰れません。日本の、女子選手全員の
希望が、夢が、私のせいで絶たれてしまう!」
お願いします! お願いします!! という絹枝の
絶叫にも似た懇願が、野口源三郎の気持ちを動かします。
野口に男子長距離選手の織田・南部も加えての
作戦会議を開き、全力で絹枝をサポートします。
800mを走ったことのない絹枝は、絶対にスタミナ切れする。
だからまずはトップ走者について行くことだけを考えて
ラスト一周でスパートで追い抜け。
足がきつくなったら腕を触れ。
「私の体に、どうか明日一回走る力を与えてくださいませ」
8月2日、女子800m走決勝。
インコースからのいきなりのクラウチングスタート。
号砲と同時に一気にトップに躍り出る。
「姉御下がれ! そんなに跳ばしたら持たねえよ! 姉御!!」
そうだ、100mではなかったんだ。
たちまち速度を緩めて6位に下がる。
2周目に入り、これからは未知の世界。
なかなか順位が上がらない。足もダルい。
「姉御! 腕だ! 腕を振れ!」
5位、4位、3位と順位を上げる絹枝に歓声が沸く。
絹枝の速度はどんどん上がる。
最終コーナーでは横を走る選手と足が交錯するも
すぐに立て直し、そのまま一気に追い抜いて2位につける。
トップを走るラトケとの差がどんどん縮まる。
5m、4m、3m、2m……。
そしてゴールが目前に迫ったとき、
絹枝の意識が遠のく……。
ヒトミ リキソウ ギンメダル
記録2分17秒4!
堂々の世界新記録であります。
そして、絹枝の激走を目の当たりにして火が着いたのが
織田幹雄が三段跳びで日本初の金メダルを獲得。
水泳も負けてはいません。
鶴田義行が200m平泳ぎで金メダル。
800mリレーが銀メダル。
高石勝男が100m自由形で銅メダル。
いつもとは違い、まーちゃんをローズに誘う竹虎。
まーちゃんに、結婚の話が持ち上がっていたのです。
しかしまーちゃんはそれを即座に断ります。
「兄が死にました。肺病です。33でした」
悲しみに暮れる兄嫁の姿を見て、
まーちゃんは生涯独身を貫くと誓ったのです。
日本選手団が帰国してきました。
のちに出演したラジオ番組で、
絹枝をスカウトしたシマちゃん先生はこう言ってくれたと
手紙で語っています。
貴方に対する中傷は、世界へ出れば賞賛に変わるでしょう──。
日本の女性が世界に飛び出す時代がやってきたのです。
幸せなことに、大和魂を持つ日本の女性なのです。
3年後、人見絹枝は24歳の若さでこの世を去ります。
※このドラマは、史実を基にしたフィクションです。
作:宮藤 官九郎
音楽:大友 良英
題字:横尾 忠則
噺(古今亭志ん生):ビート たけし
──────────
[出演]
阿部 サダヲ (田畑政治)
中村 勘九郎 (金栗四三)
桐谷 健太 (河野一郎)
斉藤 工 (高石勝男)
三浦 貴大 (野田一雄)
大東 駿介 (鶴田義行)
上白石 萌歌 (前畑秀子)
柄本 佑 (増野)
杉咲 花 (増野シマ(回想))
──────────
森山 未来 (語り)
神木 隆之介 (五りん)
荒川 良々 (今松)
川栄 李奈 (知恵)
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永山 絢斗 (野口源三郎)
黒島 結菜 (村田富江(回想))
菅原 小春 (人見絹枝)
根岸 季衣 (田畑うら)
萩原 健一 (高橋是清)
──────────
リリー・フランキー (緒方竹虎)
三宅 弘城 (黒坂辛作)
皆川 猿時 (松澤一鶴)
古舘 寛治 (可児 徳)
岩松 了 (岸 清一)
寺島 しのぶ (二階堂トクヨ)
薬師丸 ひろ子 (マリー)
役所 広司 (嘉納治五郎)
──────────
制作統括:訓覇 圭・清水 拓哉
プロデューサー:家富 未央・吉岡 和彦
演出:大根 仁
◆◇◆◇ 番組情報 ◇◆◇◆
NHK大河ドラマ『いだてん』
第27回「替り目」
デジタル総合:午後8時〜
BSプレミアム:午後6時〜
BS4K:午前9時〜
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