連続テレビ小説おしん・太平洋戦争篇(199)~(204)
昭和12(1937)年7月7日の盧溝橋事件をきっかけに
日本は泥沼のような戦争にのめり込んでいました。
しかし遠い大陸での戦争は、おしんにとって
戦争の残酷さも恐れも切実なものではありませんでした。
それより、5人の子どもの暮らしを守ることの方が
大切なおしんです。
年の暮れ、竜三の次兄で陸軍少佐の
亀次郎が田倉家を訪ねて来ました。
いかめしい軍服姿での亀次郎の来意がつかめず、
おしんはなぜかイヤな予感がして不安でした。
そしてその不安は的中するのです。
中学3年生に成長した雄の姿を見て、
陸軍士官学校に志願するとよか、と言い出したのです。
雄は軍人の世界について興味があって、
いろいろと聞いてみたいことがあるようですが、
おしんは、亀次郎の話を聞かせずに
雄に店の手伝いをさせます。
おしんが竜三に聞いたところでは、
店の魚を津の連隊に魚を入れてはどうかと提案があったようです。
納入できるかどうかは入札で決まりますが、
軍に入るかどうかは亀次郎が口利きできるだろう、というのです。
おしんは、幼い日、絶対に戦争はしてはならないと言った
俊作兄さんのことを思い出していました。
翌朝、亀次郎といろいろと話があるのだ、と言って
店は休む、と宣言した竜三に代わって
おしんがひさびさに浜に仕入れに向かいます。
ひさはとても喜び、とびっきりの魚をよけてくれました。
ただ、村の若い衆が2〜3人、軍に引き取られたようで
この小さな村にも戦争の手が迫っていると感じたおしんです。
思考転向したことで特高警察から釈放された浩太ですが
だいぶ元の明るさを取り戻しつつあるものの
未だに特高警察に監視されている現状、黙りこくったままです。
竜三が帰宅しました。
兄の亀次郎の顔の広さに満足げな竜三は、
何としても津の連隊への納入業者になるぞと
決意を新たにしています。
おしんが子どもたちにこんなふうにのびのびと
育って欲しいと願う親心とともに
竜三にも子どもたちに苦労や心配をかけずに
育って欲しい気持ちがあると知ったおしんは、
竜三のことがなんだか愛おしく思えて来ました。
おしんは決心しました。
竜三がしようとしている連隊への納入について
どうにかやってみるしかない、と。
ただ、そうなれば田倉家は軍の関係者となり
たとえ冗談でも軽々しく戦争反対などと言えなくなる
ということだけは肝に命じておかねばなりません。
数日間、竜三が各地を飛び回って根回しを計った結果
軍の業者となることが決定しました。
とはいえ、上機嫌な竜三をみながら、
おしんはなぜか心が晴れませんでした。
寂しそうな後ろ姿を見せて帰っていったひさを思いながら
戦争の時代に明暗を分けた二つの生き方が
おしんの胸に痛みを残していました。
竜三の選んだ道が果たして正しかったのか不安だったし
とうとう軍に頼って生きて行くことにも不安だったのです。
田倉魚店にトラックがやってきました。
荷物を運びに来たわけではなく、自店で買ったものです。
これからは軍に納入する分だけで稼げるようになるので、
おしんにはしばらくお休みしてもらうつもりです。
が、それではいはいとお休みするおしんではありません。
竜三の仕事には口出ししない約束で、
御用聞きもいくぶんか減らした上で店を続けたいというのです。
あまりのおしんのヤル気に根負けする竜三です。
昭和13(1938)年春、
田倉家にとって重大問題が持ち上がります。
雄の進路先を考える時期が来ていたのです。
「僕は陸軍士官学校に行くことに決めている」
どうしても行きたいんだ、と雄は思いをぶつけます。
そんなことを考えていたなんて、と竜三はしばらく黙りますが
息子が決めた道なら、と笑顔で背中を押してあげます。
しかし、部屋の裏で聞いていたおしんは黙って入ってきて
「母さんは反対だよ」と言うのです。
雄にとって軍人は最も立派な職業で、戦争をしている今、
自分たちが軍人になって日本を守らなければならないと思っています。
日本を守ることは天皇陛下やお国を守るだけではなく
家族を守ることにもなるわけです。
軍人も大嫌い、戦争も大嫌い、そんなおしんが
今は軍のおかげで商売が出来ている。
そしてその息子を軍に上げることに反対するとは
「母さんはズルいよ」と雄に言われてしまいます。
戦争反対だなんて言える時代ではないし
言ったらただでは済まない時代になってしまったのです。
雄にそう指摘されて、おしんは何も言えなくなります。
初子は、雄が子どものころのおしんの苦労話を
聞かされたまま雄に伝えます。
雄がいたからこそ、父さんと生き別れになっても
なんとかここまで一人でやってこれたのだ、と。
それは雄も感じるところがありまして、
幼いころ、目を覚ますとおしんの笑顔が目の前にあり
いつもどこでも一緒に行動して来たおしんの苦労は
雄だって分かっています。
それを加味して考えてみると、
自分の思いだけで陸軍士官学校を受験するというのが
親不孝のように思えてなりませんでした。
おしんの悲しんだ顔はもう見たくありません。
雄は陸軍士官学校の受験を諦め、
京都三高から京都帝大へ進みたいと宣言します。
もし大学に通うなら歴史の勉強をしたいと思っていたわけで、
大学の先生でもお国のためになるだろうという考えです。
「父さん、不肖の息子でご期待に沿えず、申し訳ありません」
ペコリと頭を下げて自分の部屋に戻って行きます。
昭和14(1939)年の春、
長男・雄は京都第三高等学校へ進学し
いよいよ京都へ発つ日がきました。
これまで手放したことのなかった雄を送り出して、おしんにとって
身体の一部を削り取られたような感覚になっていました。
いつかは突き放さなければならないと覚悟をしていたおしんには
母親の務めを一つ果たしたような別れとなりました。
日に日に国民生活の締め付けが厳しくなる中で、
ひさが漁を辞めると聞いたのは、その年の秋も深まる頃でした。
船の燃料となる石油も配給制となり、いっそ辞めてしまって
家を引き払って東京の息子のところに世話になるのだそうです。
同居をしている浩太のことが心配なおしんですが、
名古屋に嫁入りしている娘の友だちで、
大きな造り酒屋の一人娘・並木香子と
祝言を挙げることが決まったのだそうです。
竜三が酒に酔って千鳥足で帰ってきました。
ご機嫌な竜三の話を聞くと、軍の連隊に魚を入れてきましたが
それだけでなく、かまぼこやはんぺんといった練り製品を
納入することが決まったとのことです。
これから工場を建てる場所を探すそうです。
おしんは竜三を冷めた思いで見ていました。
戦争に押しつぶされる人もいれば、
戦争を足がかりにしてのし上がろうとする人もいる。
明暗を分ける2つの運命がおしんにはやりきれず
竜三の妻であることがふと不安で恐ろしいおしんでした。
作:橋田 壽賀子
音楽:坂田 晃一
語り手:奈良岡 朋子
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[出演]
田中 裕子 (おしん)
並木 史朗 (竜三)
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赤木 春恵 (ひさ)
渡瀬 恒彦 (浩太)
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制作:岡本 由紀子
演出:一柳 邦久
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