大河ドラマ青天を衝け・(11)横濱焼き討ち計画
我らこそが口火となり挙国一致し、四方応じて幕府を転覆させる!
尾高惇忠の考えに従って、長七郎はしばらく上州に身を隠しますが、
老中・安藤信正を襲撃する計画に加担していた長七郎は、
諦めきれずに上州を抜け出して江戸へ向かおうとしていました。
熊谷の定宿・小松屋──。
長七郎の江戸行きの知らせを聞いた渋沢栄一が駆け込んできました。
「河野が死んだ」
思誠塾で塾頭・大橋訥庵に指名された河野顕三は、
計画通り安藤老中を襲撃して命を落としたのです。
幕府の命令で、江戸の町はいま、その計画に連座したものを捜せと
火のついたような騒ぎになっています。
いま長七郎が江戸へ足を踏み入れれば、捕縛と処刑は間違いありません。
しかし、命など惜しくはないと長七郎は涙で栄一に訴えます。
「だからそれは無駄死にだと言ってんだい!」
生き残った長七郎、いま生きている栄一たちには、
死んでいった河野の代わりにやらなければならないことがあるのです。
長七郎は、死に行けなかった無念さを栄一にぶつけます。
いったん、長七郎は京へ逃れることになりました。
「とっさま、早くしろい!」
畑のむこうから、栄一と市郎右衛門が全力で走ってきますが、
息を切らしながらもなぜかふたりとも満面の笑みです。
そう、千代が男の子を産んだのです。
初めて見る我が子、初めて胸に抱く我が子、栄一は感動に震えます。
渋沢家のみならず、出入り農民みんなが、赤ん坊の誕生を喜びます。
栄一の、赤ん坊のかわいがりようは異常なほどで、
栄一の仕事ぶりも、市太郎の誕生で格段に上がります。
初めての男の子には、「市太郎」と名付けられました。
翌朝、栄一の姿は惇忠の道場にありました。
惇忠が掲げる目的は「攘夷遂行」「封建打破」、封建制の弊害で
幕府が腐ったので、それを根本から正すことで初めて攘夷が成る、と
世間にカンフル剤を打つべく、大騒動を起こして世間を目覚めさせなければなりません。
大騒動──異人の商館がある横浜を焼き討ちにする。
異人居留地(外国人が居住・営業することを許した特別地域)を異人ごと焼き払う。
焼き払えば異国が幕府を責め立て、幕府は支えきれずに転覆する。
その上で自分たち忠臣が天皇を戴き、王道で天下を治める。
『神託 近日中に、高天原より神の兵が天下って、
天子様を悩ませてきた夷狄どもを残らず踏み殺すであろう。
この度の征伐に少しでも不満を申し立てるような者は、
容赦なく斬り捨ててしまって構わない』
──こんばんは。徳川家康です。
我が江戸幕府に大きな動きがありました。
謹慎を強いられていた一橋慶喜の復活です。
『将軍後見職』という役職が与えられた。
実はこれは、幕府が望んで決めた人事じゃありません。
薩摩から島津久光が兵を率いてやって来ましてね。
「若い将軍には慶喜のような優れた後見人が必要だ」と強引に勧めたのです。
いや、何はともあれ慶喜が幕府に戻った。
征夷大将軍となるまで4年余り。
ここからどうやって渋沢栄一に出会うのか?──
文久2(1862)年7月、ご叡慮(天皇の考え)により
将軍徳川家茂は慶喜に『将軍後見職』を命じます。
一橋家に戻った慶喜は家臣たちを前に、身分の上下に関わらず
幕府の方針に意見があれば進んで提言するように伝えます。
安政の大獄より3年もの間の謹慎期間のことを忘れず、
おごり高ぶる心には十分気を付けて精進したい、との決意表明つきです。
一方で、井伊直弼より隠居謹慎を命じられた松平慶永改め春嶽は、
『政事総裁職』という役目に返り咲き。
「私が再びご公儀の政に関わることになるとは」と、
苦笑しつつも再登板は素直に喜んでいます。
慶喜と春嶽の復活には島津藩主の父・久光の力が大きく働いていまして
いわゆる「政治発言力」は大きくなっていくわけですが、
江戸の薩摩藩邸で3人が顔を合わせた時、自分たちが幕府を動かして
攘夷決行! と主張するのを慶喜は苦々しい表情で聞いていました。
「攘夷攘夷と仰るが、攘夷が可能だと本気で思われているのか」
亡き父・徳川斉昭が攘夷と言ったのは、国が辱められるのを恐れてのことで
攘夷は詭弁である、というのが慶喜の持論です。
兵備も足りず、異国から攻められればひとたまりもない現状なのです。
それを久光は、その場逃れな空虚な妄想をしているだけだと非難。
久光が覇権のために慶喜や春嶽を利用しようと企んでいるのです。
それだけでなく幕府も、朝廷へのご機嫌取りで慶喜を利用し、
政界復帰した自分たちは飾り物だと慶喜は気づいているのです。
行商から戻った栄一は、普段なら活気があふれている渋沢家に
誰もおらず、静まり返っていることを不審に感じます。
台所にいた利吉とおうめは、みんな麻疹(はしか)にかかったと言い、
栄一は奥で苦しんでいる千代を見舞います。
そこに涙顔のていがやってきて、首を小さく横に振ります。
栄一は気が狂ったかのように、市太郎が寝ている部屋へ飛び込みますが、
すでに亡くなった後でした。
「市太郎…市太郎…」栄一は、声を上げて悲しみます。
家から見える大きな木の下に、小さな墓をこしらえます。
あんたが悪いんじゃねぇよ、とゑいは千代に寄り添い、
自分も栄一の前に2人子どもを亡くしたことを打ち明けます。
「栄一が3つになるまで育ってくれた時は、本当にありがたくてね」
お殿さまで十数人子どもを作っても、生き残るはほんの一握りです。
そうでなくとも、この年の暮れまでに、
関東では麻疹とコレラで20万人もの人が亡くなっています。
横浜焼き討ち計画ですが、まずは上野の高崎城を乗っ取って
城を制圧し、武器弾薬を奪ってそこを本拠地とします。
その後、幕府の守りが手薄な鎌倉街道を横浜へ一気に進撃。
そして横浜を焼き払い、夷狄を討つという算段です。
焼き討ちをしたときに火の回りが早いほうがいいわけですが、
その時期、つまり空気が乾燥する冬ということで
惇忠は、その年の冬至(11月12日)を決行の日と定めます。
文久3(1863)年・京──。
過激な志士たちが「天誅」と称し、和宮降嫁に力を貸した者や
開国に賛成する者に次々と危害を加え始めます。
その手は次第に、慶喜にも迫ってきていました。
攘夷運動の先頭にいたのは長州藩の志士と、持ち上げられた三条実美でした。
三条は、志士が暴発すると言って攘夷決行の期限を慶喜に迫りますが
京には「京都所司代」も「京都守護職」も自分もいるからと
浪士の暴発など恐れぬ慶喜は三条の求めをあっさりはねのけます。
すまし顔の慶喜に、志士たちよりも先に三条が暴発してしまい
期日決定はご叡慮ぞ! と慶喜の前で狂ったように騒いでいます。
イギリスが生麦事件の賠償金を求めてくるし、朝廷は攘夷を早くしろと言うし、
面会を終えた慶喜は「もうめちゃくちゃだ」と呆れます。
慶喜には、天皇が攘夷が何たるかを全て理解したうえで
攘夷を求めてきているとは思えないわけです。
平岡円四郎が京の慶喜のところに戻ってきました。
「こんな時に将軍後見職とは何という貧乏くじ」と笑っています。
勘定所に出仕する命令を受けた円四郎でしたが、一橋家に戻りたいと頼み込み
念願かなって慶喜のもとに帰ることができたのです。
栄一と喜作は、仲間を募り武器を集めるために江戸に来ていました。
「武具梅田屋」というのれんを見て店に入ったふたりは
刀を60か70所望したいと店主の梅田慎之介に言いますが、
梅田は、日本を蘇らせたいという志を聞き、武具の蔵にふたりを案内します。
武器を調達したふたりは、荷車にそれを乗せて夜道を血洗島へ急ぎます。
血洗島やその周辺からは、計画に参加したいと
気骨ある者たちが続々と集まりつつあり、計画は順調です。
栄一と喜作、真田範之助、中村三平たちと飲んでいると、
酒を飲む金を貸してくれと、水戸の藤田小四郎が顔を出します。
藤田と聞いて、栄一は「まさか……」という表情をします。
徳川斉昭が重用した藤田東湖の息子なのです。
栄一も喜作も、藤田東湖の著書を読んで勉強したことがあり、
初めこそ、有名人に出会ったように興奮する栄一と喜作ですが、
代々勤皇を唱え大義名分の明らかな水戸の武士が、世直しもせずただ酒を乞う。
「お主に飲ませる酒はねえ」と栄一は断ります。
しかし、栄一の諭す言葉がよほど小四郎の胸に響いたのか
小四郎は、お前の言う通りだと涙を流します。
しかし小四郎も、主君や仲間を失い、このままでいいと思っているわけではなく、
いつか父をも越える大義を成してみせる! と宣言。
栄一は、そんな小四郎を頼もしく思い、酒を酌み交わします。
栄一が横浜焼き討ち計画にのめり込むちょうどその時、
日本と外国の関係は刻々と変化していました。
長州藩や薩摩藩はイギリスをはじめとする諸国艦隊との戦いに敗れ、
攘夷は無謀であるということを身をもって体験します。
京都でも、過激な攘夷を唱える公家や志士たちが突然追放され
事態は混とんとしていました。
そんな中、栄一と千代は、新たな命を授かったのです。
女の子で「うた」と名付けられました。
しかし栄一は、市太郎を授かったときと比べて喜ぶこともなく
ふさいで奥にひっこんでしまいました。
夜、市郎右衛門の前に座った栄一は、父親にまっすぐ視線を送ります。
「俺を、この中ん家から勘当してください」
こんな乱れた世の中、もう安穏とはしていられない。
だから家を出て、天下のために働きたいと思う。
何かあったらこの家に迷惑がかかるかもしれないから、自分を勘当して
ていに婿養子を取って家を継がせてほしい、と。
これまでずっと、市郎右衛門のようになりたいと頑張ってきました。
ひとりで藍の買い付けに行ったときもとても喜んでいました。
確かに仕事内容はとても大変で苦労もありますが、村中で助け合い
さらに働き者の嫁がいてかわいらしい子供も産まれて。
いい暮らしなのに、これ以上何を望むのか。
「すまねえ、かっさま」と、土下座したまま栄一はつぶやきます。
栄一は、自分ひとりが満足でも、この家の商いがうまくいっても、
この世の中のみんなが幸せでなかったら、嬉しくないわけです。
みんなが幸せになるのが一番なのです。
栄一は、この国が間違った方向に行こうとしているというのに
それを見ないふりして何でもない顔をして生きていくのはできません。
「この世を変えるのに命を懸けてえ。
この村にいるだけでは決してできねぇ大義のために生きてみてぇんだ!」
市郎右衛門は、難しい顔で天を仰いだままです。
「私からも、お願いいたします」
千代はサッと栄一の横で手をついて、市郎右衛門に頭を下げます。
栄一は日本をこの家のように大事に思い、その日本のために懸命に励みたい。
家と日本、どっちも、どっちもに栄一の道はあるわけです。
やれやれという表情の市郎右衛門は、栄一の方を向き直します。
剛情っぱりの栄一のことです、父が何を言おうが
終いには栄一が思うようにするのでしょう。
「どんなに政が悪かろうが、俺は百姓の分を守り通す。栄一、お前はお前の道を行け」
作:大森 美香
音楽:佐藤 直紀
題字:杉本 博司
語り:守本 奈実 アナウンサー
──────────
[出演]
吉沢 亮 (渋沢栄一)
高良 健吾 (渋沢喜作)
橋本 愛 (渋沢千代)
田辺 誠一 (尾高惇忠)
満島 真之介 (尾高長七郎)
──────────
草彅 剛 (徳川慶喜)
要 潤 (松平春嶽)
美村 里江 (徳信院)
磯村 勇斗 (徳川家茂)
川栄 李奈 (美賀君)
──────────
北大路 欣也 (徳川家康)
渡辺 徹 (梅田慎之介)
手塚 理美 (尾高やへ)
池田 成志 (島津久光)
津田 寛治 (武田耕雲斎)
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和久井 映見 (渋沢ゑい)
平泉 成 (渋沢宗助)
堤 真一 (平岡円四郎)
小林 薫 (渋沢市郎右衛門)
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制作統括:菓子 浩・福岡 利武
プロデューサー:板垣 麻衣子・藤原 敬久
演出:黒崎 博
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