大河ドラマ青天を衝け・(12)栄一の旅立ち
政治のトップを暗殺するという攘夷派の論理に納得できない渋沢栄一は、
幕府こそ倒して日本固有の風習を根底から変えてしまおうと考え、
横濱商館を焼き討ちして幕府内を混乱させ、異国の力も借りて討幕を目論む
尾高惇忠の考えに乗り、渋沢喜作とともに動き出します。
子どももまだ小さいのに、となかやていは千代を慰めますが、
栄一を許した市郎右衛門も若いころは武士になりたがっていた、とゑい。
東ん家の三男坊だった市郎右衛門は、家を継ぐ必要もないからと
若いころは本ばかり読み、武芸に励んでいたそうなのです。
婿に入ってからというもの、百姓に専念している市郎右衛門に、
武士にならなくてもよかったのか、とゑいは聞いてみるのですが、
運よく武士の端くれに加わったとしても才覚で出世はできないが、
自分の腕で勝負ができる百姓のほうがやりがいがある、と答えたと言います。
それだけに、市郎右衛門も心の奥底で、自分も抱いたことがある
武士になりたいという栄一の気持ちが理解できたのかもしれません。
千代は栄一に、うたを抱いてやってほしいとお願いします。
うたが生まれてからというもの、栄一は一度もうたを抱き上げていないのです。
「あなたの子です。旅立たれる前に、一度でもおまえ様のぬくもりを」
栄一は何も言わず、床についてしまいます。
江戸入りした栄一と喜作ですが、屋台の陰から、家の中から、
あらゆるところで自分たちが見張られているような気配は感じています。
栄一と喜作は目で合図して逃げ出そうとするのですが、
栄一はひとりの武士に家の中に押し込まれ、つかまってしまいます。
「悪いが、ちいーっとばかり話があるんだ」と小ぎれいな武士。
振り向けば、一橋慶喜のお傍に使える平岡円四郎です。
「俺は百姓ではありますが、この先、命をかけ戦うつもりでおります」
だから逃げたんだ、と無駄な抵抗はせずに座り込んだ栄一は答えます。
百姓でも商人でも立派な志を持つものはたくさんいて
儲けからなるだけ蓄えて日本のために戦う準備をしている、と。
栄一の話を聞いていた円四郎は、こりゃおかしれぇや、とニヤリ。
途中から喜作も加わり、栄一たちは刀に手をかけようとしますが
円四郎に栄一たちを斬るつもりもなく、ひとつの提案がなされます。
「そんなでっけえ志があるってんなら、俺の下に仕えてみてはどうだ」
円四郎の「武士になっちまえ」「ご公儀をぶっつぶす」
「江戸のお城のど真ん中」という誘い文句に、正直困惑している栄一の横で、
喜作は、田舎にも仲間がいるし、と円四郎の誘いをやんわり断ります。
慶喜が円四郎を呼んでいるらしく、慌てて江戸城に戻る彼は
去り際に、もし気が変わったのなら来な、とにっこりほほえみます。
円四郎が帰った後、栄一と喜作は顔を見合わせます。
円四郎の名乗りに「一橋家」とあったのですが、一橋家といえば
水戸の徳川斉昭の子息・一橋慶喜ではないか、と。
赤城おろしが吹き始め、攘夷決行の日が近づいていました。
そんなとき、惇忠のもとに尾高長七郎が帰ってきたのですが、
惇忠の計画は「暴挙だ」と、賛同できない旨を伝えてきました。
たったこれだけの烏合の衆で、討幕の口火どころか百姓一揆にすらならない。
こんな子供だましの愚策は即刻やめるべきだ、と主張する長七郎に
惇忠は冷静に、なぜそう思ったのかを尋ねます。
薩摩はイギリス軍艦にさんざん撃ち込まれ、攘夷を捨てました。
大和では1,000人以上の同志が挙兵するも、瞬く間に敗れました。
長州も攘夷派の公家も京から追放され、雨の中を逃げ落ちました。
その命を下したのは天皇で、攘夷志士より幕府を選んだわけです。
こんな時勢で誰が自分たちに加勢するというのか?
長七郎は、自分を裏切り者と恨むのなら、甘んじて斬られて死んでやろう、と
一触即発の真田範之助の前に座します。
「お前たちが暴挙で揃って打ち首になるよりは ましだ!」
思誠塾の河野たちは、日本のために死んだのだと思っていましたが
今となっては、何のために死んでいったのか分からなくなりました。
栄一たちの尊い命を犬死にで終わらせたくない長七郎の
涙ながらの説得を、栄一たちはただただ黙って聞いていました。
真田は、きっと違う道を進むと出て行ってしまいます。
焼き討ち計画は頓挫して、決起の血判状は燃やされます。
信じた道を進んで命を捨てようとしたものの、長七郎の言い分が
正しいと気づくことで、己が間違いだったと理解した栄一は、
失意のまま家に戻り、ありのままを千代に打ち明けます。
栄一がうたを抱かなかったのは、うたを抱くことで怖気づくこと、
市太郎のように慈しんだ我が子を失いたくなかったこと、
詩に急ぐ父が娘に合わせる顔がなかったこと、が挙げられます。
「許してくれ…うた…」とうたを初めて抱く栄一は、泣いていました。
道は決してまっすぐではありません。曲がったり、時には間違えて
引き返したってよいではありませんか──。
千代は、栄一の背中をさすりながら微笑みます。
横浜焼き討ちの件で、栄一は金をこっそりと使っていたので、
計画をすべて白状したうえで、市郎右衛門に詫びを入れます。
しかしこのままここにいては村に迷惑がかかると、栄一は
喜作とともに京へ行って何をすべきかを考えたいと言い出します。
市郎右衛門は、名を上げようが身を滅ぼそうが知ったことではなく
栄一のすることに是非は言わないと、意外にも優しい表情です。
「物の道理だけは踏み外すなよ」
そう言って市郎右衛門は、持ってけ、と大金を栄一に渡します。
慶喜は、天皇を支えて国をまとめるために海路を船で京に向かいます。
そして幸か不幸か、栄一と喜作も同じころに京へ出発します。
しかしこちらは、しっかり陸路です。
──さあ、血洗島編はここまでだ。
ここから物語の舞台は江戸を離れ、激動の京へと向かいます。
そう、我が徳川幕府の終焉が近づくのです──。
作:大森 美香
音楽:佐藤 直紀
題字:杉本 博司
語り:守本 奈実 アナウンサー
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[出演]
吉沢 亮 (渋沢栄一)
高良 健吾 (渋沢喜作)
橋本 愛 (渋沢千代)
田辺 誠一 (尾高惇忠)
満島 真之介 (尾高長七郎)
成海 璃子 (渋沢よし)
村川 絵梨 (吉岡なか)
草彅 剛 (徳川慶喜)
川栄 李奈 (美賀君)
岡田 健史 (尾高平九郎)
藤野 涼子 (渋沢てい)
手塚 真生 (尾高きせ)
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北大路 欣也 (徳川家康)
手塚 理美 (尾高やへ)
美村 里江 (徳信院)
波岡 一喜 (川村恵十郎)
板橋 駿谷 (真田範之助)
長谷川 公彦 (中根長十郎)
平田 満 (川路聖謨)
木村 佳乃 (やす)
和久井 映見 (渋沢ゑい)
堤 真一 (平岡円四郎)
小林 薫 (渋沢市郎右衛門)
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制作統括:菓子 浩・福岡 利武
プロデューサー:板垣 麻衣子・藤原 敬久
演出:黒崎 博
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