大河ドラマ青天を衝け・(14)栄一と運命の主君
渋沢栄一と喜作のふたりは平岡円四郎から、一橋家家来になれと
ありがたい言葉をもらうのですが、こんな二人にも志というものがあり
軽率には答えられないため、ふたりでよくよく話し合いたいと
即答を避け、いったん持ち帰ることにします。
「まったく…本当のバカだぜ」と円四郎はあきれ果てていますが
それでもいろいろ教えてやれば、今の世の中の動きを正しく理解でき
必ずものになると思っているので、特に焦ってはいません。
ふたりについての幕府の罪状問合せも、返答を先延ばしにしておきます。
宿に戻った喜作は、倒幕に来たのに幕府側の家来になるなんてと
話を蹴って草莽の志士らしく活動する道を主張しますが、
栄一は、たとえ彼らは志が高かったと評されても、何もしないうちに
命を落として何もできなかったら意味がない、と考えており、
いま幕府方の家来になっておけば、幕府に追われている罪状も
なくなって生き延びることはできるし、いま獄につながれている長七郎を
助け出せる方法が見つかるかもしれない、と言い出します。
「一挙両得の上策だと俺は思うンだい。おかしれぇって気持ちだい!」
後日、ふたたび一橋家宿舎の円四郎と対面したふたりは、ぜひ一度
自分たちの愚説を一橋慶喜に建白したいと言い出します。
そういう考えの持ち主だと知った上で、もし天下に事があるときは
主君として自分たちを召し抱えてもらいたい、というわけです。
──こんばんは。徳川家康です。
いま栄一は「慶喜にじかに会わせろ」と言っていましたが、
いやぁ…とんでもない、このころの慶喜は大変だったんです。
先週、京の都に朝議参与ができました。
覚えていますか? 私はちょっとお休みしましたがね。
このメンバーが帝の御前での会議に参加し、政に意見するようになった。
これは…京を追い払われた長州に代わり、
権力を得ようとする薩摩の提案でした。
(参与諸侯の中でも、薩摩の島津久光をはじめとする外様大名が
幕府に対抗する力を持ち始めていました。)
そこに将軍家茂と、我が幕府の老中たちも
勝手をさせてなるものかと江戸からやってきた。
朝議参与でありながら、幕府の将軍後見職でもある複雑な立場の慶喜は、
その板挟みになったのです。そう、慶喜はピンチだったのです──。
幕府では、横浜港を閉じるか否かをめぐって意見が分かれていました。
薩摩は、港は閉じないほうがいいと主張していますが、それは
イギリスと戦争をし、攘夷は無謀だと考えを変えたからなのです。
それに対して幕府側の意見は、薩摩に従うわけにはいかない、と。
昨年は長州に迫られて攘夷を約束し、今回は薩摩に港を閉じるなと言われ
幕府は薩長に振り回され、少しも一定の見識を持たないことになります。
薩摩が「閉じるな」なら、幕府は「閉じよ」なのです。
朝議参与では、港は「閉じるな」という意見で統一されています。
朝廷に気に入られるために姑息な処置をする幕府を島津久光は笑いますが、
半年前まで「攘夷」と言っていた姑息な男は誰だったか、と
慶喜に呆れられ、久光の表情は固まってしまいます。
「やっぱり無理だ。こんな大変な時にお前らの話なんかできるか」
当主に見ず知らずの者を拝謁させるのもどうか、というのもあります。
しかし円四郎も意地になります。
拝謁の工夫をつけてやる、とふたりと約束をします。
ルールに従っての拝謁が無理なら、遠くから名を名乗って
印象をつけて知ってもらうという戦法を円四郎が思いつきました。
幸い、明日は松ヶ崎でお乗り切りがあるので、その途中で
どうにか顔を見かけてもらうしかありません。
草むらに隠れるふたりがひょっこり顔を出すと、騎馬の一群が近づいてきます。
「おおっ、来たど!」とふたりの目の色が変わり、
「渋沢栄一でございます!」と両手を広げて進路をふさごうとします。
騎馬の一群には一向に止まる気配がなく、これ以上は危険と判断し
喜作が栄一を引っ張って進路を開けたのですが、
結局一群は気にすることなく通り過ぎてしまい
栄一は諦めきれず、大声で名乗りながら一群を走って追いかけます。
「今すでに徳川のお命は尽きてございます!」と叫ぶと、
慶喜は栄一たちのほうへ引き返してきてくれます。
栄一も喜作も、青ざめた顔で平伏します。
「あなた様は賢明なる水戸烈公のお子!」と叫ぶ栄一は、
もし天下に大事が起こった時、慶喜が役目を果たしたいと思うのであれば
どうか自分を取り立ててほしい、と慶喜の前で願い出るのです。
栄一は、言いたいことはまだまだたくさんあるそうで、
円四郎はプッと噴き出してしまいますが、慶喜はちょっと不愉快です。
「この者たちを明日、屋敷へ呼べ。これ以上、馬の邪魔をされては困る」
颯爽と去ってゆく慶喜の後ろ姿に、再び平伏するふたりです。
ふたりは慶喜の宿舎・若州屋敷に呼ばれて拝謁を許されました。
すでに円四郎がふたりの名前を伝え、意見書も手渡しているので
栄一はなるだけ簡潔に自分たちの志を慶喜に伝えます。
幕府の命は重ねた卵のように危うく、いつ崩れてもおかしくない状態で
慶喜はそんな幕府に取り繕おうと考えないほうがいいと思う。
幕府がつぶれれば御三卿である一橋もつぶれるからだ。
一橋家の勢いを盛り上げるためにも、天下の志士を集めることが急務。
治国の手綱が緩めば天下を乱す者たちが続々と現れますが、
乱そうとするほど力のあり余った者をことごとく家臣にしてしまえば、
もう他に、天下を乱す者はいなくなる。
天下の志士が集まれば、この一橋家が生き生きするに違いない、と。
一方で幕府や大名たちからは、一橋は何をしていると疑われますが
戦は好むことではないですが、この国のためならやってしまおう。
それにもし幕府を倒すことになったとしても、
いっそ衰えた日本を盛り上げるいいきっかけになるかもしれない!
……と、こぶしを天に突き上げる栄一でしたが、
栄一の熱量と、それを冷ややかに聞き流す慶喜と円四郎との間には
明らかな差が生まれておりまして、それに気づいた栄一は
ふと我に返って、こぶしをゆっくりと下げるのです。
「話は終わったようだ。出るぞ」
慶喜は立ち上がって退室し、円四郎も慶喜の後を追いかけます。
慶喜は、栄一たちの話を聞きながら、
ふと円四郎との初対面の時のことを思い出していました。
二人の愚説は特に目新しい意見でもなかったわけですが、
あの時の円四郎が今の円四郎だと考えると、育てる甲斐はありそうです。
慶喜の命を伝えにふたりの元に戻ってきた円四郎は、
世の中の動きをなるだけ分かりやすくふたりに説明します。
攘夷派が京から消えたことで、天皇は再び幕府に政を任せたこと、
幕府は横浜港を閉じる許可を求めて諸外国に使節を送っていること、
攘夷の考えはいずれ消え、今後は国同士が対等に談判するようになること、
異人を殺したりした者たちの尻ぬぐいをして国を守るのが幕府であること。
その中で慶喜は、朝廷、天皇、老中、薩摩や越前ら一切合切を相手にし
一歩も後へ引かずに役目をこなす、本当は剛情者なわけです。
今は残念ながら力を持ちすぎると言われて身動きがとれない状態で
それが栄一たちには「臆病風」に映ったのかもしれません。
「それが分かったのならこの先は、一橋のためにきっちり働けよ!」
円四郎はふたりに、太刀を与えます。
一橋家の家来として働き出したふたりには小汚い長屋を割り当てられ、
猪飼勝三郎に借りた金で鍋や朝夕の食事を買い出しし、
生まれて初めて自分たちの力でごはんを炊きます。
水の分量を間違えたのか、粥の出来損ないのようなものに仕上がりましたがw
そのころ、京に向かう途中で人を斬ってしまった尾高長七郎は
捕らえられて牢に入れられていました。
尾高惇忠は何度も番屋に掛け合いましたが、話どころか顔すらも見られず、
失意のまま血洗島に戻ってきていました。
もう今の公方さまじゃいかん! と久光は声を上げ始めました。
遠回しに、慶喜に将軍になれと言っているわけですが、
天皇の信頼厚い中川宮朝彦親王に取りいることで
薩摩は朝廷への影響力を強めようと密かに画策していました。
薩摩の思惑通り、参与諸侯は天皇から幕府の政へ参加を認められますが
慶喜は、そういう動きをする薩摩への不信感を強めています。
参与諸侯に酌をする将軍家茂に、外様に酌などと慶喜は忠告しますが、
天皇から参与諸侯と国事にあたれと命じられていて、仕方ありません。
酒も進み、久光は「横浜港を閉める覚悟が幕府にはできていない」と
朝廷が疑っているという話は、中川宮に確認したところでは
その疑いはもう撤回する、とのことでした、と慶喜に報告します。
必ず港を閉じよ、とは朝廷は思っていないということになります。
「どのような朝議により、突然そのようなことを言い出したのか」
その話に承服できない慶喜は、中川宮に直接聞いてくると言って
出て行ってしまいます。
そのようなことは覚えがございません、としらを切る中川宮に
島津がウソを言ったと申されるか、ととことん問い詰める慶喜。
中川宮の手はぶるぶると震え、控える久光の顔も青ざめます。
「宮様ひとりが欺かれれば、大事に至るということは覚えておいていただきたい」
固まる中川宮の前に慶喜は短刀を置き、続けます。
「今や薩摩の奸計(かんけい)は天下の知るところ、お返事によっては
ご一命を頂戴し、私自身も腹を切る覚悟で参りました」
つまり、朝廷の意見が薩摩の工作ごときでこうもころころと変化し
人を欺くのであれば、だれが朝廷の言うことなど聞くものか、と
薩摩の思惑にしっかりとくぎを刺したのです。
「公儀は、横浜の鎖港を断固やる。港は断固閉じる!」
慶喜の暴論はまだ続きます。
同席した久光、松平春嶽、伊達宗城を「天下の大愚物」と言ってのけ
もしこの鎖港の自論が心得違いというなら明日からは参内せぬし、
心得違いでなければこの鎖港の儀を天皇に斡旋してほしい、と投げたのです。
この日をきっかけに、参与たちによる会議は消滅することとなり
京都での政治主導権は幕府の手に戻ることになりました。
持っていた盃を投げつける久光の姿。
「くそがッ! 誰が将軍後見職にしてやったと思うちょっとか!」
作:大森 美香
音楽:佐藤 直紀
題字:杉本 博司
語り:守本 奈実 アナウンサー
──────────
[出演]
吉沢 亮 (渋沢栄一)
高良 健吾 (渋沢喜作)
橋本 愛 (渋沢千代)
田辺 誠一 (尾高惇忠)
満島 真之介 (尾高長七郎)
藤野 涼子 (渋沢てい)
波岡 一喜 (川村恵十郎)
草彅 剛 (徳川慶喜)
要 潤 (松平春嶽)
磯村 勇斗 (徳川家茂)
尾上 寛之 (原 市之進)
遠山 俊也 (猪飼勝三郎)
奥田 洋平 (中川宮)
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北大路 欣也 (徳川家康)
竹中 直人 (徳川斉昭(回想))
石丸 幹二 (大久保一蔵)
池田 成志 (島津久光)
水上 竜士 (山内容堂)
みのすけ (黒川嘉兵衛)
菅原 大吉 (伊達宗城)
和久井 映見 (渋沢ゑい)
堤 真一 (平岡円四郎)
小林 薫 (渋沢市郎右衛門)
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制作統括:菓子 浩・福岡 利武
プロデューサー:板垣 麻衣子・藤原 敬久
演出:田中 健二
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