大河ドラマ青天を衝け・(18)一橋の懐
「烈公の尊王攘夷のお心を朝廷にお見せするための上洛じゃ」
武田耕雲斎が首領となった水戸天狗党は、自分たちの考えを通すために
水戸で血を流し続けるのはよくないと考え、上洛を決意します。
京には、烈公の心を一番よく知る一橋慶喜がいるからです。
しかし京をお守りする役目の慶喜は、天狗党の討伐を決めます。
一橋家家臣の原 市之進は、渋沢篤太夫に天狗党討伐への出兵を指示。
しかし天狗党の藤田小四郎を鼓舞した過去を考えると、自分が
天狗党を討伐することを素直に受け入れることもできません。
元治元(1864)年12月、慶喜と、弟の松平昭徳の軍勢は、
天狗党討伐のために兵を引き連れて京を出発します。
一方、篤太夫と別れて慶喜の密命を受けた渋沢成一郎は
天狗党のかつての陣営にたどりつき、追討軍との戦いに疲れ果て、
雪がちらつく中を空腹と寒さに耐える兵たちの姿を目にします。
耕雲斎と対面した成一郎は、慶喜からの密書を手渡します。
武器を手にして京に入ることは、天皇の御心に背く行いである……。
「上洛は諦め、三々五々国元へ落ちよ」の文面に、小四郎は
烈公の遺志を踏みにじり保身を図る慶喜に大激怒しますが、
耕雲斎は
自分たちの行動がこれほどまでに慶喜を追い詰めて
しまっていたことに気づき、膝から崩れ落ちて泣きじゃくります。
兵を下げる、と黒川嘉兵衛が篤太夫に伝えに来ました。
天狗党が幕府に下り、京の情勢が不穏で慶喜も急いで戻らなければなりません。
こうして篤太夫の初陣は、戦うことなく終わってしまいました。
その後篤太夫は「小十人並」という役目を命じられ、出世します。
一橋家のつきあいごとを任されるようになり、筑前黒田にごちそう、
加賀前田のご招待と毎晩重役の宴会のお供をやっているようで、
女を紹介されても怒って断るなど、存外まじめ、と感心されています。
耕雲斎たちの処分ですが、慶喜は、水戸のうちわでの争いなので
できれば一橋で引き取って処分を下したいと意向を示しますが、
天狗党征討総督の田沼意尊は、天下の公論もあるし、
幕府で引き取って公平な処置をすると言うので、慶喜は渋々一任します。
しかし田沼は、200年もの間続いた戦のない時代に、
天狗党のおかげで幕府を混乱に陥れやがってと恨んでいたようで、
彼らを敦賀の蔵に押し込め、田沼単独で取り調べをし
耕雲斎以下352人が斬首と決定を下します。
幕府は、天狗党を生かしておけば、その残党が慶喜をいただき
いずれは幕府の大きな敵となることを恐れてその処断を行ったのですが
そう考えてはいなかった慶喜の願いはことごとく無視されてしまいます。
──こんばんは。徳川家康です。
こうして日本中の若者に大きな影響を及ぼした尊王攘夷は
多大な犠牲を払って終わりました。
驚いたのはそのあとだ。少し前まで「外国人を殺せ」と言っていた
外様の武士らが、一気に外国に頼り始めた。
長州はイギリスにすり寄り、薩摩の留学生もイギリスへと旅立った。
何という変わり身だ!
今や彼らの敵は外国ではない……徳川です。
こんなはめになるとは。
しかし、我が徳川もこのままでは済ませませんぞ──
幕府勘定奉行の小栗忠順(上野介)は、造船所・製鉄所を作るべく
フランスの公使とともに横須賀の実地検分を行っています。
さらにフランス公使は、幕府の軍勢を西洋の部隊のように強くするため、
フランスから陸軍教師を招いて軍勢変革に力を貸したい意向です。
とはいえ、外国と戦った薩摩や長州による賠償金の支払いもあり
それが幕府に「お金がない」状態に陥れている状況ではあるのですが
小栗は勘定奉行であり、幕府への恩義を、幕府を富ませるために
フランスとコンパニー設立の策を練ることで返そうとしています。
小栗は、幕府への恩義を忘れた薩摩や長州、そして朝廷が許せないわけです。
彼は軍事だけでなく、財政や経済こそが重要だと気づき
それを幕府に提言するのです。
篤太夫は、一橋の兵を厚くするために各地で人を集めてきましたが、
慶喜に対して役目を果たせるほどの数も強さも足りていないと考えています。
そこで、新たな歩兵の組み立てと、兵を集める御用を
自分に命じてほしいと慶喜に願い出ます。
慶喜はその願い出を受け入れ、篤太夫を
「軍制御用掛」「歩兵取立御用掛」に任命します。
そして篤太夫には、移動に輿が用意されます。
篤太夫はまず、備中にある一橋領に向かいました。
そこで庄屋たちを集め、村人の次男三男に声をかけてほしいと依頼します。
集められた農民に篤太夫は、農民と武士の区別はないのだから、
国に尽くす好機だと説いてみせるのですが、まぁ集められた次男三男は
人の話もろくに聞かない、ほうけた男たちばかりでして
何度説得しても応じてくれず、一人残らず帰っていくのでした。
関東では、少し口を開けば熱い志を持った男たちが同調して
瞬く間に集まってきたのに、ここではその兆しはまったくありません。
一橋家家臣としての威厳が足りないのか? と感情的になるのは
せっかく重要な任務を受けたのに…という焦りがあるからです。
大風がくる前の藍葉の刈り取りの時も焦って作業していました。
そういう時に限って代官に呼び出されたことを思い出す篤太夫ですが、
立場を逆に考えてみると、この地の百姓にも暮らしがあり
篤太夫の要求にいちいち応じていられない現状があるのです。
横浜に、新しいイギリス公使のハリー・パークスが来日しました。
幕府がフランスと手を組もうと考えているのを聞いて、何としても
イギリスが日本と独占で貿易をしていきたいと考えています。
幕府がフランスを貿易の相手として推している一方で、
イギリスと貿易したがる薩摩と長州は、そんな幕府を邪魔に思っている。
イギリスが日本における貿易シェアを高めるためには、
薩摩や長州の味方をして幕府を弱らせ、フランスに退場してもらうしかありません。
あれだけ攘夷攘夷と騒いでいた長州が、方針転換して
イギリスに近づいている理論が幕府内部では理解できないわけですが、
将軍徳川家茂は、それを幕府への陰謀、反乱と受け止めます。
「完膚なきまでに打ち潰すしかありますまい」と小栗にも力が入ります。
それで幕府は、2度目の長州征伐へ向かうことになりました。
備中・寺戸村にある、漢学者・阪谷朗廬(さかたに・ろうろ)の塾。
そこを訪れた篤太夫は、阪谷が開国論者であることに驚きます。
異国が成そうとしている通商は、自国の魂を広めることで
日本を乗っ取ろうと考えているためではなく、互いに利益を得るためであり
それをまるで盗賊が来たかのごとく無下に打ち払うことは
人道に外れるだけでなく世界の流れに逆行することにもなるわけです。
篤太夫は何日も塾に通い、塾生たちと交流を深めます。
勉学に剣術、畑仕事や漁も、やってみてえからとやる篤太夫に心を開いたか
篤太夫の募集に志願する者たちが徐々に現れ始めます。
大喜びの篤太夫は、その思いをぜひ書面にまとめてくれと依頼します。
その書面をもって、ふたたび庄屋たちの前に出た篤太夫は
同じ備中でもこんな思いを抱いている若者がいるんだ、と書面を差し出し
数十の村に志願者がゼロというのは、どこかで誰かが邪魔立てし
志願者を志願させなくしているのではないのか、と指摘します。
この地の代官の入れ知恵だと知り、代官を呼び出した篤太夫は
慶喜の任務が禁裏御守衛総督で、兵がないと職を尽くせないと知りながら
所領の村人にその役目の薫陶すらできない器の代官も
篤太夫と同じ責務で腹を切らねばならないと詰め寄り、ポンと突き放します。
「明後日には出立いたします。よくお考えの上ご結論いただきたい」
果たして篤太夫の目論見通り、翌日には志願者が長蛇の列です。
ともかく篤太夫はそれら大人数を引き連れ、京に戻ってきました。
兵は集めはしたものの、それだけの世話をするということは
住むところ食うところ、これまた大金が必要になるわけですが、
家臣たちは金のことは武士は考える必要はないと突っぱねます。
幕府からの借金で済ませば事足りると考えているわけです。
しかし篤太夫は、借金では懐具合はよくならないと主張します。
これからは、志と懐具合の両方を兼ね備えることが大事だというのです。
志に従って挙兵しても、戦をすれば腹が減る。食い物を盗めば盗賊で
理想高い志なんかあったものではありません。
「一橋の懐具合をととのえたいのでございます」
壊れかけた日本を再びまとめられるのは、一橋慶喜を置いて他にはいない。
そのためにこの一橋家をもっともっと強くしたい。
懐を豊かにし土台を頑丈にする。篤太夫はむしろ、そちらに長けています。
お主の腕を見せてみよ。
慶喜は立ち上がり、篤太夫を見据えます。
作:大森 美香
音楽:佐藤 直紀
題字:杉本 博司
語り:守本 奈実 アナウンサー
──────────
[出演]
吉沢 亮 (渋沢篤太夫)
高良 健吾 (渋沢成一郎)
橋本 愛 (渋沢千代)
田辺 誠一 (尾高惇忠)
成海 璃子 (渋沢よし)
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草彅 剛 (徳川慶喜)
磯村 勇斗 (徳川家茂)
上白石 萌音 (天璋院)
藤原 季節 (藤田小四郎)
遠山 俊也 (猪飼勝三郎)
みのすけ(黒川嘉兵衛)
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北大路 欣也 (徳川家康)
津田 寛治 (武田耕雲斎)
武田 真治 (小栗忠順)
山崎 一 (阪谷朗廬)
池内 万作 (栗本鋤雲)
おかやま はじめ (稲垣練造)
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和久井 映見 (渋沢ゑい)
堤 真一 (平岡円四郎(回想))
小林 薫 (渋沢市郎右衛門)
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制作統括:菓子 浩・福岡 利武
プロデューサー:板垣 麻衣子・橋爪 國臣
演出:川野 秀昭
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