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2021年10月24日 (日)

大河ドラマ青天を衝け・(32)栄一、銀行を作る

渋沢栄一は、銀行と言う仕組みを民間に根付かせるため、そのしがらみの根源となっている大蔵省を辞めることにしました。3年半勤めた末の決意でした。栄一はまず大蔵省に誘った杉浦 譲に、先に辞めることになってしまったことの詫びを入れます。「ここ最近の君を見ていて、苦しそうだなと思っていた」と、杉浦は何となく予測できた結末にさして驚きもしませんが、大蔵省に招いてくれたことへの感謝は忘れていません。パリでの苦悩の日々も、初めて郵便が届いたときの喜びも、ふたりにとって共通の絆です。

井上 馨は大隈重信を追いかけまわしていました。文部省や司法省の輩を説得していかなければ、健全な財政を図れないというのです。大隈重信は、井上が雷を落として他省の者たちともめるのはもうたくさんで、文明開化のための費用はやむを得ないのだ、と納得させようとします。「だれが好んで雷落とすか!」と、大隈の机の上に広げてあった書類をぶちまける井上は大蔵省辞職を言い出し、みんながもみくちゃになって井上を止めている中、「止めるな渋沢!」と振り返ると──栄一は辞表片手に涼しい顔で座ったままです。
「では、私も」


井上と栄一が辞表を提出したことで大蔵省は混乱します。三条実美が栄一を引き止め、「見損なった! お主はその才識を卑しい金もうけのために使うつもりか!」と玉乃世履も一緒になって栄一を追いかけますが、栄一はその、役人が偉くて商人が卑しいという考えこそなくしたいわけです。民で産業が育たなければ、国がどれだけこれらに投資しても国に金は入ってきません。そして商人たちも、見た目にはへぇへぇと頭を下げていても後ろを振り返れば舌を出してバカにしている。こういういじけた根性をなくし、商人にこそ高みに登る志と言うものが必要なのです。その民のさきがけとなることが、今の栄一の志願です。

栄一が大蔵省を退職して数日後、新聞・日新眞事誌に「財政改革に関する奏議」という題で井上と栄一連名で記載がありました。
「我々は憂いている。今日の開化は、民力を重んじるものではなく政治上の空想に過ぎない。急な改革による経費など、政府にはざっと一億四千万もの負債があり、それをすべて民の税によって賄おうとしている。徳川の世よりよほど酷い」
記事を目にした司法卿の江藤新平は国家の内情を漏らしたふたりに怒り、大隈も顔面蒼白です。

栄一は、新聞投稿への罰金もさっさと払ってしまい、ようやく正式に政府を脱することができましたが、帰宅してみると三野村利左衛門が来ていました。「渋沢さまの三井入社のお祝いを持ってまいりました」と上等な反物をたくさん贈ってきたのです。三井入社など栄一にとって寝耳に水の話ですが、利左衛門もそろそろ三井を引退しようかと考えていた矢先であり、利左衛門の後任に推薦しておいた、というわけです。上等な反物も、千代や娘たちの分も、女中たちの分も、お妾さんのくにの分まで用意する周到さに栄一は戸惑いますが、すぐに我に返ります。

栄一は三井に入社する気なんかこれっぽっちもなく、日本の規範となる合本銀行を作りたいのです。利左衛門は、三井の総理事の座をちらつかせますが、栄一には三井一社を富ませる考えは全くありません。合本の仲間としたいのですが、利左衛門は合本自体に反対なので、敵であろうが味方であろうが、栄一には容赦はしないと宣戦布告です。

 

明治6(1873)年、民間資本による日本初の銀行『第一国立銀行』が開業しました。集まった行員に栄一は、まず西洋式の帳面のつけ方を学んでほしいと正確な帳簿記入ができる「簿記」を導入し、紙幣頭附属書記官のアラン・シャンドに行員への教育を依頼します。

栄一は、五代友厚を行内に案内しながら、口から出るのは愚痴ばかりです。開業したもののまだまだぐちゃぐちゃで、多くの者が銀行という根本を理解していません。株主も貸出先も三井や小野に関するところばかりで、三井と小野の金をぐるぐる回しているだけのようなものです。しかもその三井と小野も張り合ってばかりで、三井の習わしで帳簿をつけて小野から文句が出ると、小野の頭ではついていけんからしゃあないわ、と笑っている有様で、ことあるごとにもめ事が頻発しています。頭取も双方から一人ずつ出ているので、合本も楽ではありません。それで栄一が総監役となったといういきさつです。
五代も鉱山の商いをするカンパニーを興しています。五代は大阪で、栄一は東京で、カンパニーで活躍する時がついにやって来たわけです。五代は先にカンパニーを興した者として栄一にアドバイスをします。「政府はやっかいな獣の集まりじゃったが、商いのほうはまさに化け物。魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)しておる」(得体の知れない異様な物どもが、自在に飛び跳ね振る舞う)

いくら西洋風に改革を急いでも、形ばかりで民の意識が変わらなければ国は弱くなるばかり──「まさに、立つ鳥跡を濁しまくり!」と、日新眞事誌の記事を読んだ三菱商会会頭の岩崎弥太郎は、寄稿した二人が政府を辞したことに大笑いします。岩崎は、ふたりが去った大蔵省を引っ張るのは大隈しかいないだろうなと、政府に乗り込むことにします。

 

母・ゑいが渋沢屋敷にやってきました。水をもらってくる、と先に屋敷に入った吉岡なかは、廊下の奥にいるくにを軽蔑の目で見ていますが、ゑいはくにの娘・ふみの成長に目を細めています。どうやら寒くなり始めたころからゑいの調子が悪いらしく、ていは身重で、なかも旦那の商いで満足に世話ができないため、渋沢屋敷で過ごしてもらうことになりました。
ですが、なかは栄一の尻を叩き「なにやってんだいアンタは!」と、千代という立派な奥方がいながらくにに手を出してしまった弟を叱り飛ばします。千代も理解してくれている、という栄一に、わかるしかないから飲み込んでいるだけだ、と容赦ないなか。「身しめて孝行するんだかんな。お千代にもだで!」と栄一にくぎを刺します。

ゑいは、栄一の不貞行為をはじめとして、千代が栄一の嫁となってから苦労ばかり強いてきた生活を詫びます。ただ、千代の子どもたち(うた・こと・篤二)もくにの子ども(ふみ)も変わりなく可愛いんだ、どの子も無事に育ってもらいたいんだ、とつぶやきます。千代は、結婚当初は栄一の無鉄砲さに不安ばかりでしたが、今は国のために立派に働きどんなに忙しくても帰ってくるので、こんなぜいたくな暮らしに何の苦労もありません、とほほ笑みます。栄一は、部屋の中に入らず、ふたりの会話をずっと廊下で聞いています。

 

行員の仕事ぶりをふむふむと見ている栄一の頭をパカッ! とひっぱたく男…。栄一が振り返ると、生糸の勉強を終えてイタリアから帰国した喜作でした。喜作にとっては、大蔵省に呼んでくれた人間を訪ねてみればすでに辞職後で、栄一の変わり身の早さには呆れるわけですが、攘夷から一橋に入ったことに比べればなんてことはありません。
井上や栄一が辞めた後の政府は、西郷隆盛や江藤がけんか別れして下野してしまい、大久保利通と岩倉具視の天下なのです。自分だけ政府内に取り残されたのではたまらない、と喜作は政府を辞め、横濱で生糸の商いをしたいと言い出します。「これからはお蚕さまだぃ」と胸を張る喜作に、栄一も同感です。ウィーンから、富岡製糸場で作った生糸が万国博覧会で二等進歩賞を受賞したとの知らせが尾高惇忠の元に届き、みんなで大喜びしたところなのです。
栄一は近いうち、そんなお祝い続きの富岡と、静岡の徳川慶喜の元に報告に行くつもりでいます。お前も来(き)ない、と栄一は喜作も誘いますが、喜作は難色を示します。慶喜が戦いを望んでいなかったにも関わらず最後の箱館まで戦い、挙句 多くの直参の命を落とさせてしまったことが背景にあるようです。

その静岡・慶喜屋敷には、牧之原からの作物献上が続きます。それを見つめる徳川美賀子(慶喜の妻)ですが、その時、追い返したはずの婦人が屋敷内に乱入しようとしていて、家臣たちと様子を見に行きます。慶喜にじかに言ってやりたいことがある と叫ぶ婦人は、亡き平岡円四郎の妻・やすだと知り、見つめていますが、やすも美賀子を見てパッと笑顔になります。「…ってことは、あんたがあの“おかしれえ”お姫さまかい」

 

栄一は、ゑいが服用する薬を乳鉢ですりつぶしています。ゑいは栄一が政府役人を辞めてしまったことを残念に思っていますが、役人のしがらみに比べれば才覚一つで仕事ができる商いのほうがよほどやりやすいわけです。市郎右衛門も息子が政府の役人になったことを喜んでいましたが、ここは納得するしかなさそうです。栄一はふところから紙幣を取り出し、ゑいに見せます。今でこそアメリカで紙幣を印刷していますが、ゆくゆくは日本で作れるようにしたいと栄一は考えています。こういった紙幣や切手、文、土地の証書も洋紙が日本で作られるようになればみんな便利になるわけです。みんなが手を組み、みんなが考えれば、みんなが幸せになる世を作れる。ゑいは、近くにいる者を大事にすることを忘れるな、と栄一を諭します。
そこにうたが駆け込んできて、「今日うたの学校に皇后さまがあらせられたの!」と興奮気味に報告してくれます。皇后が、女子が学習している様子を視察したいと言ったそうです。栄一は、幼少期に母たちが歌いながらお蚕さまを育てていたことを皇后に伝えると、それ以降 皇后は自らお蚕さまに桑の葉を与えているそうです。皇后陛下に自分の話が出てきたことに慌てたゑいは「いっつも一番大声で歌ってたのは栄一だいね!」と恥ずかしく感じつつ言い、お蚕さまの歌を歌ってみせます。

そんな、健やかに過ごしていたゑいでしたが、病状は急変してしまいます。医者からは家族を呼ぶように言われ、血洗島に使いを送り親戚たちが栄一屋敷に向かいますが、その到着を待つことなく、ゑいは旅立ちます。
栄一は月を見上げながら、母の教えを反芻していました。「あんたがうれしいだけじゃなくて、みんながうれしいのが一番なんだで」栄一は母の枕元に座り、亡きがらを見つめてつぶやきます。
「ありがとう。かっさま」

 

「そいは、岩倉さまが暗殺されたっちゅうこつか!?」
その年(明治6年)は、征韓論争で敗れた西郷や江藤たちが下野したことに端を発し、西郷を慕う土佐士族による岩倉具視暗殺未遂事件や、江藤新平による佐賀の乱など、不平士族たちが不穏な動きを見せていました。大久保は大隈を呼び出し、不平士族の不満をそらすためには台湾出兵はやむをえないと言い出します。しかしアメリカの海運会社は、中立を盾に兵の輸送を拒否する立場で、三井に作らせた船会社も返事をそらすばかりで進展がありません。三井も小野組も、御一新の直後から国の金の便宜を与えてきましたが、その金で商いの手を広げすぎているという見方もあります。大隈は、もっと政府のために素直に動いてくれる商人が欲しいところです。
そこで現れたのが、三菱商会の岩崎です。大隈は、台湾出兵のための兵と物資の輸送を三菱商会に命じます。国家の非常時のため、商業輸送を止めて陸軍輸送に全力を出してほしい、との大隈の要求に「国あっての三菱」とそのまんま受け入れます。その上で、岩崎は大隈にアドバイスします。「三井と小野が言うことを聞かんなら、少し灸を据えたらどうですやろ」

「小野組があぶない!」と栄一の元に、井上が駆け込んできました。大蔵省が、この先 無利子無担保で便宜は図れぬから担保を出せと言い始め、放漫経営の小野組が危険なのです。第一国立銀行が小野組へ貸し付けているのは130万です。このままいって貸付金が取りはぐれたら、この銀行は破産してしまいます。


作:大森 美香
音楽:佐藤 直紀
題字:杉本 博司
語り:守本 奈実 アナウンサー
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[出演]
吉沢 亮 (渋沢栄一)
高良 健吾 (渋沢喜作)
橋本 愛 (渋沢千代)
田辺 誠一 (尾高惇忠)
村川 絵梨 (吉岡なか)
志尊 淳 (杉浦 譲)
仁村 紗和 (大内くに)

草彅 剛 (徳川慶喜(回想))
福士 誠治 (井上 馨)
川栄 李奈 (徳川美賀子)
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ディーン・フジオカ (五代友厚)
小倉 久寛 (小野善右衛門)
大倉 孝二 (大隈重信)
石丸 幹二 (大久保利通)
山内 圭哉 (岩倉具視)
遠山 俊也 (鵜飼勝三郎)
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和久井 映見 (渋沢ゑい)
木村 佳乃 (やす)
イッセー 尾形 (三野村利左衛門)
中村 芝翫 (岩崎弥太郎)
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制作統括:菓子 浩・福岡 利武
プロデューサー:板垣 麻衣子・藤原 敬久
演出:村橋 直樹

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