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2021年10月17日 (日)

大河ドラマ青天を衝け・(31)栄一、最後の変身

渋沢栄一の父・市郎右衛門の初七日が済み、栄一の妹・ていが再婚する婿の須永才三郎が渋沢家に挨拶にやってきました。生前、市郎右衛門が才三郎に「渋沢市郎と名乗れ」と言われていたらしく、よろしくお願いします、と頭を下げるのですが、栄一は柔和な笑みでこれを受けます。
「どうか、この家を…おていやかっさまを…よろしく頼みます」

大阪出張の際に一夜を共にした大内くにが妊娠したと知った栄一は、千代に会わせたい人がいると言って、血洗島から東京に戻ってからくにを自邸に連れてきます。くにのお腹はすでにとても大きく「堪忍どす…迷惑かけるよって、ひとりで大阪で産むつもりやったんどす」と膝をついて千代に詫びます。栄一も、くにのお腹の子は自分の子であると打ち明けますが、身寄りがいないと連れてきたのです。
そうですか、とため息交じりに言う千代は、くにもその子も一緒にくらせばいいではないですか、と提案します。「お前さまのお子です。ともに育てましょう」
ありがとう! 恩に着る! と栄一は千代に土下座して感謝しますが、千代は誰もいないところで大きくため息をつきます。


東京千代田の辰ノ口にある兵部省軍務官糾問所で罪人として暮らす渋沢成一郎は、出ろ、と牢屋番から促されて釈放されることになりました。箱館戦争で戦って2年半ぶりの釈放です。栄一が新政府から帰宅すると、成一郎は渋沢屋敷に上がって千代と会話していました。久々の対面となりますが、獄につながれていた間も栄一は何かと成一郎に本や金子など援助を続けていたし、釈放させたのも栄一の力によるものです。成一郎はそれに対する礼を言いますが、ブスッとした表情のままです。
「死ねと文をよこしたではないか。俺は命を懸けて奉公したんだい。それを薩長の政府などに勤め獄に迎えに出すとは何の嫌味だ」「だったら言ってやるよ。何が彰義隊だ? 何が振武軍だ? 何が箱館軍だ? なぜあんなことをした」感動の再会どころか、両者の思惑が違って進んだ道がこうも大きく外れると、再会ですら恨みつらみのぶつけ合いになってしまいます。
わけもわからず死んでいく者、自ら死を選ぶ者、これまで幾多の死を目の当たりにしてきた成一郎にとって、自分もいっそ死んだほうがいいと考える一方で、日が経てば経つほど未練も生まれてきたのは正直なところです。栄一は、死なねえでよかった、と成一郎と抱き合って再会を喜びます。そして、成一郎が釈放されたと聞いたよしも駆けつけて、久々に対面します。
成一郎は「喜作」と名を戻し、栄一の推薦で大蔵省で働くことになりました。

大蔵省で栄一は、経済の新しい仕組み作りに着手します。岩倉具視や大久保利通、木戸孝允、伊藤博文などは「岩倉使節団」としてアメリカやヨーロッパ諸国に外遊に出ており、現在の政府を預かるのは太政大臣・三条実美を筆頭に、西郷隆盛、井上馨、大隈重信、板垣退助、江藤新平らだったのですが、「使節団派遣の間は、新規の改正を要すべからず」と、大久保は約定に判を押させる徹底ぶりです。留守政府は、廃藩置県に関する処理のみを行い、他は何もするな、というわけです。栄一は、この約定を「廃藩置県後に決まったことは大いにやれ、ということだ」と解釈し、藩札の回収と円への統一がうまく進んでいないためにバンクを設立することをごり押しします。バンクが円を国中に広めることで税収が安定し、新しく商売を始める者を後押しして日本の商業を盛り上げて国や民を富ませることができるわけです。
そもそも使節を建議したのは大隈のはずですが、その大隈は大久保の横やりによって行くことができませんでした。外交で出しゃばられると困ると考えて、使節団員から外されたようです。

そんな大隈と井上とで決めたバンクの名称は「國立銀行」と決まりました。小野組と三井組の両者合同で銀行設立の準備に取り掛からせます。三井組の三野村利左衛門は小野組と合同ではなく三井単独での銀行にこだわり、小野組の小野善右衛門は政府の御一新を支えたとの自負があり、両社ともお互いに合同で銀行を作るという話には難色を示します。
やむを得ぬ、と栄一は三井と小野に任せていた官金(政府の金)取り扱いを取りやめ、新しく作る合同銀行に大蔵省から為替御用掛を命じるようにすると言いおいて、会議の席を蹴ります。
「双方、いま預けている官金を全て返納せよ」

 

群馬・富岡に建設中の製糸工場に、喜作が派遣されました。狐狸が住む田舎にこんな立派な工場が建つとは、と喜作は目をまん丸くして驚きます。幕末期、横濱にあった外国人居留地に火をつけようと画策していた尾高惇忠が、今ではフランス人と一緒に仕事をしていることにも驚いていますが、惇忠は、腹を割って話せば結局は人と人だった、と笑います。

 

夏、三井組が新しい建物「三井組ハウス」を完成させました。招待された井上は、この建物が将来の日本初の銀行になるのじゃな?とワクワクしています。三野村は、三井組ハウスには駿河町にある両替店を移すつもりで、それとは別に小野と申し合わせて銀行用に建物を作る約束にしていたので栄一にたくさん文句を言いますが、栄一は、あのハウスを銀行として使うことは三井のためにもなると思って言っているわけで、一歩も引きません。三野村は、言いたいことがたくさんあるものの、それを押し殺して栄一に従います。
三野村が感じたのは、いくら栄一が「商人の力、商人の力」と言ってみたところで、政府役人と商人とは立っている場所がまるで違うわけで、これまでも、そして恐らくこれからも、地べたを這いずり回って政府役人の顔色を窺っていかなければならないであろうということでした。「徳川の世と何も変わりませぬな」
栄一は、岡部藩の利根吉春が「お上が100人出せと言ったら出すのだ!」と怒鳴り散らされた時のこと、雨の中、岡部藩に銭を上納した時の悔しさを思い出していました。

 

血洗島に戻ってきた惇忠は娘のゆうに、富岡製糸工場の伝習工女になってほしいと打診します。工場ができ、そこで働く工女を募集してもひとりも集まらないのです。若い娘の生き血を取るためだとか、糸を取る腰掛の下に油を搾る仕掛けがあるという噂があるのです。惇忠は“中の人”なのでその噂はもちろん全否定するわけですが、誰かがやってみせて安全と理解してもらうしか方法はないわけです。ゆうならきっと、みんなの手本になるような工女になれる、と白羽の矢を立てます。惇忠の母・やへも、これまでは男たちが何を企んで、何をしようとしてというのが分からずに生きてきたが、父親である惇忠がゆうに頭を下げて助けを求めているんだから、と背中を押します。
10月、官営富岡製糸場が操業を開始。ゆうの決心がきっかけとなり、多くの工女が集まりました。翌年には工女は500人を超え、女性の社会進出の先駆けとなったのです。

千代は篤二を出産し、血洗島からはゑいが篤二を見にやってきました。喜作が生糸の勉強のためにイタリアに旅立ったため、渋沢屋敷に出入りしているよしは、男の子を産んだのがあの人(=くに)でなくてよかった、と笑っています。

このころの留守政府は、予算を握る大蔵省と各省との間で対立が深刻化していました。西郷隆盛はそんな対立は見て見ぬふりを決め込みますが、よほど溜まってきたのか、渋沢屋敷を訪れます。夜中に帰宅した栄一と杯を傾けながら、橋本左内や平岡円四郎らと「徳川慶喜を将軍に」と走り回っていたころが一番よかった、とつぶやく西郷。「廃藩も成ったどん、こん先ないもよかこつがなか気がしてならん。おいのしてきたことは、ほんのこて正しかったんじゃろかい」
慶喜は、あんな混乱期に将軍になって、それでもその重荷をものともせず徳川を立て直しました。自分や大久保は、その慶喜の怪物ぶりに恐ろしくなって必死になってつぶした経緯があります。このままでは慶喜に申し訳が立たないと思うわけですが、栄一の目の前にはまだまだたくさんの道が開けていると、後悔しないようにがんばれと背中を押して屋敷を辞します。

子どもたちの寝顔を見ながら、栄一は決心を固めます。「お千代、俺は大蔵省を辞める。俺の道は官ではない、ひとりの民なんだ」。栄一は、今度こそ最後の変身だとつぶやきます。


作:大森 美香
音楽:佐藤 直紀
題字:杉本 博司
語り:守本 奈実 アナウンサー
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[出演]
吉沢 亮 (渋沢栄一)
高良 健吾 (渋沢喜作)
橋本 愛 (渋沢千代)
田辺 誠一 (尾高惇忠)
成海 璃子 (渋沢よし)
藤野 涼子 (渋沢てい)
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草彅 剛 (徳川慶喜(回想))
福士 誠治 (井上 馨)
朝倉 あき (大隈綾子)
仁村 紗和 (大内くに)
増田 修一朗 (江藤新平)
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ディーン・フジオカ (五代友厚)
大倉 孝二 (大隈重信)
博多 華丸 (西郷隆盛)
手塚 理美 (尾高やへ)
小倉 久寛 (小野善右衛門)
金井 勇太 (三条実美)
平泉 成 (渋沢宗助(回想))
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石丸 幹二 (大久保利通)
和久井 映見 (渋沢ゑい)
イッセー 尾形 (三野村利左衛門)
小林 薫 (渋沢市郎右衛門(回想))
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制作統括:菓子 浩・福岡 利武
プロデューサー:板垣 麻衣子・藤原 敬久
演出:鈴木 航

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