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2021年10月31日 (日)

大河ドラマ青天を衝け・(33)論語と算盤(そろばん)

大蔵卿・大隈重信に、三菱商会の岩崎弥太郎は「三井と小野が言うことを聞かんなら、少し灸を据えたらどうですやろ」とアドバイスし、この先 無利子無担保で便宜は図れぬから担保を出せと言い始めました。このままいけば放漫経営の小野組が危険にさらされてしまいます。第一国立銀行が小野組へ貸し付けているのは130万、この貸付金が取りはぐれたら第一国立銀行は破産してしまいます。

渋沢栄一は急いで大隈邸に向かい、三井・小野に無利子無担保で貸し付けたのは御一新の際に貢献したからだと彼らを擁護します。大隈は、自分一人で決めたことではないと主張し、そもそも担保を出せと言われてあたふたするようなところに政府の金を預けること自体が危ないことだというわけです。三井と小野が第一国立銀行の大株主であることは大隈も知っているはずなので、担保を出せというのは、遠回しに渋沢をも困らせるつもりであることはまちがいなさそうです。確かに大蔵省が大変な時に渋沢は去っているので、ひとり残された大隈の気持ちを考えれば、すべて悪いとは言い切れないところがあります。
ふたりは大げんかになり、大隈の妻・綾子が「大声でどなるな、せっかちは厳禁」と五代友厚が大隈に宛てた彼の欠点集を示して仲裁に入りますが、渋沢は舌打ちし、大隈邸を後にします。

第一国立銀行に戻ると、小野組頭取の小野善右衛門が待っていました。助けてください と土下座する小野に、渋沢は心を鬼にして貸付130万の返済を強く求めます。銀行がつぶれれば日本に銀行を作ることが絵空事に思われ、産業も商業も育成がますます遅れて日本経済そのものが崩れてしまいます。小野がつぶれても銀行をつぶすわけにはいかないのです。
小野組番頭の古河市兵衛は、渋沢が無担保で貸し付けた130万円のうちほとんどが古河管理の支店への貸し付けであり、信用してくれたご恩に報いるべく、今出せるだけのものはすべて出すと表明。慌てふためく小野を横目に、古河は「もうどうやっても小野は助かりません」と、一方的に見捨てようとする政府よりも、渋沢や市井の人々へ返却したいというわけです。
結局 第一国立銀行は、小野組の犠牲でこの難局を切り抜けます。


なんとか首の皮一枚つながった状態で助かりました。経済を早く育てなければ、と焦った栄一が金を貸しすぎたゆえのことであり、栄一は大いに反省するところです。そんな時、三野村利左衛門から栄一に宛てて書状が届けられます。「第一国立銀行と三井組と扱いの方法」と題されたその書状には、小野組破産に伴って小野が所有する株すべてを三井組が譲り受けるとあります。そのほか、栄一は上限10万に限り株保有を認め、銀行の利益・配当金、銀行事務、月給など事細かに記されてありました。
怒り心頭の栄一は、第一国立銀行を三井組に取り込むつもりか! と三井組に怒鳴り込みに行きます。しかし利左衛門は三井のみの銀行を作ることにこだわっていたわけで、小野組と一緒にすることなく「最初からそうしておけばよかったんだ」と笑います。そして栄一にも、大蔵省を退職した時に三井組に転職していれば、今回のような事態は招かなかったわけで、どちらにしてもこうなるのが成り行きだと悪びれる様子もありません。栄一は、あくまで第一国立銀行は合本銀行だと念押しし、混乱に乗じての利左衛門の横暴を承服できるはずもありません。

栄一の要請に応じて、大蔵省は第一国立銀行に紙幣頭附属書記官のアラン・シャンドを派遣して、日本で初めての本格的な西洋式銀行検査を行います。そのシャンドの報告では、小野組の破綻により抵当なく回収できない貸し付けが71万円あるものの、さまざまな努力により損失は1万9,000円に抑えられている、とあります。それよりも問題なのは、大口の貸し付けを三井組のみにしていることであり、ひとつのところに偏ってしまうのは、合本銀行としては不健全であると言わざるを得ない、とも記されていました。大隈は、これらの指摘から、大蔵省は第一国立銀行に三井組への特権のはく奪を命じ、栄一の総監役を廃して銀行頭取に任命します。「わいが始めたんじゃ。しっかいと立て直せい」

黒幕のにおいただよう弥太郎は、大隈に酒を注ぎながら、生意気な古い豪商を廃して、政府に必要な銀行のみを灸を据えながらも生かしておくという大隈の筋書き通りになったと笑います。その弥太郎は、台湾出兵でかなりもうけており、大隈を神様のように崇めているわけですが、この先もまたいつ戦になってもおかしくはない、という大隈のつぶやきさえも聞き逃しません。

五代友厚も、小野組の第一国立銀行の株25万円を今回の騒動に乗じて手にしたと専らの噂です。五代は大久保利通と碁を打ちながら、攻めるときはまず己の弱みを顧みるべし と言い、立派ながら人望がないのは弱みを見せないからだと分析します。大久保が目指す日本を作るにはもっと多くの味方が必要だと言い、大久保を唸らせます。

 

仕事が少し落ち着き、栄一は静岡へ向かいます。徳川宗家は千駄ヶ谷に移ったはずですが、それは世間が慶喜に対してまだ遺恨を持っていると勝 海舟が進言したようで、慶喜は静岡から動いていないわけです。遺恨があるゆえに、旧知の家臣らが見舞いに訪れてもほとんど会わないのに、慶喜は栄一が静岡にやってくるのを心待ちにしていたようです。
栄一の目の前に現れた慶喜は洋装のハンティングスタイルで、表情もこころなしか明るくなって見えます。奥方の美賀子も夫や子どもたちに囲まれて、毎日楽しくてしかたがないという様子です。栄一の今の暮らしを聞かれて、政府内のことをあれこれ言うのですが、慶喜はその話そっちのけで狩猟銃の手入れを始める始末で、その様子に気づいた栄一は話を変えて、長男が生まれたことを報告すると、おおそうか、と笑顔で振り返るのでした。
慶喜との対面後、美賀子と話をする機会を得た栄一は、亡き平岡円四郎の妻・やすがこの屋敷に押しかけてきたことを告白します。円四郎は生前、慶喜が新しい日本を作ると断言していたのに、大坂から8万騎を見捨てて江戸に逃げ帰り、多くの者たちが命を落としてこの世をめちゃくちゃにした。それなのに悠々自適にここで隠居暮らしをしてもらっては困る! と。確かに御一新以降、没落してしまった者たちからすれば、恨みの対象が慶喜に向いてしまっているのは仕方ないことでして、慶喜自身もそれはよく理解しているわけです。それでも美賀子は、英明な将軍であった時よりも、今の方が幸せに暮らせていると慶喜に理解してもらいたいという気持ちがあって、それを栄一に聞いてもらいます。

 

富と貴(たっと)きとは 是れ人の欲する所なり
其の道を以てこれを得ざれば 処らざるなり
貧しきと賤しきとは 是れ人のにくむ所なり
其の道を以てこれを得ざれば 去らざるなり
君子 仁を去りて いずくにか名を成らん
君子は食を終うる間も 仁に違うことなし
造次にも必ず 是に於いてし
顛沛にも必ず 是に於いてす──

栄一がパリにいたころ、フランス陸軍中佐夫人から手紙が届いたことがありました。志の篤い紳士から義援金を募り、慈善会を開いて貧しい者たちに寄付をしているという活動をしているのです。今回、東京府でも貧民や親のいない子を集める養育院というものができたわけですが、年々人数が増えてしまい、費用に困っています。栄一は、その養育院を預かろうと考えていました。

 

円の価値がどんと下がってしまい、金がどんどん引き換えられています。機械や綿織物の輸入がおびただしく増え、金貨銀貨が大量に外国に流出しているのです。渋沢喜作も、夏から蚕卵紙(蚕の卵をつけた紙)を売っていますが、買い入れてくれる外国商館がなくてお手上げ状態です。蚕卵紙を取り扱う種屋も次々と破産し、身投げしたり首をくくったりして問題になっています。外国商人たちが口裏を合わせ、蚕卵紙にケチをつけて買い控え、値崩れを起こすのを待っているわけです。
この問題は政府内でも議題に上がり、大久保は何をすればいいかはともかくとしてどうにか政府が動かなければと言い出しますが、伊藤博文は、これは政府がうごけば通商条約などの関係でそれこそ大問題だと、あくまで民間で解決させようとします。民間でそれを解決できそうな人物は? 「渋沢か…」と大久保は嫌いな名前を絞り出すように口にします。大隈は栄一には二度と頭を下げないぞ! と目をむき出しにして怒り、出て行ってしまいます。

大久保は仕方なく栄一を政府に呼び出し、蚕卵紙のことについて講ずべき方法を政府内では分からないので、栄一にどうにかしてほしいと言います。栄一は、銀行も今正念場で、蚕卵紙のことに片手間で引き受けるわけにはいかず、これこそ政府がどうにかすべきだと主張します。困り果てた大久保は「正直に言う」と、自分は経済のことには疎く、国を助けると思うて、味方になってほしいとお願いするわけです。
フッとほほ笑んだ栄一は、蚕卵紙に使う紙を売り上げた代金8万5,000円の貯えが政府内にあるはずで、横濱の貿易商と話をつけるのにその資金を使わせてほしいと許可を求めます。
「渋沢! 頼んだど」「おかしれえ! やってやりやしょう」

栄一は横浜の渋沢商会に向かい、生糸商人を集めて、売れない蚕卵紙を全て買い上げてほしいと伝えます。枚数はおよそ50~100万枚にも及びそうですが、上物でも5銭に買いたたかれているその紙を20銭で買い上げるのです。買い上げた後、燃やすと言い出した栄一に一同は驚きの声を上げますが、外国商人が音を上げて取引を申し入れてくるまで燃やし続けるという、売り控えのパフォーマンスです。そしてそれを新聞に掲載し、世間に広く知らせれば……。東京日日新聞主筆の福地源一郎は、こんな長文な広告は掲載したことがなく、物議をかもすと難色を示しますが、パリで世話になった栗本鋤雲は郵便報知新聞主筆で「世論を動かしてこそのニュースペイパーだ」と、その広告を掲載すると宣言します。
「国の蚕種(さんしゅ)は、貿易上最も大事な商品。その衰退を挽回し、価値を保たなければならない。そのためには、停滞した巨万の蚕卵紙を一挙に買い上げ、全て焼き捨て、今後の禍根を断つ」。果たして、買い占められた蚕卵紙は、買い控える外国商人たちの目の前で炎に包まれ、灰になっていきました。

 

明治9(1876)年1月、渋沢屋敷に利左衛門が訪ねてきました。いくつもの羽子板を手にし、栄一の子どもたちと福笑いで遊んでいる好々爺ですが、何か裏があると疑ってかかる栄一をよそに、子供たちはすっかり利左衛門になついてしまっています。千代によれば、利左衛門は元は小栗家の奉公人で、それを幕府勘定奉行だった小栗忠順に理財の才能を見いだされて三井との縁ができたそうで、小栗亡き後、その子たちも預かって養育しているそうです。栄一は、三井組の頭取だった利左衛門の一面しか見てきていなかったので、そんな子煩悩な一面があったとは、と感心します。

その日の夜、渋沢屋敷には喜作や五代、福地、三井物産会社総括の益田 孝が集まって鍋をつつきます。蚕卵紙のことはどうにか事がまとまり大久保が感謝していたと栄一は五代を通して耳にし、そんなことは直接言ってもらいたいものだと笑います。日本はどうやら戦に向かって歩みを進めているようです。萩や鹿児島ではいよいよ挙兵しそうだという噂が飛び交い、そうなれば明治新政府は転覆してしまうのではないかと言う危機感もありますが、栄一は、戦に金を使っている場合ではないとつぶやきます。しかし益田は、戦は商人にとって好機でもあると言って、三菱商会の岩崎も手ぐすね引いて待っているらしいと教えてくれました。
喜作が机の上に置いてあった論語の本を懐かしいと手にすれば、栄一は今の自分の心境を打ち明けます。今までの自分の働きは、何やかんや言ったって一橋や幕府や明治政府に守られていました。しかし栄一は今や銀行頭取です。多くの者の命運を引き受け、大きな海を渡ると考えたら急にゾッとしてきたわけです。論語には、己を修め、人に交わる常日ごろの教えが説いてあり、それを胸に商いの世を戦いたかったわけです。
三井銀行を開業した利左衛門は、あまりにも金中心の世の中になってきたことが怖いと言いだします。金を卑しむ武士の世から、誰もが金を崇拝する時代へ。もしかしたら栄一や利左衛門は、開けてはならない扉を開けてしまったかもしれません。
この翌年、利左衛門は病で亡くなりました。

 

明治10(1877)年・西南戦争──西郷隆盛死す。栄一はその知らせを新聞報道で知ることになります。かかった戦費は4,200万円、これは当時の国の税収4,800万円とほぼ同額の数字です。「戦争とはなんと多くの金が動くことか!」弥太郎は思わず口にしますが、そこに急報が飛び込んできます。大久保が暗殺されたのです。
日本は、新しい時代に向けて歩み始めます。


作:大森 美香
音楽:佐藤 直紀
題字:杉本 博司
語り:守本 奈実 アナウンサー
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[出演]
吉沢 亮 (渋沢栄一)
高良 健吾 (渋沢喜作)
橋本 愛 (渋沢千代)
田辺 誠一 (尾高惇忠)
山崎 育三郎 (伊藤博文)
犬養 貴丈 (福地源一郎)
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草彅 剛 (徳川慶喜)
川栄 李奈 (徳川美賀子)
朝倉 あき (大隈綾子)
小須田 康人 (古河市兵衛)
安井 順平 (益田 孝)
武田 真治 (小栗忠順(回想))
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ディーン・フジオカ (五代友厚)
小倉 久寛 (小野善右衛門)
池内 万作(栗本鋤雲)
遠山 俊也 (鵜飼勝三郎)
忍成 修吾 (岩崎弥之助)
博多 華丸 (西郷隆盛)

大倉 孝二 (大隈重信)
石丸 幹二 (大久保利通)
木村 佳乃 (やす)
イッセー 尾形 (三野村利左衛門)
中村 芝翫 (岩崎弥太郎)
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制作統括:菓子 浩・福岡 利武
プロデューサー:板垣 麻衣子・橋爪 國臣
演出:田中 健二

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