大河ドラマ青天を衝け・(30)渋沢栄一の父
渋沢栄一が大蔵省内に立ち上げた「改正掛」で、郵便、戸籍など次々と発案があり、そのひとつひとつについて実行に向けて準備を始めますが、「出過ぎた真似はすんな!」と大久保利通は改正掛を敵対視。大蔵大輔の大隈重信は解任されてしまいました。しかし岩倉具視は、改正掛のやることはむしろどうでもよく、鹿児島に引っ込んだままの西郷隆盛がいまだに新政府に出仕しないことにいらだちを見せ始めます。
お上の世は…またつぶれてしまう、と、大久保とともに岩倉も西郷を連れ戻すために鹿児島に向かうことにします。
鹿児島に到着した岩倉は、どうしても薩摩の力が必要だと国父・島津久光を説きますが、久光は胃の痛みを訴えて遠回しに行けないと伝えます。しかし岩倉の狙いは久光ではありませんで、求心力を失っていた新政府にとって頼みの綱である西郷を引っ張り出すために、久光には代理の者をよこせと強く要求します。
──ああー、ダメだダメだ! それじゃあ何も変わらん! あ、失礼。こんばんは。徳川家康です。ちっとも新しい世が定まらないので、あと少しだけ話をさせてください。栄一が新政府に入って2年、たくさんのことをやりましたよ。度量衡の統一、貨幣制度の改正、鉄道事業、エトセトラ、エトセトラ。新しい時代を作る支度は少しずつ整った。しかし! 各地で税や権力を握るのは、相変わらず元の藩主たちだ。新しい意見を武力で抑え込もうとするところも同じ。今、あえて聞きたい。徳川幕府を倒してまで君たちが作りたかった新しい世は、いったい、何なんだ?──
廊下の向こうから、軍服に身を包んだ西郷がのっしのっしとやってきました。栄一は西郷にすぐに気づいて挨拶すると、「この政府は八百万の神どころか、いたずらに争って権威をなくしてる」とぼやきます。正直なお人だと西郷は笑うのですが、国を一つにまとめていただきたい、との栄一の要望には、かえって国をぶっ壊すことになっかもしれんど、と真顔になります。
「公方様でも親でも師匠でも、人の上に立つものはみな上(かみ)だ。上に立つものは下(しも)の者への責任がある。大事なものを守るつとめだ」父の市郎右衛門も言っていました。下々の者が頑張ったって、上に立つものがしっかりしていなければ国も人も守れない。もしかしたら西郷が言うように、もう一度新政府を壊してしまう必要があるかもしれない。栄一はふとそんなことを考えていました。
栄一は、新しく流通させる硬貨の品質を確認するため、大阪の造幣局に出張していました。金色に輝く「一圓」の文字に、思わず感嘆を上げます。
新貨条例ができたら次は銀行づくりに着手しなければ…と、伊藤博文と五代友厚がふたりで造幣局に入ってきました。栄一は、民部公子徳川昭武に随行してフランス・パリに渡った際、フランスから日本への600万ドルの借款を消滅させて江戸幕府の信用が貶められてしまったのが、この五代(才助)とモンブラン伯爵が先導したものだと知っています。そのことを思い出すと腹煮えくり返る思いで、五代に親しげに挨拶されてもいつものように明るく返せるはずもなく、会ったこともないと知らないふりをします。
その日は三井組の番頭・三野村利左衛門が用意した歓迎の宴に、不愉快な顔をしたまま参加した栄一でしたが、ひょうしで女中とぶつかってしまいます。そこに通りかかった五代は栄一を中庭に呼び、ふたりで杯を傾けます。「それがしはあなたが好きではない。パリですでに薩摩に負けていたんだい」と正直に打ち明ける栄一に、五代は自分の働きをよくわかってくれている、と高評価です。
五代は、利左衛門のふるまいについて栄一に教えます。世の中が変わっても、商人がお上の財布の代わりとなる古い慣習は何も変わらない。お上が徳川から新政府に変わっただけだ、と。五代が目指すのは、お上と商人の間だけで金を回すのではなく、大阪で会社を作り下々にまで金をいきわたらせること。それは栄一も同じで、府県に大いにカンパニーを作るべきだと考えています。栄一にとって五代との出会いは最悪だったかもしれませんが、五代にとっては栄一は気の合う最強の仲間なのかもしれません。「おはんのおる場所も、そこでよかとか?」と栄一に声を掛けます。
井上 馨が早う戻れと怒鳴り散らすので、さきほどぶつかった女中が呼びに来ました。座敷に戻る栄一にぴったりとくっついて離れないので、女中(大内くに)に話を聞いてみると、戊辰の戦に出たきり戻らない夫にそっくりだというのです。くにが足元に目をやると、栄一の足袋に穴が開いていました。繕って届けると、栄一に手をつかまれて、部屋の中に…。
明治4(1871)年7月、西郷が東京に戻って3ヶ月、政府の内部は相変わらず混乱していました。大蔵省と政府とどちらに職権があるかで1ヶ月も話し合いを続け、政府高官が堂々巡りの問答を繰り返しているのです。「こげな話し合いに何の必要があっとじゃ?」西郷は口を開き、まだまだ戦が足りないと言って会議の席を離れます。
西郷が言った「戦が足りない」の意味で、みなその本意を図ろうとしますが、井上は藩を廃止せよというメッセージだ、と受け取ります。藩をなくして県を置く、これこそ真の御一新。戦覚悟で廃藩置県を断行せよと言っているのだ、と。そうと決まれば!と突っ走る井上を引き止め、栄一はやらなければならないことを機関銃のように並べ立てます。廃藩した後の各藩の士族の処遇は? 各藩の負債や藩札は? 藩の負債は?
「上に立つものは命を下すとき、まずそれを受ける民のことを考えねばなりません」
井上に言いくるめられて仕事を任されてしまった栄一と杉浦 譲は、秘密裏にことを運ぶように努めますが、旧藩主を廃して国が直接税を取り立てて命令を下す体制という新政府の悲願であった廃藩置県の断行はあっという間に決まり、5日後の布告と決定しました。この間に全国の藩札の相場から発行高、負債総額に租税方法、種々の事業の後始末まで秘密裏にすべての算段をつけなければなりません。これはもう、無理というものです。
「これらのことが終わらなければ、日本は必ず戦になる!」おかしれえ! やってやりましょう! と栄一はみんなを鼓舞します。
改正掛はここから4日間寝る間もなく休む間もなく働きに働いて、藩札をなくすにあたり人々が生活を維持するためにはいくら保証すればいいかを、すべての藩について洗い出しました。そして7月14日、全国に260あった藩は廃止され、府と県が置かれると周知されます。この活躍が認められ、栄一は大蔵大丞(おおくらだいじょう)に昇進しました。
大蔵卿となった大久保は改正掛にふらりと現れ、運用費として陸軍800万円、海軍250万円と決めたがどう思うか栄一にたずねます。国にはいまだに金がなく、税として入ってくる額も分からない中で、そのような巨額な支出を決めるのはとても危険なことです。民の税金を振れば出てくる打ち出の小づちのように捉えているのも考えものですが、せめてあと1年待って、大かたの歳入額が判明してからでなければ、と当然ながら栄一は承服できません。ようわかった、と大久保はつぶやき、改正掛の本日限りの解散を宣言します。
岩倉具視を全権大使とする岩倉使節団が、アメリカやヨーロッパに向けて出発しました。
大雨の日、帰宅した栄一は濡れた足袋を千代に預けるのですが、そこに赤い糸で繕った痕を見つけました。「えっ」という表情で栄一を見つめる千代です。ちょうどそこへ、大蔵省の方に市郎右衛門が危篤であるとの知らせが入り、従弟の須永伝蔵が伝えに来てくれました。
血洗島へ急行すると、一家の者がそろってお出迎え。父が病気だというのに悠長に勢ぞろいして何をしておる!と声を荒げますが、これは市郎右衛門の「お国の大事なお役人なんだから手を抜かずにきちんとお迎えしろ」という指示だったようです。それを知って栄一は すまなかった、と詫びを入れます。
今まで迷惑ばかりかけて親孝行できなかった栄一は、これから孝行できるようになったときにいないのでは困る、と市郎右衛門を労わりますが、平九郎を亡くしたていが婿を取ってくれることになり、市郎右衛門はもう心残りはないと笑います。
「俺は…この…渋沢栄一の…父だ! おまえを誇りに思ってる」ありがとう、とほほ笑んだ市郎右衛門は、2日後息を引き取りました。野辺送りの旗はきれいな藍色のものが使われ、栄一は父の位牌を、千代はお膳を持って歩きます。
葬儀後、栄一は父の愛用した机の上にあった「藍玉通」に目を通しながら、小さいころから藍玉作りに勤しんで来た父の姿を思い出していました。「とっさまは、俺が家を出てからの長い間も、畑を耕し藍やお蚕様を売って、村のみんなとともに働いてきたんだな…。なんと美しい生き方だ!」
作:大森 美香
音楽:佐藤 直紀
題字:杉本 博司
語り:守本 奈実 アナウンサー
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[出演]
吉沢 亮 (渋沢栄一)
橋本 愛 (渋沢千代)
村川 絵梨 (吉岡なか)
成海 璃子 (渋沢よし)
藤野 涼子 (渋沢てい)
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ディーン・フジオカ (五代友厚)
福士 誠治 (井上 馨)
志尊 淳 (杉浦 譲)
山崎 育三郎 (伊藤博文)
仁村 紗和 (大内くに)
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北大路 欣也 (徳川家康)
池田 成志 (島津久光)
博多 華丸 (西郷隆盛)
山内 圭哉 (岩倉具視)
金井 勇太 (三条実美)
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大倉 孝二 (大隈重信)
石丸 幹二 (大久保利通)
和久井 映見 (渋沢ゑい)
イッセー 尾形 (三野村利左衛門)
小林 薫 (渋沢市郎右衛門)
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制作統括:菓子 浩・福岡 利武
プロデューサー:板垣 麻衣子・藤原 敬久
演出:黒崎 博
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