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2021年12月12日 (日)

大河ドラマ青天を衝け・(39)栄一と戦争 ~慶喜、真相を語る~

日本の勝利で日清戦争が終結し、「日本、万歳! 万歳!」と民衆たちが盛り上がりを見せ、もはやアジアの三等国ではなく一等国への道が見えてきたという伊藤博文の言葉で、ようやくきたかと渋沢栄一の志はついに果たされようとしていました。

故郷・血洗島へ帰省した栄一と渋沢喜作は、仏壇に並ぶ渋沢平九郎の位牌に「喜べ。日本は強くなったぞ」と語りかけています。その場にいた尾高惇忠は、悲憤慷慨していたころの夢が叶おうとしている今、惇忠自身がなすべきことは一日も早く渋沢長七郎や平九郎のもとに行くことだとつぶやきます。惇忠は古稀、70歳なのです。栄一は喜作と惇忠に「あれから30年…慶喜さまに会ってみねぇか」と誘います。

慶喜は静岡から東京豊島の巣鴨に移り住み、栄一屋敷とは約1.6kmしか離れていません。慶喜と喜作が顔を合わせるのも久しぶりで、当時の「成一郎」と呼ぶ慶喜は、喜作が白銀台に立派な屋敷を構えたことを喜びます。また惇忠には、幕臣の平九郎の実兄で富岡製糸場で励んだことを慶喜は知っており、長くお国のために尽くした功績に言葉もない、と惇忠を称えます。
惇忠は、20世紀の訪れとともにこの世を去りました。


──こんばんは。
さて新世紀だ。私の子孫である慶喜が「ケーキさん」と呼ばれて親しまれた静岡を離れ、30年ぶりに東京に戻ってきました。
そう、ケーキといえば、歴史の授業でこんな絵を見た人もいるかもしれない。「中国のケーキ」という、フランスの新聞に載った風刺画です。清国に勝利したことで、世界の中の日本の立場は大きく変わろうとしていました。外国に飲み込まれぬよう、がむしゃらに励んできた栄一たちは、そこから一歩前進し、欧州列国と渡り合っていくことになったのです──

「日本の金融王」ニューヨーク市に到着した日本の最も著名なる金融王・栄一は、現地の新聞にも顔写真つきで記事にされました。日本の今日があるのはペリー提督以来のアメリカの尽力があればこそだと、栄一はアメリカ首都ワシントンで、セオドア・ルーズベルト大統領との対面を果たします。ルーズベルト大統領は日本の軍事を褒めたたえますが、栄一は、商工業の名声が低いのは実業家としてさびしいことだ、と皮肉を言うほどです。

栄一の活動が世界まで広がるにつれて、放蕩を重ねてきた篤二も家業を手伝うようになっていました。慶喜は篤二に撮影してもらいながら、どんなに事業を手広く展開しても、父の栄一が最も執着していることは「あなたさまの本を作ることです」と笑います。とんでもない戦争になっていたかもしれない窮地を救った慶喜の功績は、忘れ去られるべきではないといつも言っているそうで、篤二も栄一より慶喜の生き方にあこがれている部分はあるようです。慶喜は「まぁ…そんな単純なものではない」とつぶやきます。

 

清国は日本から取り戻した遼東半島をロシアに与えてしまったため、ロシアは南下政策をとり朝鮮半島に手を伸ばそうとしています。アメリカから帰国した栄一は、韓国をロシアに渡すわけにはいかない、隣国の日本が韓国の独立を助けるべきだと言っています。韓国が豊かな国に育てば、日本もロシアや西洋の脅威に対抗できるわけです。

ロシアの南下政策が日本の国防に脅威を与えているのは事実であり、朝鮮半島全体の権利を要求するロシアと折り合いがつかず、このまま捨て置けば対馬海峡までがロシアの勢力下になってしまうのは必定です。そうなれば日本の国防はもろくも崩れてしまいます。おまけに日清戦争に勝利した勢いで、世論も主戦論が多数です。陸軍参謀次長の児玉源太郎は、経済界でも主戦論を掲げて挙国一致で国難に立ち向かう必要がある、と言います。これは遠回しに栄一に財界を取りまとめよと言っているに等しいのですが、栄一は「富国強兵」の富国は無視して強兵に走っているのを憂いています。ただ今は危急存亡の時でそんなことは言っていられません。金も兵もない日本がロシアと戦うためには財界のさらなる緊密な協力が必要だと栄一を説得します。
「わかりました…」栄一は小さい声でつぶやきます。

 

翌年、日露戦争が始まりました。栄一は「戦争と経済」という議題で講演し、戦費に充てる国債の購入を呼び掛ける役割を担います。戦争は経済上に大いなる利益を与えるもので、戦争はあながち経済を妨害するものではない。仁義の戦であるならば戦後必ずその国は繁昌する! と。その講演会後、栄一は高熱で倒れます。日本はどうなる!? 日本が危ない、と栄一は這ってでも出ていこうとしますが、医者に止められます。

栄一の容態はさらに悪化。肺に菌が入り込んで壊死し始めているとのことで、妻の兼子は「お覚悟を」と医師に言われてしまいます。そんな中、これまで財界で栄一を支えてきた佐々木勇之助と篤二は栄一の枕元に呼ばれ、銀行頭取の後継者は佐々木を指名します。さらに韓国の経営について伊藤博文と井上 馨に遺言があると面会を求めます。そして後から入ってきた篤二に「あとは頼んだぞ」と…。
篤二は、今の渋沢栄一の事業をすべて引き継ぐには荷が重すぎます。周りの者も、篤二に任せて大丈夫か? という空気を醸し出し、篤二のプレッシャーはさらに大きなものになっていきます。「僕も逃げたい!」と屋敷内を逃げ回る篤二は、偶然渋沢屋敷に来ていた慶喜を見て、日本を背負っていたのに逃げ出してどうして平然と…と言い、我に返って脱走します。

栄一がふと目覚め、目を開けると、そこには慶喜が座っていました。なんと…!! と無理して体を起こす栄一ですが、慶喜は栄一の手を取ります。「そなただけは尽未来際生きてくれ。そなたともっと話がしたいのだ」
みるみる回復した栄一は、布団の上で日露戦争の戦況を聞きます。陸軍は破竹の勢いで勝ち上がって奉天を占領し、次は樺太にまで進出するようです。海軍では東郷平八郎大将の艦隊がロシアのバルチック艦隊を撃破しています。アメリカにもロシア艦隊を破るという日本海軍の奇跡は伝わっており、日本海軍の強さは侮れないと、ルーズベルト大統領はアメリカ海軍も強大にしておかねばならないと強く考え始めます。
ただ戦況は栄一が聞かされていたものとは多少違うようで、ロシアとの講和条約締結のために、伊藤は外務大臣の小村寿太郎をロシアに派遣することにします。ようやく奇跡的に勝利を収めただけで、それまで我慢を続けてきて、さらには国力を使いすぎたわけで、もう限界なわけです。

明治38(1905)年9月5日、日露の講和条約であるポーツマス条約が結ばれます。しかし日本では、国家予算の6倍もの戦費負担を国民に強いたにもかかわらず、ロシアへの賠償金要求を取り下げたことにより国民の怒りは爆発。小村は襲撃を受け、小村全権大使を弁護した栄一の屋敷には「売国奴渋沢」の紙が投げ込まれます。

 

世情がいまだに落ち着かない中、慶喜の伝記の編纂のために歴史学者や昔を知る人たちが集められます。どうして伝記を作ろうと思ったのか、栄一がくどくどと説明するのですが、そんなことは説明しなくてもこの場にいるものは全員分かっています。和気あいあいとした雰囲気の中、慶喜が「ありがたいが、汚名が雪がれることは望まぬ。事実、私はなすすべもなく逃げたのだ」と話し始めた途端、水を打ったように静まります。

──慶応3年の終わりだ。大坂城内では、家来の暴発を制止できぬ状況になった。ある者などは「大坂を徘徊する薩摩兵を1人斬るごとに金子を与えよう」などと無謀な策を提案するに至り、会津、桑名、旗本までみながみな「兵を率いて入京せよ」と唾を飛ばして議論し激昂し、ほとんど半狂乱ともいうありさまであった。(あの時はひどい風邪を引いていたにも関わらず「兵端を開いてはならぬ」と言ったとの喜作の補足あり) …そうだ。しかしみなは出兵を許さぬなら、私を刺してでも薩摩を討つと言い出した。今でもあの時のみなの顔を夢に見る。
人は誰が何を言おうと、戦争をしたくなれば必ずするのだ。欲望は道徳や倫理よりずっと強い。ひとたび敵と思えば、いくらでも憎み残酷にもなれる。人は好むと好まざるとにかかわらずその力に引かれ、栄光か破滅か、運命の導くままに引きずられていく。私は抵抗することができなかった。ついに「どうにでも勝手にせよ」と言い放った。それで鳥羽伏見の戦が始まったのだ。失策であった。後悔している。戦いを収めねばと思った。しかしそのあとも言葉が足りず、いくつもの失策を重ねた。あるいはそのずっと前から、どこか間違えていたのかもしれぬ。多くの命が失われ、この先は何としても己が戦の種になることだけは避けたいと思い、光を消して余生を送ってきた──。

初めて明かされた慶喜の心境を聞き「そこまでのお覚悟が…」と家臣たちは一様に肩を震わせ涙します。「それは、ただ逃げたのとは違いましょう」と喜作が口を開きます。あれほど数々のそしりを受け、なにも敢えて口を閉ざさずともよかったのではないか、と言う喜作に、慶喜は いいや…と首を横に振ります。「人には生まれついての役割がある。隠遁は、私の最後の役割だったのかもしれない」

私の道とはなんだ? と栄一は篤二に聞きます。日本を守ろうといろいろなことをやってきて、それがようやく外国にも認められるようになってきたのです。しかし思うのです。「私が目指していたものは、これか?」いや、今の日本は心のない張りぼて同然で、そうしてしまったのは自分たちでもあるのです。自分が止めなければ…そう考える栄一は篤二を見据えます。
「私は近く、実業界を引退する」


作:大森 美香
音楽:佐藤 直紀
題字:杉本 博司
語り:守本 奈実 アナウンサー
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[出演]
吉沢 亮 (渋沢栄一)
高良 健吾 (渋沢喜作)
大島 優子 (渋沢兼子)
泉澤 祐希 (渋沢篤二)
小野 莉奈 (穂積歌子)

草彅 剛 (徳川慶喜)
田村 健太郎 (穂積陳重)
長村 航希 (佐々木勇之助)
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田辺 誠一 (尾高惇忠)
山崎 育三郎 (伊藤博文)
内野 謙太 (阪谷芳郎)
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半海 一晃 (小村寿太郎)
遠山 俊也 (鵜飼正為)
福士 誠治 (井上 馨)
北大路 欣也 (徳川家康)
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制作統括:菓子 浩・福岡 利武
プロデューサー:板垣 麻衣子・石村 将太
演出:村橋 直樹

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