大河ドラマ青天を衝け・(38)栄一の嫡男
──こんばんは。徳川家康です。
徳川の世が終わって、二十有余年の時が流れましたよ。日本はようやく近代国家となったが、ここにきて、日本古来の伝統を重んじる考えや、江戸の世を再評価する機運が高まりましてね。そう。大日本帝国憲法発布と同じ年には…。
(祝砲の音)フッフッフッ。呼ばれたようだ──
明治22(1889)年 夏、東京上野で、徳川家康が江戸城に入って300年の節目を祝う「東京開市三百年祭」が開かれました。このお祭りを企画したのは、旧幕臣たちでした。福地源一郎、栗本鋤雲、前島 密、益田 孝、田辺太一らも上野に集まり、「今は亡き小栗さまに、献杯」と杯を傾けます。「先日、烈公(水戸斉昭)の肖像画を見てきた」と猪飼正為(勝三郎)が自慢げに話せば、見てみたいものですね、と渋沢栄一や喜作が笑い、川村恵十郎もうんうんと頷いています。そこに栄一を呼ぶ男が──徳川慶喜の弟・徳川昭武です。もう37歳になったので、もう民部公子ではない、と照れ笑い。永井尚志や高松凌雲も合流して、ある意味、同窓会に似たような雰囲気です。
静岡の慶喜邸では、そのお祭りで徳川宗家の家達が通ったときに人だかりができ、かつての直参たちがたくさん集まって涙ながらに祝っていたと、やすが興奮気味に話しています。東京の民は徳川を忘れておらんのやなぁと美賀子はしみじみ。栄一は慶喜にもぜひ参加してほしかったようですが、慶喜の家のことまでいろいろと世話を焼いてくれる栄一に美賀子は感謝しています。「渋沢を見出したのは平岡の慧眼であった、と」と慶喜の言葉を借りて言えば、やすはたまらず頭を下げます。
慶喜は子の厚と写真や絵画を楽しむ日々を送っています。
栄一は銀行業を中心に、製紙・紡績・鉄鋼・建築・食品・鉄道・鉱山・電力・造船など多くの産業に関わり、国際化に対応できる女性育成のための学校や病院、養育院など、教育施設や福祉施設の充実にも力を注いでいました。養育院運営の寄付を募る慈善会の会長は、妻の兼子が務めていました。また渋沢家では次女の琴子が大蔵省勤務の阪谷芳郎と結婚し、大内くにの産んだ文子も尾高惇忠の次男・尾高次郎との結婚が決まり、くには新たな人生を送りたいと渋沢家を出ていくことになりました。形はお妾さんではありましたが、千代も含めてくにを迎え入れてくれて、そしてくには渋沢家をいろいろとサポートし、とても良好な関係でした。「くには幸せどす。みなさんの立派に育ったお姿を、お千代さんに見せてあげたかった」
篤二は、栄一の嫡男であるので後継者として期待されていました。
「さあどうぞ! お買い求めくださいませ!」と兼子の声が響き渡ります。東京養育院主催の慈善市、バザーです。この慈善会での売り上げは全て養育院に寄付するとあって、みな力の入れようが違います。栄一は、見事な扇と精巧なレースを50円で買うと言い出し、井上 馨や大倉喜八郎も負けじと買っていきます。
やすと一緒に慈善市を訪れた川村恵十郎は、いずれ今の官職を辞したら日光東照宮で徳川家に奉仕したいと考えています。やすは、逃げた将軍とか徳川を終わらせたとかさんざん汚名を被ったっきり、慶喜は引きこもってしまっていて、今の慶喜を見たら平岡円四郎はどう思うだろうって時々考えることがあります。ただ、円四郎のことをずっと覚えていてくれることが、やすにとっての救いです。やすは川村と栄一に礼を言います。
飲みに誘われた篤二は、聞かされる話が父の偉業のことばかりで愛想笑いで対応しますが、渋沢ブランドを継ぐのが篤二だと言われれば悪い気はしないわけで、ついつい飲みすぎてしまいます。芸妓の豆千代に支えてもらいながら送ってもらう篤二を待っていたのは、長姉の穂積歌子でした。あれだけの仕事をした父なら、品行上の欠点があったとしても時代の通弊として仕方ないですが、その子の品行とはまた別ものであるわけです。「お願いだから、自覚をもってちょうだい」とめいっぱい絞られます。
明治23(1890)年、国会の開設に向けて衆議院議員総選挙と貴族院議員の任命が行われました。栄一は、その貴族院議員に選出されたわけですが、一生 政治とは関わりを持たないと決めているのに勝手に選ばれて困っているのです。一日も早く辞任しなければ、と笑う栄一に、歌子の夫・穂積陳重が篤二の進学する学校を熊本の第五高等中学校に決めたいと相談に来ました。何度厳しく注意しても篤二の遊び癖は抜けず、熊本の第五高等中学校であれば教師も一流ぞろいであるために栄一には反対する理由がなく、篤二は熊本で寮生活を送ることになりました。
凌雲は美賀子の診立てを慶喜に伝えます。「乳がん…」と絶句してしまいますが、適切に切除すればまだ望みはあると、凌雲は東京に連れて行って手術を提案します。慶喜は手をついて凌雲に一任することにします。
しかし熊本に行ってしばらくすると、「ワタクシ ダイシツサク イサイユービン」との電報だけ送り、行方不明になったとの知らせが栄一の耳に入ります。女を連れて大阪へ逃げたとの知らせもあり、栄一の手を煩わせることなく家族内でどうにか対処しようとしますが、結局は栄一が熊本の中学校を退学させることにします。ただ、篤二を今のようにしてしまった責任は自分にもあると、栄一は篤二と面会しないほうがいいだろうと、伝達で謹慎を申し付けることにします。
篤二は血洗島で農家を営む妹・ていが連れて帰ることにしました。ていは、栄一が幼いころの話を篤二にします。とっさま(市郎右衛門)に叱られるたびに畑の中に隠れて、人さらいにあったんではないかと大騒ぎになるほどでして、思い出してはフフフと笑うていでした。篤二は自分が幼いころの話をポツリポツリと始めます。母が床につき闘病しているとき、父からは「いいことをすれば母さまの病はよくなるよ」と言われたので、どうにかして病気がよくなるようにと一生懸命に屋敷の庭の草むしりをし続けるわけですが、確かに母の死は辛かったのですが、篤二にとっては不在がちだった父が家にいるのがうれしかったようです。篤二は謹慎生活ののち東京に戻り、華族の娘・敦子と結婚することになりました。
栄一が馬車で移動中、「売国奴!」と叫ぶ暴漢に襲撃される事件が発生。ただ暴漢は生ぬるい襲撃で終わらせ、栄一の手首にちょっとの傷をつけた程度で引き上げていきます。それを考えると栄一にも思い当たる節があり、水道管敷設をめぐって日本製のものよりも安全性を取って舶来品を使うべきだと主張した栄一を、誰かが脅したのではないかという見方をしているのです。「俺は水を清潔にしたかっただけだ。コレラの蔓延はまだ続いてる。過去の過ちは忘れてはならない」
暗室で美賀子の写真を現像している慶喜。その美賀子は、東京の徳川家達邸で息を引き取ります。これを機に、慶喜に東京に戻ってきてもらうことはできないのかと考える栄一たちですが、慶喜自身も何かと不調が多く、慶喜に対する世間の風当たりも未だに強いものがありますので、そうなかなか簡単にはいかないようです。ただ栄一が声を大にして言いたいのは、慶喜が最後に行った偉業の数々をさもなかったことのように取り扱い、我こそが新しい日本を作り上げたという顔をしている輩が多いということです。新しい日本を実現可能にしたのは慶喜であって、それを人々に忘れさせてはならないと強く感じている栄一です。
明治以降、本格的に富国強兵を進めてきた日本は、大国・清と戦闘状態に入ります。栄一は東京商業会議所および関東銀行会の代表として、天皇が陣を置く広島大本営に赴きます。「この度の陸海軍の勝利につきまして、衷心より──」
その帰り道、静岡の慶喜屋敷に立ち寄った栄一は、慶喜を世に知らしめるため、新聞社を営む福地と慶喜の伝記を作らせてほしいと願い出るのです。「何度も言うが、話すことは何もない」と慶喜は受け入れませんが、栄一は諦めずに慶喜を説得し続けます。
翌、明治28(1895)年3月、日清戦争が日本の勝利で終結しました。日清戦争にかかったお金約2億円は日本の国家予算2.5年分でありまして、どうしたものかと栄一は頭を抱えますが、内閣総理大臣・伊藤博文によれば清国の賠償金でどうにかできそうです。これはつまり、日本はアジアの三等国ではなく一等国への確かな道筋が見えてきたということです。明治維新から30年足らずで、日本は西洋列強と並ぶほどの文明国になろうとしています。ようやく日本はここまできたのです。栄一はこの時こそ好機到来と、慶喜が東京に戻ってきてもらうようにします。「御前様なくして今の日本はありませんよ!」
2年後、慶喜がおよそ30年ぶりに東京に戻ってきました。
作:大森 美香
音楽:佐藤 直紀
題字:杉本 博司
語り:守本 奈実 アナウンサー
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[出演]
吉沢 亮 (渋沢栄一)
高良 健吾 (渋沢喜作)
大島 優子 (渋沢兼子)
泉澤 祐希 (渋沢篤二)
藤野 涼子 (渋沢てい)
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草彅 剛 (徳川慶喜)
川栄 李奈 (徳川美香子)
山崎 育三郎 (伊藤博文)
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木村 佳乃 (やす)
中村 靖日 (永井尚志)
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福士 誠治 (井上 馨)
北大路 欣也 (徳川家康)
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制作統括:菓子 浩・福岡 利武
プロデューサー:板垣 麻衣子・橋爪 國臣
演出:渡辺 哲也
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