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2022年1月11日 (火)

プレイバック武蔵坊弁慶・(03)春宵 五条大橋

弁慶が荒れ狂ったのはほんの数刻前である。平清盛が住む西八条の館は、まさに台風一過の感があった──。

清盛屋敷にはかがり火が焚かれ、屋敷からたくさんの警護兵が松明を持って出てきて弁慶の捜索に当たっています。ものものしい雰囲気はまるで戦のようです。常陸坊海尊の話では、話が通じぬ相手と分かればいつまでも同じ場所に留まるような男ではないので、ハチの巣をつついたような騒ぎを見ると、どうやら弁慶は牢を押し破って逃げたものと考えられます。偵察から戻ってきた徳に「いい加減なことを言うと承知しないよ!」と詰め寄るほくろに、嫉妬心から声を荒げる徳ですが、静かにしねえか! と太平に叱られてしまいます。

弁慶を逃がしたという平 知盛に平 清盛は激怒しますが、あれだけの剛の者、説得をしてなんとか平家の味方になってもらおうとしたと主張します。清盛は、自分のことを堂々と罵った弁慶が、平家一門の仇にこそなれ決して味方するような男ではないと、知盛の見通しを甘いと一蹴。「逃げられたのではなく、逃がしたということをお忘れなく」と座を蹴る知盛に頭を抱える清盛です。

清盛の温情を仇で返すようなことになってしまって、玉虫は右京太夫に頭を下げて詫びますが、右京太夫は玉虫を責め立てるようなことはしません。玉虫が弁慶に恋心を抱いていると理解してくれているので、玉虫にとっては味方なのです。石牢に忍び入ってともに死ぬつもりであったと知り、一人の男を思い続けられる玉虫がうらやましい、とつぶやきます。

右京太夫たちがいる控えの間に知盛と警護兵がやってきました。玉虫を連れ出して詮議するつもりのようですが、右京太夫は「力づくで召し連れよとはあまりに無粋。女子は華、華は愛でるもの」とこれをやんわりと阻止します。くだらん、と知盛は鼻で笑い、詮議ゆえにこちらに渡せと引きません。そこに割って入ったのが平 資盛です。

資盛が笛を吹き、玉虫が琴を奏でる。そんな中、右京太夫が歌を詠む。身を引いた知盛は遠くで琴の音を聞いていると、右京太夫からの歌が届けられました。
  沖つ波 岩打つ磯の 鮑貝 拾い詫びぬる 名こそ惜しけれ
知盛への謝罪のつもりか、それとも荒ぶる知盛へ好意を持ったのか、己の身を岩打つ磯に翻弄されるあわびに例えて恥じる女ごころを詠んだ歌に違いない。しかし知盛は、表情ひとつ変えず、右京太夫からのその歌文をかがり火に放り投げるのでした。

 

2か月後、京に奇妙なうわさが立ち始めます。夜ごと大入道が出没して高価な刀を奪い取るというものです。その大入道のいでたちも物騒なもので、黒革威(おどし)の鎧に大太刀を離さず、場合によっては玉虫をかっさらいに御所にでも討ち入りそうな格好です。背には、薙鎌(ないがま)、鋸(のこぎり)、鉄棒、熊手、鉞(まさかり)、木槌、刺股(さすまた)、これら「弁慶の七つ道具」と称されています。弁慶が薙刀を振り回せば、恐れおののいた公家たちは刀を手放して一目散に逃げていくのですが、不思議なことに刀を奪い取られたと訴え出るものが誰一人としていませんでした。

その大入道の姿を見たという男たちに徳が話を聞いてみると、「目ん玉がこんなデカくてよ、夕日みてえにギラギラ燃えてよ」「鼻もよ、一尺はあったかな」「カーッと睨みやがって」「口から火がボーッとな」と興奮気味に伝えてきました。けっ…と聞き流す徳ですが、ほくろは「俺は鬼若だと思うよ」と冷静です。平家を相手に刀狩りという大胆不敵なことをやってのけるのは弁慶しか考えられません。正直に言うと徳は弁慶を恨んでいまして、弁慶がほくろの前に現れてからほくろは徳を相手にしてくれなくなったのです。ほくろの父が徳に、ほくろと夫婦になれと言ったようで、徳はこれまで頑張ってきたわけですが、ほくろにしてみれば「そんなの知らない」話で、徳を亭主にするつもりなんかさらさらない、とはっきり言いきります。

御所内でも大入道のうわさは持ちきりで、「やれ500本獲ったの、もうすぐ1,000本になるの、と」鈴の前がわざわざ玉虫に教えてくれます。ただ平家一門の者からは刀を取られた者は一人もおらず、役人も詮議のしようがなくてお手上げ状態なのです。その大入道が五条大橋の堀川あたりに現れると聞いて、玉虫は真夜中、水干姿の小太郎という童を従者に御所を抜け出して五条大橋に向かいます。

五条大橋のたもと、小太郎が目を覚ますと、橋の向こうから下駄の音が聞こえてきます。小太郎に起こされた玉虫がその姿を確認すると鬼若にまちがいなさそうです。思わず立ち上がる玉虫を押しとどめる小太郎。五条大橋を兵が取り囲んでおり、弁慶を捕らえようとしているのですが、その姿はすでに及び腰です。「命が惜しくば、太刀を捨ててさっさと逃げよ」と脅すやいなや、瞬く間に刀を巻き上げ、兵たちは一目散に逃げていきます。

刀を拾っている弁慶の目に、駆け寄ってくる玉虫の姿が映りました。弁慶は玉虫を抱き上げ、再会を喜びます。鴨川のほとりでふたり並んで座っていますが、やはりしばらくぶりの再会であるので両者ともぎこちなく会話します。ただ玉虫は、弁慶が平家の家人たちに追われる身であるがゆえに、こうした対面もいずれはできなくなると覚悟していますが、せめて今の時だけでも離れずに時間を過ごしていたいわけです。弁慶は、どこかに二人の家を建てて必ず迎えに行くから「待っていてくれい」と玉虫の目を見てつぶやきます。弁慶は、夜が明ける前に玉虫を背中におぶって御所に送り届けます。

京の都・西八条の館(平 清盛の住居)には大入道退治に出かけた家人が集められていました。知盛はその守備を聞きますが、家人たちは「さすがの化け物も我らに恐れをなしたか、待てど暮らせど一向に姿を現さず」などとしどろもどろに答え、知盛はあきれ果てて下がらせます。そしてその真偽のほどを、知盛の影のように働く頑入に調べさせます。

徳とほくろが山中を歩いていると、古い寺を見つけます。中に入るとなかなかの荒れようで、天井からはひもがぶら下がっています。徳がそのひもを引っ張ってみると、屋根裏から無数の刀が落ちてきました。弁慶の仕業であると確信したほくろが寺から出ると、ちょうど弁慶が戻ってきたところでした。ほくろはムッとした表情を見せながら「話がある、来い」と弁慶を連れ出します。

ほくろは思い切って弁慶に好きな気持ちを打ち明けますが、弁慶は「約束した女子がおるから無理だ」と断ります。ほくろも玉虫のことはしっており、自分と玉虫とどちらがかわいいかと弁慶に迫るのですが、弁慶は揺らぐことなく玉虫がかわいいと答えます。そこへ、弁慶が盗った狩衣姿になった徳がおもしろがってほくろに店に来るのですが、「鬼若の阿呆、間抜け! 見損なったわ」と言って走り出すほくろを、徳は何があったかと追いかけていきます。

 

そしてその夜も、五条大橋には弁慶の姿がありました。橋の敷板にどっかと腰かけ、目をつぶっていますと、遠くから笛の音色が聞こえてきました。童子水干姿で衣をかぶり、弁慶ははじめ女かと思って見過ごしましたが、腰を見ると大刀が差されています。慌てて立ち上がりその主に「待たれい」と声を掛けますが、歩みを止めません。「無益な殺生はもとより本意にあらず、その太刀を外して置いてゆけ」と言うのですが、その稚児は全く聞き入れる様子がありません。

容赦はせぬ、と弁慶は薙刀で払いますが、稚児はふわりと浮かび上がったかと思うと、弁慶のはるか後ろに着地。さらに払うと今度は橋の欄干の上で涼しそうに笛を吹いています。完全に頭に血が上った弁慶は、「おのれもののけが!」と薙刀を素早く払い続けるのですが、それを見透かしたように稚児は弁慶の攻撃をするりとかわしていきます。どうした武蔵坊弁慶、と言われて、なぜわしの名を!? と驚くのですが、稚児は弁慶の方に振り返り、「鞍馬の遮那王」と名乗るとフッとほほ笑みます。

「悔しければ鞍馬へ訪ねて参るがよい。いつでも相手になる」と去っていくその遮那王とは、いつか海尊がしきりに会わせたがっていた源氏の御曹司に間違いありません。幼名は牛若丸、今は鞍馬山にあって遮那王と名乗るこの稚児こそ、後の九郎判官義経であります。弁慶はへなへなと座り込み、薙刀を払ったときに切り落とした欄干の擬宝珠を転がしながら、完全に敗北したと大笑いします。


原作:富田 常雄
脚本:杉山 義法
テーマ音楽:芥川 也寸志
音楽:毛利 蔵人
タイトル文字:山田 恵諦
語り:山川 静夫 アナウンサー
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[出演]
中村 吉右衛門 (武蔵坊弁慶)

川野 太郎 (遮那王)
荻野目 慶子 (玉虫)
加藤 茶 (徳)
岡安 由美子 (ほくろ)
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真野 あずさ (右京大夫)
堤 大二郎 (平 資盛)
岩下 浩 (常陸坊海尊)
高品 格 (太平)
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隆 大介 (平 知盛)
東 恵美子 (北の方時子)
芦田 伸介 (平 清盛)
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制作:村上 慧
演出:外園 悠治

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