プレイバック武蔵坊弁慶・(07)奥州下り
八条女院は気まぐれに弁慶の100人力を披露してもらい、かなりご機嫌です。頼もしい家来をお持ちじゃ、と遮那王にも言葉をかけます。そもそも八条女院がなぜ源氏に肩入れするかというと、保元・平治の乱以降 嘆かわしく感じているのは、人の道が地に落ちてしまったことが非常に情けないことで、人を人とも思わない平家一門のおごり高ぶりは特に目に余ります。平家一門さえ栄えればそれでいいという平 清盛の考えで、どうして国が治められようか、と考えているからです。他人を憐れむ心がなければならないと言う八条女院は、遮那王がいつか人の上に立つときがあっても忘れてはならないと諭します。
八条女院から藤原秀衡への添え状を与えてもらった遮那王と弁慶は大喜びです。屋敷の外で待っていた金売り吉次は、遮那王主従と戌の刻(午後8時ごろ)に大蔵卿・一条長成の屋敷で落ち合うことにします。弁慶は玉虫に一目会いに、遮那王といったん分かれます。
剣の稽古に励む平 知盛の耳に「金売り吉次」の名前が入ってきました。砂金を扱う奥州の商人で秀衡の家人という話もあり、勘が鋭い知盛は、遮那王が吉次とともに秀衡を頼って奥州に向かうのではないかと推察します。
玉虫と会った弁慶は、今宵旅立つことになったと報告します。急な話で戸惑う玉虫は せめて行先をと懇願しますが、それは今は言わぬ方がよかろう、と口をつぐみます。ある意味平家に追われて奥州へ避難するわけで、それさえも玉虫に言うのは憚られるのですが、なるだけ目立たぬように少人数で行動しなければならないわけです。もしも玉虫に行先をいってしまえば、絶対に「ついてまいります」となるのは火を見るより明らかであります。それでも納得いかない玉虫に、自分は奥州平泉に御曹司をお送りせねばならないこと、京に戻ってくるまで熊野にひとり住んでいる弁慶の母の元で待っていてほしい、と伝えます。ただ戻ってくるまでに1年かかるか…と言葉を濁す弁慶に、せめて途中まで行動を共にと頼まれてはさすがの弁慶も断り切れず、御曹司に相談してみよう、ということになりました。
弁慶が去り、ひとり戻ろうとする玉虫は、ふと人影を見つけます。「無礼をすると許しませぬぞ」と脅しはするものの、声が震えています。編み笠をとると、その正体は播磨の傀儡子衆・ほくろでした。「鬼若は夢を食べて生きている。目を離すとどこかへ飛んでいってしまうぞ」とだけ言うと、瞬く間に姿を消します。
玉虫が御所へ戻ると、平 資盛が興奮気味に玉虫に駆け寄ってきました。なんでも心を寄せている右京太夫に猛アタックをし続け、ようやく色よい返事をもらえたとのことで、今夜屋敷に来てくれることになったそうです。今宵は素晴らしい一夜になるぞ、とそわそわしながら立ち去っていきます。
右京太夫の女房・鈴の前は資盛の陽気さを気に入っておりまして、右京太夫のことを姉のように慕っていることにいじらしささえも感じているようです。資盛と知盛とどちらが好きかを尋ねられると、右京太夫は一瞬曇った表情になります。「戯れの恋ならば資盛さま、まこと燃えてみたいは知盛さま」 私はお嫌いでございます、と右京太夫に迫ったのは玉虫でした。恋はおんなの命、戯れなどではなく、どうしてまことの恋に命を懸けないのですか──。片思いでは、命の懸けようもあるまい、と右京太夫は寂しそうな表情になります。玉虫は、今日を最後にお暇をいただくと断り、右京太夫には女の生き方を教えていただいたと礼を言います。「玉虫はあの御方に命を懸けまする。生涯をかけた恋をしてみとうございます。願わくば御方さまも、知盛さまと命がけの恋を……」
鞍馬山・東光坊では、阿闍梨が遮那王との別れに際して、心を鬼にして仏法の道に導きえなかったことを詫びます。「心豊かに、人生を全うしてくれ」と心から願い、遮那王を送り出します。
そのころ玉虫は御所にいて、右京太夫の元から立ち去りかねていました。網代車の用意が整い、右京太夫や鈴の前たちが移動してきます。玉虫はたまらず右京太夫に駆け寄り、最後の挨拶をします。「幸せにの」とだけ言い残して右京太夫は去っていきますが、その脳裏には、なぜ知盛さまと命がけの恋をなさりませぬ? 戯れの恋などなさるべきではありませぬ、という玉虫の声が響いています。「鈴の前……今夜はやめにしましょう」
遮那王の奥州ゆきの情報を掴んだ知盛は、まるで戦があるかのように鎧やかがり火を用意させ、家人にテキパキと指示をして遮那王逮捕に動きます。
玉虫の到着がまだです。「これだから女子は!!」と弁慶はイライラしていますが、遮那王はすでに出立の準備も整い、今は静と別れを惜しんでいます。静は遮那王から桜のように美しい女子だと言われたので、たくさんの桜の花びらを紙に包んで遮那王に手渡します。遮那王は常磐に促されて、いよいよ旅立ちの時を迎えます。
一条長成の屋敷の厩舎に、見慣れない男が入ってきます。当家出入りの者と称し、のどが渇いたと言うとるぞと言って、世話役に水の用意をさせているすきを狙って世話役を気絶させ、馬を引いて出て行ってしまいます。馬が盗まれたと知った弁慶はそのあとを追いかけ、見慣れない男に追い付きます。「馬が出してくれというので出してやった。へへ」と笑うその男は、世話役にやったようにすきをついて弁慶を気絶させようとするのですが、まったく効き目がなく。逆に首根っこを持ち上げられてぶん投げられて飛ばされていきます。竹の先端に捕まるその男は「祖先は八幡太郎義家公の家臣・伊勢三郎だ!」と名乗りますが、多くのかがり火が近づいてくるのが見えます。軍勢が来たぞ軍勢が! と教えてくれた男を面白いやつだと評し、馬を連れてついてこい、と自分の後を追わせます。
弁慶は遮那王に、平家の軍勢が押し寄せてきていることを伝え、すぐにでもお立ち退きを! と迫ります。常磐御前には、自分たちが裏門から立ち退いたら即刻門を閉め、何があっても開けてはならないと伝えます。弁慶は自分が囮(おとり)となって蹴散らしている間に、常陸坊海尊に遮那王たちとともになるだけ遠くに離れるように言い、平家の軍勢に向かっていきます。そして、弁慶や遮那王たちがしらない間に、一行の後をほくろが付いていっています。
遮那王と行動を共にするように伝えたはずの三郎がなぜか弁慶についてきていまして、呆れる弁慶ですが、自慢は馬だけじゃねぇ、と矢を3本同時に射て相手を正確に倒していきます。うまいもんだ、と感心しつつ、弁慶も錫杖を振り回して軍勢を蹴散らし、弁慶を追ってきた知盛の攻撃も見事にかわします。どれだけ攻撃しても弁慶にはかなわない。殺せ、と座り込んだ知盛は弁慶に言い放ちます。「命を惜しめ。遮那王への憎しみを身内に向けるのだ」
翌日、道を静かに進む遮那王一行、玉虫は弁慶の姿がいまだにないのをとても心配していますが、「御曹司~っ!」という弁慶の叫び声に、ついついにんまりしてしまう玉虫です。
──愛は人の心を動かすか。勇気は時代を変えうるか。弁慶、まっしぐら──
原作:富田 常雄
脚本:杉山 義法
テーマ音楽:芥川 也寸志
音楽:毛利 蔵人
タイトル文字:山田 恵諦
語り:山川 静夫 アナウンサー
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[出演]
中村 吉右衛門 (武蔵坊弁慶)
川野 太郎 (遮那王)
荻野目 慶子 (玉虫)
麻生 祐未 (静)
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真野 あずさ (右京大夫)
ジョニー 大倉 (伊勢三郎)
堤 大二郎 (平 資盛)
寺尾 聰 (金売り吉次)
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隆 大介 (平 知盛)
信 欣三 (東光坊阿闍梨)
光本 幸子 (八条女院)
藤村 志保 (常磐御前)
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制作:村上 慧
演出:松岡 孝治
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