プレイバック武蔵坊弁慶・(02)驕(おご)る平家
世は「平氏にあらざれば人にあらず」と自ら豪語した驕(おご)る平家の絶頂期。はじめは寺の自衛手段であった僧兵も、次第に武装集団に膨れ上がっていた。未だ人生の目的を持たぬ武蔵坊弁慶も、その一人であった──。
太平率いる傀儡子衆の元に身を寄せる弁慶と常陸坊海尊。書写山円教寺の寺を焼いてしまってから無口になっている弁慶(鬼若)を見て、ほくろは肉をほおばりながら「あんな寺の一つや二つ」と呆れていますが、太平は弁慶の心に僧侶としての気持ちが残っていたことにホッとしています。
海尊は「お前に会わせたい人がいる」と弁慶を京に誘いますが、それ以前に弁慶は海尊がなぜ自分にそうかまうのかが不思議でたまりません。海尊は頭をポリポリ掻きながら、三井寺の学僧とは仮の姿であり、平治の乱で不運の最期を遂げた源 義朝の家臣だと打ち明けます。弁慶は、やれ平氏だ、源氏だと、そういったものに首を突っ込むつもりはさらさらなく、京行きも「やめだやめだ」と言っていますが、首を突っ込むかどうかは御曹司に会ってみてから決めればいい、と海尊は話を続けます。
「御曹司」とは義朝の忘れ形見・牛若丸で年齢16歳、鞍馬の東光坊阿闍梨(とうこうぼう あじゃり)の元でかくまわれています。「鞍馬の遮那王」とは彼のことで、稀に見る麒麟児であります。弁慶のわざをもってしても遠く及ばぬと笑う海尊に、弁慶は「何が16歳の小童に」と鼻で笑います。
平清盛四男・平 知盛は、書写山円教寺が焼けた知らせを受け激怒します。しかも下手人が武蔵坊弁慶と聞いて捕まえるよう命じ、父清盛に報告に上がります。一度は病で太政大臣を退き、政権を嫡男平 重盛に委ねて出家した平 清盛は、浄海入道と称しながらも、高倉天皇の中宮徳子の父として絶大な権力を駆使して天下ににらみを利かせていました。その清盛は「捨て置け」と大した執着はありませんが、清盛と遊んでいた八女のお廊を知盛が下がらせたということは、異父兄妹の鞍馬の遮那王のことを話題として持ち出すんだろうと推測しています。
源氏再興の芽は早めに摘んでおかなければならないと焦る知盛の思いは、清盛にはなかなか届きません。伊豆の源 頼朝を助けたのも清盛の継母・池禅尼にせがまれたからで、遮那王を助けたのはその母・常盤御前の美しさに負けたからか? 父上は女子に甘すぎます、と進言して清盛の反感を買う知盛です。
徳が偵察から戻ってきました。港も街道筋も役人がいっぱいいて当分山を下りられないと報告するのですが、何かに驚いた鳥が鳴き声をあげて飛んでいくのを聞き、太平は気配をなくすべく焚火を消しながら「妙だな」と勘繰ります。徳が誰かにつけられたかもしれないとすれば、かつて仲間だった頑入(がんにゅう)が裏切って敵側に回ったことしか考えられません。頑入は暗闇から吹き矢を吹き、ほくろに命中させます。その刺し傷から毒を吸い取る弁慶に若干の羨ましさを感じながら、徳は頑入たちの攻撃を受けます。
弁慶は、頑入たちの狙いは自分にあるのだからと、太平たちにここから逃げるように勧め、自ら捕らえられに立ち上がります。
3日後、清盛入道相国のご機嫌伺いに 西八条にある館へ向かう網代車(あじろぐるま)の一行がありました。乗っているのは、高倉天皇の中宮徳子の女房・右京大夫と、右京大夫に仕える玉虫、鈴の前の三人です。その一行の行く手を遮る者たちがあり、円教寺に付け火をして捕らえた僧を護送していると聞いて 玉虫が御簾から見たのは、護送する役人よりも大男の…。
「どうしたどうした? もたもたするな! さあ元気を出せ! 早う清盛のところに連れてゆけ!」と、護送されているはずの僧が鼓舞し、役人たちが僧につないだ縄に引きずられていく、なんとも滑稽な光景だったのですが、玉虫にはその声に聞き覚えがありました。幼いころ、その大きな背中におぶさって野山を駆け回った、弁慶です。
弁慶はそのまま石牢に入れられます。
館内では、徳子が派遣した白拍子による舞が披露され、清盛もとてもご機嫌です。そしてその列に並ぶ清盛の孫(嫡男平 重盛の次男)である平 資盛は 視線を感じて右京太夫を見、会釈をしますが、一回り以上年上の右京太夫に見事に無視されてしまいます。一方、同世代の知盛からの視線に気づいて右京太夫は笑って会釈するのですが、今度は知盛にシカトされてしまいガックリです。そして玉虫は、弁慶のことが気になって舞どころではありません。
舞が終わり、徳子の見舞いの礼として「そちたちにも褒美を取らせよう」と清盛が言い出しますが、右京太夫は「されば比叡山の荒法師をひとり」と答えます。荒法師、もちろん弁慶のことですが、寺を焼いた大罪人を座興で呼ぶわけがないと、清盛は弁慶を呼ぶ理由を聞いてみます。6~7年前、徳子姫が中宮になる前、後白河院のお供で熊野へ参詣した際に玉虫が道に迷い悪人たちに襲われていたところを助けてくれたのが弁慶だったと言うのです。ことの理非をわきまえたあっぱれな剛の者ゆえよくよく調べてほしいと頭を下げます。
弁慶を牢から出し、清盛の前に座らせて聞き取りが始まるのですが、これがまさに清盛を小ばかにしたような答えばかりでありまして、最後には「過ぐる保元の戦の折、伯父平 忠正を殺し、あまつさえ崇徳上皇を讃岐に流し奉るは、人の行う道にあらず。さすれば天下の大罪人は浄海入道 平 清盛自身ではござらぬか!」と清盛を痛烈に批判し、激怒した清盛は知盛に弁慶の首をはねるように命じますが、知盛は再び石牢に閉じ込めます。
ひとり石牢に忍び込んだ玉虫は、牢の中でいびきをかいて寝ている弁慶に声をかけます。玉虫と名乗ると、名を聞いた途端にムクッと起き出し、再会を喜ぶ弁慶です。「鬼若殿にもしものことがあったら…この玉虫とて生きてはおりませぬ」と泣き出す玉虫にうろたえながら、牢の中の弁慶はなぐさめるしかありません。弁慶に頼まれて、捕縛の縄に傷をつけているうちに玉虫は牢番に連れ出され、「望み通り首を刎ねてやる」と知盛は牢番に命じます。玉虫を乱暴に連れ出したことに怒りが爆発した弁慶は、そのパワーで縄をちぎり、牢格子を押し破って玉虫を追います。そのすさまじい姿を、知盛はあっけにとられて見ているしかありませんでした。
原作:富田 常雄
脚本:杉山 義法
テーマ音楽:芥川 也寸志
音楽:毛利 蔵人
タイトル文字:山田 恵諦
語り:山川 静夫 アナウンサー
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[出演]
中村 吉右衛門 (武蔵坊弁慶)
荻野目 慶子 (玉虫)
加藤 茶 (徳)
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真野 あずさ (右京大夫)
堤 大二郎 (平 資盛)
高品 格 (太平)
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隆 大介 (平 知盛)
東 恵美子 (北の方時子)
芦田 伸介 (平 清盛)
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制作:村上 慧
演出:重光 亨彦
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