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2022年1月18日 (火)

プレイバック武蔵坊弁慶・(05)常磐と静

遮那王はめきめきと剣術の腕を上げておりまして、鞍馬寺の法師たちも大勢でかかってもまったく歯が立ちません。鞍馬寺の別当・東光坊阿闍梨は「あれでは法師たちが使い物にならぬ」と真顔です。常陸坊海尊は、常磐御前から2歳で引き離された牛若丸(遮那王)が、母恋しさに毎日泣くような弱弱しい男であったのに、阿闍梨は 遮那王がこんなたくましい成人になるまでよく育ててくれたと感謝します。

というより、遮那王が立派に育ちすぎて、平氏に目を付けられないように、あるいは六波羅探題が捕まえに来たとしても言い逃れできるように、遮那王の元服を引き延ばしに延ばしてきましたが、そろそろ限界かもしれません。阿闍梨は、遮那王に鞍馬寺を出させるつもりでいます。

──鞍馬の遮那王、日がな一日 戦の稽古に明け暮れ、母親譲りの笛で荒らげた心をいやす孤独な少年であった──


京・七条の市。直垂姿の弁慶がどっかと座り、集めた刀を雑に並べています。道具屋がその刀を鑑定しますが、殿上人か平家の公達にしか持てない代物だと説明されて、なるほど高い値打ちのものだとなかば驚いています。「まさかアンタ…毎晩五条の大橋あたりに出てる…?」と顔色が変わる道具屋に、俺は馬が1頭ほしいだけなのだと言い、誰か買い取ってくれる者はいないか尋ねます。道具屋はおろおろしながら、陸奥の商人で毎回たくさん買い物をしてくれる男なら…と弁慶の前に連れてくることにします。

やがて道具屋が連れてきたのは、身なりはあくまで商人ながら、どこか不敵な匂いのする旅の男でした。その商人は、この程度のものであれば全て引き取っても構わないと言い出し、商品を全て見せてもらおうと、弁慶のねぐらに連れて行ってもらうことにします。商人は、「砂金を扱うておりますので、金売りの吉次で通っております」と名乗り、奥州平泉の藤原秀衡の名前を出します。秀衡のことは弁慶もよく存じておりまして、それで吉次はこの男が弁慶であると分かったわけです。

ねぐらに着いて、999本の太刀を見せる弁慶は、1,000本目を盗ろうと思ったときに出会った稚児にやられて、こちらが家来にさせられてしもうた、と大笑いします。稚児は不遇な運命をたどっておりまして、武家に生まれながら今は寺に預けられ……、と説明したところで、吉次はそれが鞍馬の遮那王であると気づきます。「縁とは異なもの……。やんごとなき御方に頼まれて、御曹司の母君・常磐様のお世話をいたしております」
遮那王の母・常磐御前は、大蔵卿・一条長成の奥方として一条能成(よしなり)という8歳の男子とともに暮らしておられるそうです。

 

その翌日、弁慶は「馬を見に行こう」と遮那王を誘います。持ち馬を手放す公卿がいるというのですが、遮那王はそれよりも、弁慶に馬を買えるだけの金を持っているのかどうかが不安です。しかし、弁慶が公達から巻き上げた刀を売りさばいたのか? と気が付きます。さてふたりは竹藪の中を歩いていき、お屋敷の前にたどり着くのですが、遮那王はハッとした表情で、帰る! と突然言い出します。最初はとぼけていた弁慶も、屋敷の主が誰なのか、そして主に嫁いだ奥方が誰なのかをご存じなのですか? と問われ、弁慶が何か企んでいると気づきます。

弁慶は遮那王に初めて会ったときから、俊敏さ、機転の鋭さ、何者をも恐れぬ大胆不敵さに感心していましたが、ただ一点だけ心に宿る影が気になっていたのです。もしこの先、旗揚げをするつもりであるなら、信頼のおける者たちを集める必要がありますが、まずはその心に宿る影を拭い去り、小事にこだわらない度量の大きさこそ必要、と説きます。「人のうわさに惑わされてはなりませぬ。まずはご自分の目でお確かめなされよ。母君がどのような御方か」

会えばよいのだな、と弁慶に吐き捨てると、屋敷に足を踏み入れます。すると、侍女が止めるのも聞かずに能成がスッと入ってきて、遮那王の後ろにちょこんと座ります。「兄上はおいくつじゃ?」と能成に問われた遮那王は、兄と呼ばれたことが衝撃で答えられずにいます。「やはり……、来るのではなかった」

そこに、常磐御前が現れます。遮那王の母・常磐は、近衛天皇の皇后・呈子(ていし)に仕えた雑仕女(ぞうしめ)で、16歳で源氏の棟梁・源 義朝の寵愛を受け、今若、乙若、牛若の3児を儲けました。15年前の平治の乱で義朝が敗れ、平家の厳しい追及の手を逃れながらの雪の逃避行は、平治物語の名場面として今に伝えられています。『比(ころ)は二月(きさらぎ)十日なり。余寒(よかん)猶(なほ)烈(はげ)しくて、雪は隙なく降りにけり。今若殿を先に立て、乙若殿の手を引き、牛若殿を懐に抱き、二人(ににん)の幼い人々には物も履かせず、氷の上を裸足にてぞ歩ませける』(『平治物語』) 当時1歳の遮那王は、母の懐の温もりを覚えていようはずもないわけですが、常磐御前にしてみれば、15年の歳月がさながら春の淡雪のように一瞬にして溶けるほどの短期の再会でありました。この再会に関して弁慶の勧めがあったからというのを知り、常磐は弁慶に礼を言います。弁慶は母と子の積もる話もあるだろうと、席を外します。

常磐と二人きりになった時、遮那王は尋ねます。源氏の棟梁の側室の身でありながら平 清盛の寵愛を受けたのはまことですか、と。常磐は伏し目がちになりながら「まことじゃ」とつぶやきます。遮那王の 母に対する心のもやもやはそこにあり、清盛は父・義朝を討った敵であるのに、憎き仇の寵愛を受けて恥ずかしくないのかと、やはり言葉の端々が尖った言い方になってしまいます。常磐は困ったように、どうしても答えねばならぬか? 相手を困らせるのがお好きか? と聞くのですが、遮那王はかまわず、源氏の身でありながら我が身惜しさに、平家の情けにすがって生きようとはあんまりな話であり、遮那王は常磐を母と呼びたくないわけです。常磐は落涙しつつ、努めて冷静でいようとします。「これだけは言うまいと思うていたが……惜しかったのは我が身ではない。そなたたちじゃ」 言い訳にしか聞こえまいがの、と己を鼻で笑うように言いますが、常磐にとって源氏がどうの平家がどうのということではなく、母としてどうすべきかしか念頭にありませんでした。我が子と引き換えにどちらを選ぶかと言われれば、どうして我が身と言えようか。

女子というのは重宝なもの、我が子のためと言えば何でも許されると思ったのか。常磐をさらに攻撃し続ける遮那王に、能成が駆け込んできて「帰れ! こんな兄はいらぬ! 母をいじめるのは兄ではないわ!」と、か弱い力で遮那王の背中をたたき続けます。その能成が長成によって連れ出され、ふたたび二人きりになった時、それでも遮那王の気持ちを理解しようとする母……。女とは悲しき性で、清盛との間に女の子を成し、一条家では能成まで生まれていては、兄とは言っても多感な時期、理解しようというのが難しいことです。もしかしたらあのとき、平治の乱で敗れて大和へ猛吹雪の中 落ち延びるときに、親子道連れに命を絶つべきであったのかもしれません。そうしていれば、ここまで実の息子に蔑まれずに済んだのに、と常磐は悲しみます。「愚かしや……何のために今日まで生き恥をさらしてきたのやら」

知らぬ! 何も覚えてはおらぬ、私には母上と過ごした記憶が何一つない! と抗う遮那王ですが、鞍馬山に預けられていた時には、母とはどんな人か、どんな声か、どんなぬくもりでどんな匂いか、山から下りて屋敷の回りを夜な夜なうろうろして母を探していたのです。それを聞いた常磐は、落ち延びる猛吹雪には確かに母の懐に抱かれていたのだと、遮那王を胸に抱きしめます。

弁慶は吉次と厩舎に向かい、馬を選んでいます。弁慶は遮那王が映えるから白馬がいいと言っていますが、あまり目立たないほうがいいでしょう、ともっともらしい吉次の意見です。それに従って弁慶は気の荒そうな馬を選びます。厩舎の横の庭では、長成と常磐が見守る中、遮那王と能成が兄弟らしく剣術の手合わせをしています。その姿を見て弁慶は、心にたまったものを吐き出させれば、あとはいつもの好青年に戻る、と笑っています。

 

そのころ鞍馬山では、平 知盛と資盛を先頭に、数十人の平家の者たちが山道を登っています。応対したのは阿闍梨で、遮那王が不在であることを伝えると、知盛は遮那王が戻るまで待たせてもらおう、と座り込んでしまいます。「案ずるな。顔が見たいだけじゃ」

 

夜、遮那王は庭に咲いた桜を眺めながら、屋敷の中では能成と長成が追いかけっこをしていて、それを常磐が楽しそうに見ている家族の姿が遮那王の目に移ります。女子とは悲しきものよのう、と弁慶につぶやく遮那王です。遮那王と常磐の再会の宴が静かに催されているのですが、吉次が白拍子を連れてきたそうで、その舞を楽しむことにします。

入ってきた美少女の白拍子は静と名乗り、綺麗に舞を披露しますが、遮那王はその美しさに目を奪われています。遮那王にとって、ほんのつかの間の安らぎでした。


原作:富田 常雄
脚本:杉山 義法
テーマ音楽:芥川 也寸志
音楽:毛利 蔵人
タイトル文字:山田 恵諦
語り:山川 静夫 アナウンサー
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[出演]
中村 吉右衛門 (武蔵坊弁慶)

川野 太郎 (遮那王)
麻生 祐未 (静)
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堤 大二郎 (平 資盛)
岩下 浩 (常陸坊海尊)
信 欣三 (東光坊阿闍梨)
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隆 大介 (平 知盛)
寺尾 聰 (金売り吉次)
藤村 志保 (常磐御前)
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制作:村上 慧
演出:重光 亨彦

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