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2022年2月22日 (火)

プレイバック武蔵坊弁慶・(15)木曽颪(おろし)

寿永2(1183)年7月、怒涛のように都へ押し寄せた木曽義仲軍は、たちまち凶暴な略奪者の集団と化しました。5年続きの飢饉で疲弊しきった都であれば、庶民の迷惑はこの上もなかったわけです。義仲軍の兵士たちは、女 子どもと言わず老婆と言わず暴力を振るってものを略奪していて、陰に隠れて様子をうかがう弁慶はたまらず兵士をつまみ上げ、年老いたる者まで足蹴にするとは! と怒りに任せて遠くへ投げつけます。

兵士たちは、よこからこやつがしゃしゃり出てきやがった! とよせばいいのに多数で弁慶をどうにかしようと頑張るのですが、お分かりの通り弁慶は微動だにせず、うわーっ! と雄たけびを上げれば次の瞬間には兵士たちは地面に無数に転がっています。

そんな弁慶の頑張りを徳とほくろが見ていて、惜しみない拍手を送ります。ほくろに高倉宮以仁王の身代わりになってもらい、坂東から奥州に向かう弁慶と別れてからすでに3年の月日が経過していました。別れ際には一瞬だけ女っぽくなったほくろでしたが、やっぱり徳を呼び捨てにしていろいろ命令するし、蚊が止まっていては容赦なく平手打ちしていて、何も変わっていません。

徳の話では、播磨の傀儡子衆たちや弁慶をつけ狙う頑入が群れを裏切って外に出て、平 知盛の手下になっているのですが、傀儡子衆たち何人かをそそのかし引き抜いたようなのです。しかし、木曽勢が上洛してから世の中は狂ってきました。ならず者よりも木曽勢のほうがたちが悪いので、このままでは平家の世の中のほうがまだマシです。ほくろは、これがお前が待ち望んでいた世の中なのか? 源氏の世の中とはこういうものだったのか? と弁慶を問い詰めますが、それを言われると一言もありません。

 

義仲が御所から帰ってきますがとても怒っていまして、烏帽子を投げ捨て直衣を脱ぎ去り床に大の字になっています。義仲が御所に行っても何かいろいろとしきたりを持ち出してきて後白河法皇に会ってもくれず、のらりくらりと気を持たせるばかりで埒があきません。義仲は以仁王の令旨で立ち上がったわけで、安徳天皇に代わって以仁王の遺志を継ぐお子に帝になってもらわなければ、自分たちの動きがとれません。会ってくれないということは、以仁王のお子ではいけないと横やりを入れている可能性もあります。

 

法皇御所・法住寺殿──。「木曽勢があのような狼藉ぶりで呆れかえるばかり」と直衣姿の新宮十郎が苦々しく言っています。公卿たちは、十郎のためを思って忠告するがと断ったうえで、ここが試案のしどころと笑います。法皇はもうすでに義仲のことは頼りにしておらず、密かに頼りにするのは備前守(=十郎)である、と……。

 

八条女院の館には弁慶の姿がありました。しかし義仲軍の狼藉を耳にしてあきれ果てている八条女院で、弁慶は平伏して詫びるしかありません。いま京の都にあって、義仲の肩を持つのは弁慶ぐらいなものですが、義経とどちらが将たる器かと問われれば、義仲には義仲の良さがある、としか言えないのが心苦しいところです。八条女院は、そこまで肩を持つなら会ってやってもいいが、それは義仲の人間に興味があるためであり何も約束はできないと突っぱねます。

 

弁慶は義仲に、政治の話は一切しないようにとくぎを刺されたうえで、後日、義仲が八条女院の元を訪れます。しかしさっそく義仲は、法皇が以仁王のお子が帝になるのを渋っている理由を問い詰めるのですが、尼の身分ゆえ政治には何のかかわりもないとそっぽを向きます。しかし女院は清盛ですら手が出せなかった勢力に影響力を持っているのは義仲も知っているので、一言お口添えしてもらうだけで義仲に一目置くようになる、と言うのです。

女院は、自分にそれを頼む前に木曽兵たちの略奪などの行為を改めさせよと諭しますが、飢饉が出たのは都だけの話ではなく、兵たちも草の根をかじり泥水をすすって都まで攻め上ってきたのだと反発します。逆に飢えを知らずにぬくぬくと肥え太っているのは“やんごとなき方々”ではないかと言うわけです。「お気に障ったら、お許しを」

 

義仲との対面が終わり 弁慶を呼び出した女院は、後白河法皇が高倉上皇の子で安徳天皇の弟である尊成(たかひら)親王に次の天皇を継がせたいと考えていると伝えます。なので、以仁王の皇子を押している義仲は、その事実を知れば怒り狂うに違いないわけで、それを見越して上皇は鎌倉の源 頼朝にいろいろと働きかけているようです。これからは鎌倉を当てにしていくのかもしれません。

 

鎌倉・頼朝の館──。京からの知らせでは、後白河法皇は頼朝を再び右兵衛佐に任命してくれるとかで、政子はとても喜んでくれますが、これには裏があると考える頼朝は、うかつには喜べません。「とうとう義仲を見限ったか」

そして義経のところには、弁慶からの文が届いていました。義仲の評判は日増しに悪くなる一方で、事の運びは思わしくないようです。殿上人の中には平家の盛り返しを期待する声も上がっているらしく、頼朝の元には出馬を促す使いがやってきているとの話です。義仲に先んじられて頼朝は義仲によく思っていないのかもしれません。義仲と頼朝、源氏に2人も棟梁は必要ないと頼朝は考えているのでしょう。義経が幼いころから、自分が戦う相手は平家であると強く思いながら育ってきましたが、同じ源氏同士で戦うときがくるとは、思いもよりませんでした。

 

10月、義仲は形勢の立て直しを図るべく備中水島に兵を進めます。しかし結果は、水軍に巧みな平家勢にさんざんに翻弄され、手痛い敗北を喫したのです。負けたまま京に戻れるか! と怒鳴り散らす義仲に、十郎が法皇に取り入って何かを企てているという話もあり、頼朝が法皇と手を結んだという話もあり、まずはすぐにでも京に戻らなければ都は鎌倉勢に乗っ取られると、家臣たちは必死に進言します。

 

十郎行家は義仲が自分のことを誤解して烈火のごとく怒っているらしいことを知り、出陣して仲直りを図ろうとします。丹波路から室津へ向かえば平家ののどもとを攻撃することになる、と相当な自信を持っていますが、弁慶は室津と聞いて大きくため息をつきます。

 

屋島・平家の陣(仮御所)では、穏やかなさざ波を玉虫と小玉虫の親子が眺めています。ととさま(=弁慶)は源氏の兵たちとともにこの海を渡って攻めてくるのかと聞く小玉虫に、そうならなければよいがのう……と言葉を濁す玉虫。しかし小玉虫は戦がどういうものなのかよくわかっておらず、ととさまに会えるのなら早く攻めてくればいいのに、と口走ってしまいます。

それにしても今日は陣中が騒がしく感じる玉虫です。右京太夫によれば、義仲軍を打ち破ってこの勢いのまま都へ押戻ると言っているそうで、戦に逸る男たちの気持ちは女には分からないとため息をつきます。玉虫も、このままいけば戦になるとがっかりした様子です。

 

数日後、弁慶が止めるのも聞かず十郎行家は室津へ出陣。入れ違いで義仲率いる木曽勢が都へ戻ります。ふたたび木曽勢による略奪が始まり、目を覆うほどでした。それを扇動するのが頑入なのですが、徳とほくろが彼らと対決します。

 

義仲の元を訪れ ご相伴にあずかる弁慶は、今のありさま(兵士たちの横暴)では頼朝も黙ってはおるまいと、再度のやり直しを提案します。主を探してさまよっていた十郎行家も今や法皇の言うがままだし、生死を共にして攻め上ってきた兵士たちは今やほんのわずかで、義仲は人の気持ちは分からないとこぼすのです。弁慶は、ひとまず木曽に戻り、兵を集めて平家を打ち破る日まで待たれよ、と進言します。「生きてくだされ……ぜひとも。鎌倉におわす義高殿のためにも」 弁慶の諭しにも義仲は首を縦に振らず、義仲はもう止められないと、木曽に戻らずこのまま残る道を選択します。

 

そのころ室津では、行家の軍勢が平家方の奇襲を受けて壊滅的な打撃を被っていました。頼朝は義経を呼び、すぐに兵を集めて京へ出陣を命じます。義仲を討ち滅ぼせという頼朝の言葉に、義経は何も言わず、ははっ、と頭を下げます。

 

「兵を集めよ、これより法住寺殿に討って出る」 静かに酒をあおっていた義仲は、盃を床にたたきつけて立ち上がります。法住寺殿に攻め込むということは、すなわち後白河法皇に悠然と反旗を翻すということです。義仲はついに堪忍袋の緒を切ったのです。止めに向かった弁慶ですが、義仲の意思は固く引き止められませんでした。避けられぬ運命とは知りつつも、それでも弁慶は無性に悲しく感じました。戦乱の世は、友情をも引き裂く、と。弁慶は索漠たる思いで世の無常をかみしめていました。


原作:富田 常雄
脚本:杉山 義法・松島 としあき
テーマ音楽:芥川 也寸志
音楽:毛利 蔵人
タイトル文字:山田 恵諦
語り:山川 静夫 アナウンサー
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[出演]
中村 吉右衛門 (武蔵坊弁慶)

川野 太郎 (源 義経)
荻野目 慶子 (玉虫)
加藤 茶 (徳)
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真野 あずさ (右京太夫)
隆 大介 (平 知盛)
新 克利 (新宮十郎)
光本 幸子 (八条女院)
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佐藤 浩市 (木曽義仲)
大地 真央 (巴御前)
神崎 愛 (北条政子)
菅原 文太 (源 頼朝)
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制作:村上 慧
演出:清水 一彦

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