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2022年4月19日 (火)

プレイバック武蔵坊弁慶・(31)衣川前夜

北方の王者・藤原秀衡の死は極秘にされていましたが、その情報はすぐに鎌倉の知るところとなります。梶原景時によって秀衡が死んだと知った頼朝は眼光鋭くなります。ただ武蔵坊弁慶に後事を全て託すと遺言したらしいことには、息子たちは承知しないだろうとつぶやきます。平泉の内輪もめがすでに始まっているのを利用して、奥州討伐に向かうことにします。

揺さぶりをかけるため、景時には奥州に義経の引き渡しを要求させます。


奥州平泉・伽羅(きゃら)御所──。藤原泰衡が見舞いの使者を追い返さなかったことを忠衡に責められますが、使者の来訪を断ればかえって父の死が感づかれてしまうと考えてのことなのです。すでに感づいたからこその使者だと忠衡ですが、前のめりに しらを切り通してみせるわ! と苛立つ泰衡です。

意見を求められた弁慶は、一度は申し上げる立場にあらずと断りますが、泰衡に促されて答えます。使者を迎え入れることはいいとしても、泰衡ら三兄弟の力によって奥州の体制に少しの揺るぎもないところを見せつけてやればいいだけと進言します。ただし、鎌倉方のどんな要求にも応じないことと念押しします。一つ受け入れれば二つ三つと欲しいだけ求めてくる結果になる、と。

泰衡は、自分が義経や弁慶たちを引き渡すのではないかと疑われていることに言葉もとげとげしくなりますが、引き渡しが奥州のためになるならばそれも上策と返します。義経や弁慶は奥州のために働きたいと考えているものの、それがかえって足かせになってしまうのはいたたまれない思いです。「わしは父上に代わるこの国の長じゃ。そこもとたちぐらい守り抜いてみせるわ!」 泰衡の感情は荒れています。

静と玉虫親子は、まだ奥州から遠くを一歩一歩進んでいました。旅の疲れからか静の足取りはおぼつきません。玉虫と小玉虫は静に肩を貸していますが、玉虫はとても不安に感じていました。

 

高館・義経の館では、鎌倉からの使者が来たことで家来衆があわただしく動き回っています。平泉のこと全ては泰衡が決めることであり、あくまで奥州の客である義経としては、事の推移を見守るしかありません。

 

鎌倉からの使者として後藤新兵衛が到着し、義経の引き渡しを要求します。父の病気見舞いと思っていた忠衡は要求の方向が違うことについ動揺してしまいますが、もしも奥州に義経主従が来た時はという仮の話をしているだけで、実際に匿っているという話は一切していません。とはいえ、義経は追討の院宣が出された張本人であり、その義経を匿ったとあれば奥州とはいえ同罪の朝敵となると脅しをかけます。

「泰衡どの……朝敵を捕らえるのは正しきことと考えるが?」と新兵衛に詰められると、正しいことだと言わざるを得なくなります。その上で新兵衛は、義経が奥州に来た場合どうするかを尋ねますが、泰衡は仮の話には答えられないとはぐらかします。やましいことがなければ差し支えないはずだからと新兵衛はしばらく平泉に留まることにし、泰衡たちはとても困惑しています。

 

空き家に泊まることにした玉虫は、小玉虫を寝かせ、静も横にさせて休んでもらいます。静は奥州の地がどんなところなのか想像していますが、弁慶が憧れてやまない土地だからさぞ素晴らしいところと教えます。平泉は戦がないらしく、女にとっては幸せな場所だという玉虫は、戦で名誉ある討ち死にというのは男の勝手な理屈であり、残された女子にとってはたまったものではないわけです。静もそれは一緒で、義経が戦に出るたびに生きた心地がしなかったと思い返しています。「奥州で、のんびりと過ごしましょうぞ」

 

新兵衛が帰った後、忠衡はなぜ追い返さなかったのかと詰め寄りますが、泰衡は下手な口実を作って追い返せばかえってつけこまれると考えたようです。器量に乏しい泰衡に、やはり遺言通りに国のかじ取りは弁慶に任せるべきだと主張する忠衡。この兄弟が衝突しそうになったところで、弁慶が場に入ってきます。

「鎌倉の狙いは兄弟を反目させ、奥州の力を弱めるところにある」という弁慶は忠衡をたしなめます。そして奥州から立ち退くことを提案します。泰衡は、義経主従にいま出ていかれたら長としての自分自身の面目が丸つぶれと、出ていくことを承諾しません。今回のしくじりを取り返すべく使者は早く追い返すと約束する泰衡に、放っておくほうがと進言する弁慶ですが、それが国の長としての役目と泰衡は譲りません。

 

弁慶は、行方六郎に平泉から奥蝦夷にかけての地図を手に入れるように、そして鷲尾三郎には奥蝦夷までの道に詳しいものを探してきてくれと指示を出します。

弁慶が義経の居室に赴くと、義経は菩薩に手を合わせながら「良くない話じゃな」とつぶやきます。奥州を立ち退かねばならないかもしれないと答えると、義経は自分の前世は水であったのかもしれないと話し出します。その場に留まれず、ただ流れてゆくだけの存在。弁慶は義経の無念さをひしひしと感じ取っています。

 

夕餉の支度をしていた小玉虫が、薪をもらってくると言って出ていきました。今日はいくぶんか気分がいいと言う静にニッコリほほ笑む玉虫は、薪をもらって戻ってきた小玉虫に水を汲んでくるように伝えます。ちょうど出来上がった汁をよそおうと静の方を振り向くと、静の反応がありません。静は苦しまず、旅立ちます。

 

手を合わせ続ける義経がふと庭を眺めると、無数の蛍が舞っていました。その美しさにしばらく目を奪われ、「静……」とつぶやく義経です。

 

玉虫と小玉虫は、静の遺体を荼毘に付し、できる限りの墓を建ててやります。花を手向け、手を合わせたふたりは、奥州を目指して再び旅を再開するのです。

 

奥蝦夷までの地図を入手しました。奥蝦夷に2度行ったことがある男も発見し、弁慶の計画は着々と進んでいます。そこに客人と言われて案内されたのは、佐藤忠信の忘れ形見・太郎丸でした。弁慶が父の名誉を教えてくれたおかげか、父の後を継いで一行に加えてほしいと家出してきたようなのです。いずれは家に帰すとして、それまで預かることにして、弁慶は子ども好きの片岡為春に世話を任せます。

何ぶん独り身なので散らかっているのですが、太郎丸は手をついてしっかりと挨拶します。しつけがいいな……とつぶやきながら、為春も真面目に挨拶するのですが、独り身というところから恋に破れた話をすると、「こい?」と首を傾(かし)げ、理解ができない様子です。為春は「まぁ……いずれ覚える」とニッコリ笑います。

一方、兄の片岡経春は澄とともに食事をとっています。先ほどからジーッと澄の顔を見つめる経春に、出した食事が口に合わなかったかと心配になる澄ですが、決してそうではありません。「お前がわしの女房……信じられぬ、幸せすぎて」としっかりのろけてくれています。でもその気持ちは澄も同じようで、幼いころに両親を亡くした澄にとっては幸せの日日です。

 

そのころ泰衡の元には新兵衛が再訪していました。のらりくらりと時を過ごさせる泰衡に業を煮やした格好です。仮に義経が来たら などという茶番はもうしまいだと、新兵衛は、弁慶の悪知恵と義経の軍事の才能が奥州の富を悪用しないかと憂いている、と頼朝の意向をズバリ伝えます。目的は義経と弁慶の身柄のみであって、それさえ差し出せば奥州に指一本触れるつもりはないと断言します。

その証拠に常陸国を譲ると言っているのに、どうして鎌倉との火種を抱え込むのか──新兵衛には分かりません。義経と弁慶を擁して忠衡さえ加担すれば、国の長とはいえ泰衡の命はない。泰衡は無言を貫き通しているようにも見えますが、頭の中はいろいろと損得勘定で計算が忙しいのかもしれません。

 

「“九郎と弁慶の始末は必ず奥州でつける“と言うて来た」 新兵衛からの書状を読んだ頼朝は、ふたりを始末すれば奥州は助かると考えた泰衡の知恵のなさに、奥州の滅亡を自ら選び取ったようなもので頼朝は腹を立てます。泰衡ごときに弁慶を殺させたくはないと考えた頼朝は、隠滅のために書状に火をつけます。「ひとかどの男は、ひとかどの男によって倒されるべきじゃ」

 

喜三太の母・うらに肩をもんでもらって気持ちよさそうにしている弁慶のところに、青ざめた忠衡がやってきました。泰衡の決断は奥州さえも滅ぼしてしまうと、泰衡討伐の兵を挙げようと言ってきたのです。兄弟力を合わせて というのが奥州の政の大原則のはずですが、兄弟反目という鎌倉方が期待している方向に進みつつあることを弁慶は危惧しています。

ただ、兄弟が力を合わせる妨げとなっているのが自分たち客人であるという認識は弁慶自身持っているので、自分たちが奥州から出て行った方が、泰衡を討って国を混乱させるよりも鎌倉から守れる割合が大きいのです。それが国を守る知恵というものなのです。

弁慶は膝を進め、忠衡に今夜中に平泉を発つと伝えます。「奥州という理想郷、ぜひとも守ってくだされよ」 忠衡は涙を流し、弁慶に詫びます。

 

弁慶はさっそく家人たちを招集し、北へ向かうことを伝えます。安心して暮らせる土地を探し、仏法が花咲く理想郷を作り上げる──。道は険しいものの、一行は互いに辛酸をなめつくしてきた仲です。迷いはありません。

うらも一緒についていくと言い出します。みんなの肩もみができると笑ううらに、喜三太は親不孝を詫びます。
為春は、一行に加えてほしいと言う太郎丸に首を縦には振りません。でも「お前のような弟がいたらと思うよ」と、太郎丸の気持ちは高く買っています。
経春は、あわただしく準備をしている澄にここに残るように言います。当然ながら いやじゃ! と経春の言うことを聞くわけがありません。

 

高館から戻る忠衡は急に襲われます。その攻撃を難なくかわす忠衡ですが、気が付けばさらに無数の兵たちに取り囲まれていました。多勢に無勢、たちまちのうちに切り伏せられます。「愚かなり泰衡……!!」

 

常陸坊海尊は、1本の巻物を弁慶に渡します。『義経記』と書かれたその巻物は、義経と家人たちのことについて時間を見つけて書きまとめておいたものです。物語の始まりは海尊と弁慶が出会ったときから始まりますが、すでにあれから15年。ふたりで昔を懐かしんでいます。
わらじを履く鷲尾と行方ですが、耳のいい鷲尾は外から異様な音が近づいていることに気が付きます。

弓の張り具合を確かめる伊勢三郎のところに若の前が訪ねてきます。義経が付いてきて良いと言ったそうで、すべては三郎のおかげと涙を流して喜ぶのです。日中ボーッとしているような若の前も、三郎が自分を妹のようにかわいがってくれている愛情には気づいているようで、三郎はそれだけでも天にも昇る思いながら、出立の用意を促しています。

義経の用意が整ったことを確認する弁慶ですが、玉虫と小玉虫はどうするのかと義経に尋ねられます。確証はないものの、ふたりは京から奥州に向かっているのは間違いなく、もし自分が奥州にいなければどこまででも探し当ててくるでしょうと笑います。その親子の絆に恐れ入る義経も笑っています。

そんなふたりのもとに、鷲尾と行方から急報です。その知らせこそ弁慶を立ち往生へと導く前触れでした。


原作:富田 常雄
脚本:杉山 義法・下川 博
テーマ音楽:芥川 也寸志
音楽:毛利 蔵人
タイトル文字:山田 恵諦
語り:山川 静夫 アナウンサー
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[出演]
中村 吉右衛門 (武蔵坊弁慶)

川野 太郎 (源 義経)
荻野目 慶子 (玉虫)
麻生 祐未 (静)
岩下 浩 (常陸坊海尊)
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ジョニー 大倉 (伊勢三郎)
山咲 千里 (若の前)

菅原 文太 (源 頼朝)
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制作:村上 慧
演出:清水 一彦

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